2011 年度 京都女子大学 HP 用過去問題解説 国語(古文)

2011 年度 京都女子大学 HP 用過去問題解説 国語(古文)
出題の概説
本学の入試には、一般入試のほかに、センター試験利用入試や公募制推薦入試などがあります
が、2011 年第1回の解説では、公募制推薦入試「基礎学力検査」の問題を見ていきたいと思いま
す。
公募制推薦入試は、自 由 応 募 に よ る 自 己 推 薦 方 式 の 推 薦 入 試 で 、A 方 式 ・ B 方 式 ・ C
方 式 ( 一 部 の 学 科 ) が あ り 、 そ れ ぞ れ 配 点 や 試 験 内 容 が 違 い ま す 。 国語は A 方 式 ・ B
方 式 と も 、 ① が 現 代 文 、 ② が 古 文 の 出 題 に な っ て い ま す 。( ② 古 文 は 「 国 文 学 科 」 の
み 。)問題の内容にはほとんど違いがありません。解答時間も同じ 90 分ですので、試験自体の難
易度もあまり変わらないと言えるでしょう。解答はすべてマーク方式です。
問題分析の前に、出典について過去三年分を見ておきましょう。
●公募制推薦入試
平成 21 年度
A方式
B方式
基礎学力検査「国語」
出典
(2009 年度)
①
現代文
上田篤『庭と日本人』(問一~問九)
②
古文
①
現代文
②
古文
「源平盛衰記
巻三」(軍記物語の一)(問一~問七)
渡辺京二『隠れた小径』
(問一~問七)
『和漢朗詠集和談鈔』(平安の藤原公任撰『和漢朗詠集』の注釈書)(問一
~問十)
平成 22 年度
A方式
①
現代文
②
古文
B 方式 ①
②
平成 23 年度
A方式
(2010 年度)
現代文
古文
現代文
②
古文
②
『 今 昔 物 語 集 』( 問一~問五)
広 津 和 郎 「 散 文 芸 術 の 位 置 」( 問一~問 九 )
『 枕 草 子 』( 平 安 随 筆 ・ 清 少 納 言 )( 問一~問八)
(2011 年度)
①
B方 式 ①
斎 藤 孝 『 身 体 感 覚 を 取 り 戻 す 』( 問一~八)
現代文
古文
吉 田 純 子 「 う た ( song) の 旅 人 」( 問一~十)
『 太 閤 記 』( 問一~問十一)
ね ご と ざれごと
保 坂 和 志 「 寝 言 戯 言 」( 問一~問 十 )
『 文 机 談 』( 鎌 倉 随 筆 )( 問一~問十)
これまで現代文は現存の詩人・評論家からの出題が多く、古文は、中世の軍記物語や説話など
が目立っていましたが、平成 23 年度は、現代文で新聞からの出題、古文は新しい素材からの出題
となっているのが目を引きます。
古
文
【問題文について】
1
平成 23 年度の公募制推薦入試の古文出典は目新しいものだと言えます。A方式では「太閤記」、
B方式では「文机談」という、文学史の教科書でも目にしない作品からの出題だったからです。
といっても、文章や内容は難しいものではありません。後者は鎌倉時代の成立で、著者の僧隆円
が琵琶の名手に師事し、机に向かって書きとめた音楽に関する逸話集であり、前者は今年のNH
K大河ドラマでおなじみの江(ごう)ら、〝浅井三姉妹〟の母君(小谷の御方)が出てくるもの
で、いずれも興味の持てる内容と言ってよいでしょう。
今回取り上げるA方式の出典「太閤記」は、太閤殿下、つまり豊臣秀吉の生涯を綴った伝記で
あり、歴史上名高い人物が登場しています。「太閤記」は江戸初期に出来たもので、作者は甫庵
(おぜほあん)という尾張出身の医者です。本文では、いわゆる賤ヶ岳の戦いで太閤秀吉に滅ぼ
される柴田勝家とその正室(正妻)の最期の様子が描かれています。戦国時代で、夫ともに自害
することは宿命としてあったのでしょうが、それでも前夫(浅井長政)との間に出来た三人の連
れ子(浅井三姉妹)の助命を願うところは、その三姉妹の末娘の運命を考えると、歴史の大いな
る転換点に出会っているのだ、と感じることも出来ましょう。〝浅井三姉妹〟の末っ子こそが、
NHK大河の主人公「江(ごう)」であり、彼女は後に、家康の息子徳川秀忠の正室になり、息子
の家光の母になります。家光こそが、参勤交代制度や鎖国を始めて、徳川幕藩体制を作った人で
あり、また、母〝江〟も、いわゆる「大奥」の礎を作った人でもあるのです。案外読みやすい文
体でもあるので、自害する勝家とお市の方(小谷の御方・江の母)らの辞世の歌にも注意してみ
ましょう。
出典については、特に有名な作品でない場合、気にする必要はありません。古文は現代文と違
って、過去の古典籍には限りがあり、有名な物語などは出尽くしてしまっていますので、なるべ
く教科書や参考書に出ていない、すなわち皆が初めて見るように、平等に、という配慮から選ん
ご
い
だだけでしょうから、中身の設問(語彙の意味や文法)、そして文章自体に特に難しい部分はあり
ません。
【設問および解答方法について】
平成 23 年度の出題の特徴としては、設問数が多いことが挙げられます。問十一まであって、マ
ークシート解答とはいえ、多少手間がかかるかもしれません。しかし、設問というのは、知識問
題以外は読解に関連していますから、内容さえ読み取ってしまえば、現代文ほどやっかいではあ
りません。
さて、本文読解に入りますが、その前にリード文がある場合は、必ずしっかりそれを読んでお
くことが大切です。入試問題として原典から任意のところを出すわけですから、当然読解のため
の前置きが必要になります。同様に、後注にも目を向けます。これらは大きなヒントになります。
実際リード文の注目部分を引いてみましょう。
「次の文章は、織田信長の命を受けた豊臣秀吉が、北陸道を統括する柴田勝家と戦い、……北
庄城を攻め、劣勢となった勝家が、今を最期と覚悟を決めた場面です。……」
下線を引いたところに注意しましょう。これらを念頭に本文を読みます。すると、最初から、
「勝家、小谷の御方に申されける」とあって、その「小谷の御方」に後注があります。注1を見
てみると、
「織田信長の妹で、柴田勝家と再婚した」とあるではありませんか。やはり戦国の世で
2
すから、自分の妹でさえ、全国制覇の野望に燃える信長や秀吉は犠牲にするのですね。
この期に及んで、勝家は妻である小谷の御方(=お市の方)の命を助けようとしますが、御方
は妻となった身ですから「前世からの因縁」として一緒に死ぬことを申し出ます。ただここで、
御方は「しかあれど三人の息女をば出し侍れよ」という望みを口に出します。この「三人の息女」
こそ、後注にあるように、「前夫・浅井長政との間の娘たち」、いわゆる、〝浅井三姉妹〟のこと
です。そして、なぜ彼女らの助命嘆願をするのかというと、実は我が娘ということだけでない事
情があるのです。それを御方の言葉から見てとってから、設問を考えましょう。
「父の菩提をも問はせ、又みづからが後をも弔(とむら)はれむためぞ……」。
父(ここでは浅井長政のこと)の死後の冥福を祈らせ、ついでに自分(小谷の御方)自身の供
養をも頼んでいるのです。前夫のことを言うのに、今の夫・柴田勝家が寛容である点も注目され
ますが、昔は長幼の順序が明確で、父は特に大事にされました。そして、死後の安楽(冥福)を
祈願するのは何より大事とされたのです。仏教では死後、魂は中有にさまよう、とされました。
それを無事あの世にいけるように祈願してあげるのが生者の勤めとされたのです。よって、無縁
仏にならないために、自分の死後を弔う人が必要となるわけです。
姫君にそのことを話すと、姉君がそれに反対し、ぜひ母とともに死出の道を行こうとしますが、
家来(文荷斎)が手をとって行ってします。そうして残った夫妻が寝室に行って自害するわけで
す。
さて、ここから設問解説に入ります。
問一は文法に関する問いですが、ここでは「に」の識別が問われています。これは基本中の基
本(かつ頻出)なので大切なところです。識別には意味も大事ですが、接続にも注意が必要です。
Aの「に」は、体言に接続し、かつ活用がありません。これは格助詞の「に」です。したがって、
正解は④。格助詞の「に」は、場所・方向や動作の相手などの用法があります。Bは「出でにけ
り」と「けり」が下接しています。過去「けり」は連用形接続なので、
「に」は活用語の連用形に
なります。ここでは、完了の助動詞「ぬ」の連用形だとわかります。正解は①。
「けり」は体言・
助詞には付かないことを改めて確認しておきましょう。Cは「さらぬだに」の「だに」の一部で
す。「だに」は「すら」「さへ」などとともに、類推・限定・程度などを表す副助詞です。したが
って、正解は⑥。Dは、
「心しづかに」とあるので、これは「しづかなり」という形容動詞の連用
形の活用語尾ということになります。正解は②。
問二は慣用句の空欄補充問題。
「泣く」の雅語的な表現(慣用句)に「袖を濡らす」というのが
あります。
「涙」で衣服の「袖」を「濡らす」のです。これはそっと手で拭うので、袖口が濡れる
ことからきています。よって、正解は①。古語・文法と同様に、古典常識も最低限は知っておき
ましょう。
問三も文法(敬語)の設問ですが、敬語の用法もしっかり認識しておかないと正確な解答は出
来ません。特に、「誰が誰を」敬っているのか、
「敬意の方向」を確認します。空欄の36・37
はそれに関するもので、ここでは会話文なので、その会話主が敬意の発信人になります。ここで
は⑧の「小谷の御方」です。そして敬意の対象になるのは、⑦の「勝家」です。
「まみゆ」は、
「見
ゆ」と書きますが(ヤ行下二段活用)。ただ、「見る」(マ行上一段)のではなく、
「お会いする」
という意味の謙譲語になります。ただし、ここでは「夫としてお仕えする」という意味で使われ
3
ています。よって、38は②、39は④、40は⑤。
問四は故事に関する知識設問です。
「四面楚歌」はいわゆる故実成語で、「項羽と劉邦」の三国
志の話として漢文で習ったことがあるでしょう。ない人でも、いわゆる『国語便覧』などに載っ
ていますので、確認しておきましょう。いわゆる四字熟語は、中国の故事成語が多いので、漢字
の学習をかねて、一度漢字帳を作って履修しておきましょう。41は⑧、42は⑦、43は①、
44は③、45は⑥が正解。
問五は和歌の読解(Ⅰ)と歌集の知識(Ⅱ)が問われています。
「郭公」は「ほととぎす」と読
んで、夏の鳥として有名です。古来和歌にもたくさん詠まれています。ちなみに、表記はいろい
ろあって、「杜鵑」「時鳥」「不如帰」「子規」などもすべて「ほととぎす」と読みます。設問Ⅰで
は、
「冥土との行き来をする鳥」として歌われています。
「死出の山」
(冥土との境)を越えて、こ
の世に来た、と言っています。したがって、正解は④。Ⅱは文学史の設問になりますが、八つの
勅撰和歌集名はおぼえておきましょう。
「古今和歌集・後撰和歌集・拾遺和歌集・後拾遺和歌
集・金葉和歌集・詞花和歌集・千載和歌集・新古今和歌集」です。よって、正解は③の
「三番目」
。
問六は古語の意味を問う問題。aの「つつが」は病気・わずらい、の他、さしさわり、の意味
があります(「つつがなく」はさしさわりなく・無事で、の意味)。正解は①。bの「雲居」は文
字通り、雲があるところで、「空」を言います。転じて、「宮中」をいう場合もあります。正解は
③。cの「もよほす(催す)」は、うながす、催促する、の意味。正解は②。
「ながむ」は、
「眺む」
と書けば、見渡す・物思いに沈む、の意味ですが、
「詠む」と書けば、口ずさむ・朗詠する、の意
味になります。正解は①。
問七も古語の知識問題。
「沙汰」などは、多義語なので、文脈から判断するのも一手。52はふ
つうの「処置」の意味(③)ですが、53は「自害」の意味(④)になります。
これから後はいわゆる内容読解問題が続きます。
問八は心情を問う設問。
「小谷の御方」の想いは、傍線部アのすぐ後の発言に表れています。
「か
くまみえぬる事」は、こうして勝家と運命をともにすることは前世からの宿業であって、だから
死はいとわない、しかし気残りなのは、三人の娘たちのことである、と続きます。正解は④とな
ります。①の「このような目に遭う」では災難に遭う感じになってしまうため不可。
「自分も葬る
よう」も不可。②は「不憫」「逃がしてやってほしい」が不可。③は「兄が夫を攻めるのも」
「宿
業」が不可。
「父と自分の敵を取ってもらう」も不可。⑤は「秀吉に攻められるのも」「宿業」が
やはり不可。また、「幸せな結婚」とは言ってないので、これも不可。
問九は説明問題。
「同じ道」とはどういうことかを問う設問ですが、母の願いに反対して、母上
と「同じ道」を行きたいというのですから、④の「共に死を選ぶこと」になります。
問十も和歌の読解問題ですが、従者らしい願いが和歌の四句・五句に表れています。
「のちのよ」
は「後の世」であの世、来世のことです。そこまでお仕えしたい、というのです。正解は②です
が、「二人の覚悟を感じとり」の部分がポイントです。①ではただ「聞いて」とあるだけで、
「つ
いていかなければならない」も義務感のイメージしかないので不可。③の「物足りない」
「自分の
歌を加えることで」では、まるで自分を主人公のように扱っているので不可。④も、最後の「自
分の存在と覚悟を訴えよう」が不可。⑤が紛らわしいかもしれませんが、
「自分の至らなさ」とは
4
書いていないので不可。
問十一も人物に関する心情の問題。本文最後の方で「さすが最期はよかりけり」と感嘆してい
るところに注意。正解は④で、「自分の運命を受け入れ」「立派に最期を遂げた」が適当な表現で
す。①のように「道連れにしないように配慮した」とは書いていません。「同じ煙と立ち上りぬ」
とあるので、儒陣に殉死したのです。②は「最期の段取りまでも家来たちに任せず」が不可。③
の「小谷の御方に恨みを抱き」では、話の意味がなくなってしまいます。⑤の「体面ばかりを気
にしていた」も、「さすが最期はよかりけり」と食い違っています。
【勉強法のアドバイス】
簡単に、受験勉強としてやるべきことをまとめておきましょう。大切なのは、文法・単語・古
典知識、の3つです。
文法といっても、用言(単独で述語になれる動詞・形容詞・形容動詞)のほか、助動詞は全部
で 28 個、助詞も基本的な種類(6つ)の機能と代表例をおぼえれば、あとは敬語です。古語は、
まず教科書などの巻末にある語を覚えることです。300 語も理解していれば十分でしょう。あと
は、文学史や有職故実(昔のしきたり)など、周辺の知識が必要となってきます。
これらを指摘する先生は多いのですが、いかにやるべきか、それを具体的にみていきましょう。
よく、
「品詞分析が出来る子は基礎力がある」と言われます。例えば、
「花咲きにけり」
「花咲か
ざるべし」の分析が出来て、「に」「けり」「ざる」「べし」の助動詞の意味・活用形が言えれば、
基本的な事項をマスターしていることになります。さらに「ざる」は打消しの「ず」のなかでも
他の助動詞に付くときに使われる、ということまで知っていれば、
「花咲かずべし」とは言わない
ことに気づくでしょう。
要するに文法分析は、言葉の成り立ち・法則をルールで分ける理知と、活用などを覚える記憶
の力が働いているのです。
「れ
れ
る
るる
るれ
れよ」は、受身・尊敬の助動詞「る」の活
用ですが、こういうことを覚えていくのは、一見何の意味もなく、無味な感じがするかもしれま
せん。しかし、それをいくつも覚えていけば、意味のある言葉の法則、すなわち文法の意義がわ
かってくるのです。理屈よりも、覚えてしまうのが、文法理解の近道です。
同じく「覚える」に関係していくのが、古語です。しかし、これはまったくの異国の言葉であ
る英語の単語よりも、覚えるのがやっかいです。なにしろ「古今異義語」や、現代にはない「古
語」があって、ややこしいですから。そこで、勉強法として勧めたいのは、古語の語源とともに
理解し、覚えるやり方です。
例えば、「なつかし」という形容詞は、現代語では(昔のことが)懐かしい、と使われますが、
古語では一般に心引かれる感じをいいます。「なつかし」は「なつく」
(馴れ親しむ)という動詞
から派生したもので、初対面の人でも「なつく」ことがあり、
「なつかし」と思われるのです。こ
うした語源と派生語が同時にわかれば、語句が内面からわかってくるはずです。
こうしたやり方で、まずは少しずつでもいいから文法・単語・古典知識を身につけるようにし
ていきましょう。
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