2 考古学資料館

2 考古学資料館
1.考古学資料館の理念・目的
現状の説明
考古学資料館は、大学付属の研究・教育施設であるとともに、博物館法に基づく博物館相当施設(昭
和27年文部省告示第95号)でもある。
資料館設立の理念と目的は、
日本考古学及び博物館学の学術研究と國學院大學の考古学専攻・博物館
学専攻学生の教育の場であることを第一義にしている。また、考古学及び博物館学の研究者はもとよ
り、広く社会にも門戸を開き生涯学習の場として活用されることも目的にするものである。したがっ
て、本館の機能としては資料の収集、保管・保存、調査と研究、展示という現代社会の博物館に求めら
れる四大機能を兼ね備えたものになっている。
点検・評価 長所と問題点
日本の博物館にとって一般的にいえば、必ずしも十分とはいえない資料の収集面において、本資料
館は、考古学を中心にする博物館の中では、質量ともに充実した収蔵品を保有している。
また、資料の保存や遺構の移築などをはじめとする一次資料の製作技術に関しても常に先駆的な取
り組みをし、博物館学の研究面でもトップレベルにある。神道考古学を主にする調査研究でも重要な
成果の蓄積をしている。研究型を志向する国内屈指の大学付属博物館である。
将来の改善・改革に向けた方策
本章の「2.施設・設備」および「5.社会への開放方針」の項でも触れるが、本学が社会に誇ること
のできる考古学資料館においても、社会への開放という点では改善しなければならない事項は多い。
ここには資料館のみで改善できることもあるが、大学として取り組まなければならない事項もある。
本館は将来的に、現在建設計画中の「学術メディアセンター」の中に包括されることが検討されている
が、社会に広く開放する展示、研究者・学生を対象にした研究・教育の利用、学術資料の保管などの多
面的な活用をどのように役割分担するかについて、大学の渋谷キャンパス・たまプラーザキャンパス
の利用方針と協調しながら計画を策定する必要がある。また、両キャンパスともに、地元の渋谷区・
横浜市と連携を取りつつ学術成果を広く社会に還元することも重要な課題になる。
2.考古学資料館の施設・設備及び資料整備の状況とその適切性
現状の説明
本館の施設として、渋谷キャンパスの常磐松2号館に研究室(26.08 ㎡)、展示室(316.79 ㎡)、整理
室・第1収蔵庫・格納庫(計 180.89 ㎡)を、隣接する図書館収蔵庫地階に事務室(25.16 ㎡)、第2収蔵庫・
第3収蔵庫(計 155.04 ㎡)がある。たまプラーザキャンパスの若木21棟の4階に第4収蔵庫(72.83
㎡)がある。資料館特有の設備として、出土鉄製品の保存のための化学処理に用いる真空含浸装置やエ
アーブラシなどをはじめとして種々の機器を保有している。
収蔵資料の収集は、発掘調査、受贈、購入を柱としている。いずれも本館の収集理念に基づき執り
行なっている。収蔵資料は博物館の骨格を形作るものであり、いかに優れた資料を数多く収蔵してい
るかが博物館にとって重要である。専門領域についての多くの学術情報を内包する優秀な資料を独自
の発掘調査によって収集するとともに、個々の展示に耐え得る鑑賞価値の高い資料を購入により収集
している。近年、大口の寄贈者があり、受贈資料も増加している。例をあげれば、静岡新聞社から徳
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富蘇峰収集資料を、静岡県の素封家、服部和彦氏収集資料を同氏から受贈している。これらは長年に
わたる収集品であり、一括コレクションとして貴重なものである。
点検・評価 長所と問題点
「理念・目的」で述べたように収集資料の質と量においては、
博物館として十分なものを所蔵している
といえよう。しかし、収蔵資料のすべてを保管・展示する余裕はなく、現在の施設では展示と保管はと
もに限界に達している。また、建物の老朽化による保管資料の安全性という点においても早急な改善
が必要である。保管資料の状況によっては劣化を防ぐ方策が必要なものもある。そのような施設はま
だない。
将来の改善・改革に向けた方策
現在は収蔵展示を採り、
展示資料を随時入れ替えるなどの方法によって展示・保管場所の狭隘さに対
応しているが、抜本的な解決策は「学術メディアセンター」に入ることと、渋谷キャンパス・たまプラー
ザキャンパス再開発に伴うキャンパス利用構想の中で展示と保管のための十分な面積を確保し、収蔵
品の内容に相応しい展示・保管場所を獲得することにある。また、展示・保管場所を耐火・免震構造に
して文化財の安全性を高めることも必須のことである。防犯設備を設置することも必要である。重要
な文化財を多数保有している本学の社会に対する責務である。
保管資料の経年的な劣化については、「学術フロンティア事業」として文部科学省より補助金を受け、
劣化資料のデジタル化などの取り組みがされているが、今後もこうした取り組みを継続し、「ヴァーチ
ャル・ミュージアム設立」に向けての基盤作りを推進したい。
3.考古学資料館の利用状況、利用者に対する配慮とその適切性
現状の説明
本館は、博物館法第23条の理念に基づき入館料を無料にしている。写真撮影に関しても自由に許
可することを原則にしている。研究者や学生が資料を詳細に見る熟覧などにも応じている。資料の鑑
定、文献の渉猟にも協力し、本館発行の学術図書などは実費で頒布している。このように利用者の便
宜を最大限図っている。
本館の開館は、原則として月∼金曜日(午前9∼午後5時)、土曜日(午前9∼午後1時)の週6日であ
る。日曜・祝休日及び大学が定める休日は閉館している。学内諸行事に合わせ臨時に開館あるいは閉
館することもある。本館には、現在学芸員 1 名、事務局専任職員 1 名及び非常勤職員が配属され、開・
閉館をはじめ入館者からの質問や外部からの種々の要請・問い合わせなどに対応している。過去5年
間の本館の来館者数・開館日数を下に掲げる。
表12−3 考古学資料館来館者数および開館日数(過去5年間)
年
度
平成 11 年度
平成 12 年度
平成 13 年度
平成 14 年度
平成 15 年度
来館者数
1,965 人
1,572 人
2,057 人
2,024 人
2,803 人
開館日数
242 日
245 日
243 日
237 日
245 日
※来館者数は、入館者名簿に記載した人数
点検・評価 長所と問題点
本館は考古学・博物館学に関する学部及び大学院の教育に資する事を第一義にしているが、近隣の
小・中・高校の校外授業として、さらに他大学の博物館実習の場として広く利用されている。また、入
場料が無料である点もあってか一般見学者の入場も少なくない。事実、本館と神道資料館及び渋谷区
立白根記念館が隣接して存在し、小規模ではあるが、
一つの博物館ゾーンを形成しているところから、
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遠隔地から訪れる見学者もある。年間の来館者が多いとするか少ないとするか評価は分かれようが、
他大学の博物館や資料館と比較検討する必要もあろう。ほとんど広報活動をしていないにもかかわら
ず、ここ4年間 2,000 人以上(平成17年1月末現在 2,918 人)の来館者がある点は評価できよう。ま
た表の来館者数は「来館者名簿(来館者本人が自由意志で記載)」による数であり、実際の来館者はこの
数よりもかなり上回っているものと推測される。特に、平成15、16年度の入館者は大きな伸びを
見せている。開館日数は240日前後である。
将来の改善・改革に向けた方策
利用者に対する配慮は、現体制でできることは最大限実施している。社会への開放を積極的に実施
するのであれば、開館時間の延長、日曜や祝休日の開館を視野に入れる必要がある。それには、管理
体制の根本的な見直し、本館の基本的な理念をどのように考えるか、学術メディア棟の在り方などを
総合的に勘案し、
全学的な方針の中で考える必要がある。資料館のみで解決できる範囲を越えている。
後述の「社会への開放方針」でやや詳細に触れる。
4.考古学資料館と他機関との連携
現状の説明
他機関との連携は、本館の諸活動の中でも顕著な成果のある分野である。本館は地方自治体の埋蔵
文化財センター、博物館、教育委員会などの依頼を受け共同して調査研究を実施している。その成果
には見るべきものが多い。共同研究については、東京国立博物館をはじめとする諸研究機関と執り行
っており、大学付属の資料館(博物館)にあってはトップレベルにある。
点検・評価 長所と問題点
種々の共同調査、共同研究があるが、特に東京都及び都下の自治体の教育委員会からの調査依頼に
よる調査で著しい成果があがっている。近年の例をあげれば、都下利島村教育委員会からの依頼で、
延喜式内社 阿豆佐和気命神社境内の調査を継続して実施した。
この成果は国内の代表的な発掘調査の
成果を展示する文化庁主催の展覧会「発掘された日本列島 2004」でも採りあげられ、全国の博物
館で巡回展示された。この展覧会の展示では、地方自治体の埋蔵文化財センターなどの機関による調
査の成果がほとんどを占める中にあって、大学の付属機関の調査成果が採りあげられた稀有な例であ
る。本館独自の研究活動として実施している神道考古学に関連する大型和鏡の集成とデータベース化
は顕著な研究活動として注目されている。他機関との連携、それを介しての独創的な研究活動は各方
面から高い評価を得ている。
将来の改善・改革に向けた方策
他大学の博物館・資料館との連携を図ることは今後の重要な課題である。渋谷キャンパス再開発が
完了し、学術メディアセンターの中に位置づけられたなら、隣接し新装なった渋谷区立白根記念館と
の連携をより一層深め、「博物館ゾーン」をより充実したものにすることも重要である。地域社会の中
の資料館として活動することが重要な使命となろう。たまプラーザキャンパスにあっても、横浜市と
連携をとりつつ地域社会の中に根付いた活動をしていくことも視野に入れる必要があろう。
5.社会への開放方針に関する適切性と生涯学習との関連
現状の説明
理念・目的の項でも述べたように、本館は博物館相当施設であり、博物館法の趣旨に則り門戸を広
く社会に開けている。開放の現状については、
「3.考古学資料館の利用状況、利用者に対する配慮と
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その適切性」で述べた通りである。
本館の開設は昭和3年であり、その歴史はきわめて古く、その長期にわたる顕著な博物館活動によ
り、関係方面での知名度は際立っている。
点検・評価 長所と問題点
博物館法の趣旨に則り、入場料を無料にしている点は社会への最大の還元であるといえよう。不定
期ではあるが、一般市民を対象にした公開講座、特別展などを実施している。地元の渋谷区教育委員
会との共催で公開講座を開催してもいる。
大学が主催している生涯学習の一環としての「オープンカレ
ッジ」にも考古学・博物館学の講座を開設して全面的に協力してもいる。
生涯教育の機関として、博物館がイベント的要素の強い博覧会などと区分される最大の理由は、恒
常的な展示であることである。それが社会に求められていることは、入館者がここ 4 年ほど顕著に増
加していることからも明らかである。開館日数が240から250日に留まっている本館の現状は、
社会への開放という点では改善が求められるかもしれない。しかし、現体制ではこれ以上の開館日数
を確保するのは困難である。
学術メディアセンターをはじめとする渋谷・たまプラーザキャンパスの利
用形態をめぐる全学的な取り組みの中で検討すべき事項である。
将来の改善・改革に向けた方策
利用者のより一層の便宜、生涯教育の一環としての施設としての機能を考えるならば、日曜、祝休
日及び夏期休暇の期間の開館を将来の改善点として考慮する必要がある。また、開館時間の延長も考
慮すべき問題である。特に次代を担う青少年層の利用を促進するにはこうした配慮が求められよう。
しかし、本館の理念と目的に鑑み、また現在の体制においてはこうしたことにすぐに踏み切ることは
困難である。学術メディアセンターの体制の中で、大学全体で検討すべき事項である。展示について
も、対象に合わせて複数種類の展示を検討する必要もある。渋谷キャンパス、たまプラーザキャンパ
スの利用体制の中で考慮すべき事柄である。
生涯学習については、高齢者層に根強い関心のある考古学や博物館に関する要望に応えられるよう
な施策を検討することも求められよう。当面、オープンカレッジなどの講座の充実、渋谷区・横浜市な
どの地方自治体との共催による公開講座に積極的に関与することを課題にする。
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