報告2(横田氏)レジュメ(PDF)

2015/7/18
中東研究フォーラム(30 分報告)
日本大学国際関係学部 横田貴之
「アラブの春」後のイスラーム主義の再考
はじめに
・ 報告/本稿の目的:アラブの春後に政治的イスラーム(Political Islam)は失敗したの
かについて、検討すること。 *現在の「イスラーム穏健派」の停滞

事例:ムスリム同胞団(エジプト)
、ナフダ党(チュニジア)
・ 編者の問題提起
① 過去 4 年間のエジプト同胞団の台頭と没落。この盛衰は同胞団のイデオロ
ギー・行動様式にいかに影響した/する?
② ナフダはなぜ生き残れたのか? *政治的妥協
③ イスラームと民主主義の関係の再考。
④ 「政治的イスラームの失敗」
[Roy 2014]
。それは、
「アラブの春」後のイ
スラーム過激派の台頭に関係?
・ 本報告では、①+③④の一部を検討。
1.
ポスト・イスラーム主義
・ Asef Bayat や Olivier Roy などが代表的。 *私市[2012]
・ 政治の世俗化/再世俗化[Roy 2014: 26-28];[私市 2012: 62]

青年・女性などの進出、社会変化、個人の自由・選択

イスラームの多様化(脱独占化)、政治イデオロギーとしての再構築不可能

イスラーム主義の普遍性の喪失 *「イスラームこそ解決」

政治の脱イスラーム化、イスラームの脱政治化 *人民議会[Roy 2014: 27-28]
・ 「宗教(イスラーム)に多様な意味づけをし、多元的な実体にした」
[Bayat 2007: 187]
。
・ 政治的イスラーム、イスラーム主義/主義運動 *”neofundamentalists”[Roy 2014:27]
2.
政治的イスラームの失敗?―エジプト・ムスリム同胞団を例に
(1)同胞団の脱イスラーム化?
・ 同胞団の組織構造=社会活動+政治活動
・ 政治活動の焦点:シャリーア施行(~1990 年代)→民主化要求(1990~2000 年代)
[横田 2010]→政治参加(2010 年代) *「イスラームこそ解決」

世代間対立:
「ワサト党」の脱退(1996)、
「1970 年代世代」の台頭
・ 準拠枠の変化:
「イスラーム的権威」+「民主主義的メカニズム」 *世代・部門
・ 台頭前に一定の脱イスラーム化 *政権奪取後の「イスラーム化/的政策」
(2)同胞団の盛衰
・ 2011 年以降:
「1 月 25 日革命」→2011~12 年の政治的台頭(立法権・行政権)→2013
年前半の危機→「6 月 30 日革命」→非合法化・テロ組織指定→弾圧、政治的排除
・ 「1 月 25 日革命」以降のイスラーム主義の多様化/分裂 *サラフィー主義
(3)考察―盛衰の要因と影響
・ 政治的イスラームの失敗:イスラーム主義運動/政党の政権担当に際して顕著に。

同胞団の脱イスラーム化→ムルスィー政権下の対立は、イデオロギー的分極化で
1
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中東研究フォーラム(30 分報告)
日本大学国際関係学部 横田貴之
はなく政治的分極化。 *「世俗的」な権力闘争
・ 象徴的な枝葉の政策や人事をイスラーム化。政治全体は脱イスラームのまま。

イスラームの多様化の中、サラフィー主義などのイスラームの挑戦

中途半端なイスラームの残存(あるいは適用努力) *ナフダとの違い?世代・
部門間対立?
・ 社会運動を引き起こす要素にも影響:運動の機会(環境)と動員構造(資源・組織)
、
運動主体の意志・心理[重冨 2012: 150]

イスラーム的価値/道徳(フレーミング)による動員への影響、生じる変化
・ 軍の政治介入(直接的要因)とポスト・イスラーム主義

(脱イスラーム化された政治制度に由来する)政権の正当性。 *選挙過信?
おわりに
・ 政治的イスラームの失敗

イスラーム主義運動/政党の政治的台頭の失敗よりも、イスラーム主義の政治イ
デオロギーとしての失敗。

あるいは、イスラーム的フレームによる政治的な動員の(将来的な)失敗?ただ
し、イスラーム主義政党はそこまでイスラームに依存しているか?
・ エジプト社会における「イスラーム的価値」重視の世論をどう扱うか?

また、
「同胞団のイスラーム」は、イスラームをめぐる市場競争に敗れたのか?
・ 穏健派イスラーム主義運動の選挙による「イスラーム化」の挫折の可能性は高い。

過激派:イスラーム主義を型に嵌めてきた民主主義・国家の否定?
<参考文献>
私市正年 2012. 『原理主義の終焉か―ポスト・イスラーム主議論』山川出版社。
重冨真一 2012. 「社会運動」中村正志編『東南アジアの比較政治学』pp.145-168。
鈴木恵美 2013. 『エジプト革命―軍とムスリム同胞団、そして若者たち』中央公論社。
横田貴之 2006. 『現代エジプトにおけるイスラームと大衆運動』ナカニシヤ出版。
横田貴之 2010. 「エジプト・ムスリム同胞団とイスラーム法施行問題」『二十世紀研究』第
11 号、pp.1-22。
横田貴之 2014. 「ムバーラク政権によるムスリム同胞団のコオプテーションの再考」
『アジ
ア経済』第 55 巻第 1 号 9-27。
Bayat, Asef 1996. “The Coming of a Post-Islamist Society,” Critique No.9, pp.43-52.
Bayat, Asef 2000. Social Movements, Activism and Social Development in the Middle East. Geneva:
United Nations Research Institute for Social Development.
Bayat, Asef 2007. Making Islam Democratic:Social Movements and Post-Islamist Turn, Stanford:
Stanford University Press.
Roy, Olivier 1994. The Failure of Political Islam. London & New York: I. B. Tauris.
Roy, Olivier 2014. “The Transformation of the Arab World,” Larry Diamond & Marc F. Platter eds.,
Democratization and Authoritarianism in the Arab World. Baltimore: Johns Hopkins University Press,
pp.13-28.
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