鳥取大学数学教育研究

ISSN 1881−6134
鳥 取 大 学数 学 教 育研究
Tottori Journal for Research in Mathematics Education
http://www.rs.tottori-u.ac.jp/mathedu
児童の数学的思考を高める授業の工夫
−第3学年「分数」単元における分数の大小比較場面において−
前田 明彦 Akihiko Maeda
vol.17, no.9
Mar. 2015
鳥取大学 数学教育学研究室
児童の数学的思考を高める授業の工夫
―第3学年「分数」単元における分数の大小比較場面において―
1.
研究の目的と方法
1.1.
研究の動機
1.2.
研究の目的と課題
1.3.
研究の方法
2.
分数の大小比較について
2.1.
第2学年における数の大小比較の学習
2.2.
現行教科書の分数の大小比較
2.3.
有理数の稠密性と数の大小比較
3.
授業の実際
3.1.
指導計画
3.2.
学習問題の設定
3.3.
練り上げ場面における児童への支援
4.
授業の分析
4.1.
問題把握
4.2.
自力解決
4.3.
練り上げ
5. 研究の結論
5.1.
研究から得られた結論
5.2.
実践からみられるその他の示唆
5.3.
今後の課題
1.
研究の目的と方法
1.1.
研究の動機
本校の本年度の研究テーマは、
「進んで教材や他者と関わりあい、問い続ける子どもの育
成」である。算数部では、
「算数のよさを実感し、友達と学びを深める授業づくり~数学的
な思考力を引き出し、考えの質を高める授業をめざして~」とテーマを設定して研究を進
めてきた。
分数の学習については、指導要領の改訂に伴い、第2学年の目標及び内容に、スパイラ
1
2
1
4
ルのための学年間で重複させる記述として「 , など簡単な分数について知ること。」が追
加された。第3学年では、第2学年での分割分数での分数の捉えから、量としての分数、
数としての分数へと分数の概念を広げていく。一方で、第3学年の鳥取県算数診断テスト
にある、テープを半分に折ることを繰り返して元の大きさと比べる問題の正答率は毎年低
く、第3学年での分数の概念の理解度は低いといえる。第5,6学年では、分数を商や割
合として扱うようになることを踏まえ、第3学年における分数の意味や表し方についての
理解は重要であることに対して、実際の児童の理解度のとは差が見られる。
また、数の大小比較は、第2学年の「4位数までについて、十進位取り記数法による数
の表し方及び数の大小や順序について理解すること。」で学習する。そこでは、大小を比べ
る場面として、最上位の数の大小で比較する問題が取り上げられる。第3学年の分数の内
容の中では、分数の大小比較、または分数と小数の大小比較の場面が設定されている。大
小比較を通して、分数の意味や単位分数幾つ分で表すことの理解を深めることができる。
算数部の研究テーマ「算数のよさを実感し、友達と学びを深める授業づくり~数学的な
思考力を引き出し、考えの質を高める授業をめざして~」のもと、分数の大小比較場面に
おいて、分数についての理解を深めるとともに、児童の数学的思考力を引き出すことを目
指し、本研究を進めることにした。
1.2.
研究の目的と課題
本研究は、児童の数学的な思考力を高める授業について探ることを目的とする。
第3学年における分数の学習は、学習指導要領では以下のように表されている。
A 数と計算
(6)分数の意味や表し方について理解できるようにする。
ア
等分してできる部分の大きさや端数部分の大きさを表すのに分数を用いること。
また、分数の表し方について知ること。
イ
分数は、単位分数の幾つ分かで表せることを知ること。
ウ
簡単な場合について、分数の加法及び減法の意味について理解し、計算の仕方を
考えること。
特に、大小比較場面において関連することについて、第3学年の算数的活動で以下のよ
うに表されている。
(1)
イ 小数や分数を具体物、図、数直線を用いて表し、大きさを比べる活動
さらに、内容の取扱いについては、以下のように表されている。
1
な
10
(6)内容の「A 数と計算」の(5)及び(6)については、小数の0.1と分数の
どを数直線を用いて関連付けて取り扱うものとする。
よって、分数の学習では、分数は、単位分数の幾つ分で表せることや分数を具体物、図、
数直線を用いることが大事であることがいえる。特に、数直線の有用性を考慮しながら、
分数の大小比較ができるように、指導の工夫を行うことが大事であると考えた。
このことから、
研究課題1:分数の大小比較で考慮すべきことは何か。
が設定される。
次に、児童の数学的な思考力を高めるための手立てを考える。
「数学的な考え方」を、啓林館では次の3つに分けて考えている。
i)
思考の対象に関するもの(抽象化・具体化する,数量化・図形化する,記号化す
る,形式化する,一般化・特殊化するなど)
ii)
数学的な方法に関するもの(帰納的な考え方,類推的な考え方,統合の考え方,
発展的な考え方,拡張的な考え方,演繹的な考え方など)
iii)
数学の内容に関するもの(算数の各内容を支え,これを生み出してきた考え方が
含まれ,学習内容に則したいろいろな考え方)
ii)の数学的な方法に関するものとして、児童が「なぜそうなるのだろう」
「数や図形が別
の場合だとどうなるのだろう」と問題意識を持ち、意欲的に課題に取り組もうとする「課
題設定」が重要であると考えた。児童の主体的な活動を促し、数学的な思考を通して解決
を図ろうとする課題であるようにすることが大事である。
i) 思考の対象に関するものと iii) 数学の内容に関するものとして、友達とのかかわりを
通してより有効な方法がないか検討していこうとする「練り上げ」が重要であると考えた。
数理的な処理のよさについて、練り合いを通して感得していくことのできるよう学習を展
開していくようにする。
分数の大小比較場面においては、第3学年の目標及び内容である「分数の意味や表し方
について理解できるようにする」をめざし、分数の性質をいかしながら、児童の思考力を
引き出す授業の展開を考えることにした。
以上のことから、
研究課題2:どのように課題を設定するか。
が設定される。
1.3.
研究の方法
本研究の課題を解決するために次のような方法で研究を進めていくことにする。
研究課題1については、現行の教科書での扱いと分数の大小比較場面の中での分数の性
質について検証する。
研究課題2については、児童の数学的思考力を引き出すための問題の設定を考え、授業
の分析をする。
2.
分数の大小比較について
2.1.
第2学年における数の大小比較の学習
第2学年の学習指導要領の「2内容」では、以下のように表されている。
(1)
イ
4位数までについて、十進位取り記数法による数の表し方及び数の大小や順序に
ついて理解すること。
ここでの学習場面として、上の位から同じくらい同士の数の大小を比較して、2つの数
の大小を決定する問題が取り上げられる。例えば、275と315を比べる際は、それぞ
れの最も上の位である百の位の2と3を比べる。ここでは3が大きいため、大きい方の数
315が275より大きいことを決定する。315と325を比べる場合は、百の位が等
しいため、次に大きいくらいである十の位の数を比べることになる。ここでは、十の位が
それぞれ1と2で、2の方が大きいため、325の方が大きいということになる。つまり
数の大小は、最上位を比べることで決まるということを学習することになる。
2.2.
現行教科書の分数の大小比較
現行教科書では、以下のようになっている。
啓林館
3 5
と では、どちらが大きいですか。数直線の上に表して考えましょう。
8 8
東京書籍
7
9
mと mでは、どちらがどれだけ長いでしょうか。
5
5
□にあてはまる等号や不等号を書きましょう。
8
□0.9
10
①
など
学校図書
3
4
mと mでは、どちらが長いでしょうか。
5
5
次の□に、等号や不等号を書きましょう。
①
3
□0.2
10
など
大日本図書
5 4
と では、どちらが大きいでしょう。>や<を使って表しましょう。
6 6
教育出版
7
8
と では、どちらの数が大きいでしょうか。
10 10
日本文教出版
5
はどちらが大きいですか。下の数直線を使って考え、どのように考えたか説
10
0.2と
明しましょう。
第3学年では、分数と小数の単元が学習の中にあり、その中で小数の単元を先に学習す
る東京書籍、学校図書、日本文教出版では、すべて分数と小数の大小比較が取り扱われて
いる。
どの教科書の問題場面でも、その学習時間内に数直線が扱われている。東京書籍、学校
図書は量としての分数が問題場面に取り上げられているが、その学習時間には数直線で表
すことも取り扱うようにされている。このことから、分数の大小比較場面では、数直線を
用いて考えることが求められるということがいえる。また、学習指導要領では、以下のよ
うに記されている。
A 数と計算
(6)分数の意味や表し方について理解できるようにする。
イ
分数は、単位分数の幾つ分かで表せることを知ること。
このことから、単位分数幾つ分として考えて、分数の大小比較をすることも求められる
力であることがいえる。
つまり、第3学年の分数の学習では、数としての分数の意味、数直線を用いて分数を表
すこと、単位分数の幾つ分かで分数を考えることを使いながら、大小比較することが大事
であることが考えられる。
2.3.
有理数の稠密性と数の大小比較
𝑎
2つの整数 a、b(b≠0)を用いて𝑏という分数で表すことができる数を有理数という。
c
d
ここで、有理数 (d≠0)があり、
𝑎
𝑏
c
d
<
𝑎
c
d
であるとする。このとき、 <x< となる有理数 x が存在する。これを有理数の稠密性とい
𝑏
う。つまり、有理数 a、b があり、a<b ならば、a と b の間に a<c<b となる有理数 c が存
在するということがいえる。
また、3桁の2数の大小比較をする際は、第2学年の学習では百の位から数を比べて大
小を判断することになる。275と315を比べるときは、それぞれ2と3を比較するこ
とになる。百の位が等しい315と325の大小比較をするときは、十の位を比べて大小
を判断する。
第3学年では、数直線を使って大小比較することを学習する。ここで、275と315
を数直線を用いて大小比較をすることにする。このとき、数直線上には0、100、20
0、300、400と100を単位に目盛りを取ることになる。すると、275は200
と300の間に、315は300と400の間に取ることになる。第3学年では、「数直線
は右にいくほど数が大きくなる」ということを学習する。275より315は右側に点を
取るので、315の方が大きいということができる。
数直線上に取った300に注目すると、275は300より左、315は300より右
にあることが分かる。つまり、275と315の間に275より大きく、315より小さ
い300が存在するということである。315と325を比べるときは、数直線上に10
を単位に目盛りを取る。このとき数直線上に取った320に注目すると、315は320
より左、325は320より右にあることが分かる。このことから、数の大小比較は、最
上位から比べ、その位の数が等しいときは1つ下の位で比べる、数が等しければさらに1
つ下の位で比べるという考え方は、数直線を用いた大小比較と同様に考えることができる。
しかし、315と316を比べる際は、間に整数を持たないため、このような比べ方はで
きない。これは、整数が稠密性を持たないためである。逆に、分数は稠密性を持つため、
2数の間の数を見つけることは、分数の大小比較の場面においては有効であると考えられ
る。
このことから、分数の大小比較は、前述の単位分数幾つ分かで考えることに加え、間に
入る分数を考えることで分数の概念を拡張して捉えながら、理解を深められるように学習
を組み立てていくことを考えた。
3.
授業の概要
3.1.
指導計画
単元「分数」
(全10時間)
第1時
はしたの大きさを考えることを通して、分数の表し方を理解することができる。
第2時
1mを等分した長さの表し方を考え、分数の表記法や意味を理解することがで
きる。
第3時
1Lを等分した水のかさの表し方を考え、いろいろな連続量を分数で表すこと
ができる。
第4時
単位分数の幾つ分かで分数を考え、数としての分数の意味を理解することがで
きる。
第5時
単位分数が幾つ分かを考え、分数を数直線上に表したり読み取ったりすること
ができる。
第6時
分数の大小比較をすることを通して、等号、不等号を使って数の関係を表すこ
とができる。
第7時
(本時)
図等を使って単位分数が幾つ分になるかを考え、簡単な同分母分数の加法・減
法ができる。
第8時
分数ものさしをつくることを通して、分数の関心や理解を深めることができる。
第9時
練習問題をする。
第10時 たしかめ道場をする。
3.2.
学習問題の設定
第3学年の「分数」単元における分数の大小比較場面の学習問題を考える。
第2学年までの分数の学習においては、あるものを2等分して、
「もとの大きさの2分の
1」と表すことを学習する。操作によって分数を捉える操作分数から、第3学年からは、
量分数として分数を扱う場面を学習する。量としての分数から数としての分数へと分数の
概念を拡張していく。そこでは、単位分数の幾つ分としての見方が大事なポイントになる。
数として分数を扱う場面では、数直線を用いて分数を表すことを学習する。
以上のことから、
・単位分数が幾つ分として分数を捉えること
・数直線で分数を表す場合は単位分数ごとに目盛りを取り、右に行くほど数値が大きくな
ること
を押さえて以下のように学習問題を作った。
3
7
と1では、どちらが大きいでしょう。また、 はどこに入るでしょう。
4
8
3
4
7
8
はじめに と1を比べることで同分母分数の比較の仕方を考え、 がどこに入るかを考え
るために数直線を用いることを通して考えることを狙った。しかし、与えられた数値を見
つけることより、自分から数値を見つけることで、さらに児童の意欲を高め、さらに分数
の意味について深く理解できるものだと考えた。そこで、有理数の稠密性を活かし分数の
理解をより深める学習展開を図り、以下のように問題を変えた。
1 3
と の大きさのくらべ方を考えましょう。
4 4
また、2つの分数の間に入る分数をさがしましょう。
本時の学習に際しては、それまでの学習で、数直線、線分図、1リットルますの図など
を使って分数を表したり読み取ったりすることができるようにすること、単位分数が幾つ
分として分数を表すことができるようにすることを習得させるようにしておく。
3.3.
練り上げ場面における児童への支援
1
4
3
4
1つ目の問いにあたる「 と の大きさのくらべ方を考えましょう。」は、数直線の性質
や単位分数に着目しながら考えさせるようにした。考えがまとめられない児童に対しては、
一定の長さのテープを配り、それを折ったり書き込んだりしながら考えられるように支援
する。
2つ目の問いにあたる「2つの分数の間に入る分数をさがしましょう。」は、上記のテー
プを児童全員に配り、それを使って間に入る分数が見つけられないかと考えた。テープは、
同じ長さのものを一人3本用意し、実際に長さを比べることができるようにする。テープ
を配るタイミングについては、自力解決の初めに出してしまうとテープの直接比較に終始
し、本時のねらいから外れてしまうのではないかと考えた。そこで、2つ目の問いのあた
りで、児童からテープの必要性に気づかせたうえで配ることが良いと考えた。テープを用
いることは、単位分数を自分の目に見えるにすることができ、練り上げの場面での説明で
も使えるため、必要性に気づかなかった場合についても、最終的にはテープを配り、考え
させるように計画した。
4.
授業の実際
4.1.
問題把握
授業では、以下のように問題を取り上げた。
1 3
と の大きさのくらべ方を考えましょう。
4 4
また、2つの分数の間に入る分数をさがしましょう。
問題把握の場面では、比べる数値のみをあげて考えさせた。その際に、単位分数幾つ分
の考え方を想起させながら、数として分数をとらえることをねらった。また、本時の学習
に見通しを持たせるために2つの問いを同時に示した。出題の際、児童は初め、
「間に入る
分数」についてイメージがわかなかった様子だったが、問題を唱えて題意を確かめると、
その意味がつかめたような反応を示した。
1
4
3
4
はじめの問いにあたる「 と の大きさのくらべ方を考えましょう。」から考えることを
押さえ、問題解決への見通しを全体で共有するため、どんな方法が使えそうか考えさせた。
しかしこの段階では、解決の方向性がはっきり出てこなかった。そこで、数直線、テープ
図、1L ますの図などの前回までに学習した分数の表し方を児童から挙げさせて、そこから
考えていくように展開した。
4.2.
自力解決
図などを用いて考えることを全体で確認していたが、自力解決へすぐに取りかかれない
児童の様子も見られた。そこで、まず図をかいてみることを促し、そこから大小比較して
いくことを図った。具体物が必要な児童に対しては、テープとヒントカードを配った。ヒ
ントカードにテープを折った時の長さを記入できるようにしておき、実際にテープの長さ
を比べながら大小比較できるようにした。
4.3.
練り上げ
○1つ目の問いについて考える
1つ目の問いについて、考え方を発表させていった。ここでの練り上げの場面では、単
位分数幾つ分という考え方で説明ができるように展開していくことをねらった。そのため
に、いろいろな図を挙げさせながら、どれも単位分数幾つ分で考えられることを押さえる
流れにすることを考えた。2つ目の問いでは単位分数に着目することが大事になってくる
ことから、ここで単位分数についての見方を押さえておこうとする意図があった。
3
4
1
4
テープの図、1L ますの図、数直線の順に比べた方法を挙げさせながら、 が より大き
くなることを確認した。図ではなく、言葉で説明している人の意見として、単位分数幾つ
分で説明をしていた児童の考えを取り上げた。その後、それまでに出た図が、単位分数幾
つ分で説明できることを児童に図を使って説明させながら押さえた。また、不等号を用い
て数の大小を表すことを確認した。
○2つ目の問いについて考える
問題の解決にあたり、児童に実際にテープを使うことで考えやすくなることに気付かせ
てからテープを全員に配布する計画であった。実際は、実物を使うことは児童の意見から
上がらず、1つ目の問いが終わってから指導者側から提示して児童に配布することにした。
1
4
1
4
3
4
1
4
1
4
考えを交流する場面では、はじめに「 は が1個分、 は が3個分だから、その間に
2
4
2
4
が2個分の がある。
」という意見が出た。 が間に入ることは多くの児童が理解していた。
他にはないか意見を出させたところ、なかなかその後はすぐには出なかったが、テープ
2
4
3
4
を使って考えていた児童の中から、掲示されたテープの と の間に線を引いて間にあるほ
かの数の存在を示す意見が出た。聞いていた児童も、4等分したときには表れない他の間
に入る数が存在していることに気がついた。しかし、児童の発現の中から、
「6分のいくつ
かな。
」
「4分の2半。
」などという発言があり、その数を何と表すのかは分からない様子で
あった。
その中で、
「もっと細かく分けたらいいんじゃない。
」
「今は4等分しているけど、6等分
したり・・・。
」という発言が出た。すると、
「8等分したらわかると思う。
」という意見が
出た。8等分するとはどういうことか尋ね、テープを今の4等分の状態からさらにもう1
5
8
回折ればよいことを確認した。実際に折ってみると、
「 だ。
」と子どもたちから声が上がっ
た。自分たちが発見した数を表すことができることに対して、驚きや嬉しさを感じる様子
が見られた。
その後すぐに、
「まだある。
」という意見が出た。挙がった意見には、「今折ったテープを
もう1回折ればいいと思う。
」というものがあった。何等分になっているか児童全体に尋ね、
16等分になっていて、折り目1個分が
1
になっていることを確認した。このあたりで、
16
テープを折ることを繰り返すことで、さらに細かく分けられることに気が付いた児童が増
えてきた。
そこで、全体のまとめとして、
「分母が等しいとき、分子の大小を比べる」ことと「2つ
の数の大きさが違う時、間にある数がある」ことを押さえた。
5. 研究の結論
5.1.
研究から得られた結論
本研究の目的は、研究課題①「分数の大小比較で考慮すべきことは何か。
」と、研究課題
②「どのように課題を設定するか。
」に答えることであった。
研究課題1について、以下の結果が得られた。
・1L ますの図や数直線を使うなどしながら、単位分数が幾つ分かという見方で分数を捉え、
表したり読み取ったりすること。特に数直線を用いた大小の比較の決定の仕方を押さえ
ておくこと。
(2.1、2.2、2.3、3.2、4.1、4.2)
・分数の学習の系統性を踏まえ、有理数の稠密性を取り入れた大小比較を行うことが可能
であること。
(2.3、3.2、4.1、4.2)
数直線を用いることで単位に着目して大小比較をすることができ、さらに2数の間に入
る数を調べることでより小さい単位を見つけることが、分数の大小比較の理解を一層深
めることにつながる。
研究課題2について、以下の結果が得られた。
・単元の一層の理解を図るためにも単元の系統性を意識した問題を設定すると効果が期待
できる。
(2.3、3.2、3.3、4.1、4.2、4.3)
・児童にとって必然性、必要性があり、課題に対して意欲や見通しをもって臨めるような
学習問題を設定や教具の準備をすることが有効である。
(3.2、3.3、4.1、4.2、4.3)
児童にとって必然性、必要性があり、数学的価値を有する問題を設定することが大事で
ある。
5.2.
実践からみられるその他の示唆
・単位分数幾つ分で分数を表すことを繰り返し学習し定着を図ったため、本時の大小比較
場面で図や単位分数で大きさを比べることの理解がしやすかった。
5
8
1
4
3
4
3
8
4
8
5
8
・間に入る分数を探す場面で、 を見つけた段階で、 と の間に 、 、 があることが出
ず、すぐにさらに半分に折ることで間の分数があることの意見が出ていた。これは、そ
2
4
れ以前に見つけた を含め、出てきた分数を不等号を用いて形式化をして示していなかっ
たことも原因と考えられる。間に入る分数を見つけたときは、板書してそれぞれの数の
関係を示しておくことが必要であった。
5.3.
今後の課題
・大小比較の仕方を話し合う場面で、比べ方より先にどちらが大きいかを全体で確認して
おくとよかった。全体で結果を共通理解した上で求める方法について考えることで、児
童が安心し、さらに理解を早めることができた。
(4.3)
・2つ目の課題の際にテープを配布したが、早い段階で持たせておき、実際に折る活動を
したり視覚的に捉えたりすることでより理解を深められることが期待できた。
(4.2、4.3)
・そのほかの単元では、どのような問題が設定しうるかを考えていくことが大事である。
(3.2)
引用・参考文献
算数授業研究 VOL.92(東洋館出版社)2014
算数教育指導用語辞典第四版(教育出版)1984
鳥取大学数学教育研究 ISSN 1881−6134
Site URL:http://www.rs.tottori-u.ac.jp/mathedu
編集委員
矢部敏昭 鳥取大学数学教育学研究室 [email protected]
溝口達也 鳥取大学数学教育学研究室 [email protected]
(投稿原稿の内容に応じて,外部編集委員を招聘することがあります)
投稿規定
❖ 本誌は,次の稿を対象とします。
• 鳥取大学数学教育学研究室において作成された卒業論文・修士論文,またはその抜
粋・要約・抄録
• 算数・数学教育に係わる,理論的,実践的研究論文/報告
• 鳥取大学,および鳥取県内で行われた算数・数学教育に係わる各種講演の記録
• その他,算数・数学教育に係わる各種の情報提供
❖ 投稿は,どなたでもできます。投稿された原稿は,編集委員による審査を経て,採択が決
定された後,随時オンライン上に公開されます。
❖ 投稿は,編集委員まで,e-mailの添付書類として下さい。その際,ファイル形式は,PDF
とします。
❖ 投稿書式は,バックナンバー(vol.9 以降)を参照して下さい。
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TEI & FAX 0857-31-5101(溝口)
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