第 14 回日本語教育学会賞 受 賞 西口 者 光一氏 【授賞理由】 西口光一氏は、長年に渡り、氏独自の思想に裏付けられた研究と実践に携わり、その思 想を多くの日本語教育研究者及び実践者に伝えてこられました。 まず、西口氏の功績の第一に挙げられるのが、先進的な研究の数々です。氏は一貫して 接触場面における言語活動の原理を追求する研究に取り組んでこられました。それらの研 究成果は多数の論文として発表されていますが、その集大成が単著『対話原理と第二言語 の習得と教育―第二言語教育におけるバフチン的アプローチ』 (2015 年、くろしお出版)と 言えます。また、氏はこれまでの研究に、状況論、社会文化的アプローチ、ヴィゴツキー、 バフチンなど海外の理論を積極的に取り入れてきました(単著「状況的学習論と新しい日 本語教育の実践」『日本語教育』100 号(1999 年)、共著『文化と歴史の中の学習と学習者 ―日本語教育における社会文化的パースペクティブ』(2005 年、凡人社)、単著「ヴィゴツ キー心理学から見た第二言語の習得」 『社会と文化の心理学-ヴィゴツキーに学ぶ』 (2011 年、 世界思想社)等)。そして、単著『第二言語教育におけるバフチン的視点―第二言語教育学 の基盤として』(2013 年、くろしお出版)には、氏が 10 年来精力的に取り組んで来たバフ チンの理論がまとめられています。これらの研究を通して氏が発してきたメッセージは、 氏の言葉を借りれば、日本語教育研究の中心となる言語を、ラング的に捉えるだけではな く、言語心理機能として捉えることが重要である、ということだと言えます。今でこそ、 日本語教育研究には多様なアプローチが存在していますが、その現状を培ってきた先導的 存在の一人として、西口氏が挙げられます。 次に、西口氏は所属先の大阪大学で長らく氏の思想を反映させた自己表現中心の基礎日 本語教育に取り組んできました。この実践は、基礎的な段階での日本語教育を「ラング的」 実 践か ら解放 する 取り組 みだ と言え ます 。それ らは 、単著 『NEJ:A New Approach to Elementary Japanese―テーマで学ぶ基礎日本語』(2012 年、くろしお出版)として具現化 されています。その他、単著『基礎日本語文法教本』(2000 年、アルク)、単著『例文で学 ぶ漢字と言葉 N2』(2005 年、スリーエーネットワーク)も氏の思想を具体的な実践の形に した教材としてあげられます。研究、実践に広く貢献されてきた西口氏ですが、その貢献 は地域日本語教育の現場にも向けられてきました。氏は地域ボランティア対象の講座講師 を担当、ボランティア向け日本語教材『日本語おしゃべりのたね』 (2011 年、スリーエーネ ットワーク)を監修し、『日本語教育』138 号では「市民による日本語教育支援を考える」 (2008)を発表し、そのあり方を示されています。 以上のように、西口氏は多岐にわたる取り組みの中で、一貫して日本語教育における「言 語心理的」視点の重要性を伝え、また実践に移してきました。こうした取り組みは、日本 語教育全体に大きな影響を及ぼし、研究と実践を先導してきたと言えます。このような西 口氏のこれまでの功績を称え、日本語教育学会賞を贈ります。 以上
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