7月9日 稲作経営者会議研修会

滋賀県稲作経営者会議
栽培部会研修会資料
平 成 27 年 (2015 年 )7 月 9 日
本年の気象条件と今後の対応
1.今年の気象条件
4 月 下 旬 ~ 5 月 中 旬 は 高 温 多 照 、6 月 上 旬 ~ 平 年 並 み ? 実 態 が つ か み に く い 状 況 で す 。
連休植えあきたこまち
6 月 22 日 頃 幼 穂 確 認 ( 稚 苗 )
みずかがみ
6 月 21 日 に 幼 穂 形 成 期 と 予 測 ( 4 月 下 旬 植 え 農 技 センター予 測 )
キヌヒカリ
6 月 30 日 2 ~ 3mm 近 江 八 幡 市 野 村 町 (5 月 初 旬 中 ~ 成 苗 )
コシヒカリ
7 月 3 日 2mm
西 浅 井 町 野 坂 ( 5 月 10 日 中 苗 )
と 5 月初旬植えは早まっています。
一 方 、 5月 下 旬 植 えは 平 年 並 み で 、 収 穫 時 期 が 分 散 す る 可 能 性 が あ り ま す 。
全ての稲の生育が早まっているのではありません。
2.懸念材料
6 月の気温があまり高くなかったことで、地力が維持されている可能性があります。
相対的に葉色が濃いイメージがあります。
( → 茎 数 も 多 い 傾 向 に あ る の で 、 早 植 え コ シ ヒ カ リ は 倒 伏 に 注 意 。)
紋 枯 病 の 発 生 予 測 は 「 や や 多 」、 昨 年 多 か っ た 事 に 由 来 し て い ま す 。 た だ し 、 23 日 現
在 未 確 認 で の 情 報 で し た 。 同 月 17 日 に 草 津 市 下 笠 町 で 確 認 済 み の た め 、 防 除 所 予 測 よ
り 発 生 量 は 増 え る 可 能 性 も あ り ま す 。( 6 月 は 比 較 的 低 温 に 推 移 し て い る た め 、 発 生 は
今 の と こ ろ 少 な い 。)
(過去に紋枯病の注意報は出されたことがないので、自己責任で対応が必要)
3.多収米と良食味米の栽培について
基本的には稲の栽培の考え方はみんな同じです。
◎穂重型は収量をとりやすく、穂数型は品質や食味を上げやすいと言えます。
◎ 従 来 の 良 食 味 品 種 は 、 ㎡ あ た り 約 28000 粒 /㎡ 前 後 、 穂 数 400 本 、 一 穂 籾 数 70 ~ 75
粒 を 目 標 と し ま す 。 多 収 米 は 一 穂 籾 数 を 80 粒 ~ 100 粒 を 目 標 と し ま す 。
(→一部に大粒種があるので、千粒重の増加分は 1 穂籾数が減ります)
◎多収米は倒伏との兼ね合いで、早めに穂肥を施用します。
施 肥 は 穂 首 分 化 期 の 方 が 幼 穂 形 成 期 よ り 籾 数 が つ け や す く な り ま す 。( 早 い 穂 肥 )
短稈穂数型の場合も、考え方は同じです。
多収米はポテンシャルが高いだけで、養分が欠乏すると減収します。
◎良食味米はタンパクが増えないように栽培、一方で多収米はたくさん着けた米に養
分を送る必要があるので、出穂後もある程度葉色をのせる栽培が必要になります。
※ 「穂 肥 は出 穂 前 25 日 や 18 日 」といった固 定 概 念 は捨 てることが 大 事 。
穂肥は、幼穂形成期の栄養状態を見て判断します。
( 葉 身 窒 素 含 有 率 2 . 5 % が 施 肥 の 目 安 。 若 干 異 な る が SPAD 値 は 3 3 )
良 食 味 米 の 場 合 、 基 本 は 窒 素 で 2 . 4 k g /10a で こ れ 以 上 な ら 穂 肥 は 減 量 し ま す 。
4.高い食味値の米を栽培するために
タンパクの米への転流は出穂後であることを意識してください。
米のタンパクの転流は、8割が茎葉から2割が土壌からと言われます。
(前回の研修から)
土 壌 か ら の 供 給 を い か に 抑 え る か が 課 題 で す 。←( し か も 後 半 栄 養 凋 落 さ せ て は い け な い 。)
土壌からの供給を止めます。→タンパク8%のお米が6.4%となる計算です。
昨年の平均が乾物換算で概ね8%、コンクールに向けて概ね6.5%の米が目標と
なります。
出穂後の土壌の窒素供給の調整方法として、PSB(光合成細菌)が期待できます。
また、これを活かした「にがり」など苦土肥料やアミノ酸系の資材が有効です。
一方で、出穂前は光合成を促進しデンプンを作らなければなりません。
従って、出穂前は葉色は高く、出穂後は葉色を抑えある程度は葉色を維持します。
葉の老化を抑えるために、緩効性のケイ酸肥料を施用します。
食味値を推定するのに、出穂前後の葉色の変化を見ておくと、低いタンパクのお米を見
つける可能性が高くなります。
籾数を少なくすると、葉身窒素含有率を上げなくても登熟します。
一方で、収量を維持しつつ、食味を上げるには、出穂前後の葉色の状況をよく管理しな
いといけないことになります。
5.NDVI値の利用について
(1)はじめに
NDVIとは、葉緑素の吸光力を活用した植物の観測方法の一つ。
(IR-R)
NDVI=
で示され、これに新たな係数を使用する
(IR+R)
ことでいろんな情報が入手できます。
(2)NDVI値から算出されること
植物の生育状況を知ることができます。
観 察 す る 時 期 に よ り 、 稲 の 場 合 は 穂 肥 の 施 用 に 関 す る 情 報 ( 倒 伏 対 策 )、 収 穫 物 の 玄 米
タ ン パ ク の 情 報 、 土 壌 の 腐 植 の 状 況 、 ほ 場 の 葉 面 積 指 数 ( 土 地 と 葉 面 積 の 比 率 )、 水 分 、
地力差などです。
(3)具体的な事例
1)タンパク含有率から見た従来の考え方
対象は葉身窒素含有率およびお米のタンパク含有率です。
葉 身 窒 素 含 有 率 は 穂 肥 に 活 か さ れ ま す が 、調 査 時 期 は 各 ほ 場 で ピ ン ポ イ ン ト と な り ま す 。
収穫物のタンパク含有率も同じように、収穫の2週間前位の測定となります。
2)地力診断・病害診断
今 の 時 期 、 ほ 場 を 見 る と 葉 色 ム ラ に な っ て い る 事 が わ か り ま す 。( 別 途 資 料 )
葉色ムラがあると、タンパクを落とそうとすると地力の低いところは、さらに栄養凋落
し、乳白等の原因となります。
調査時期は、最高分けつ期後~穂肥まで、穂肥の影響がなくなった出穂後から収穫2週
間前あたりです。
全体のタンパクを下げようとするならば、地力の低い場所を上げて均平し、全体の施肥
量を落とす事が必要となります。
葉色のばらつきは、地力の他に肥培管理によるものがあります。この状況を把握するた
めに実施することも無駄ではありません。
植 生 調 査 は 、主 に 葉 の 葉 緑 素 の 状 態 を 見 て お り 、病 害 が 発 生 す る と 被 害 の 程 度 も わ か り 、
品質低下の原因を推定することが出来ます。
6.マルチヘリの利用について
この件では、皆様にご迷惑をおかけしました。
保険金の基準が本体の8~10%と高く、事故率は高いと推測します。
事故の原因は、電源によるものが多いと言われますが、実は他にもたくさんあります。
現状では、たくさん使ってもらい、いろんな課題を探っている段階と思えました。
作成会社のほとんどは中小企業のため、素人から始めると操作はなかなか理解がしづら
い と い え ま す 。( マ ニ ュ ア ル も 整 備 が 不 十 分 )
講習は、こうすれば成功すると言う立場で実施されますが、その他は事故につながる事
を意味します。
まさにピンポイントで正確に操作しないといけないのが実情です。
事 故 の 場 合 、 初 期 不 良 か ど う か も わ か ら な い の で 、 保 証 の 対 象 か ら 外 れ る こ と も ・・・。
G P S は 便 利 で す が 、 万 能 で は あ り ま せ ん 。( 地 軸 と 磁 力 線 に 差 が あ り ま す 。)
ま た 、 受 信 状 態 が 万 全 で 続 く と は 限 り ま せ ん 。( 滋 賀 県 は GPS 電 波 が 弱 い か も ? )
電 池 管 理 に は 細 心 の 注 意 が 必 要 で す 。( 過 放 電 、 過 充 電 、 衝 撃 、 低 温 に 注 意 )
マルチヘリの電池はリチウムポリマーというもので、大容量の出力の代わりに保管が大
変です。
衝撃により形が変わり、引火することも多いと言われます。
( 車 を 燃 や し た と か 家 を 燃 や し た は 少 な く あ り ま せ ん 。)
事故を受けて、いろんな情報を提供できればと思います。
農薬散布等で注目されていますが、Y 社のように手厚い指導体制になっていません。
7.佐々木農研から最後にお伝えしたいこと
現 在 の と こ ろ 、 食 味 検 査 機 器 な ど 約 1000 万 円 の 設 備 を 整 備 し ま し た 。
現在は、アベノミクスの恩恵を受けて赤字を相殺しやりくりしている一方で、皆様には
食味値が低いという厳しい現状をお示しするばかりとなっております。
こ れ ら は 事 業 を 開 始 し た 想 定 の 範 囲 内 と し て 、 平 成 27 年 ま で は 佐 々 木 個 人 の 負 担 で 対
応する予定をしております。しかし、ずっと続けることは不可能です。
私からのお願いは、結果は結果として受け止めていただき、生産者の方々が品質の視点
か ら背 け る事 が ない ように意 識 を持 ってい ただきたい とい うことです 。
佐々木農研の本質は、生産者によるラボラトリー(研究室)です。
生産者の試行錯誤を、食味値の数値やコンクールでの評価に反映するのが役割です。
皆さんが米の品質から背を向けると、当会の存在価値はなくなります。
できうる限り、皆様が美味しいお米、品質の良いお米をめざし、ラボの役割を高めてい
ただきたく思います。
( → 結 果 と し て 、価 格 交 渉 し や す い お 米 作 り に つ な が っ て い き ま す 。)
品質に背けば、おそらくどこまでも低コスト化を求められることになるでしょう!
平地での経営は可能でも、中山間地はさらに厳しくなります。
将 来 的 ( 10 年 後 く ら い ) に は 、 箱 物 以 外 は 皆 さ ん で 管 理 ・使 用 い た だ く 方 向 を 考 え て お り
ます。
農薬残留や味判定などの機材、また、その他調査機器の整備が必要になるでしょう!
あった方が良いと思われることを、少しでも進められたらと思います。