接着剤と高力ボルトを併用した軸方向力を受ける当て板補修に関する

(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
プレゼンテーション発表アブストラクト №205
接着剤と高力ボルトを併用した軸方向力を受ける当て板補修に関する
実験的研究
株式会社建設技術研究所 〇行藤晋也
1.はじめに
阪神高速道路株式会社
丹波寛夫
大阪市立大学大学院
山口隆司
幅は母板と同じ 100mm とした断面欠損部を設けた.設定し
腐食により激しい凹凸が見られる鋼鈑に当て板補修を行
た試験体の概要および内訳を図-1 に示す.
う場合,ケレン後の腐食部材には不陸が残り,腐食部材と
当て板鋼板との間に十分な接触面の確保ができず,高力ボ
3.引張試験結果
ルトで締め付けても摩擦接合継手としての性能を発揮する
外側位置と欠損部位置における各試験ケースの荷重と相
ことができないことが考えられる.腐食部材と当て板との
対変位の関係比較を図-2 に示す.図中の破線は,材料試
間にエポキシ樹脂や金属パテ等の接着剤を塗布し,隙間を
験で得られた母板の降伏ひずみから算出した母板ボルト孔
充填することで,腐食部材表面の凹凸の不陸調整や防食を
純断面の降伏耐力を示している.
目的とした高力ボルトと接着剤を用いた当て板補修工法が
すべての試験体において,荷重の増加とともに相対変位
行われている.接着剤を用いた当て板補修工法の様子を写
が増加し,その後,荷重増加はほとんど見られず,相対変
真-1 に示す.
位のみが大きくなる.
当て板補修工法の設計は文献 1)で示されるように,一般
一般的な摩擦接合継手では,すべり荷重時に,急激な荷重
には摩擦接合継手と同様の設計が行われており,当て板が
の低下が生じ,相対変位が増加するといった明確なすべり
荷重を分担できるように,腐食部材と当て板鋼板の接合面
現象が確認される.一方で,本試験での試験体では,この
には十分な摩擦係数の確保が必要である.
ような明確なすべりは見られなかった.
図-3 に最大荷重および外側相対変位が 0.2mm 時の荷
そこで,本研究では腐食により減肉した鋼部材を想定し,
凹部(断面欠損部)位置に接着剤を充填した上に,高力ボ
重の比較を示す.Case-1~3 の母板ボルト孔純断面での引
ルトと無機ジンクを塗布した当て板を用いた補修を行った
張耐力を比較すると,引
850
200
程度高い.この差は,接
凹部に設置した高力ボルトの効果について検討する.
合面に残存する摩擦力に
450
5@70=350
200
50
断面欠損部
140
22
場合の接着剤が剛性や当て板補修部の耐力に及ぼす影響や
50
t
張試験結果の方が 10%
5 12 5
試験体の引張試験を行い,接着剤と高力ボルトを併用した
よって試験体の最大荷重
850
が上昇したと考えられ,
いずれも母板の外側ボル
せん断の試験体である.腐食を模擬した断面欠損は,母板
ト孔における純断面位置
中心位置において母板厚の半分程度の減肉を想定し,板厚
での降伏によって最大荷
方向に片側 5mm(両側で 10mm 厚),引張方向に 140mm,
高力ボルト
図面
Case 試験体
type
本数
軸力
(%)
50
450
5@70=350
355
断面欠損部
140
母板
全長
(mm)
板厚
(mm)
850
22
140
200
50
6-HTB M20xL(F10T)
6-φ22.5孔
50 50
試験体はすべて母板を 2 枚の当て板で両側から挟む 2 面
200
355
あて板
腐食長 減肉量
(mm) (mm)
接着剤
表面処理
全長
(mm)
板厚
(mm)
表面処理
5
軽ブラスト
450
12
無機ジンク
-
100
1
1
4
(b)取付け完了
供試体
数
1
50
(a)エポキシ樹脂充填
100
2.試験体
2
2
1
4
50
850
22
140
5
軽ブラスト
450
12
無機ジンク
E258
3
3
2
6
50
850
22
140
5
軽ブラスト
450
12
無機ジンク
E258
3
4
2
6
50
850
22
140
5
軽ブラスト
450
9
無機ジンク
E258
3
5
3
4
100
710
22
140
5
軽ブラスト
310
12
無機ジンク
E258
3
6
3
4
100
710
22
140
5
軽ブラスト
310
9
無機ジンク
E258
3
7
3
4
100
710
22
140
5
軽ブラスト
310
6
無機ジンク
E258
3
8
4
0
0
710
22
140
5
軽ブラスト
310
6
ブラスト
E258
3
図-1 試験体寸法および試験体内訳
写真-1 当て板補修工法の例
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(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
プレゼンテーション発表アブストラクト №205
無機ジンクの破
壊
鋼材
1,000
無機ジンク
母板純断面
降伏耐力
900
凝集破壊
接着剤
接着剤
800
界面破壊
接着剤の破
700
荷重(kN)
鋼材
(a) 断面図(左:Case-2 等,右:Case-8)
600
当て板
500
No.11
No.12
300
No.21
No.31
200
No.41
No.51
100
No.61
No.71
400
無機ジンクの破
接着剤の破壊
0
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
母板
ボルト孔
相対変位(mm)
(b) 平面図(Case-2 等)
図-2 荷重と相対変位の関係
最大荷重
および0.2mm時荷重(kN)
図-4 破壊のイメージ図
0.2mm時荷重
1,000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
↑:最大荷重到達前に除荷
4.まとめ
以下に得られた結論をまとめる.
(1) 一般的な摩擦接合継手の荷重と相対変位の関係では
急激な荷重の低下が生じ,相対変位が増加する時に明
確なすべりが発生したとされているが,本試験での試
11 12 13 21 22 23 31 32 33 41 42 43 51 52 53 61 62 63 71 72 73 81 82 83
験体では,荷重の増加とともに相対変位が増加し,そ
供試体No
図-3 各試験体の最大荷重および 0.2mm 時荷重
の後,荷重はほとんど変わらず,相対変位が大きくな
る傾向にあった.
重を迎えていると考えられる.
Case-4~6 の最大荷重は,Case-1~3 の最大荷重より小
(2) 荷重と相対変位関係を見ると,外側に比べ欠損部での
さい.Case-7 の最大荷重は,接着剤と高力ボルトの併用接
剛性(荷重と変位の傾き)が高い.外側より欠損部の
合試験体において最も低い値となった.Case-8 は接着剤の
方が試験体中央付近であり,欠損部では当て板と母板
せん断破壊が生じ,接着剤のせん断耐力以下となった.こ
に生じる荷重の差が小さく変位が拘束されたと考え
れは,接着剤のせん断強度は,一面せん断試験(JISK6850)
られる.
の結果から評価されており,接着幅に対する接着長が大き
(3) 試験後の接合面の観察結果より,接着剤を塗布しない
試験体においては,無機ジンクの破壊が生じており,
くなるとせん断強度が低下するよるものと考えられる.
母板の外側ボルト孔周辺に多くの無機ジンクが付着
引張試験後に試験体を解体し,接合面の状況を観察した.
考えられる破壊箇所のイメージを図-4 に示す.接合面に
しているのが確認できた.また,接合面に接着剤を塗
無機ジンクおよび接着剤を用いた Case-2~7
(以下,Case-2
布した試験体においては,ボルト孔付近で接着剤の破
等という.)の試験体では,図-4(a)左に示すように,無機
壊が見られたが,それ以外では無機ジンクの破壊であ
ジンクと接着剤のそれぞれの層内で破壊(凝集破壊)した
った.これらの破壊状態は,一般的に知られている継
ものと考えられる.一方,接合面に接着剤のみを用いた
手試験体の破壊状態と同様であった.
Case-8 の試験体では,同図(a)右に示すように,接着剤の
(4) 腐食部に対する不陸調整のために接着剤を用い,高力
ボルトを用いて無機ジンクを塗布した鋼板を当て板
凝集破壊および界面破壊したものと考えられる.
次に,Case-2 等の試験体の接合面に関する平面的な破壊
した補修(接着剤と高力ボルトを併用した当て板補
箇所を,図-4(b)に示す.接合面の観察において,破壊箇
修)において軸方向力を作用させる場合,当て板の板
所は接合面の色,すなわち,接合面が青色の箇所は接着剤
厚及び板長さを満足していれば,無機ジンクで補修部
の破壊であり,灰色の箇所は無機ジンクの破壊であると判
が破壊し,接着剤による補修部の剛性の低下や耐力の
断した.その結果,ボルト孔周辺では接着剤の凝集破壊,
低下は見られない.
それ以外の箇所では無機ジンクの凝集破壊であったと考え
参考文献
られる.また,これらの破壊状態は,一般的に知られてい
1) 丹波寛夫,橋本国太郎,田中大介,杉浦邦征:腐食し
た鋼桁端部の当て板補修に関する実験的検討,構造工
る継手試験体の破壊状態と同様であった.
学論文集 Vol.60A,pp.94-104,2014.3.
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