IT投資とマクロ経済成長2・技術進歩モデル

情報経済論
第8回
IT 投資とマクロ経済成長1・技術進歩モデル
1、マクロ生産関数への技術進歩の組み込み:外生的変数(モデル2)
IT 技術革新のひとつの特徴はコンピュータなど情報通信機器の性能の進化
と価格の急速な低下である。例えばコンピュータのメモリーチップの価格の急
速な低下は情報通信機器の価格低下につながり、その結果 IT 投資が加速化した。
そこで、IT 技術革新を生産関数の変数として例としてコンピュータのメモリー
チップの価格の指数的低下を当てはめ、その逆数を変数として用いた式を推計
する。
Y =
F(K1、K2、L、1/C)
=
A K1αK2βLγ(1/C)
δ
(A は定数)
両辺の対数をとると
log Y =
αlog K1+βlog K2+γlog L+δlog (1/C)+logA
(推計式-2)
となるので、GDP の成長率に対する各生産要素(K1、K2、L、1/C)の寄与度
を推計できる。
1983 年から 1996 年までのアメリカ経済のデータから各生産要素の弾力性
α=0.09
β=0.30
γ=0.59
δ=0.017
となった。この結果から算出した各生産要素の GDP 成長率への寄与度(寄与
率)を 1983~89 年の景気拡大期と 1991~96 年の景気拡大期で比べてみると以
下のようになる。
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表 8-1
推計式-2 による各生産要素の GDP 成長率への寄与度(%)
下段( )内は寄与率
実 質 GDP IT資本ストック 一般資本スト 労 働 投 入 量 メモリチップの価
景気拡大期
(Y)
(K1)
ック (K2) (L)
格の逆数 (1/C)
1983-89 年(平均)
3.96
0.71
1.34
1.73
0.07
(0.18)
(0.34)
(0.44)
(0.02)
1991-96 年(平均)
2.05
0.53
0.47
0.59
0.52
(0.26)
(0.23)
(0.29)
(0.25)
メモリーチップの価格の逆数を技術進歩の要因と考えると、90 年代の景気拡
大期において IT 資本ストックとの寄与率の和は 0.51 となり、経済成長率の半
分以上に貢献している。一方、労働の投入に関しては寄与率の低下がより顕著
に表れる。
2.マクロ生産関数への技術進歩の組み込み:内生的変数(モデル3)
技術進歩は新規に設備が導入されたり新規雇用が行われたりする時に資本ス
トックや労働に体化する。そこで IT=情報通信技術が IT 資本ストックと労働に
体化するケースを、資本と労働投入を効率単位で測る方法で試みる。
K1*および L*をそれぞれ効率単位で測った IT 資本ストック、労働投入として、
ρとσをそれぞれの効率単位の増加率とする。 tは年数である。
K1*=(1+ρ)t ・K1
L* =(1+σ)t ・L
この式は IT 資本ストック、労働投入が新しいほど生産要素として効率的であ
るということを意味する。
(1+ρ)t を研究開発(R&D)投資として(1+σ)t を労働者の平均教育
年数ρ、σを推計すると
ρ=0.02747
σ=0.00568
となる。そこで生産関数を
Y =
F(K1*、K2、L*)
=
A K1*αK2βL*γ
(A は定数)
として、両辺の対数をとると
log Y = αlog K1*+βlog K2+γlog L*+logA (推計式-3)
となるので、GDP の成長率に対する各生産要素(K1*、K2、L*)の寄与度を推
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計できる。
1983 年から 1996 年までのアメリカ経済のデータから各生産要素の弾力性
α=0.074
β=0.24
γ=0.58
となった。この結果から算出した各生産要素の GDP 成長率への寄与度(寄与
率)を 1983~89 年の景気拡大期と 1991~96 年の景気拡大期で比べてみると以
下のようになる。
表 8-2
推計式-3 による各生産要素の GDP 成長率への寄与度(%)
下段( )内は寄与率
景気拡大期
1983-89 年(平均)
1991-96 年(平均)
効率単位のIT 効率単位の一
資 本 ス ト ッ ク 般資本ストック 効 率 単 位 の 労 働 投
実質 GDP(Y) (K1*)
(K2*)
入量(L*)
3.96
0.77
0.95
2.03
(0.19)
(0.24)
(0.51)
2.05
0.62
0.39
0.91
(0.30)
(0.19)
(0.44)
今までのモデルと同様に 90 年代の経済成長における IT 資本ストックの寄与率
が高いことがわかるが、技術進歩を体化した分だけ寄与率の上昇は高くなって
いる。また、労働投入に関しても技術進歩を体化した場合、体化しなケースに
比べて寄与率の低下が少ないことがわかる。
グラフは各年度の資本ストックの寄与率を、技術進歩を体化した場合と技術
進歩を体化しない場合で比較したものである。ここからも 90 年代の経済成長に
おいて技術進歩が与えた影響が読み取れる。
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また、労働投入の寄与率は 80 年代の経済成長に比べて低下はしているが、今
までのモデル(技術進歩が労働に体化していないケース)に比べてその低下の
度合いが小さい。
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3、IT 投資とマクロ経済成長
IT 投資のアメリカのマクロ経済成長への影響を、技術進歩(=IT 革命)が体
化(内生化)しないケースと体化したケースに分けて、コブ=ダグラス関数を
推定することから分析を行った。その結果、単なる IT 投資による経済成長への
影響は計算上小さくなるが、IT 投資に IT 革命=情報通信技術の革新に焦点を当
て、さらに技術進歩を体化したケースにおける IT 資本ストックや労働の経済成
長に対する寄与率が高いことがわかる。
IT 資本ストックは経済全体の資本ストックに比べればその規模はまた小さな
もの(20%弱)であるが、IT 投資フローの増加も含めて考えるならば今後の経
済成長にとって欠かせない要素である。
なお、今回の分析において技術進歩を労働に体化するケースに関しては、資
本ストックと同様に労働を分割することによる分析は行わなかった。実際には
労働は IT 革命=情報通信技術の革新によって知識労働(Knowledge Work)と
それ以外の労働に分割され、前者の経済成長への寄与が課題となる。これは後
に「IT 投資と労働市場」において日本経済の現状を中心に分析を行う。
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