「ノダ」に関する一考察

「ノダ」に関する一考察
林旭巧
「ノダ」は、名詞化の働きを持つ「ノ」に「ダ」が接続したものであるが、1つの助動詞
と考えてよい。
「ノダ」に関して、日本語の文末表現の一つとして「~んです」、
「~んだ」
、
「~の」
、
「のである」などを含めてこれまでに数多くの解釈が指摘されている。例えば、
「説
明」
(久野 1973、田中 1979、寺村 1984、奥田 1991)
、「換言」(山口 1975)、「背後の事情」
(田野村 1990)
、
「因果関係」
(松岡 1987)
、「課題―解答」(益岡 1991)
、「情報の付加」(菊
地 2000)などさまざまな解釈の提案がなされてきた。つまり、
「ノダ」の用法の多様性(庵
他 2000)
、または「ノダ」が複数の意味機能を持つ(野田 1997)ことは、今までしばしば述
べられてきた。上述の解釈はどれも「関係付け」
「前提」に深くかかわっている。
しかし、「このスイッチを押すんだ。」(日本語記述文法研究会(2003) 現代日本語文法 4
p198)のように、
「提示」と「非関係づけ」の特徴を持っていると述べているが、果たして、
それは適切だろうか。話し手が「このスイッチを押す」という認識していたことを聞き手に
提示し認識させようとするときに用いられる提示の「ノダ」は理解できるが、
「非関係づけ」
には納得できない。もちろん、前の文脈がないと、判断が簡単につかないかもしれないが、
上述の文はいきなり話し手が発話するわけではない。それは唐突すぎるのではないだろう
かと思うからである。
「このスイッチを押す」という発話をする前に、必ず何かこの発話に
関連している状況や背景があり、それによって相応しい発話行為が行われ、話し手自身の認
識を「ノダ」を通して聞き手に提示すると考えられる。すなわち、形態上、先行文が明示さ
れなくても、
「ノダ」文にその出来事や発話の「前提」と「関係付け」が潜んでいる。
従って、筆者が「ノダ」文と先行文とは必ず何らかの関係を成していて、先行文がなくて
も、先行の状況、背景などとある関係を持っていると考えている。そこから、改めて「ノダ」
に関する分類を試み、
「ノダ」文の機能と特徴を究明したい。
参考文献
庵功雄・高梨信乃・中西久実子・山田敏弘(2000)松岡弘監修『初級を教える人のための日
本語文法ハンドブック』スリーエーネットワーク
田野村忠温(1990) 現代日本語文法:「のだ」 の意味と用法 Vol. 1 和泉書院
仁田義雄(1991) 日本語のモダリティと人称 ひつじ書房
日本語記述文法研究会(2003) 現代日本語文法 4 第 8 部 モダリティ くろしお出版
野田春美(1997)
『
「の(だ)」の機能』 くろしお出版
益岡隆志(1991) モダリティの文法
くろしお出版
宮崎和人・安達太郎他(2002) 新日本語文法選書 4 モダリティ くろしお出版
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