2011 年度数学 IA 演習第 4 回 理 I 16, 17, 18, 19, 20, 21 組 6 月 6 日 清野和彦 問題 1. 次の関数について、x による偏導関数と y による偏導関数を計算せよ。ただし、定義域の 端や定義域内だが偏微分不可能になってしまうところなどは気にせず、偏導関数を計算する公式で 普通に計算できる範囲だけ計算すればよい。 (1) x2 y 3 (2) sin(x2 y 3 ) (3) xy (4) √ x2 + y 2 x 問題 2. f (x, y) = e y log y (ただし y > 0)とするとき ( ) ∂f ∂f f (x, y) = x (x, y) + y (x, y) log y ∂x ∂y が成り立つことを示せ。 問題 3. 単位円板を定義域に含む連続で偏微分可能な 2 変数関数 f (x, y) に対し、 g(x, y) = (1 − x2 − y 2 )f (x, y) によって新たな関数 g(x, y) を定義する。 ∂g ∂g (a, b) = (a, b) = 0, ∂x ∂y a2 + b2 < 1 を満たす (a, b) が存在することを証明せよ。 問題 4. R2 から x 軸の 0 以上の部分 {(x, 0) | x ≥ 0} を取り除いた残りを D とする。D 上の関 数 f (x, y) に関する次の命題は正しいか? 正しければ証明し、誤りならば反例を挙げよ。 (1) 恒等的に fy (x, y) = 0 ならば f は y に依らない x だけの関数である。 (つまり、f (x, y) = g(x) となる x の 1 変数関数 g が存在する。) (2) 恒等的に fx (x, y) = fy (x, y) = 0 ならば f は定数関数である。 問題 5. 2 変数関数 f (x, y) を、 ( √ 2 2 f (x, y) = x + y sin 1 x2 + y 2 ) ただし f (0, 0) = 0 によって定義する。この f (x, y) は (0, 0) で連続だが、(0, 0) で x でも y でも偏微分できないこと を示せ。 問題 6. 2 変数関数 f (x, y) を、 f (x, y) = x2 xy + y2 ただし f (0, 0) = 0 によって定義する。この f (x, y) は (0, 0) で x でも y でも偏微分可能だが、(0, 0) で連続ではない ことを示せ。 問題 7. 2 変数関数 f (x, y) を f (x, y) = (x − y)3 x2 + y 2 ただし f (0, 0) = 0 によって定義する。 (1) f (x, y) は (0, 0) において連続であることを示せ。 (2) f (x, y) は (0, 0) において x でも y でも偏微分可能であることを示せ。 (3) f (x, y) は (0, 0) において微分可能ではないことを示せ。 問題 8. 2 変数関数 f を ( ) f (x, y) = x2 + y 2 sin ( 1 x2 + y 2 ) ただし f (0, 0) = 0 によって定義する。この f は (0, 0) でも微分可能だが、x による偏導関数 fx も y による偏導関 数 fy も (0, 0) で不連続であることを証明せよ。 問題 9. xyz 空間において 1 次式 px + qy のグラフとして表された平面 z = px + qy を考える。 (1) この平面が一番大きく傾いている向き、つまり「x2 + y 2 = 一定」を満たす (x, y) について z の値が一番大きい (x, y) の向きを求めよ。 (「向き」とは「正の定数倍はどうでもよい」とい う意味です。例えば、(1, −2) と (2, −4) は同じ向きです。ただし (1, −2) と (−1, 2) は違う 向きです。) (2) この平面上に質点が一つ置かれているとする。重力が z 軸負の向きに働いているとし、質点 と平面の間に摩擦はないとして、この質点の受ける重力と平面からの抗力の合力の向きを求 めよ。 問題 10. 1 変数関数 φ が等式 2φφ′′ = 3 (φ′ ) を満たすとする。(「関数として等しい」という意 2 味です。)このとき、f (x, y) = x2 φ(xy) と定義すると、 fyy fx = fy fyx が成り立つこと示せ。(これも「関数として等しい」という意味です。) 問題 11. R2 全体を定義域とする 2 変数関数 f (x, y) = x2 y 2 + y4 x4 ただし f (0, 0) = 0 は (0, 0) で不連続だが、(0, 0) でも 2 回偏微分可能である(つまり fxx (0, 0), fxy (0, 0), fyx (0, 0), fyy (0, 0) がすべて存在する)ことを示せ。 問題 12. R2 全体を定義域とする 2 変数関数 f (x, y) = x3 y x2 + y 2 ただし f (0, 0) = 0 は R2 全体で 2 回偏微分可能だが、fxy (0, 0) ̸= fyx (0, 0) であり、二つの偏導関数 fxy も fyx も (0, 0) で不連続であることを示せ。 問題 13. 2 変数の C n 級関数 f の二つの偏導関数が fx = fy (「関数として等しい」という意味 です)を満たすなら、n 以下の任意の自然数 m に対して ∂mf ∂mf = m ∂x ∂y m (やはり「関数として等しい」ということです)が成り立つことを証明せよ。 問題 14. x + y > 0 を満たす (x, y) を定義域とする 2 変数関数 f (x, y) を f (x, y) = x log(x + y) で定義する。次を計算せよ。 (1) ∂f ∂f − ∂x ∂y (2) ∂2f ∂2f − 2 2 ∂x ∂y (3) ∂4f ∂4f − 4 4 ∂x ∂y (4) ∂8f ∂8f − 8 8 ∂x ∂y 2011 年度数学 IA 演習第 4 回解答 理 I 16, 17, 18, 19, 20, 21 組 6 月 6 日 清野和彦 今回から多変数関数の微分に入ります。1 変数関数では実質的に同じものであった微分係数と接 線が、多変数関数では違う概念になります。注目する変数以外を定数扱いにして 1 変数関数として 微分してしまうという偏微分と、グラフ(空間内の曲面です)の注目する点における接平面です。 なお、接平面が存在することを微分可能あるいは全微分可能といいます。今回は、この二つの定義 とそれらの間の関係、および 1 変数関数の微分の知識を直接利用できるような応用を扱います。 目次 1 2 変数関数の微分 1.1 平面をグラフに持つ関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 2 1.2 1.3 1.4 接平面の定義と微分可能性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3 5 5 1.5 偏導関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1.6 微分可能性と連続性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 偏微分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1.5.1 問題 1 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1.5.2 1.5.3 1.5.4 問題 2 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 問題 4 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 連続性、偏微分可能性、微分可能性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 8 9 問題 5 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 11 1.7 1.6.2 問題 6 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1.6.3 問題 7 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . C 1 級関数と微分可能性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 12 13 1.8 1.7.1 問題 8 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . grad f というベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 18 問題 9 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19 1.6.1 1.8.1 2 問題 3 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 8 高階偏微分と偏微分の順序交換 2.1 高階偏微分、高階偏導関数の定義と記号 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 問題 11 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 22 23 2.1.3 問題 12 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . C n 級関数と偏微分の順序 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24 26 問題 13 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28 29 2.1.1 2.1.2 2.2 20 2.2.1 2.2.2 問題 10 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 問題 14 の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 第 4 回解答 2 変数関数の微分 1 高校のとき、1 変数関数の微分係数は「瞬間の変化率」として定義されました。しかし、この視 点は 2 変数関数にはそのままでは拡張することができません。そこで、1 変数の微分係数を「瞬間 の変化率」ではなく「グラフの接線」であると解釈することにします。その解釈なら 2 変数関数の 場合に拡張可能だからです。詳しく言うと、 1 変数関数 f (x) の x = a での微分の値が p であるとは、y = f (x) のグラフの点 (a, f (a)) での接線が y = p(x − a) + f (a) のグラフになっていることである。 という視点と対応して、 2 変数関数 f (x, y) と定義域内の点 (a, b) に対して、z = f (x, y) のグラフの点 (a, b, f (a, b)) における接平面を確定してくれる「何か」を f (x, y) の微分と呼びたい というわけです。 1.1 平面をグラフに持つ関数 接平面を云々するためには、まず 平面の式とはどのような式であるべきか をはっきりさせておかなければなりません。 平面の式を得るための指針として、xy 平面における直線の式について考え直してみましょう。 xy 平面における直線といえば、1 次式のグラフ y = px + c が思い浮かびます。p は直線の傾き、c は y 切片です。しかし、この見方を直接 xyz 空間内の平 面の式になるように拡張するのは難しそうです。なぜなら、「平面の傾き」というものが何である のかがよくわからないからです。そこで、上の直線の式を移項して整理することで、 px + (−1)(y − c) = 0 と変形してみます。これをどう見るかというと、 直線上の点 (x, y) は、ベクトル (x, y − c) と定ベクトル (p, −1) との内積が 0 になる、 すなわち、 ベクトル (x, y − c) が定ベクトル (p, −1) と直交する (x, y) 全体 と見るわけです。つまり、 直線 y = px + c は点 (0, c) を通り (p, −1) を法線ベクトルとする直線 ということです。法線ベクトルなら、空間内の平面に対しても(定数倍を除いて)一つに決まりま すから、この見方は直接空間内の平面に適用できます。結論は、 3 第 4 回解答 xyz 空間内の平面とは、通る点 (a, b, c) と法線ベクトル (p, q, r) によって、(x − a, y − b, z − c) と (p, q, r) の内積が 0、すなわち p(x − a) + q(y − b) + r(z − c) = 0 (1) と表せる ということになります。 これで xyz 空間内のすべての平面を表す式の形がわかりました。しかし、我々が相手にしたい のはすべての平面ではなく、z = f (x, y) のグラフの接平面になりうる平面だけです。だから、上 の式に何かしらの制限を付けることができるだろうと考えられます。どのような制限が付くはずな のかを、1 変数関数の接線で反省してみましょう。 √ 1 変数関数 f (x) = 3 x に対し、y = f (x) のグラフの (x, y) = (0, 0) における接線は何でしょう か? 図形的には x = 0 すなわち y 軸が接線だと思えますが、グラフの接線としては存在しないと いうのが答です。なぜならば、x = 0 という直線は x の関数 g(x) によって y = g(x) のグラフと して表すことができないからです。つまり、 関数のグラフの接線や接平面は、その関数と同じ変数を持つ関数のグラフで表されな ければならない という要請をおいているわけです。本当に調べたいのはグラフという図形ではなく関数の方なので すから、この要請は自然でしょう。この要請は、式 (1) が z について解けること、すなわち r ̸= 0 であること、つまり法線ベクトルが z 軸に直交しないことです。 この要請をおいた上で、式 (1) を z について解くと、 p q z = − (x − a) − (y − b) + c r r となります。p, q, r (r ̸= 0) は何でもよいのですから、この式で − pr , − rq を改めて p, q とおくこと にしましょう。さらに、この式が z = f (x, y) のグラフの点 (a, b, f (a, b)) における接平面だとする と、(x, y) = (a, b) のとき z = f (a, b) となるわけですから c = f (a, b) です。以上より、 z = f (x, y) の点 (a, b, f (a, b)) における接平面をグラフとして与える式は、 g(x, y) = p(x − a) + q(y − b) + f (a, b) という形の 1 次式でなければならない。 ということがわかりました。 1.2 接平面の定義と微分可能性 接平面がどのような式で表されるべきなのか、その一つの必要条件がわかったので、それを利用 して「接平面の定義」を考えてみましょう。 接平面というと、「接点の近くでは曲面との共有点が接点のみの平面」と思ってしまうかも知れ ません。しかし、例えば z = x2 − y 2 という曲面の原点における接平面は xy 平面としか思えませ んが、それは z = x2 − y 2 と二直線 y = x, y = −x を共有してしまっています。 1 変数のときにどう考えたかを参考にしたらどうか、と思うかも知れません。1 変数関数のグラフ ( ) の接線とは「割線の極限」であると考えました。つまり、y = f (x) のグラフに a, f (a) で接する 4 第 4 回解答 ( ) ( ) 接線とは、 a, f (a) の近くに別の点 b, f (b) をとり、その 2 点を通る直線(これを割線と言いま す)の b → a のときの「極限」のことだとしました。これを 2 変数関数のグラフでまねするとどう ( ) ( ) なるでしょうか。つまり、z = f (x, y) のグラフの a, b, f (a, b) における接平面とは、 a, b, f (a, b) ( ) 以外のグラフ上の 2 点で 3 点が一直線上に並ばないものを取り、その 2 点を a, b, f (a, b) に近づ けたときの、3 点が決める平面の「極限」としてみるわけです。 しかし、既に 2 変数関数の連続性の節で指摘したように、1 点を別の点に近づける近づけ方でさ えいろいろありすぎて大変なのに、「二つの点をある点に近づけたときの極限」なんてとてもじゃ ないけど手に負えません。この場合も、1 変数なら、x を a に近づける近づけ方が大きい方からと 小さい方からの実質上二つしかなかったので接線を割線の極限としても平気だったというわけなの です。 そこで、幾何学的に接平面を定義するのはあきらめて、1 変数関数の微分の定義式だけを参考に して接平面の式を定義してみましょう。 1 変数関数の微分の定義は f (x) − f (a) x→a x−a lim でした。つまり、 lim x→a f (x) − f (a) =p x−a となる p が存在するとき微分可能と言い、p を微分係数と言うというわけです。この式で右辺の p を左辺に移項して分子にのせてやると lim x→a f (x) − f (a) − p(x − a) =0 x−a となります。分子の後半 f (a) + p(x − a) は x = a における y = f (x) の接線の式になっています。 一方、x = a での値が f (a) であるような 1 次関数 P (x) = f (a) + q(x − a) が lim x→a f (x) − f (a) − q(x − a) =0 x−a を満たすとすると、上と逆の変形をこの式に施して lim x→a f (x) − f (a) =q x−a が得られますので、q = f ′ (a) でなければならないことになります。結局、 x = a のときの値が f (a) であるような 1 次関数 P (x) について、P (x) が y = f (x) の グラフの (a, f (a)) における接線であることと lim x→a f (x) − P (x) =0 x−a を満たすことは同値である ということがわかりました。だから、この条件式を 2 変数関数の場合に拡張することで、接平面の 式を定義してもそれほど的はずれにはならないでしょう。 1 変数関数の場合の x → a を「点 x が点 a に近づく」と読めば、2 変数関数の場合「点 (x, y) が点 (a, b) に近づく」ということ、つまり、 「(x, y) と (a, b) との距離が 0 に近づく」と考えればよ √ 2 いことになります。式で書くと (x − a) + (y − b)2 → 0 ということです。グラフが接平面にな りうる式は 1 次式であることを前節で調べてありますから、次のように定義すればよいでしょう。 5 第 4 回解答 定義 1. 関数 f (x, y) に対して P (a, b) = f (a, b) をみたす 1 次式 P (x, y) で lim (x,y)→(a,b) f (x, y) − P (x, y) √ =0 (x − a)2 + (y − b)2 (2) をみたすものが存在するとき、f (x, y) は (a, b) で微分可能、あるいは全微分可能であると言 い、P (x, y) のことを f (x, y) の (a, b) における 1 次近似、z = P (x, y) のグラフを z = f (x, y) のグラフの点 (a, b, f (a, b)) における接平面と言う。 1.3 微分可能性と連続性 このように定義すると、 f (x, y) が (a, b) で微分可能 =⇒ f (x, y) は (a, b) で連続 が成り立ちます。なぜなら、 f (x, y) − P (x, y) √ =0 (x,y)→(a,b) (x − a)2 + (y − b)2 lim と lim (x,y)→(a,b) √ (x − a)2 + (y − b)2 = 0 を掛けることによって lim (f (x, y) − P (x, y)) = 0 (x,y)→(a,b) が得られますが、P (x, y) は P (a, b) = f (a, b) を満たす 1 次式なので lim f (x, y) = (x,y)→(a,b) lim P (x, y) = P (a, b) = f (a, b) (x,y)→(a,b) となるからです。というわけで、1 変数関数のときと同様に不連続な点では微分不可能です。 一方、1 変数関数の場合にも、例えば |x| のように連続だが微分できない点を持つ関数というも のがありました。それと同じような例が 2 変数関数にもあります。例えば問題 7 の関数がそうで す。しかし、ここまでで説明したこと、つまり微分可能であることの定義だけを使って「微分可能 でない」ということを示すのは難しいでしょう。なぜなら、微分可能性の定義の中では P (x, y) の 1 次の項の係数について直接には何も触れられていないので、このままではすべての 1 次式につい て微分可能性の定義に出てきた極限を計算してみなければならないことになってしまうからです。 やはり、微分可能性の定義から一歩進んで、P (x, y) の 1 次の項の係数についての情報を導き出し ておかなければどうにもなりません。 1.4 偏微分 1 変数関数の場合、元々ひとつしかないものの定義を言い換えたにすぎないので、1 次近似がある としてもひとつであることは分かり切っていますが、多変数の場合のこの定義では 1 次近似 P (x, y) がひとつしかあり得ないことさえにわかには分かりません。しかし、接線と同様に接平面もあると したら一枚だけであるべきでしょう。 さて、1 次近似式 P (x, y) は P (x, y) = p(x − a) + q(y − b) + f (a, b) 6 第 4 回解答 という形の式であることはわかっているわけですから、未知なのは p と q だけです。そこで、f (x, y) が (a, b) で微分可能であることの定義式 f (x, y) − P (x, y) √ =0 (x,y)→(a,b) (x − a)2 + (y − b)2 lim が「(x, y) を (a, b) にどう近づける場合にも成り立つ」ということに目を付けて、p と q を取り出 してみましょう。どうするかというと、まず y を b にしてしまい、その後 x を a に近づけてみる のです。そのような近づけ方をしてもこの式は成り立つわけです。よって、 ( ) f (x, y) − P (x, y) f (x, b) − P (x, b) 0 = lim lim √ = lim √ 2 2 x→a y→b x→a (x − a) + (y − b) (x − a)2 + 0 = lim x→a f (x, b) − f (a, b) − p(x − a) |x − a| となります。ここでさらに x の a への近づけ方を a より大きい方から近づく、つまり x → a + 0 としてみましょう。すると |x − a| = x − a ですので、 f (x, b) − f (a, b) − p(x − a) f (x, b) − f (a, b) = lim −p x→a+0 x→a+0 x−a x−a 0 = lim すなわち、 f (x, b) − f (a, b) x−a でなければならないことがわかります。同様に、x → a − 0 としてみると、|x − a| = a − x なので、 p = lim x→a+0 0 = lim x→a−0 f (x, b) − f (a, b) − p(x − a) f (x, b) − f (a, b) = lim +p x→a−0 a−x −(x − a) となり、やはり、 f (x, b) − f (a, b) x−a でなければならないことになります。もちろん、q についても同様です。そこで、次のように定義 しましょう。 p = lim x→a−0 定義 2. f (x, y) が (a, b) において極限 lim x→a f (x, b) − f (a, b) x−a を持つとき、その値を f (x, y) の (a, b) における x による偏微分係数(偏微分の値)と呼び、 記号で ∂f (a, b) ∂x などと書く。同様に、 lim y→b とか fx (a, b) f (a, y) − f (a, b) y−b が収束するとき、その極限値を f (x, y) の (a, b) における y による偏微分係数(偏微分の値) と呼び、 ∂f (a, b) ∂y などと書く。 とか fy (a, b) 7 第 4 回解答 なんだか複雑そうな定義ですが、f (x, y) の y に偏微分したい点の y 成分 b を代入してできる x の 1 変数関数を φ(x) = f (x, b) としたとき、 ∂f dφ (a, b) = (a) ∂x dx というように x の 1 変数関数としての a における微分の値で x による偏微分の値を定義している だけです。y による偏微分についてももちろん同様です。 偏微分を使うと、定義 2 の直前に証明したことは 定理 1. f (x, y) が (a, b) で微分可能なとき、f (x, y) は (a, b) で x でも y でも偏微分可能で あり、1 次近似式 P (x, y) は P (x, y) = ∂f ∂f (a, b)(x − a) + (a, b) + f (a, b) ∂x ∂y で与えられる。 とまとめることができます。特に、f (x, y) が (a, b) で微分可能なら 1 次近似式はただ一つしか存在 しないわけです。だから、f (x, y) が (a, b) で微分可能かどうかを調べるには、fx (a, b) と fy (a, b) を計算し(この二つが存在しなければ微分可能ではないわけです)、それらを係数とした 1 次式 P (x, y) = fx (a, b)(x − a) + fy (x, y)(y − b) + f (a, b) についてのみ lim (x,y)→(a,b) f (x, y) − P (x, y) √ =0 (x − a)2 + (y − b)2 が成り立つかどうかを調べればよい、ということになります。 このことを使えば、問題 7 なども解けるのですが、その前に「偏微分は実質的に 1 変数関数の微 分に過ぎない」ということからすぐにわかることについて調べておきましょう。 1.5 偏導関数 f (x, y) が定義域内の任意の点で x によって偏微分可能なとき、点 (a, b) に fx (a, b) を対応させ ることで、f (x, y) と同じ定義域を持つ 2 変数関数ができます。それを f (x, y) の x による偏導関 数と呼び、 ∂f (x, y) ∂x などと書きます。y による偏導関数 ∂f (x, y) ∂y とか fx (x, y) とか fy (x, y) も同様です。 偏微分の定義のすぐあとで説明したように、 x による偏微分とは y を定数だと思って 1 変数関数の微分をすること に過ぎません。y による偏微分も同様です。だから、2 変数関数 f (x, y) が普通に「式一本」で与え られている場合、偏導関数を計算することは、1 変数関数の導関数を計算する公式を使うことで簡 単にできてしまいます。そのようにして実際に偏導関数を計算して下さい、というのが問題 1 です。 8 第 4 回解答 1.5.1 問題 1 の解答 (1) ∂ 2 3 x y = 2xy 3 ∂x (2) ∂ sin(x2 y 3 ) = 2xy 3 cos(x2 y 3 ) ∂x (3) ∂ y x = yxy−1 ∂x ∂ 2 3 x y = 3x2 y 2 ∂y ∂ sin(x2 y 3 ) = 3x2 y 2 cos(x2 y 3 ) ∂y ∂ y ∂ y log x x = e = (log x)ey log x = xy log x ∂y ∂y ∂ √ 2 ∂ 2 1 x 1 1 x + y2 = (x + y 2 ) 2 = (x2 + y 2 )− 2 2x = √ 2 ∂x ∂x 2 x + y2 ∂ √ 2 y この式は x と y について対称なので、 x + y2 = √ です。 □ ∂y x2 + y 2 (4) 1.5.2 問題 2 の解答 問題 1 のように偏導関数を計算して、与えられた関係式の右辺を計算するだけです。 ∂f 1 x (x, y) = e y log y ∂x y なので、 ( x 1 ∂f x x (x, y) = − 2 e y log y + e y ∂y y y ) x ∂f ∂f x x xy x y x x (x, y) + y (x, y) = e y log y − 2 e y log y + e y = e y ∂x ∂y y y y となります。これに log y を掛ければ f (x, y) に一致し、関係式が示せました。 □ 1.5.3 問題 3 の解答 この問題は、1 変数関数における「最大(小)値をとる点で微分が 0」ということの 2 変数への 拡張です。 f (x, y) は連続だと仮定しているので、g(x, y) も連続です。よって、g(x, y) の定義域を有界閉集 合 x2 + y 2 ≤ 1 に制限すると、最大値の原理により g(x, y) は最大値と最小値を持ちます。境界上、 すなわち x2 + y 2 = 1 を満たす (x, y) においては g(x, y) = (1 − x2 − y 2 )f (x, y) = 0 × f (x, y) = 0 ですので、最大値か最小値の少なくとも一方は x2 +y 2 < 1 の範囲でとります。なぜなら、g(x, y) > 0 となる (x, y) が存在するなら x2 + y 2 < 1 の範囲で最大値を、g(x, y) < 0 となる (x, y) が存在す るなら x2 + y 2 < 1 の範囲で最小値をとるし、g(x, y) が恒等的に 0 なら x2 + y 2 ≤ 1 のすべての 点が最大値(=最小値)をとる点だからです。 どちらでも同じですので、a2 + b2 < 1 を満たす (a, b) で最大値をとっているとします。すると、 g(x, y) の定義域を x2 + b2 < 1 で決まる線分に制限した関数 φ(x) = g(x, b) x2 + b 2 < 1 は x = a で最大値をとります。よって、φ(x) が微分可能なら φ′ (a) = 0 です。一方、g(x, y) は偏 微分可能な二つの関数 1 − x2 − y 2 と f (x, y) の積なので偏微分可能です。そして、φ(x) の定義と 9 第 4 回解答 偏微分の定義から φ′ (x) = gx (x, b) となっています。よって、この点 (a, b) において gx (a, b) = 0 です。 同様に、y の 1 変数関数 ψ(y) を ψ(y) = g(a, y) a2 + y 2 < 1 と定義すると、ψ(y) は y = b で最大値をとるので ψ ′ (b) = 0 です。一方、ψ ′ (y) = gy (a, y) でもあ ります。よって、gy (a, b) = 0 です。 これで、 ∂g ∂g (a, b) = (a, b) = 0 かつ ∂x ∂y a2 + b2 < 1 が示せました。 □ この解答から、 偏微分可能な関数 f (x, y) が (a, b) で極大または極小なら、 ∂f ∂f (a, b) = (a, b) = 0 ∂x ∂y が成り立つ。 ということ、特に、 微分可能な 2 変数関数が (a, b) で極大または極小なら、その点での接平面は xy 平面に 平行である。 ということがわかります。これは、 微分可能な 1 変数関数が極大または極小なら、その点での接線は x 軸に平行である。 ということが 2 変数の場合にも自然に拡張されることを意味しています。なお、夏学期の終わりに は、この考えを進めることで 2 変数関数における極大値や極小値を探す方法が手にはります。お楽 しみに。 1.5.4 問題 4 の解答 この問題は、偏微分が 1 変数関数の微分に過ぎないことから平均値の定理や「微分が常に 0 の関 数は定数関数のみ」という 1 変数関数で親しんでいることを 2 変数関数に利用する問題です。ただ し、2 変数関数の場合、定義域の形が様々なので、1 変数関数のときの感覚が上手く働かないこと もあります。そのことにも注意して下さい。 (1) 誤りです。 例えば、 { f (x, y) = x2 0 x > 0 かつ y > 0 それ以外 と定義すると恒等的に fy (x, y) = 0 ですが、例えば f (1, 1) = 1 なのに f (1, −1) = 0 となって、f の値が y に依存しています。 □ 10 第 4 回解答 (2) 正しいです。 証明しましょう。f (x, y) が定数関数であるとは、定義域内の任意の 2 点 (x0 , y0 ), (x1 , y1 ) に対 して f (x0 , y0 ) = f (x1 , y1 ) が成り立つことですので、これを示しましょう。 (x0 , y0 ) と (−1, y0 ) を結ぶ線分は D に含まれているので、f (x, y0 ) という x の 1 変数関数に平 均値の定理を適用することで、 f (x0 , y0 ) − f (−1, y0 ) = ∂f (c, y0 )(x0 − (−1)) ∂x となる c が x0 と −1 の間に存在することが分かります。しかし、今 fx は恒等的に 0 なので、こ の式の右辺は 0 です。よって、 f (x0 , y0 ) = f (−1, y0 ) が成り立ちます。 次に (−1, y0 ) と (−1, y1 ) を結ぶ線分が D に含まれることから、f (−1, y) という y の 1 変数関 数に平均値の定理を適用することで、 f (−1, y0 ) − f (−1, y1 ) = ∂f (−1, c′ )(y0 − y1 ) ∂y となる c′ が y0 と y1 の間に存在することが分かります。しかし、今 fy も恒等的に 0 なので右辺 は 0 です。よって f (−1, y0 ) = f (−1, y1 ) が成り立ちます。 最後に (−1, y1 ) と (x1 , y1 ) を結ぶ線分が D に含まれることから、二段落前と全く同様にして f (−1, y1 ) = f (x1 , y1 ) が得られます。 得られた三つの等式をつなぐと f (x0 , y0 ) = f (−1, y0 ) = f (−1, y1 ) = f (x1 , y1 ) となって、示したかった等式が示せました。 □ 1.6 連続性、偏微分可能性、微分可能性 さて、偏微分の計算にも慣れたところで、連続性、偏微分可能性、微分可能性の三つの関係を例 で見ることにしましょう。なお、 微分可能ならば偏微分も可能だし連続でもある ということは既に証明済みです。 なお、以下の関数はすべて (x, y) ̸= (0, 0) 以外では微分可能(従って、偏微分も可能でかつ連続) であることが第 1.7 節の議論から分かってしまうので、(0, 0) のところだけを議論する形の出題に なっています。 11 第 4 回解答 1.6.1 問題 5 の解答 まず連続であることを示しましょう。(x, y) が何であっても ( ) 1 sin ≤1 2 2 x +y ですので、 √ x2 + y 2 < ε =⇒ |f (x, y)| < ε が成り立ちます。よって、f (x, y) は (0, 0) で連続です。 次に、x でも y でも偏微分できないことを示しましょう。f (x, y) は x と y について対称な関 数なので、x で偏微分可能でないことだけ示せば十分です。定義に従って計算してみると、 ( ) √ 1 ( ) x2 + 02 sin x2 +0 2 f (x, 0) − f (0, 0) |x| 1 lim = lim = lim sin x→0 x→0 x→0 x x x |x| となります。しかし、これは 1 と −1 の間を振動してしまい収束しません。よって、(0, 0) におい て x によって偏微分できません。 □ 1.6.2 問題 6 の解答 まず x でも y でも偏微分可能であることを示しましょう。f (x, y) は x と y について対称なの で、x で偏微分可能であることを示せば十分です。定義に従って計算すると、 f (x, 0) − f (0, 0) = lim x→0 x→0 x lim x·0 x2 +02 −0 x = lim 0 = 0 x→0 となって極限値が確定します。よって、x でも y でも偏微分可能で ∂f ∂f (0, 0) = (0, 0) = 0 ∂x ∂y です。 次に (0, 0) で不連続であることを示しましょう。つまり、 lim f (x, y) = f (0, 0) (x,y)→(0,0) が成り立たないことを示すのです。左辺の極限は (x, y) をどのように (0, 0) に近付けても同じ値 に収束するという意味ですので、(x, y) の (0, 0) への特別な近付け方で収束しないとか、二つの近 付け方で別の値に収束してしまうということを示せばよいわけです。ここでは後者の方法を利用し てみます。 y = x という関係を保ったまま (x, y) → (0, 0) としてみます。すると、 lim f (x, x) = lim x→0 x→0 1 xx = x2 + x2 2 となります。ところが、y = −x という関係を保ったまま (x, y) → (0, 0) としてみると、 lim f (x, −x) = lim x→0 となって 1 2 x→0 1 x(−x) =− x2 + (−x)2 2 に収束しません。よって、f (x, y) は (0, 0) で不連続です。 □ 12 第 4 回解答 1.6.3 問題 7 の解答 (1) f (0, 0) = 0 ですから、任意の正実数 ε が与えられたとき、 √ x2 + y 2 < δ =⇒ |f (x, y)| < ε となる δ を見つければよいわけです。いわゆる三角不等式によって、 (x − y)3 (|x| + |y|)3 ≤ |f (x, y)| = 2 x + y2 x2 + y 2 となります。ここで、 |x| ≤ √ x2 + y 2 |y| ≤ √ x2 + y 2 であることを使って、上の不等式の最後の式で |x| と |y| をすべて より、 |f (x, y)| ≤ ( √ )3 2 x2 + y 2 x2 y2 =8 √ x2 + y 2 で置き換えることに √ x2 + y 2 + √ ε が得られます。このことから、δ = とすれば、 x2 + y 2 < δ のとき、 8 √ |f (x, y)| ≤ 8 x2 + y 2 < 8δ = ε が成り立ちます。これで (0, 0) で連続であることが示せました。 □ (2) 二つの偏微分係数 fx (0, 0), fy (0, 0) を計算しましょう。定義式に f (x, y) の具体的な式を代入 すると、 ∂f f (x, 0) − f (0, 0) 1 x3 (0, 0) = lim = lim = lim 1 = 1 x→0 x→0 x x2 x→0 ∂x x および、 f (0, y) − f (0, 0) 1 (−y)3 ∂f (0, 0) = lim = lim = lim (−1) = −1 y→0 y→0 y y→0 ∂y y y2 となって、どちらの偏微分も可能です。 □ (3) (2) の結果から、もしも f (x, y) が (0, 0) で微分可能なら 1 次近似式 P (x, y) は P (x, y) = 1(x − 0) + (−1)(y − 0) + f (0, 0) = x − y でなければならないことになります。ところが、 (x − y)((x − y)2 − (x2 + y 2 )) (x − y)3 − (x − y) = 2 2 x +y x2 + y 2 −2xy(x − y) = x2 + y 2 f (x, y) − P (x, y) = なので、y = −x, x > 0 という関係を保ったまま (x, y) → (0, 0) とすると、 √ f (x, y) − P (x, y) 4x3 4x3 √ √ = lim = lim √ = 2 3 2 2 2 2 x→+0 2x x→+0 2 2x (x,y)→(0,0) 2x x +y lim y=−x x>0 となって 0 に収束しません。よって、f (x, y) は (0, 0) において微分できません。 □ この節の始めにも述べたように、 13 第 4 回解答 • 微分可能なら偏微分可能である。 • 微分可能なら連続である。 の両方が成り立ちます。一方、問題 7 の関数は • 連続だが微分可能でない。 • 偏微分可能だが微分可能でない。 という両方の例になっています。また、問題 5 の関数は 連続だが偏微分可能でない。 という例、問題 6 の関数は 偏微分可能だが連続でない。 という例です。つまり、2 変数関数における連続、偏微分可能、微分可能な関数は次の図 1 のよう な包含関係になっているのです。 2 変数関数 連続 偏微分可能 微分可能 図 1: 微分可能、偏微分可能、連続の関係。 1.7 C 1 級関数と微分可能性 微分可能なとき、その 1 次近似式(すなわち接平面の式)を決める係数は偏微分の値です。つま り、微分可能なことが分かっているなら、そのことから導かれる性質などはすべて偏微分によって 記述されることになります。しかし、具体的に関数が与えられても、それが微分可能であるかどう かを定義に従って判定するのはかなり大変そうです。そこを克服しないと「多変数関数の微分は偏 微分で十分」と言ってしまうわけにはいきません。この節では、偏導関数を調べるだけで微分可能 であることがわかってしまう場合のあること、具体的には偏導関数が連続なら微分可能であるとい うことを説明します。 14 第 4 回解答 1 変数関数の場合でも導関数は連続関数になるとは限りません。ましてや、多変数関数では偏微 分可能でも元々の関数が不連続ということさえあることを講義でも学びましたし問題 6 でも紹介し ました。問題 11 の関数もその例です。 1 変数関数の場合、導関数が連続なら、例えば導関数が有界閉区間で最大値を持つことからあま り急激な増減をしないといった、微分可能なだけよりも扱いやすい性質を持ちます。多変数関数 の場合には偏導関数が連続という条件は、そのようなありがたみの他に、1 変数関数の場合にはな かった事情についても嬉しい性質になっています。以下、その嬉しい性質について説明するための 言葉を用意しましょう。定義域内のすべての点で偏微分可能で、すべての偏導関数が連続であるよ うな関数のことを C 1 級関数といいます。 多変数関数では、連続である、偏微分可能である、微分可能であるという三種類の性質を考える ことができました。微分可能なら偏微分可能だし元の関数は連続だしとよいことづくめなのです が、偏微分可能なだけだと元の関数の連続性さえ保証されません。もちろん、連続関数で偏微分で きないものもあります。だから、一口で言ってしまえば、「偏微分は微分可能なときには役に立つ ものだけれど、微分可能かどうかなんて簡単にはわかりそうもないから、結局偏微分だけ計算でき てもあまり嬉しくない」というように見えます。ところが、偏導関数だけ見れば調べられる C 1 級 という性質については、次の定理が成り立ってしまうのです。 1 定理 2. C 級関数は微分可能である。 証明. 定義域内の任意の点 (a, b) を一つ選び、f (x, y) が C 1 級なら点 (a, b) で微分可能であるこ とを示しましょう。 f (x, y) は偏微分可能なので、1 次式 P (x, y) を P (x, y) = ∂f ∂f (a, b)(x − a) + (a, b)(y − b) + f (a, b) ∂x ∂y とおきます。もし f (x, y) が点 (a, b) で微分可能なら、そこでの 1 次近似式はこの P (x, y) でなけ ればならないので、示すべきことは f (x, y) − P (x, y) (x,y)→(a,b) √ −−−−−−−→ 0 (x − a)2 + (y − b)2 が成り立つことです。 まず、分子に −f (a, y) + f (a, y) を水増しして、 f (x, y) − fx (a, b)(x − a) − fy (a, b)(y − b) − f (a, b) f (x, y) − P (x, y) √ √ = 2 2 (x − a) + (y − b) (x − a)2 + (y − b)2 f (x, y) − f (a, y) − fx (a, b)(x − a) √ = (x − a)2 + (y − b)2 f (a, y) − f (a, b) − fy (a, b)(y − b) √ + (x − a)2 + (y − b)2 √ と分解してみます。|y − b| ≤ (x − a)2 + (y − b)2 から (x, y) によらずに |y − b| √ ≤1 (x − a)2 + (y − b)2 15 第 4 回解答 となるので、第 2 項は f (a, y) − f (a, b) − f (a, b)(y − b) f (a, y) − f (a, b) |y − b| y √ = − fy (a, b) √ y−b (x − a)2 + (y − b)2 (x − a)2 + (y − b)2 f (a, y) − f (a, b) − fy (a, b) ≤ y−b (x,y)→(a,b) −−−−−−−→ |fy (a, b) − fy (a, b)| = 0 となります。 第 1 項もよく似ているのですが、同じように整理すると、 f (x, y) − f (a, y) − fx (a, b) x−a という式で (x, y) → (a, b) としなければならなくなります。はじめから y = b なら第 2 項と全く 同様に計算できるのですが、そうなってはいないので、これが 0 に収束することは別に示さなけれ ばなりません。しかし、任意の点で偏微分可能なのですから、y を定数だと思って x だけの関数 としての f (x, y) に平均値の定理を使うことで、第 2 項を fx (x, y) − fx (a, b) と殆ど同じ式に変形 することができます。どうやるのかというと、y0 を一つ固定するたびに φ(x) = f (x, y0 ) と定義して、x の 1 変数関数 φ に平均値の定理を適用するのです。すると、 φ(x) − φ(a) = φ′ (a + h(x − a))(x − a) 0<h<1 となる h の存在することが分かります。これを φ から f に書き換えると、 f (x, y0 ) − f (a, y0 ) = fx (a + h(x − a), y0 )(x − a) 0<h<1 となる h が存在する、となります。ただし h は x だけでなく y0 にも依存します。ここで f が C 1 級であることの登場です。fx (x, y) は 2 変数関数として連続だというのですから、どんな正実 数 ε が与えられても √ (x − a)2 + (y − b)2 < δ =⇒ |fx (x, y) − fx (a, b)| < ε となる δ があります。h は x と y に依存していろいろと変わりますが、とにかく 0 < h < 1 では √ √ あるので (x − a)2 + (y − b)2 < δ を満たしているなら h2 (x − a)2 + (y − b)2 < δ です。よっ √ て、 (x − a)2 + (y − b)2 < δ のとき、 f (x, y) − f (a, y) − fx (a, b) = |fx (a + h(x − a), y) − fx (a, b)| < ε x−a となります。つまり、 √ (x−a)2 +(y−b)2 →0 f (x, y) − f (a, y) ∂f (a, b) −−−−−−−−−−−−−−−→ x−a ∂x です。これで第 1 項も第 2 項と全く同様に 0 に収束することが分かりました。 以上の二つを合わせて、C 1 級関数が微分可能であることが証明できました。 □ 16 第 4 回解答 偏導関数という簡単に計算できるものが連続であれば、それだけで微分可能なことが保証されて しまうのです。多変数関数が連続かどうかを調べるのは結構難しいと思うかも知れませんが、定義 域を場合分けしたりせず「式一本」で書けている関数はほぼすべて C 1 級ですので、具体的な関数 を調べる場合にはこの定理は大変有効です。例えば、問題 5, 6, 7, 8 の関数たちは (0, 0) 以外では 「式一本」で書けているので、(0, 0) を定義域から除けば C 1 級です。だから、(0, 0) 以外では微分 可能(よって、偏微分も可能で連続でもある)ので、(0, 0) だけが問題にされているわけです。 ここで話をやめてもよいのですが、折角の A コースですから、 「それでは微分可能なら C 1 級な の?」という余計な質問をしてみましょう。ただし、上の証明をよく読むと分かるように、使った のは fx が (a, b) で連続なことだけですから、C 1 級まで行かなくても 偏微分可能な関数 f (x, y) は、点 (a, b) で fx (x, y) または fy (x, y) が連続なら、f (x, y) は (a, b) で微分可能である。 が成り立ちます。 (上の証明で x と y の役割を取り換えれば、fy が (a, b) で連続なだけでも (a, b) で微分可能であることが分かります。)そこで、我々の疑問は (a, b) で微分可能な f (x, y) で、fx (x, y) も fy (x, y) も (a, b) で不連続なものはあるの? ということになります。これに「Yes」と答えているのが問題 8 の関数です。 1.7.1 問題 8 の解答 まず (0, 0) で微分可能であることを示すために、(0, 0) における 1 次近似式の候補を求めましょ う。それは (0, 0) における x による偏微分の値と y による偏微分の値を係数とする 1 次式なので、 それらを計算しましょう。f (x, y) の定義式が (0, 0) で切れているので、偏微分の定義に従って計 算します。 ∂f f (x, 0) − f (0, 0) (0, 0) = lim = lim x sin x→0 x→0 ∂x x ( 1 x2 ) となります。任意の θ について | sin θ| ≤ 1 であることから、 ( ) 1 0 ≤ x sin ≤ |x| x2 が成り立ちます。よって、はさみうちの原理により、 ( ) 1 =0 つまり lim x sin x→0 x2 ∂f (0, 0) = 0 ∂x です。 また、f (x, y) は x と y に関して対称ですので、全く同様に ∂f (0, 0) = 0 ∂y となります。 f (0, 0) = 0 ですから、求める 1 次式は(実は 1 次式ではなくて)0 という定数関数です。という ことは、f (x, y) が (0, 0) で微分可能であるとは、 lim (x,y)→(0,0) f (x, y) √ =0 x2 + y 2 17 第 4 回解答 の成り立つこととなります。 この式の左辺に f (x, y) の定義式を入れると、 lim ( √ 2 2 x + y sin (x,y)→(0,0) 1 x2 + y 2 ) となりますが、先ほどと全く同様にはさみうちの原理によってこれは 0 に収束します。よって f (x, y) は (0, 0) で微分可能です。 次に、fx (x, y) が (0, 0) で不連続であることを示しましょう。そのために (x, y) ̸= (0, 0) での fx (x, y) を計算すると、「式一本」で書けているので 1 変数関数の微分の公式で計算できて、 ( ) ( ) ∂f 2x 1 1 (x, y) = 2x sin − 2 cos ∂x x2 + y 2 x + y2 x2 + y 2 となります。これが (0, 0) で不連続であるとは、連続であることの否定ですから、 √ ある正実数 ε を取ると、どんなに小さな正実数 δ を取っても、 a2 + b2 < δ を満たす のに |fx (a, b) − fx (0, 0)| ≥ ε を満たしてしまうような (a, b) が必ず存在する ということです。そこで、 ( ) ( ) 1 2a 1 |fx (a, b) − fx (0, 0)| = 2a sin − 2 cos 2 2 2 2 2 a +b a +b a +b がある程度大きい値になりそうな (a, b) で、しかもなるべく簡単なものを探してみましょう。a = 0 だと全体が 0 になってダメなので、b = 0 の範囲で探してみます。b = 0 を代入すると、 ( ) ( ) 2 1 1 − cos |fx (a, 0) − fx (0, 0)| = 2a sin 2 a a a2 となります。a が小さいとき右辺の最初の項は小さくなってしまいますが、後の項は大きくなる可 能性があります。そこで、最初の項が消えてしまうような a だけ考えることにしましょう。つま り、n を自然数として、 1 = nπ a2 すなわち 1 a= √ nπ としてみます。(面倒なので a > 0 にしました。存在すればよいだけなので、この範囲で考えれば 十分です。)これを代入すると、 ( ) √ fx √1 , 0 − fx (0, 0) = 2 nπ nπ となります。これは常に 1 以上ですし、n を大きくすれば a はいくらでも小さくなります。 正確に書けば、任意の δ に対し、n を √ a2 + 02 < δ かつ 1 δ2 π より大きい自然数とすれば、a = √1 nπ に対して、 √ |fx (a, 0) − fx (0, 0)| = 2 nπ ≥ 1 が成り立ちます。よって fx (x, y) は (0, 0) で不連続です。 f (x, y) は x と y について対称なので、fy (x, y) も (0, 0) で不連続です。これで示せました。 □ これで、微分可能でも C 1 級でない関数の存在することが分かったので、ベン図 1(13 ページ) に「C 1 級関数の集合」を付け加えると、次の図 2 のようになることが分かりました。 18 第 4 回解答 2 変数関数 連続 偏微分可能 微分可能 C1 級 1.8 図 2: さらに C 1 級関数を書き加えたベン図。 grad f というベクトル 関数 f (x, y) が (a, b) で微分可能なとき、 z = fx (a, b)(x − a) + fy (a, b)(y − b) + f (a, b) がその点での z = f (x, y) のグラフの接平面である、と定義しました。一方、講義でこの 1 次式の 係数を並べたベクトルに特別な記号を付けて grad f (a, b) = (fx (a, b), fy (a, b)) と書きました。このベクトルのことを日本語では勾配ベクトルと呼びます1 。なぜそう呼ぶかとい うと、 z = f (x, y) のグラフの点 (a, b) での傾きが最も大きい向きを向いたベクトル だからです。そのことを確認してもらうのが問題 9 の (1) です。そして、重力の働いている世の中 では、斜面におかれたものは、その斜面が最も大きく(下向きに)傾いている方向へ滑り出し始め る、つまり、斜面が z = f (x, y) のグラフの表す曲面であり質点の置かれた位置が (a, b, f (a, b)) の とき、質点の受ける力(の水平成分)は − grad f (a, b) と同じ向きを向いていることを確認しても らうのが問題 9 の (2) です。偏微分係数がこのような意味を持つことは、力学の講義などでは当然 知っている「常識」として扱われることが多いので、是非ここでしっかり確認して「常識」として 身に付けてもらえたらと思います。 なお、「グラフが最も傾いている向き」とは「その点での接平面が最も傾いている向き」のこと ですので、問題 9 では一般の z = f (x, y) のグラフではなく平面だけを扱いました。 1 grad という記号は、勾配に当たる英語の gradient(グレイディエント)から取られたものだと思います。ただし、日 本語としてはグラジエントと発音する人が多いようです。ラテン語としての発音かもしれません。 19 第 4 回解答 1.8.1 問題 9 の解答 (1) 与えられた式を z = (p, q) • (x, y) というようにベクトルの内積で表してみましょう。p と q は定数ですから、x, y を動かすごとに z が増えたり減ったりします。内積の幾何学的意味から、ベクトル (x, y) の長さを例えば 1 に限る と、(x, y) と (p, q) のなす角が 0 のとき、つまり、(x, y) が (p, q) と同じ向きを向いているときに z の値が最大になります。結局、 平面 z = px + qy はベクトル (p, q) の向きに一番上り坂がきつい ということになります。 □ ⃗ = (0, 0, −g) としましょう。(g > 0 です。)抗力は、G ⃗ の平面に垂 (2) 質点の受けている重力を G 直な成分の −1 倍ですので、それを計算するために平面の法線ベクトルを一つ見つけましょう。平 面の式をすべて右辺に移項して書くと、 0 = px + qy − z = (p, q, −1) • (x, y, z) となりますので、法線ベクトルとして (p, q, −1) を取ることができます。これと同じ向きを向いた ベクトルで長さが 1 のものは、これをこれ自身の長さで割れば得られます。つまり、 1 (p, q, −1) ⃗n := √ 2 2 p + q + (−1)2 ⃗ の平面と垂直な成分は が問題の平面の単位法線ベクトル(のうちの一つ)です。重力 G ⃗ • ⃗n)⃗n (G ⃗ はこれの −1 倍ですので、 で、抗力 N ⃗ = −(G ⃗ • ⃗n)⃗n = N −g (p, q, −1) p2 + q 2 + 1 ⃗ は です。よって、合力 F ⃗ +N ⃗ = (0, 0, −g) + F⃗ = G −g g (p, q, −1) = 2 (−p, −q, −p2 − q 2 ) p2 + q 2 + 1 p + q2 + 1 となります。g > 0, p2 + q 2 + 1 > 0 ですので、求める向きは、例えば (−p, −q, −p2 − q 2 ) です。 □ 何をしたのかというと、重力の「抗力と直交する成分」を計算したわけです。「質点が斜面にめ り込まない」ということは重力の「抗力と平行な成分」と抗力が互いに打ち消しあっていることを 意味するので、重力の「抗力と直交する成分」が重力と抗力の合力であり、上の解答では全くこの とおりに素直に計算しました。しかし、「重力の抗力と直交する成分」の代わりに「抗力の重力と 直交する成分」、すなわち「抗力の水平成分」を考えることでより簡単に合力を求めることができ ます。その方針でも解いておきましょう。 20 第 4 回解答 (2) 別解 重力は xy 平面成分を持たないので、合力の xy 平面成分は抗力の xy 平面成分と一致し ます。抗力は平面の法方向上向きなので、 (−p, −q, 1) という向きを向いています。 (ここまでは上の解答の考察を利用しました。)これの xy 平面に平行 な成分は、xy 平面への正射影、つまり z 成分を 0 に置き換えたものなので、 (−p, −q, 0) です。一方、抗力は質点が平面から離れないように働くので、合力は平面に沿っています。よって、 求める合力の向きは xy 平面に平行な成分が上のベクトルであって平面に沿ったものなので、平面 の式 z = px + qy に x = −p と y = −q を入れれば z 成分が求まることになります。すなわち (−p, −q, −p2 − q 2 ) が求める合力です。 □ 高階偏微分と偏微分の順序交換 2 2.1 高階偏微分、高階偏導関数の定義と記号 1 変数関数 f (x) が定義域全体で微分可能なとき、導関数 f ′ (x) という f (x) とは別の 1 変数関 数ができます。f ′ (x) も関数なのですから、微分可能であるとかないとかを考えることができます。 そして x = a で f ′ (x) が微分可能なら、f (x) は x = a で 2 回微分可能であると言い2 、さらに定 義域全体で f (x) が 2 回微分可能、つまり f ′ (x) が微分可能なとき、f ′ (x) の導関数ができます。 それのことを f ′′ (x) と書き、f (x) の 2 階導関数と言います。すると、今度は f ′′ (x) という関数が 微分可能かどうかを考えることができ、それが可能なら 3 回微分とか 3 階導関数ができ、、、とい うように話が続くのはご存じの通りです。 このことは、多変数関数の偏微分や偏導関数にもそのまま拡張できます。つまり、 偏導関数があらゆる点で偏微分可能ならそれの偏導関数、 それもあらゆる点で偏微分可能ならそれの偏導関数、 それもあらゆる点で偏微分可能ならそれの偏導関数、、、 というように進むわけです。ところが、多変数関数の場合には 1 変数関数にはなかった面倒が起こ ります。例えば、もっとも変数の数が少ない多変数関数である 2 変数関数で考えても、偏導関数は 「x による」ものと「y による」ものの二つがあります。そして、2 階偏導関数はその二つについて 「x による」ものと「y による」ものがあるので合計 4 つあります。このように、n 階偏導関数は 2 変数関数の場合でも 2n 個あることになります。 記号を決めましょう。 1 変数関数のときは、f ′ (x), f ′′ (x), f ′′′ (x), . . . , f (n) (x), . . . という書き方の他に、 df (x) dx d2 f (x) dx2 d3 f (x) dx3 ... dn f (x) dxn ... 2 f ′′ (a) を考えられるためには f ′ (x) は a の近くで存在すれば十分なので、f (x) が定義域全体で微分可能であるとい うところまで仮定しなくてもよいのですが、話がややこしくなるので、ここでは定義域全体で微分可能な場合だけ考える ことにします。 21 第 4 回解答 や、f (x) を下におろした d f (x) dx d2 f (x) dx2 d3 f (x) dx3 dn f (x) dxn ... という書き方がありました。はじめの方のシンプルな書き方は、1 階偏導関数の fx (x, y), fy (x, y) という書き方に当たります。だから、例えば fx (x, y) という関数を y で偏微分した偏導関数のこと は (fx )y (x, y) と書けばよいわけですが、括弧がなくても誤解は起こらないでしょうから fxy (x, y) と書けばよいでしょう。つまり、f (x, y) の 2 階偏導関数は fxx (x, y) fxy (x, y) fyx (x, y) fyy (x, y) の 4 つあることになります。添え字のうち左の方にある変数で先に偏微分することに注意してくだ さい。3 階偏導関数は fxxx fxxy fxyx fxyy fyxx fyxy fyyx fyyy (3) の 8 個です。(長くなるので fxxx (x, y) などの「(x, y)」を省いて書きました。) 大げさな方の書き方に当たる 1 階偏導関数の書き方は ∂f (x, y) ∂x ∂f (x, y) ∂y ∂ f (x, y) ∂x ∂ f (x, y) ∂y あるいは です。だから、例えば x による偏導関数を y で偏微分した 2 階偏導関数は ( ) ∂ ∂f (x, y) ∂y ∂x と書くことになるわけですが、これはいかにも大げさなので、1 変数関数のときと同じように分数 の掛け算のまねをしてもう少しシンプルにまとめましょう。 ∂2f (x, y) ∂y∂x あるいは ∂2 f (x, y) ∂y∂x とするわけです。この書き方の場合、右側にある変数で先に偏微分することになります。つまり、 ∂2f (x, y) = fxy (x, y) ∂y∂x というように二つの記法で偏微分する変数の順番を逆に書くことになるので気をつけて下さい。な お、同じ変数で続けて偏微分する場合には、1 変数関数のときと同様「分母」にも「二乗」の書き 方を使います。だから、f (x, y) の 4 つの 2 階偏導関数は ∂2f (x, y) ∂x2 ∂2f (x, y) ∂y∂x ∂2f (x, y) ∂x∂y ∂2f (x, y) ∂y 2 となります。3 階偏導関数は ∂3f ∂x3 ∂3f ∂y∂x2 ∂3f ∂x∂y∂x ∂3f ∂y 2 ∂x ∂3f ∂x2 ∂y ∂3f ∂y∂x∂y ∂3f ∂x∂y 2 ∂3f ∂y 3 です。シンプルな書き方の式たち (3) と同じ順番に書いておきましたので、対応関係を確認してみ てください。また、(3) と同様に (x, y) は省略して書きました。 22 第 4 回解答 記号が決まったので、具体的に考えてみましょう。 まず、素直な例として f (x, y) = x3 y 2 で計算してみます。 ∂f (x, y) = 3x2 y 2 ∂x ∂f (x, y) = 2x3 y ∂y ∂2f (x, y) = 6xy 2 ∂x2 ∂2f (x, y) = 6x2 y ∂x∂y ∂2f (x, y) = 6x2 y ∂y∂x ∂2f (x, y) = 2x3 ∂y 2 なので、 となります。すべての 2 階偏導関数が存在し、さらに fxy (x, y) = fyx (x, y) が成り立っています。 もう少し抽象的に定義された関数で高回偏微分の計算を練習してもらおうというのが問題 10 です。 2.1.1 問題 10 の解答 示したい関係式に出てきている偏導関数たちをすべて計算しましょう。1 変数関数の積の微分法 と合成関数の微分法を使います。 ∂f (x, y) = 2xφ(xy) + x2 yφ′ (xy) ∂x ∂f (x, y) = x3 φ′ (xy) ∂y ∂ ∂f ∂2f (x, y) = (x, y) = 3x2 φ′ (xy) + x3 yφ′′ (xy) ∂x∂y ∂x ∂y ∂2f ∂ ∂f (x, y) = (x, y) = x4 φ′′ (xy) ∂y 2 ∂y ∂y となります。よって、 ∂2f ∂f (x, y) 2 (x, y) = 2x5 φ(xy)φ′′ (xy) + x6 yφ′ (xy)φ′′ (xy) ∂x ∂y および、 ∂2f ∂f 2 (x, y) (x, y) = 3x5 (φ′ (xy)) + x6 yφ′ (xy)φ′′ (xy) ∂y ∂x∂y です。今、2φφ′′ = 3(φ′ )2 と仮定しているので、この二つは等しくなります。 □ 以上は「素直」で「きれい」な例でした。次は「汚い」例です。 { 1 y∈Q f (x, y) = 0 y ̸∈ Q というのを考えてみましょう。この関数は y を固定すると、y が有理数でも無理数でも x の定数 関数なので、x での偏微分はあらゆる点で可能であり、 ∂f (x, y) = 0 (常に値が 0 の定数関数) ∂x 23 第 4 回解答 となります。よって、fx (x, y) を x で偏微分することも y で偏微分することも可能であり、 ∂f ∂f (x, y) = (x, y) = 0 ∂x2 ∂y∂x となります。一方、x を固定すると、f (x, y) は y の関数として「y が有理数なら 1、無理数なら 0」 という関数ですので、y で偏微分することはあらゆる点で不可能です。よって、y による偏導関数 fy (x, y) は存在しません。ということは 2 階偏導関数 fyx (x, y) も fyy (x, y) も当然存在しません。 このように、いくつかの 2 階偏導関数は存在するが他の 2 階偏導関数は存在しないというやっか いな状況も起こるのです。こういうのをいちいち相手にするのはいかにも面倒ですので、扱うのは やめにして、次のような名前で呼ばれる性質を持つ関数をもっぱら扱うことにします。 すべての変数での偏導関数が存在するとき(1 回)偏微分可能、 すべての 2 階偏導関数が存在するとき 2 回偏微分可能、 すべての 3 階偏導関数が存在するとき 3 回偏微分可能、 、、、 すべての n 階偏導関数が存在するとき n 回偏微分可能、 、、、 さて、f (x, y) が n 回偏微分可能ならば、すべての n 階偏導関数が存在するのですから、その前 に n − 1 階偏導関数がすべて存在しなければなりません。ということは、n 回偏微分可能な関数は n 以下のすべての k について k 回偏微分可能だということになります。しかし、前回見てもらっ たように、偏微分というのは関数が連続でなくてもできてしまうことがあるので、1 変数関数の場 合と違って、n 回微分可能だからといって n − 1 階偏導関数がすべて連続であるとは限りません。 また、x3 y 2 の例では fxy (x, y) = fyx (x, y) という「偏微分する変数の順序によらない」という性 質が成り立っていましたが、これも 2 回偏微分可能だからといって必ずしも成り立つわけではあり ません。そのような微妙な例を見てもらうのが問題 11 と問題 12 です。 2.1.2 問題 11 の解答 まず、不連続であることを示しましょう。一般に 2 変数関数 g(x, y) について「g(x, y) が (0, 0) で連続」とは (x, y) を (0, 0) に近付けるあらゆる近付け方で g(x, y) が g(0, 0) に収束することでし たので、 「g(x, y) が (0, 0) で不連続」とは (x, y) を (0, 0) に近付ける近付け方で g(x, y) が g(0, 0) に収束しないものが一つでもいいから存在することです。そこで、この f (x, y) に関してそのよう な近付け方を一つ見つければよいということになります。 y = x という関係を保ったまま (x, y) → (0, 0) とすると、 lim f (x, y) = lim y=x→0 1 1 x2 x2 = lim = 4 x→0 2 +x 2 x→0 x4 となります。一方、f (0, 0) = 0 と定義されています。この二つの値が一致しないので、f (x, y) は (0, 0) で不連続です。 次に (0, 0) における 2 回偏微分の値を計算するために、偏導関数を計算します。(x, y) ̸= (0, 0) では「式一本」なので商の微分の公式をつかって計算できて、 2xy 2 (y 4 − x4 ) ∂f (x, y) = ∂x (x4 + y 4 )2 ∂f 2x2 y(x4 − y 4 ) (x, y) = ∂y (x4 + y 4 )2 24 第 4 回解答 となります。また、(0, 0) では定義に従って計算して、 ∂f f (x, 0) − f (0, 0) 0−0 (0, 0) = lim = lim =0 x→0 x→0 ∂x x x ∂f f (0, y) − f (0, 0) 0−0 (0, 0) = lim = lim =0 y→0 y→0 ∂y y y となります。 最後に (0, 0) での 4 つの 2 回偏微分が存在するかどうか、定義に従って計算してみましょう。 ∂2f fx (x, 0) − fx (0, 0) 0−0 (0, 0) = lim = lim =0 x→0 x→0 ∂x2 x x fx (0, y) − fx (0, 0) 0−0 ∂2f (0, 0) = lim = lim =0 y→0 y→0 ∂y∂x y y fy (x, 0) − fy (0, 0) 0−0 ∂2f (0, 0) = lim = lim =0 x→0 x→0 ∂x∂y x x ∂2f 0−0 fy (0, y) − fy (0, 0) (0, 0) = lim = lim =0 y→0 y→0 ∂y 2 y y となって、すべて存在します。 □ 2.1.3 問題 12 の解答 まず、x による偏導関数 fx (x, y) を計算しましょう。(x, y) ̸= (0, 0) では商の微分の公式を利用 して、 ∂f 3x2 y(x2 + y 2 ) − x3 y · 2x x2 y(x2 + 3y 2 ) (x, y) = = 2 2 2 ∂x (x + y ) (x2 + y 2 )2 となります。一方、(x, y) = (0, 0) では、偏微分の定義に従って計算すると、 ∂f f (x, 0) − f (0, 0) 0−0 (0, 0) = lim = lim =0 x→0 x→0 ∂x x x となります。 同様にして y による偏導関数を計算すると、(x, y) ̸= (0, 0) では ∂f x3 (x2 + y 2 ) − x3 y · 2y x3 (x2 − y 2 ) (x, y) = = 2 2 2 ∂y (x + y ) (x2 + y 2 )2 であり、(x, y) = (0, 0) では ∂f f (0, y) − f (0, 0) 0−0 (0, 0) = lim = lim =0 y→0 y→0 ∂y y y となります。 次に、すべての 2 階偏導関数が存在することを確認しましょう。(x, y) ̸= (0, 0) では fx (x, y) も fy (x, y) も有理式(つまり多項式分の多項式)ですので、どちらも偏微分可能です。だから、(0, 0) で 4 つの 2 回偏微分がすべて存在すれば、この f (x, y) は 2 回偏微分可能だということになりま す。が、その前にあとで fxy と fyx が (0, 0) において不連続であることを示すために必要なので、 (x, y) ̸= (0, 0) でも fxy (x, y) と fyx (x, y) のみ具体的に計算しておきましょう。 (x2 (x2 + 3y 2 ) + 6x2 y 2 )(x2 + y 2 ) − 4x2 y(x2 + 3y 2 )y x2 (x4 + 6x2 y 2 − 3y 4 ) ∂2f (x, y) = = 2 2 3 ∂x∂y (x + y ) (x2 + y 2 )3 25 第 4 回解答 および、 ∂2f (5x4 − 3x2 y 2 )(x2 + y 2 ) − x3 (x2 − y 2 )2x2 x2 (x4 + 6x2 y 2 − 3y 4 ) (x, y) = = 2 2 3 ∂y∂x (x + y ) (x2 + y 2 )3 となります。見てわかるとおりこの範囲(つまり (x, y) ̸= (0, 0))では ∂2f ∂2f (x, y) = (x, y) ∂y∂x ∂x∂y が成り立っています。 さて、それでは fxx (0, 0), fxy (0, 0), fyx (0, 0), fyy (0, 0) を定義に従って計算しましょう。 ∂2f fx (x, 0) − fx (0, 0) 0−0 (0, 0) = lim = lim =0 2 x→0 x→0 ∂x x x fx (0, y) − fx (0, 0) 0−0 ∂2f (0, 0) = lim = lim =0 y→0 y→0 ∂y∂x y y x3 x2 ∂2f fy (x, 0) − fy (0, 0) (x2 )2 − 0 (0, 0) = lim = lim = lim 1 = 1 x→0 x→0 x→0 ∂x∂y x x 2 ∂ f fy (0, y) − fy (0, 0) 0−0 (0, 0) = lim = lim =0 y→0 y→0 ∂y 2 y y となります。以上、すべて存在するので、f (x, y) は 2 回偏微分可能です。 また、この計算結果からわかるとおり、 ∂2f ∂2f (0, 0) = 0 ̸= 1 = (0, 0) ∂y∂x ∂x∂y となっています。 最後に、fxy (x, y) と fyx (x, y) がどちらも (0, 0) で不連続なことを示しましょう。問題 11 の解 答の初めにも書いたように、 「g(x, y) が (0, 0) で不連続」とは (x, y) を (0, 0) に近付ける近付け方 で g(x, y) が g(0, 0) に収束しないものが一つでもいいから存在することです。そこで、fxy と fyx それぞれについてそのような近付け方を一つずつ見つければよいということになります。 fxy (x, y) において y = 0 を保ったまま x → 0 とすると、 ∂2f x2 · x4 ∂2f (x, 0) = lim = lim 1 = 1 ̸= 0 = (0, 0) 2 3 x→0 ∂y∂x x→0 (x ) x→0 ∂y∂x lim ですので、fxy (x, y) は (0, 0) で不連続です。また、fyx (x, y) において x = 0 を保ったまま y → 0 とすると、 ∂2f ∂2f (0, y) = lim 0 = 0 ̸= 1 = (0, 0) y→0 y→0 ∂x∂y ∂x∂y lim ですので, fyx (x, y) も (0, 0) で不連続です。 □ 問題 11 の関数では fxy (0, 0) = fyx (0, 0) となっていますが、これはいわば偶然であって、 (とい うか、関数が x と y について対象だからですが、)問題 12 の関数のようにその二つが一致しない 関数が存在します。一方、問題 12 の f (x, y) の場合、fx (x, y) や fy (x, y) は (0, 0) においても連 続、つまり f (x, y) は C 1 級です。従って、微分可能でもあり f (x, y) そのものが連続関数でもあ ります。しかし、問題 11 の関数は f (x, y) が (0, 0) で連続でないのですから微分可能でなく、も ちろん C 1 級でもありません。このように、2 回偏微分可能という条件は「弱すぎる」という印象 が拭えません。これについては次の節で考えます。 26 第 4 回解答 なお、問題 11 の 2 階偏導関数も (0, 0) で不連続です。実際に計算してみると、(x, y) ̸= (0, 0) では ∂2f 6x8 y 2 − 24x4 y 6 + 2y 10 (x, y) = 2 ∂x (x4 + y 4 )3 ∂2f −4x9 y + 24x5 y 5 − 4xy 9 ∂2f (x, y) = (x, y) = 4 4 3 ∂y∂x (x + y ) ∂x∂y ∂2f 2x10 − 24x6 y 4 + 6x2 y 8 (x, y) = ∂y 2 (x4 + y 4 )3 となります。よって ∂2f 2 (0, t) = lim 2 = ∞ t→0 ∂x2 t→0 t ∂2f ∂2f 2 lim (t, t) = lim (t, t) = lim 2 = ∞ t→0 ∂x∂y t→0 t t→0 ∂y∂x ∂2f 2 lim 2 (t, 0) = lim 2 = ∞ t→0 ∂y t→0 t lim となって (x, y) の (0, 0) への近づけ方でそれぞれの (0, 0) での値に収束しないものがあるので、す べての 2 階偏導関数が不連続です。 また、問題 12 の f (x, y) が C 1 級であること、つまり fx (x, y) と fy (x, y) が((0, 0) でも)連 続であることは、fx (x, y) や fy (x, y) に x = r cos θ, y = r sin θ を代入して r → 0 としてみること で示すことができます。是非自分で確認してみてください。 2.2 C n 級関数と偏微分の順序 2 回偏微分可能なのに微分可能でない関数があるということ一つだけでも、「2 階偏導関数がす べて存在する」という条件だけでは何か大切なことが抜けているという印象を与えるに十分だと思 います。一方、C 1 級、つまり 1 階偏導関数が存在するという条件だけでなくさらに 1 階偏導関数 が連続であるということまで課すと、もとの関数が微分可能になりました(定理 2)。そのことか ら推して、「n 階偏導関数がすべて存在する」という条件に「それらがすべて連続である」という ことまで付け加えておくとよいことが起こりそうな気がするでしょう。そこで、この条件 すべての n 階偏導関数が連続 を満たす関数に C n 級関数という名前を付けることにします。 f が C n 級関数ということは f のすべての n − 1 階偏導関数のすべての偏導関数が連続という ことなので、特に f のすべての n − 1 階偏導関数は C 1 級であり、ということは微分可能であり、 ということは連続関数でもあります。つまり、C n 級関数は C n−1 級関数でもあるということです。 これを繰り返せば、 C n 級関数は n 以下のすべての k について C k 級関数であり、特に微分可能である。 ということが結論できます。 しかし、これだけでは n 回微分可能ということより C n 級の方がありがたいというには物足り ない感じでしょう。実は、C n 級関数は偏微分の順序についてとても嬉しい性質を持っています。 話がややこしくなるのを防ぐために、まず C 2 級でその「嬉しい性質」を紹介します。 27 第 4 回解答 定理 3. f (x, y) が C 2 級関数ならば ∂2f ∂2f (x, y) = (x, y) ∂y∂x ∂x∂y が成り立つ。 証明. 注目する点 (a, b) を任意に一つ選んで固定します。fxy (a, b) を定義で書くと、 fx (a, b + k) − fx (a, b) k→0 k f (a + h, b + k) − f (a + h, b) − f (a, b + k) + f (a, b) = lim lim k→0 h→0 hk fxy (a, b) = lim となり、fyx (a, b) も同様に、 lim lim h→0 k→0 f (a + h, b + k) − f (a + h, b) − f (a, b + k) + f (a, b) hk となります。つまり、この二つは h と k を 0 に近づける順番だけが違うわけです。 この二つの式の分子(同じ式)から hk という項をひねり出すために「C 1 級関数は微分可能(定 理 2)」の証明でやったように平均値の定理を利用します。まず、 φ(x) = f (x, b + k) − f (x, b) とおくと、φ(x) は微分可能な関数ですので、平均値の定理により、0 < θ < 1 を満たす実数 θ で φ(a + h) − φ(a) = φ′ (a + θh)h を満たすものがあります。この式を φ ではなく f で書けば、 f (a + h, b + k) − f (a + h, b) − f (a, b + k) + f (a, b) = {fx (a + θh, b + k) − fx (a + θh, b)} h (4) となります。さらに、この θ と h に対して ψ(y) = fx (a + θh, y) とおいて平均値の定理をまた使うと、 ψ(b + k) − ψ(b) = ψ ′ (b + ωk)k を満たす、0 < ω < 1 なる ω があります。これを f に戻して書くと、 fx (a + θh, b + k) − fx (a + θh, b) = fxy (a + θh, b + ωk) となります。この式の右辺を式 (4) の左辺の中括弧の中身と置き換えると f (a + h, b + k) − f (a + h, b) − f (a, b + k) + f (a, b) = fxy (a + θh, b + ωk)hk となります。よって、fxy (a, b) や fyx (a, b) の定義の lim の中身は、どちらも fxy (a + θh, b + ωk) 28 第 4 回解答 です。 ここで f (x, y) が C 2 級であることを使います。C 2 級なので fxy (x, y) は連続です。よって、 h, k の 0 への近付き方によらずに fxy (a + θh, b + ωk) → fxy (a, b) が成り立っています。特に、h と k のどちらを先に 0 にしても収束先は変わりません。これで fxy (a, b) = fyx (a, b) となることが 証明できました。 □ 注意. 証明をよく読むと分かるように、使ったのは「fxy (x, y) が (a, b) で連続である」ということだけです。 証明の中で x と y の役割を取り替えれば、「fyx (x, y) が (a, b) で連続である」ということだけでもこの定理 が成り立つことになります。だから、問題 12 の関数のような fxy (a, b) ̸= fyx (a, b) となる関数は fxy (x, y) と fyx (x, y) の両方とも (a, b) で不連続でなければならないのです。★ 今証明した「C 2 級ならば fxy = fyx 」ということと、 「C n 級関数は C n−1 級関数でもある」と いうことを合わせると、 f (x, y) が C n 級関数なら、f (x, y) の n 階以下の偏導関数は x で何回偏微分し y で偏 微分したかという数だけで決まり、偏微分した順序にはよらない。 ということが結論できます。例えば、f (x, y) が C 4 級以上なら fxxyy = fxyxy = fxyyx = fyxxy = fyxyx = fyyxx が成り立ちます。例えば fxxyy = fxyxy がなぜ成り立つか考えてみましょう。f が C 4 級なら C 3 級でもあります。f が C 3 級ということは fx と fy が C 2 級ということです。よって fxxy = ∂ 2 fx ∂ 2 fx = = fxyx ∂y∂x ∂x∂y が成り立ちます。この両辺を y で偏微分して fxxyy = (fxxy )y = (fxyx )y = fxyxy となります。偏 微分する順序まで考慮すると 2n 個あった n 回偏微分(2 変数の場合)が、C n 級だと事実上 n + 1 個(もちろん 2 変数の場合です。x での偏微分が 0 回から n 回までだから n + 1 種類になります) に減ってくれるのです。 このように偏微分する順序によらずに出来上がる偏導関数が同じであるということを利用する と、偏導関数を楽に計算できる場合があります。その例が問題 13 と問題 14 です。 2.2.1 問題 13 の解答 数学的帰納法で示します。 ∂f ∂f 1 階偏導関数については = であることは問題の仮定なので成り立ちます。 ∂x ∂y ∂ m−1 f ∂ m−1 f ∂mf ∂mf = が成り立っていると仮定して = が成り立つことを証明しましょ m−1 m−1 m ∂x ∂y ∂x ∂y m う。今 f は C n 級関数なので偏微分する変数の順序を交換しても得られる偏導関数は同じです。 よって、 ∂ ∂ m−1 f ∂ ∂ m−1 f ∂ m−1 ∂f ∂ m−1 ∂f ∂mf ∂mf = = = = = m m−1 m−1 m−1 m−1 ∂x ∂x ∂x ∂x ∂y ∂y ∂x ∂y ∂y ∂y m となります。 □ 29 第 4 回解答 2.2.2 問題 14 の解答 (1) これはただ計算するだけです。 ∂f x (x, y) = log(x + y) + ∂x x+y ∂f x (x, y) = ∂y x+y なので、 ∂f ∂f (x, y) − (x, y) = log(x + y) ∂x ∂y となります。 (2) fx (x, y) の x による偏導関数と fy (x, y) の y による偏導関数を普通に計算して引き算をして ももちろんかまいませんが、ここでは f (x, y) が C 2 級であることを利用した計算法を紹介しま しょう。 C 2 級であることから ∂2f ∂2f (x, y) = (x, y) ∂y∂x ∂x∂y が成り立ちます。よって、 ∂2f ∂2f ∂2f ∂2f ∂2f ∂2f ∂ − = − + − = 2 2 2 2 ∂x ∂y ∂x ∂x∂y ∂y∂x ∂y ∂x ( ∂f ∂f − ∂x ∂y ) ∂ + ∂y ( ∂f ∂f − ∂x ∂y ) となります。(うるさいので「(x, y)」は省きました。)この最後の式に (1) の結果を代入して、 ∂2f ∂2f ∂ ∂ 1 1 2 − = log(x + y) + log(x + y) = + = ∂x2 ∂y 2 ∂x ∂y x+y x+y x+y となります。 (3) これも普通に fxxxx (x, y) と fyyyy (x, y) を計算して差をとっても結構ですが、f (x, y) が C 4 級であることを利用した計算をしてみましょう。 C 4 級であることから、特に ∂4f ∂4f (x, y) = (x, y) ∂y 2 ∂x2 ∂x2 ∂y 2 が成り立つので、 ∂4f ∂4f ∂4f ∂4f ∂4f ∂4f ∂2 − 4 = − 2 2+ 2 2− 4 = 4 4 ∂x ∂y ∂x ∂x ∂y ∂y ∂x ∂y ∂x2 ( ∂2f ∂2f − 2 2 ∂x ∂y ) + ∂2 ∂y 2 ( ∂2f ∂2f − 2 2 ∂x ∂y ) となります。(うるさいので「(x, y)」は省きました。)最後の式に (2) の結果を代入すれば、 ( ) ( ) ∂4f ∂4f ∂2 2 ∂2 2 ∂ 2 ∂ 2 − 4 = + = − + − ∂x4 ∂y ∂x2 x + y ∂y 2 x + y ∂x (x + y)2 ∂y (x + y)2 4 4 8 = + = (x + y)3 (x + y)3 (x + y)3 となります。 (4) これも普通に fxxxxxxxx (x, y) と fyyyyyyyy (x, y) を計算して差をとっても結構ですが、f (x, y) が C 8 級であることを利用した計算をしてみましょう。 30 第 4 回解答 C 8 級であることから、特に ∂8f ∂8f (x, y) = (x, y) ∂y 4 ∂x4 ∂x4 ∂y 4 が成り立つので、 ∂8f ∂8f ∂8f ∂8f ∂8f ∂8f ∂4 − 8 = − 4 4+ 4 4− 8 = 8 8 ∂x ∂y ∂x ∂x ∂y ∂y ∂x ∂y ∂x4 ( ∂4f ∂4f − 4 4 ∂x ∂y ) + ∂4 ∂y 4 ( ∂4f ∂4f − 4 4 ∂x ∂y ) となります。(うるさいので「(x, y)」は省きました。)最後の式に (3) の結果を代入すれば、 ( ) ( ) ∂8f ∂4 ∂4 ∂3 ∂8f 8 8 24 ∂3 24 − 8 = + 4 = − + 3 − ∂x8 ∂y ∂x4 (x + y)3 ∂y (x + y)3 ∂x3 (x + y)4 ∂y (x + y)4 ( ( ) ) 2 2 ∂ 96 ∂ 96 ∂ 480 ∂ 480 = + 2 = − + − ∂x2 (x + y)5 ∂y (x + y)5 ∂x (x + y)6 ∂y (x + y)6 2880 2880 5760 = + = (x + y)7 (x + y)7 (x + y)7 となります。 □ x で偏微分する操作 ∂ ∂ と y で偏微分する操作 をまるでただの数(というか文字)のよう ∂x ∂y に扱って、 a8 − b8 = (a4 + b4 )(a2 + b2 )(a + b)(a − b) という因数分解のように、 ∂8f ∂8f − 8 = 8 ∂x ∂y ( ∂4 ∂4 + 4 4 ∂x ∂y )( ∂2 ∂2 + 2 2 ∂x ∂y )( ∂ ∂ + ∂x ∂y )( ∂ ∂ − ∂x ∂y ) f と分解して右の方から順番に計算していったわけです。このように C n 級だと、つまり偏微分の 順序を自由に交換できると、まるで文字式のような感覚で高階偏微分を計算することができるの です。
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