形成外科2014-1

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KEY WORDS>マ ゴッ ト療法 難治性潰瘍 創内持続陰圧洗浄療法
ン トで
120 mmHg,後 方 コ ンパ ー トメ ン ト
は じめ:こ
で 110 mmHgと 著 明 な上昇 を認 め た。 右 下
腿 コンパー トメ ン ト症候群 と診断 され,救 急
近年 ,難 治性 の創傷 に対す る治療手段 の 1
つ として,医 療用無菌 ウジを用 い たマ ゴ ッ ト
部 にて直 ちに減張切 開が 行 われた。 また,造
影 CTと 血 管造影 で右 の膝高動脈 の途絶 を認
療法が注 目されて い る。 今回 われわれは,創
め右 膝省動脈損傷 と診断 されたため,同 時 に
1)の
を行 って も治癒 し得
内持続 陰圧洗浄療 法
なかった コンパー トメ ン ト症候群後 に伴 う極
血 行再建術が行 われた。これ らの処置 に よ り
めて難治性 の下腿皮膚潰瘍 に対 し,マ ゴ ッ ト
右下腿 の血 行 は再開 したが,受 傷 よ り約 8時
療 法 (maggot debridement therapy)を 行
間が経過 して い た。その後 ,し ば らくは救急
うことで治癒 させ ることがで きた ので,若 干
部 にお い て洗浄処置 な どが 行 われて い たが
の文献的考察 を加 え報告す る。
倉1部 の状態が不良なため,受 傷 よ り 9日 目に
口 症 例
患者
:19歳 ′男性
主訴 :右 下腿腫脹 ・疼痛
既往歴 。家族歴 :特 記事項 な し
現病歴 :ト ラ ック同士 の正面衝突で変形 し
た フ ロ ン ト部 に右下腿 を挟 まれ ,約 20分 後
に救急 隊 にて救 出 された。救 出中,右 下腿 の
当院血管外科 によって大 伏在静脈移植 に よる
,
,
当科 に紹介 された。
現症 :当 科初診時,下 腿 の 内側 と外側お よ
び後面 の 3カ 所 にすで に減張切 開が行 われて
い た。特 に外側 の創部 には,壊 死 した筋組織
を広 範囲 に認 めた (図
1)。
治療経過 :全 身麻酔下 にデブ リー ドマ ンを
行 い,明 らか に壊死 した筋組織 (前 肛 骨 筋
,
誹骨筋群 ,リ ト
腹筋 な ど)を 除去 した。その後
3カ 所 す べ ての創 に対 して創 内持続 陰圧 洗浄
,
高度 の 腫 脹 と右 足背 動 脈触 知不 能 の 所 見 よ
り, コンパー トメ ン ト症候群 が疑 われた。救
療法 を開始 した。
出後 は,す ぐに ドクターヘ リにて当院救 命救
急 セ ンターヘ 搬入 された。
内持続 陰圧洗浄療法 に よ り良性 肉芽 の増生が
認め られ,計 3回 のデブ リー ドマ ンと 2回 の
搬入後 の右下腿 内圧 は,前 方 コンパー トメ
分層植皮術 を行 うことで創治癒 を得 る ことが
12013年
5月 31日 受領
2013年 9月 3日 掲載決定
*久
留米大学医学部形成外科 ・顎顔面外科
形 成 外 科 ■ 57(1):77∼ 81, 2014
下腿後面の減張切 開部 の創 にお い ては,創
で きた。下腿 内側 の創 にお い て も,同 様 に良
性 肉芽 の増生 を認め,計 2回 のデブ リー ドマ
ン と 1回 の分層植皮術 で,創 治癒 を得 る こと
(b)`朴 佃」
(a)内 側と後面
図 1 当科初診時の所見
図 2 下腿外側減張切開部の所見
3回 目のデブリー ドマン施行後 3週 の所見。胆骨後面とアキレス腱に及ぶポケッ トの
形成と不良肉芽の増生を認める (矢 印)。
マ ゴ ッ トの提供 を依頼 した。下腿外側胆骨後
がで きた。
しか し,下 腿外側 の減張切 開創 で は,約 2
カ月間に及 ぶ創 内持続 陰圧洗浄療法 と 3回 の
デプ リー ドマ ン施行後 も,創 の 末梢 部分 に胆
面 のポケ ッ ト部分 に 125匹 のマ ゴ ッ トを使用
した。方法 としては,マ ゴ ッ トを置 い たガー
ゼ をその ままポケ ッ ト内部 に挿入 し,大 きな
骨後面 とアキ レス腱 に及ぶ深 い ポケ ッ トの残
ガーゼで創部全体 を覆 った後 ,マ ゴ ッ トが逃
この
げ な い よ う に付 属 の ス トッキ ング を足 に被
せ ,粘 着 テ ー プで 固定 した (図 3)。 4日 後
存 と不 良 肉芽 の 増 生 を認 め た (図
2)。
ため,ポ ケ ッ ト内の壊 死組織 の 残存 を疑 い
,
鋭 匙 に よるデ ブ リー ドマ ン を頻 回 に行 った
が ,ポ ケ ッ トが歴骨後面の深部 に及 んで い た
ため,明 視下 でのデプ リー ドマ ンを行 うこと
にガー ゼ を取 り外 し,マ ゴ ッ トの洗浄除去 を
行 った。
わず か 4日 間のマ ゴ ッ ト療法 を 1回 施行 し
は不可能 で あ った。
ただけで,肛 骨後面 のポケ ッ トはほぼ消失 し
そ こでわ れわれは,壊 死組織 除去能力 だけ
でな く肉芽増進や抗菌作用 を併せ もつ こ とで
良性 肉芽 で 覆 われ て いた (図
近年注 目されて い るマ ゴ ッ ト療法 を試み るこ
ととした。 患者か らイ ンフォーム ドコンセ ン
の増悪や ポケ ッ トの再発 も認めなか った。 こ
のため,マ ゴ ッ ト療法終了後 9日 目に分層植
トを得 た後 ,バ イオ セ ラ ピー メデ ィカル社 に
皮術 を施行 した。植皮片 も生着 し上皮化 した
78
4)。
そ の後 8
日間,軟 膏処置 にて経過観察 したが ,創 感染
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(a)マ ゴットを置いたガーゼをポケット部に挿入
(b)付 属のス トッキングにて被覆
図 3 マゴッ ト療法施行時の所見
険や食品医薬品局 に認可 されて い る治療 法 で
あ るが
9,わ が 国で は まだ薬事 承認 を受 け る
には至 っていない。
現在 ,世 界 中 で 医療用 として使用 されて い
るマ ゴ ッ トは,ほ とん どが クロバエ科 に属す
る ヒロズ キ ンバエ の幼虫 である。 日本で も在
来 の ヒロズ キ ンバエ を繁殖 ・無菌化 し,そ の
‐
盤澱選顧 ■静ギ■千r・
´
■
:
図 4 マ ゴ ッ ト療法施行後 9日 目のポケ ッ ト部の所見
ポケッ トは消失 し良性肉芽で覆われている。
ため,植 皮術後 25日 には リハ ビ リテ ー シ ョ
ン施設へ 転 院 した。
二 齢幼虫 が用 い られて い る。 治療 は幼 虫 の食
欲 旺盛 な時期 と治療 時期 を一 致 させ て 行 わ
れ,1ク ー ルの 治療 を 3∼ 4日 間 で 行 う。 ま
た治 療 には,創 面積 lcm2ぁ た り 5∼ 8匹 の
マ ゴ ッ トを使用す る°。
マゴ ッ ト療法の有効性 のメカニズム として
退院後 3カ 月 で 当科外来 を受診 したが,潰
は,① 壊死組織除去効果 (幼 虫の分泌す るタ
ンパ ク分解酵素 によ り壊死組織 の融解 を行
瘍 の再 発 や 感染 の 再燃 もな く,経 過 良好 で
い,そ れを吸 い上げることで創の壊死組織 だ
あ った (図
けを除去す る),② 抗菌効果 (日 か らの分泌
物にザ ルコ トキシ ンなどの抗菌ペ プチ ドを含
5)。
回 考 察
マゴ ッ ト療法 は,そ の効能が数千年前か ら
知 られ ていた創 傷 治療 法 で あ り,1931年 に
Bear〕 が慢性骨髄炎 に対 して用 い たのが最初
の文献的報告である。抗菌薬 の普及や手術手
技 の発達 によって次 第 に廃 れて い ったが ,近
年多剤耐性菌 の 出現や糖尿病 ・動脈硬化 な ど
による難治性潰瘍 の増加 で再 び脚光 を浴 びる
よ うになった゛。 欧米 で はす で に 国民健康 保
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み,ま たさまざまな病原菌を含 んだ融解組織
を吸 い上 げ自身 の消化管内で殺菌す る),③
創傷治癒 の促進効果 (幼 虫が創面 を這 い 回る
ことによる機械的刺激や,幼 虫の分泌物 に含
まれ る EGFや IL-6な どのサ イ トカイ ンの
もつ 血 管新生作用お よび線維芽細胞刺激作
用 )な どが挙げ られて い る9。 その有効性 に
ついては,糖 尿病性潰瘍 ・壊疸 ,虚 血や うっ
血性疾患 などによる下腿潰瘍,褥 塘 ,骨 髄炎
,
MRSA感 染 な どの難治性感染症,熱 傷 や外
79
図 5 退院後 3カ 月の所見
傷 な どに よる難治性創傷 といった数多 くの疾
患ですで に報告 されてお り,広 く適応 を もつ
°∼2)。
治療法 で ある
癒 させ ることがで きる。 したが って現時点 で
今 回の症 例 にお い ては,創 内持続 陰圧洗浄
療法 と頻 回 のデブ リー ドマ ンを 2カ 月間繰 り
ると考え られる。 また,創 力'そ の ように極め
て治療抵抗性 になる状況 としては,① 壊死 の
範囲が明確 に同定できない場合,② 壊死組織
返 し行 ったが ,創 の一 部 にまった く改善傾 向
を認めな い部位が あ った。 この 部位 には深 い
は,今 回の症例 の よ うにそれ らを行 って も治
癒 し得 ない症例が,マ ゴ ッ ト療法 の適応 にな
療 に極 めて抵抗 した。 その原 因 としては,肛
が明視下にで きない部位 に存在 し確実なデブ
リー ドマ ンを行えない場合,③ 血流障害や膠
原病などの基礎疾患があ り外科的デプリー ド
骨後面 に及 ぶポ ケ ッ トの深部 を切 開 によって
マ ンによってさらに壊死が進行す る場合,な
明視下 にお くことがで きず ,そ こに壊死組織
どが考 えられる。 このような状況 にある創で
は,治 療 の早 い段階で積極的 にマゴ ッ ト療法
ポケ ッ トの残存 と不 良肉芽 の増生 を認め,治
が残 存 して い る可能性 が最 も考 え られた。そ
のため ,壊 死組織 除去効果 を期待 し,マ ゴ ッ
ト療法 を選択 した。 われわれの施設では今 回
の症例が第 1例 目であ ったが ,そ の効果 は壊
死組織 除去 のみ に留 ま らなか った。2カ 月間
を適応 し, より早期 の創治癒 を図る ことが望
ましいと考え られる。
まとめ
治癒 させ ることので きなか った深 い ポケ ッ ト
芽 の増生効果 も有 してお り,そ の有効性 はわ
今回われわれは,外 科 的デ プ リー ドマ ン と
創 内持続 陰圧洗 浄療 法 だ け で は治癒 し得 な
れわれが想 像 して い た以上 の もので あ った。
かった難治性創傷 を経験 し,マ ゴ ッ ト療法 を
一 方 ,わ が国では,マ ゴ ッ ト療法 が い まだ
薬事承認 されて い な い ため,本 法 を行 うにあ
たっては入 院費 な どを含 むす べ ての 医療 費が
行 った。わずか 1ク ールの 4日 間で創 の状態
は著 しく改善 し,そ の後,分 層植皮術 を行 う
ことで容易 に創治癒 を得ることがで きた。 マ
自費 になる とい う問題点 があ る。 また,実 際
ゴ ット療法 は,現 存す る治療法 に対 して強 く
にわれわれ形成外科 医が難治性創傷 を治療す
る場合 ,外 科 的 または化学 的デ プ リー ドマ ン
抵抗す る創 に対 し, よ り早期 の創治癒 を期待
で きる治療法 と考え られる。
を,わ ずか 4日 間 で消失 させ るほ どの良性 肉
を行 った後 に創 内持続 陰圧洗浄療法や局所 陰
圧 閉鎖療法 を行 う ことで,ほ とん どの創 を治
80
本論文 につ いて他者 との利益相 反 はない。
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A review of the therapeutic applications of■
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