子どもたちを引きずり込んではびこる麻薬の密売 家庭と学校、警察、行政

子どもたちを引きずり込んではびこる麻薬の密売
家庭と学校、警察、行政が一体になって防止を
~プラティープ財団で麻薬追放の集い~
国連が「世界麻薬追放デー」と定めている6月26日、タ
イの首都クロントイスラムにあるドゥアン・プラティープ財団で
も、どうすれば子どもたちを麻薬から守ることが出来るかを考え
る集いが開かれました。政治と経済の混迷が続くタイでは麻薬犯
罪が増え続けており、現在刑務所に服役中の受刑者の七割が麻薬
に関連しており、未成年の少年少女たちを麻薬漬けにして運び屋
に仕立てるなど悪質な密売組織もはびこり続けています。そうし
た現状を改善してゆくには、家庭と地域の住民組織やボランティ
ア団体が、警察署や学校、区役所、保健所などの公的機関と緊密
に連携して網の目のような“Social Safety Net”(地域ぐるみで子
どもたちを麻薬犯罪から守る支援組織)をこしらえていくことの
大切さが確認されました。
子どもたちを麻薬から守る活動に取り組んでいる「ロー
ムチャイ・パタナー財団」(団結と開発財団)と共催して開かれ
た集いには、クロントイ地区の警察署長、区役所長、保健所と学
校代表の教員がパネラーとして出席し、クロントイ各地区の住民
代表約100人と一緒に熱心に討議し、意見を交換しました。
この日報道されたタイの有力英字紙「バンコク・ポスト
」によると、タイ国内の刑務所に収容されている成人330万人
のうち70%は麻薬犯罪の受刑者です。こうした大人の犯罪は、
未成年の子どもたちに陰を落とし、最近は小学生高学年にまで麻
薬の使用が広がっていることが、この日の会議で報告されました
。
女性区役所長のアッチャラワディーさんは「小、中学校の
子どもたちが麻薬に染まったり、犠牲になることは大変憂慮してい
る。教育現場では先生方が努力はしているけれど、大きな原因とし
て子どもの家庭状況があり、保護者の協力なしには防げない。その
保護者の中にも麻薬に染まっている家庭もあり、そうした個々の状
況をよく知っているドゥアン・プラティープ財団のようなNGOや地
域の住民組織の協力なしには解決できない」と呼びかけました。
タイでは50バーツ(約200円)前後から麻薬を買えるため、
子どもたちにも広がりやすく、パネルディスカッションで紹介されたテレ
ビ局制作のドキュメンタリー番組によると、一般の薬局でも手を変え品を
変えて様々な種類の麻薬や覚せい剤が売られており、夜間わずか2時間の
間に30人もの子どもたちに販売している実態が明らかにされました。
またクロントイ警察署のキッタパー署長も「警察が摘発した中に
は小学生もおり、低年齢化が進んでいる。どうして麻薬に頼るのかと尋ね
てみると、止めたいけれど仲間に誘われると止めれない。親も麻薬を使っ
ているから仕方ないと諦めてしまっているケースが目立つ」と深刻化しつ
つある実状を明らかにしました。
さらにキッタパー署長は、警察として今一番願っていることは
何かと参加者から問われたのに対し「麻薬に染まった青少年に対しては1
~2か月入所して体と心を健全にする公立のトレーニングセンターがある
。例えば50人が入所すれば、その3分の1が麻薬を完全に克服してくれ
るように切望している」と社会復帰の試みを紹介しました。
ドゥアン・プラティープ財団ではすでに30年以上前から、麻
薬に染まったり、染まらせられた青少年を、自然豊かな山中と平原の2か
所に開設した『生き直しの学校』と名付ける厚生施設に受け入れ、立ち
直らせる努力を続けています。しかし、入所するには親と本人の同意が
必要で、敬遠される例も少なくないという。
この日の集いで創設者のプラティープ・ウンソンタム・秦さんは
「何事も決してあきらめないことが大切です。学校に来なくなったり、
登校拒否を起こしている児童や生徒がいたら、なぜだろうと声を掛けた
り、周りの者たちがその子の家庭問題を真剣に考えて解決策を話し合っ
てほしい。周囲の大人たちが自分に関心を持って心配してくれていると
子どもが感じれば、きっと引っ張り上げたり、支えることが出来る」と
して、タテ、ヨコしっかり織り合わさっている網の目のような“Social
Safety Net”を築いていこうと提案し、賛同を得ました。
出席した住民委員からも「三つの大事なことがある。親や身近にい
る大人は子どもが寝る前に、一緒にお経を上げたり、心を落ち着かせてや
ること。友だちと一緒にスポーツなど汗を流す機会を設け、麻薬に近づけ
させないこと。そのために大人はそうしたトレーニングの場所や施設をこ
しらえてやること」との提案があり、行政機関と一体になって地域ぐるみ
で麻薬の追放に取り組んでゆくことが確認されました。