このたびLancet誌において、Late preterm(妊娠34週〜妊娠36週)における 軽症PIHの管理について早期娩出か待機的管理かについて検討した論文が発表 されました。以下に概要を示しますが、極めて重要な論文と思われますので是 非originalを御一読ください。 Immediate delivery versus expectant monitoring for hypertensive disorders of pregnancy between 34 and 37 weeks of gestation (HYPITAT-II): an open-label, randomised controlled trial Kim Broekhuijsen, et.al. Lacet. 2015 Jun 20;385(9986):2492-501 背景 late pretermの時期(34週以降37週未満)における高血圧妊婦(PIH、慢性高血 圧)の管理方針についてのエビデンスはほとんどない。そこで「直ちに分娩」 と 「待機的管理」の各々の母体および新生児予後について比較検討した。 方法 オランダの7つの研究施設と44の非研究施設の病院で、非盲検、無作為比較試験 を行った。重症症例(収縮期血圧170mmHgまたは拡張期110mmHg以上、蛋白尿5g/ 日以上、尿量500ml/日未満、HELLP症候群)をのぞく高血圧妊婦を、①24時間以 内に誘発分娩または帝切を行う群(直ちに分娩群)と②37週まで妊娠延長を図 る待機的管理群にランダムに振り分けた。主な評価項目は母体の予後不良(血 栓塞栓性疾患、肺水腫、子癇、HELLP症候群、早剥、妊産婦死亡)と新生児呼吸 窮迫症候群であり、Intention-to-treat 分析によって評価した。 結果 2009年3月〜2013年2月までの間に897人の妊婦が対象となり、うち703人が「直 ちに分娩群(n=352)」と「待機的管理群(n=351)」に無作為に割付けされた。 母体予後不良は、「直ちに分娩群」では352人中4人(1.1%)であったのに対し、 「待機的管理群」では351人中11人(3.1%)であった(相対リスク0.36、p=0.069)。 新生児の呼吸窮迫症候群は、「直ちに分娩群」では352人中20人(5.7%)に発症 したのに対し「待機的管理群」では351人中6人(1.7%)に発症していた(相対 リスク3.3、p=0.005)。母体死亡、周産期死亡は起こらなかった。 解釈 late preterm の時期の非重症例の高血圧妊婦において直ちに分娩とすることは、 元々小さい母体の予後不良のリスクをさらに低下させる可能性はあるが、その 一方で新生児呼吸窮迫症候群のリスクを有意に増加させる結果となった。した がって、この時期においてもルーチンに早期娩出させることは正当化されず、 臨床症状が増悪するまでは待機的管理が考慮されるべきだろう。 以上のように、結論的には軽症高血圧症例に対してはlate pretermの時期で も「臨床症状が増悪するまでは待機的管理」が推奨されています。 今年発刊された当学会編集の「妊娠高血圧症候群の診療指針2015」の中には late pretermに限ったCQはありませんが、軽症PIHの管理については以下のよう に記載されており、概ね今回の論文と矛盾しない内容となっています。 CQ 妊娠高血圧症候群軽症の管理法は? 軽症でも40週未満で妊娠終了させることが望ましい。(グレードC) CQ 妊娠終結の決定条件は? ・母体要件による妊娠終結は、児の予後の如何にかかわらず妊娠継続が母 体にとって危険と考えられるときに決定される。(グレードB) ・胎児要件による妊娠終結は、妊娠週数にかかわらず胎内環境の悪化が推 定され胎外での管理の方が少しでも良好な予後を期待できるという判断 ができるときに決定される(グレードB) CQ 分娩誘発の適応と時期は? 妊娠高血圧腎症軽症および妊娠高血圧軽症症例では、妊娠40週未満をめど に分娩誘発を考慮する。(グレードB) 一方「産婦人科診療ガイドライン産科編2014」においては、 CQ309-1 妊娠高血圧腎症診断と取扱いは? Answer 36週以降の軽症の場合、分娩誘発を検討する.(B) と記載されており、がイドラインの方は若干ニュアンスが異なっていますが、 こちらについては現在 2017 年の改訂にむけて検討が進められているようです。 (文責 田中)
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