特集1:変形性膝関節症

 多くの中高年が膝の痛みを抱えていま
す。最も多い原因が、膝の軟骨がすり減
る変形性膝関節症といわれる病気です。
一 度 減 っ て し ま っ た 軟 骨 は、 元 に は 戻
りませんが、まわりの筋肉を鍛えること
によって、関節を保護して、病気の進行
を抑えることができます。膝に痛みを感
じ 始 め た ら、 早 め に 医 療 機 関 を 受 診 し、
適切な治療をスタートさせましょう。
膝への衝撃をやわらげる
関節軟骨がすり減る病気
体重を支える膝は、立つ、座る、歩
くなどさまざまな動きに対応し、絶え
ず大きな負担がかかるために、負荷や
衝撃をやわらげる構造をしています。
腿骨︵太ももの骨︶と脛骨︵すね
大
の 骨 ︶ が つ な が る 部 分 が 膝 関 節 で す。
土屋 明弘 先生
◉略歴
1981 年、千葉大学医学部卒業。’91 年、千
葉大学医学部整形外科助手。ハーバード大
学留学(スポーツ医学、関節鏡下手術の研
究)。’96 年、千葉大学医学部整形外科講師。
川崎製鉄千葉病院整形外科部長。2002 年
より現職。東京女子医科大学整形外科非常
勤講師。
日本整形外科学会専門医、日本関節鏡・膝・
スポーツ整形外科学会評議員、日本整形外
科スポーツ医学会代議員、日本臨床スポー
ツ医学会代議員、膝関節フォーラム世話人
などを務める。
膝への負荷を軽減し、関節の組織を傷
関 節 軟 骨 が ク ッ シ ョ ン の 役 目 を し て、
の関節軟骨でおおわれています。この
ていることがしばしばあります。この
月
また、大腿骨と脛骨の間にある半
板と呼ばれる軟骨組織も、衝撃を吸収
つけないようにしているのです。
ともに減少し、軟骨が傷つきやすくな
り ま す。 こ の 頃、 起 床 時 や 歩 き 始 め、
太り過ぎも、よくありません。人が
歩くとき、膝には体重の約 倍の負荷
立ち上がったときなど、動き始めに膝
急激な動作が膝に大きな負担をかける
ためで、痛みはほどなく消えます。
㎏の
がとれるのは、変形性膝関節症の特徴
骨や半月板が傷つきやすくなります。
高齢になるほど発症率は高くなります。 ほど膝を酷使することになり、関節軟
国内の変形性膝関節症の患者さんは、 人が歩くときに、膝にかかる負荷は約
自 覚 症 状 の あ る 人 で 約 1 0 0 0 万 人。
180㎏にもなります。体重の重い人
がかかります。たとえば、体重
で、安静時にも痛む関節リウマチとの
女性のほうが男性より多く、これには
膝に体重がかからないときは痛みが
なく、また痛みがあっても休めば痛み
大きな違いです。
筋力が弱いことや、女性ホルモンが関
●末期・重症期
□ 骨と骨が触れるゴキゴキ、グキッグキッといっ
た音がする
□ 膝に強い痛みがある
□ 膝を閉めることができず、足がO脚に変形する
かるので、軟骨のすり減りも内側に偏
脚の人が多いの
また、日本人にはO
ですが、O脚では体重が膝の内側にか
60
3
係していると考えられています。
□ 膝に腫れや熱っぽさが出る
軟骨のすり減りが進行する中期・進
行期には、膝関節に炎症が起こり、痛
□ 膝を伸ばすこともつらくなる
みが強くなります。膝が腫れたり、水
□ 正座やしゃがむなどの動作がしにくくなる
るためにO脚が進み、さらに膝が変形
□ 階段の上り下り、特に下りるのがつらくなる
高齢者に多いのは、長年の膝への負
担と、関節の中にあって軟骨に栄養を
□ 常に膝に痛みを感じる
がたまることもあります。また、本来
●中期・進行期
しやすくなります。
□ 膝のこわばりなど、違和感を感じる
供給しているヒアルロン酸が、年齢と
□ 立ち上がり、動き始めに膝が痛む
て、骨棘と呼ばれる小さな棘のような
□ 起床時に膝が痛む
なめらかな関節軟骨がゴツゴツしてき
歩行時にかかる負荷は
体重の約3倍
るためといわれています。
初期・軽症期は、少しずつ軟骨がす
り減り始め、クッションの働きが弱ま
ほどなく消えてしまう
動き始めの痛みがサイン
の筋肉などにも及ぶこともあります。
形性膝関節症です。炎症は関節まわり
が起こり、痛みが生じます。これが変
う関節包の内側の膜︶を刺激して炎症
関節軟骨がすり減ると、骨どうしが
こすれ、その破片が滑膜︵関節をおお
する働きをしています。
船橋整形外科病院
スポーツ医学センターセンター長
場合、膝の前面が痛みます。
監 修
に痛みが走ることがあります。これは
それぞれの骨の先端は、厚さ2∼4㎜
(つちや・あきひろ)
□ 正座をすることも、歩くことも困難になる
骨ができることもあります。
末期・重症期になると、軟骨がほと
んどなくなり、さらに進むと大腿骨が
脛骨にくい込んできます。この時期に
なると、外見的にも膝の変形が見られ
るようになります。
変形性膝関節症は、大腿骨と脛骨の
間 の 関 節 に 起 き る の が 一 般 的 で す が、
同 時 に、〝 膝 の お 皿 〟 と 呼 ば れ る 膝 蓋
骨と大腿骨の間の関節軟骨もすり減っ
●初期・軽症期
□ 膝が少し前に出るなど、変形が目立ってくる
4
5
■ 膝関節のしくみ
変形性膝関節症の主な自覚症状
変形性膝関節症
膝を支える筋肉を鍛える ことが大切
特集1
触診して痛みのある場所を確認したあ
と、
レントゲンを撮ります︵X線検査︶
。
X線写真で、膝関節の骨と骨の隙間が
狭くなっていれば、変形性膝関節症と
診断されます。
原因がはっきりしない場合、また関
節リウマチ、閉塞性動脈硬化症などの
他の病気が疑われる場合には、血液検
査や、関節液︵関節の動きをなめらか
にし、関節軟骨に栄養を運ぶ役割をす
る︶の検査を行うこともあります。
治療は、運動療法が基本です。適切
な運動を行うことで膝の痛みが改善し、
下半身の筋肉や関節が強化されて、膝
膝への負担がより大きくなります。こ
ると、膝関節を守っている筋肉が衰え、
ことができます。
関節の変形をくい止めたり、遅らせる
ほかに、若い頃の運動のし過ぎ、関
節リウマチ、痛風、骨折、靭帯︵骨と
なかでも太もも前面についている大
腿四頭筋︵膝関節を伸ばす筋肉︶や裏
が原因で起こる場合もあります。
治療の基本は
筋肉を鍛える運動療法
膝に痛みがあると、外出を控えがち
になり、あまり歩かなくなります。す
患部を温める温熱療法などで、痛みの
改善を図ります。
これらの保存療法で、どうしても痛
みがとれない場合は、手術を検討しま
す。手術には、小さな孔から関節鏡を
使って痛みの原因となっている軟骨の
かけらや骨棘を除去する﹁関節鏡視下
がかかる姿勢は、長く続けないように
草むしりや園芸作業のような膝に負担
を使い、正座はなるべく避けましょう。
日常生活では、椅子の生活のほうが
膝に負担をかけません。トイレも洋式
への負担を減らしましょう。
注意し、運動をして体重を減らし、膝
運動は、減量にもつながります。肥
満がある人は、食べ過ぎや食事内容に
湿布薬、
塗り薬など︶や、
次に、膝の腫れぐあいを観察したり、 療法︵飲み薬、
するのもよいでしょう。
し、移動椅子などを利用しましょう。
痛みがあるときは、できるだけ膝の
安静を保ち、歩行時には杖や手すりを
し、 O 脚 を 矯 正 す る﹁ 骨 切 り 術 ﹂、 傷
工関節置換術﹂などがあります。
膝関節症の予防に有効です。膝に痛み
利用するとよいでしょう。
軽にできる運動として、ウオーキング
変形性膝関節症の予防には、適度な
運動と適正体重の維持が大切です。手
症が起こります。この反応を鎮めるに
筋肉やまわりの組織が少し傷ついて炎
筋肉トレーニングなどで筋肉を使う
と、 人 体 に 起 こ る 自 然 な 反 応 と し て、
持ちさせる対策を心がけましょう。
す大きな要です。日頃から膝関節を長
で歩き続けることは、健康寿命を伸ば
範囲で行いましょう。
や、膝に負担の少ない自転車こぎ、水
は、冷やすのがよいのですが、その部
適度な運動を習慣化し
日常生活の改善で予防
中 ウ オ ー キ ン グ な ど が 適 し て い ま す。
分だけをエアコンなどの風に当て、表
運動は﹁続けられること﹂をするこ
と、その運動を習慣化し、継続してい
ります。
でしっかり内部から冷やし、筋肉内部
ぎ、筋肉の回復を助けるには、氷など
面だけを冷やすと、かえって痛みを感
じやすくなります。炎症の広がりを防
くことが大切です。お風呂で体を温め
で起きている炎症を取るようにします。
分、
分と分けて行っても効果があ
変形性膝関節症は、年をとれば誰も
がかかる可能性があります。自分の足
がある場合には、無理をせず、できる
んだ関節を人工関節に置き換える﹁人
大腿四頭筋とハムストリン
グスを鍛えて膝の健康を守
りましょう
大腿四頭筋やハムストリングスを鍛
える運動は、膝の健康を保ち、変形性
手 術 ﹂、 脛 骨 の 一 部 を 切 っ て つ な ぎ 直
に答えられるようにしておきましょう。 す。痛みや腫れが強い場合には、薬物
うした悪循環に陥らないために、早め
この動作を繰り返す。
骨をつないでいるじょうぶな帯状の組
その位置で5秒間姿勢を維持し、ゆっくりと元の位置に戻る。
側のハムストリングス︵膝関節を曲げ
お尻を持ち上げ、体と腰の位置が水平になるようにする。
に整形外科を受診して診断を受け、適
仰向けに寝て、膝を曲げた姿勢をとる。
織︶や半月板の損傷など、病気やケガ
■ヒップリフト 強化する筋肉:ハムストリングス
る筋肉︶を鍛える運動が効果的です。
太ももの裏側の筋肉(ハムストリングス)を意識しながら、この
切な治療を開始することが大切です。
曲げ伸ばしを繰り返す。
膝を安定させるサポーターや、靴底
に敷いてO脚を矯正する足底板などの
90 度の位置まで曲げ、その後ゆっくりと戻していく。
﹁いつ
ま ず 問 診 で、 膝 の﹁ ど こ が ﹂
から﹂
﹁どんなときに﹂
﹁どのように﹂
うつぶせの姿勢から、膝を曲げていく。
装具療法も、痛みの軽減効果がありま
■膝曲げ運動 強化する筋肉:ハムストリングス
痛むのかをたずねられますので、正確
5秒間押し続け、その後ゆっくりと脱力する。
てから、軽い運動やストレッチなどを
10
いつまでも元気な膝で
過ごしましょう
6
7
太ももの内側の筋肉の収縮を意識しながら、これを繰り返す。
5
脚の筋力トレーニング
5 回∼ 10 回を1セットとして、症状に応じてセット数を調節する。
■タオルつぶし 強化する筋肉:大腿四頭筋
続けられる運動 をすること
膝に負担をかけ ない姿勢も
膝の下にタオルを置き、膝でタオルを床の方向に押しつぶす。