2010 年度 京都女子大学 HP 用過去問題解説 国語(現代文) 出題の概説 本学の入試には一般入試(前期・後期)以外に、センター試験利用入試や公募制の推薦入試な どがあります。今回は、この公募制推薦入試の「基礎学力検査」の問題を見ていきましょう。 公募制の推薦入試は、自 由 応 募 に よ る 自 己 推 薦 方 式 の 推 薦 入 試 で 、A 方 式 ・B 方 式 ・ C 方 式( 一 部 の 学 科 )が あ り 、そ れ ぞ れ 配 点 や 試 験 内 容 が 違 い ま す 。C 方 式 は 学 科 独 自 の試験なので、学力検査があるのは A 方式と B 方式(日程が違う)となります。 選 考 方 法 は 書 類 審 査 と 、 こ の 基 礎 学 力 検 査 の合算によります。 「基礎学力検査」の問題は、英語が①・②の2セット、国語も①・②の2セットからなる問題 冊子で、そこから受験生は、学科によって組み合わせは異なりますが、2セットを選んで解答す ることになります。解答時間は 90 分です。 さて、国語の①・②は、公募制推薦 A 方 式 ・ B 方 式 と も 、① が 現 代 文 、② が 古 文 の 出 題 に な っ て い ま す 。 配点はほとんどの学科でA方式よりもB方式の方が学力検査の比重が高いの で、学力に自信のある人は B 方式を選ぶ方がいいかもしれません。(*必ず学生募集要項で確認 してください。)しかし、問題文の内容や設問の数はだいたい同じで、解答時間も同じ 90 分です ので、試験問題自体の難易度はあまり変わらないと言えるでしょう。解答はすべてマーク方式で す。 では問題分析の前に、公募制推薦入試の過去三年分の出典について見ておきましょう。 2008(平成 20)年度 A方式 B方式 ① 現代文 ② 古文 ① 現代文 ② 古文 谷川俊太郎『詩を読む』 (問一~問九) 『雁の草子』 (御伽草子の一)(問一~問七) 小浜逸郎『人はなぜ死ななければならないのか』(問一~問七) 『平家物語』 (軍記物語の一)(問一~問八) 2009(平成 21)年度 A方式 ① 現代文 ②古文 B方式 上田篤『庭と日本人』(問一~問九) 『源平盛衰記 ① 現代文 ② 古文 巻三』(軍記物語の一) (問一~問七) 渡辺京二『隠れた小径』 (問一~問七) 『和漢朗詠集和談鈔』(平安の藤原公任撰『和漢朗詠集』の注釈書)(問一 ~問十) 2010(平成 22)年度 A方式 ① 現代文 ② 古文 B 方式 ① ② 現代文 古文 斎 藤 孝 『 身 体 感 覚 を 取 り 戻 す 』( 問一~問八) 『 今 昔 物 語 集 』( 問一~問五) 広 津 和 郎 「 散 文 芸 術 の 位 置 」( 問一~問 九 ) 『 枕 草 子 』( 平 安 随 筆 ・ 清 少 納 言 )( 問一~問八) 現代文は現存の詩人・評論家が多く、古文は、中世の軍記物語や説話などが目立ちますが、こ 1 れは他大学と同様の傾向と言えるでしょう。 現代文 【問題文について】 ひ ろ つ 現代文は毎年、現存の文筆家・評論家の文章から出題され、 やや古いのは 2010 年度B方式の広津 か ず お 和郎(大正・昭和の私小説作家。しかし晩年は松川事件など社会的視野も持った)くらいです。 しかし出題の「散 文 芸 術 の 位 置 」は 、特 に 古 臭 く な く 、か え っ て 思 考 の 柔 軟 さ が 見 ら れ 、 論 理 も 明 快 で す 。他 も 内 容 的 に は 、文 学 ・ 社 会 、芸 術 、身 体 論 な ど 幅 広 い 領 域 か ら 材 を取っており、問題文の傾向としては適切なものであると言えるでしょう。 さ て 今 回 の 問 題 分 析 は 公 募 制 推 薦 A 方 式 を 取 り 上 げ ま し ょ う 。前 年 度 ま で と 同 傾 向 で 、現 代 文 で は 現 存 の 評 論 家 、古 文 も セ ン タ ー 試 験 や 他 の 私 大 で も よ く 出 題 さ れ る 中 世文学に材を取ったものです。 A 方 式 の 現 代 文『 身 体 感 覚 を 取 り 戻 す 』は 、『声に出して読みたい日本語』、 『コミュニケ ーション力』 『読書力』など、読書論や自己啓発の本で著名な斎 藤 孝 の も の 。皆さんも名前は知 っているでしょう。入試に出題されるだけあって、語句や言い回しに豊富な国語的知識があり、 かつ内容的にも受験生が読みこなせるものとなっています。課題文の字数も 2,300 字程度で、取 り組みやすい適度な量です。私大の一般入試では 3,000~4,000 字が多いのですが、今回はコンパ クトな文章をもとに実力を見る設問ばかりです。 設問や解答方法は次の項目で具体的に解説するとして、まずこの問題の出典について少し考え てみましょう。 昔は(といっても、皆さんの先生が受験をした 30~40 年前)は、やたら難しい文章・テーマ のものが出ていました。哲学者や倫理学者、あるいは文学者でも小林秀雄などのように文章に綾 (あや)や皮肉があったりして、一筋縄でつかめない著者のものが主流で、そのほか歴史学者の 文章、科学者の文章もありました。漱石門下の文章もよく出ました。阿部次郎『三太郎の日記』、 和辻哲郎『風土』、などは、思弁的な内容が中心でした。 これらの出題が多かったのは、戦後の思想や哲学、あるいは学生運動に見られるように、いろ いろと「生き方」を問われていた時代だったからとも言えます。また、大学の先生も「象牙の塔」 にこもって、社会に出なかったからかもしれません。そのため、当時の受験生は「難しい」問題 に悩まされたことでしょう。 それに対して、近年(特に 21 世紀以降)は顕著な特徴が現われました。まず、何を言っている か受験生にわかりにくいもの(難問・奇問)はぐんと減りました。そして近年増えてきた題材は、 やはり環境問題、地球や生物などの科学問題、高齢化と社会の問題、メディアとインターネット 関連、これからの日本の進路、あるいは人の生き方などに関する出題です。そういう意味で、皆 さんにも直結する、身近な問題が増えたのですね。 小論文の課題もそうですが、 「現代文」は単に国語の問題とばかり考えないで、それぞれの時代 が生んだもの、いま生きている皆さんの感覚・知性をこそ問うているのだと認識しておいてくだ さい。だから、この科目の力を伸ばす根本は、やはり「読書」ですね。 2 【設問および解答方法について】 出典は『身 体 感 覚 を 取 り 戻 す 』 ( N H K ブ ッ ク ス 刊 )で 、筆 者 の 斎 藤 孝 氏 は明治大学教 授、教育方法、身体論、コミュニケーション技法を担当。〝コミュニケーション〟は他とのみな らず、自分との〝コミュニケーション〟すなわち自分の身の内に目を向けるものであるというの がこの本のテーマです。 この『身 体 感 覚 を 取 り 戻 す 』 の第二章に「失われゆく『からだ言葉』と身体感覚」として、 「1.練る」 「2.磨く・研ぐ」「3.締める・絞る」「4.背負う」の四つが挙げられています。 今回の試験問題では、そのうち「2.磨く・研ぐ」の項目の冒頭半分が取り上げられています。 まず設問の構成を確認しましょう。問一は語句の補い、問二も語句の空欄補充、問三は漢字、 問四は脱文挿入、問五は理由説明問題、問六・七は内容説明問題、問八は文学史問題で、全体に バランスのとれた、基礎的な設問となっています。これらは、B方式もだいたい同じと言えます。 時に語句の意味や、接続詞の補充などが入りますが、漢字問題と、読解のための理由説明問題は 必出です。 問一は最初から重要問題です。なぜなら選択肢として挙げられている「磨く」 「研ぐ」 「切る」 「する」「こする」「積む」は、本文の主題関連の語彙であり、その使用法が試されている からです。解法は、当然、空欄の前後をよく見て、慣用句として入れるのか、論理関係で 入れるのかを考えます。空欄1・2は慣用表現で、1は「技を磨く」 、2は「研鑽を積む」 と言います。空欄3は「磨くや研ぐ」というのが、並列表現の常識。空欄4は「切磋琢磨」 の例があり、 「磨」は石で「みがく」とあるのに対して、 「摩」は「手で…」とあるから「こ する」が正解。空欄5は硯の例だから「する」となります。 問二の語句補充も、前後の関係を考えましょう。アは、前の「まじめな生き方が ア され て気恥かしくなる」とあって、「まじめ(プラスのイメージ)」が「気恥かしくなる(マイ ナスのイメージ」になるわけですから、「茶化(されて)」が適切。空欄イの段は、 「磨く」 の意味を論じており、 「切磋琢磨」と「一緒に頑張ろう・向上する」では、身体論的にひび きが違う、と言っています。解答は④の「具体性」ですね。空欄ウもこうした人間関係に 合わせた使用法に言及しています。実際、「こすりあう」「磨き合う」といった(異質の) 関係は今日避けられ、「柔らかくゆるやかな」「同質」性の高い人間関係が好まれていると いうわけです。空欄エ・オは対になる語が入ります。ここの「研ぎ師」を主人公とした作 品は、いかにも宮沢賢治をほうふつとさせますね。正解は、エ「偶然」、オ「必然」です。 最後の空欄カは、教え子が社会に出て、「実社会の砥石」で磨かれた(鍛えられた)、これ も「砥石で磨く」という行為が「原型」としてあるからそう言える、という話です。 問三 漢字問題「傍線部と同じ漢字を含むものを選ばせる」問題。 A 衰退 ① 盛衰 ② 水陸 ③ 推量 ④ 睡眠 ⑤ 吹奏楽 正解は① B 喚起 ① 観光 ② 召喚 ③ 慣用 ④ 交換 ⑤ 甘言 正解は② C 退屈 ① 対抗 ② 不退転 D 既製 ① 岐路 ② 飢餓 ③ 軌 E 断面 ① 裁断 ② 相談 ③ 団結 ④ 男尊 F 過剰 ① 常習 ② 剰余 ③ 大乗 ④ 三千丈 G 遍歴 ① 編集 ② 偏見 ③ 変人 ④ 辺境 H 課題 ① 看過 ② 果報 ③ 不可思議 ③ 泰然 ④ ④ 3 待機 皆既 ④ ⑤ ⑤ 耐久 好奇 ⑤ 正解は④ 弾劾 ⑤ ⑤ 日課 正解は② 正解は① 情 正解は② 遍路 正解は⑤ ⑤ 正解は④ 渦中 問四、抜き出し文がどこに入っていたのか、考えましょう。脱文は「切磋琢磨の四字とも磨 く技です」とあるので、語義を論じた箇所に限定されます。当然、賢治が研ぎ師というの は例でしかないので④や⑤には入りません。③も「硯でする」という具体話であって語義 ではありません。正解は①。そこで「切磋琢磨」の意味を出して、②の直前でその用例を 披露しているわけです。 問五、 「墨を長い時間すらせる」こと自体が理由とする④を選んだ人は不可。本文の後に、 「書 をなす『構え』をつくりあげる」とあります。これには選択肢②の「書道への心の準備」 が対応します。 問六、「こうした人間関係」とは、「各人の硬い本質的な部分をこすり合わせて磨き合う」人 間関係を言います。それに相応するのは④で、 「遠慮なくぶつけ合いながら、ともに成長し て行く」といった関係。 問七、 「実社会」の「ハードな砥石」の意味をおさえて選択肢にあたりましょう。③の「実社 会の厳しさが人間を鍛え、進歩させる」に相応。 問八、基本的な文学史知識問題。②「月に吠える」は萩原朔太郎の詩集の名。 【勉強法のアドバイス】 少し唐突かもしれませんが、国語の勉強法について、 「自動車」を例にとって考えてみましょう。 車にブレーキやアクセル、ハンドル、あるいはガラス窓やボンネット、そしてエンジンなどが必 要なのは言うまでもありませんね。同じように、国語も、漢字や語彙の知識、あるいは敬語など がどのように使われるのかといった知識を持っている必要があります。車の組み立て(創作)ま ではいかなくとも、車の運転(文章の読解)は正しくできなくてはなりません。 そのためには、車自体の知識(言葉や文法の知識)だけでなく、道路の具合(場の雰囲気や背 景)なども把握しなければなりません。つまり部分と全体とが関わり合い、有機的に組み合わさ っていることで機能を果たす、という点が自動車と国語の勉強法に共通しているわけです。 さて、車の例はおいて、皆さんの最初の勉強としては、 「漢字帳」を作って、一学期中にやって おくことを勧めます。これは、語彙(語句)の勉強にもなります。今さら、と言う人が多いでし ょうが、 「新聞」を読んでいて読めない漢字はありませんか? んか? 意味のわからない語句はありませ 新聞などは、一般の人が読めるように「常用漢字」で出来ていますから、高校生の皆さ んは読めて当たり前。しかし入試には「常用漢字」以外が出題されることも多いのです。ふだん 読書や、現代文の入試勉強をしている人は、常用外の漢字にも当たっていることでしょう。とに かく、 「漢字は出来て当たり前」ですから、上の問三の問題で、現在の「自分の力」を確認してく ださい。辞書では「常用漢字」以外は、右肩に×の印が付いています。 また、学校の授業では、この文章のポイントはどこか、何を読ませようとしているのかを考え ながら、先生の説明と板書に集中すること。さらに、テスト範囲の決まっている学校の定期試験 と入試とでは違いますから、現代文の普遍的な読解力を身につけるために、問題集(参考書)を 使った演習と、日頃からの「読書」を平行してやってもらいたいのです。前者はもちろん、課題 文と設問に応じた読解力の養成を図るためであり、後者は、もっと広く国語になじみ、 「国語的感 覚」を身につけるためです。 読書を全然せずに、現代文の点数はよかった、ということはあり得ません。あったとしても、 それはたまたまマーク式だったからでしょう。本を読むことはいろいろな考え、認識を作り、人 4 と社会を理解する基となります。図書館でも本屋でもとにかく、読んでみたい本を見つけましょ う。 5
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