1. 肝腫瘍に対するラジオ波治療(RFA): 前処置・準備

第 39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:山門亨一郎
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RFA(肝臓)
1 . 肝腫瘍に対するラジオ波治療
(RFA)
:
前処置・準備,手技・コツ,装置
三重大学 IVR 科
山門亨一郎
はじめに
肝腫瘍に対するラジオ波凝固療法(radiofrequency
ablation,以下 RFA)は現在,肝腫瘍に対する有効な治
療として普及している。本稿では,第 39 回日本 IVR
学会で行われた技術教育セミナーのうち,筆者が担当
した“肝 RFA の前処置・準備,手技・コツ,装置”に
ついて述べる。
RFA 前の画像診断
術前の画像診断は腫瘍の大きさや個数,門脈浸潤の
有無を判断する上で重要である。一般的な適応は腫瘍
背景と肝機能から決定される。肝癌診療ガイドライン
によると,肝障害度が A または B で,3 個で 3 ㎝以内な
1)
らば RFA を中心とする局所療法が推奨されている 。
当施設では腹部超音波検査と造影 CT は術前に必ず
行っている(図 1a)
。最近は,なるべく EOB-MRI も行
うようにしている。術前術後の治療効果の評価は同じ
modality で行うことが望ましい
(図 1a, b)
。
腫瘍の大きさ,個数が画像診断で確認できれば,腫
瘍周囲の解剖を十分に把握し,安全な穿刺経路を検討
することが重要である。エタノール注入療法であれば,
a b
c d
図1
a : ラジオ波凝固療法前の造影
CT。前区域に肝細胞癌の腫
瘍濃染を認める(矢印)
。2
㎝単発の腫瘍で,肝機能は
Child-Pugh A。
b : ラジオ波凝固療法後の造影
CT。 肝 動 脈 塞 栓 術 後 に ラ
ジオ波凝固療法を行ったた
め,腫瘍内にリピオドール
の停滞をみる。腫瘍背側で
safety-margin が不十分であ
る(矢印)
。
c : 腫瘍背側にラジオ波凝固療
法 を 追 加 し た。CT 透 視 下
にラジオ波電極が留置され
ている。
d : ラジオ波凝固療法追加後
の 造 影 CT。 十 分 な safetymargin が確保された。
(331)73
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技術教育セミナー / RFA(肝臓)
門脈,肝静脈や肺,胆嚢等の血管や臓器の穿刺を避け
ることが安全な穿刺経路であると考えられる。しかし,
RFA の場合,エタノール注入療法に比べ 1 回の治療範
囲が広く,更に肝実質を超えて熱損傷が起こる可能性
がある。
このため上記構造を避けて穿刺することは当然であ
るが,腫瘍を焼灼する際,熱が周囲臓器に伝わり,周
囲臓器損傷,いわゆる collateral damage を起こす可能
性があることは知っていなければならない。肝 RFA 後
の死亡原因の一つに腸管損傷があげられる。胃や十二
指腸,更には上行結腸が腫瘍に接していないか術前に
十分検討する必要がある。また,体位や呼吸によって
も消化管と肝臓の関係は変化するので,RFA 直前や治
療中にも十分な注意が必要である。
前投薬
鎮静,鎮痛剤を RFA 前に投与する施設が多い。
我々の施設での投与例をあげる。
Ⓡ
1)ヒドロキジン:アタラックス P (鎮静剤 25 ㎎)
2)アトロピン硫酸塩化化合物:硫酸アトロピン(副
交感神経遮断薬 0.5 ㎎)
Ⓡ
3)ジクロフェナクナトリウム:ボルタレン (鎮痛
剤 25 ~ 50 ㎎)
Ⓡ
4)クエン酸フェンタニル:フェンタニル (鎮痛剤
0.1 ~ 0.2 ㎖)
5)抗生物質
鎮痛剤として我々は上記の如くフェンタニルを使用
している。この薬剤は鎮痛作用が強いが,呼吸抑制が
少なく非常に使いやすい。
RF システム
表 1 に現在本邦で市販されている RF システム 3 種
類の特徴を示す。RITA 社製の RF システムと Boston
Scientific 社製の RF システムは針先端から釣り針のよ
うにより細い針が展開する展開型である(図 2a, b)。
他の 1 つはいわゆる 1 本針型の Covidien 社製の RF シス
テムである(図 2c)
。表の如く本邦では Covidien 社製の
RF システムのシェアが最も高い。RITA 社製の RF シス
テムでは,RFA 治療中にリアルタイムに温度測定を行
う。Covidien 社製の RF システムは治療後に温度測定
が可能である。Boston Scientific 社製の RF システムで
は温度測定はできない。現在の所,3 者の間で治療効
果や合併症に差があるという報告はない。しかし,横
隔膜下の病変では展開型の電極を用いると,横隔膜損
2)
傷のリスクが高いという報告もみられるので ,その
ような症例では,RF システムの選択に注意を要する。
使用器具
RF 電極の穿刺には超音波(US)または CT が用いら
れる。RF システムは上記 3 社のものが本邦では使用
可能である。いずれの RF システムも対極板が必要で,
患者の大腿に貼ることが推奨されている。局所麻酔
a b
c
図 2 a : RITA 社製ラジオ波電極先端
b : Boston Scientific 社製ラジオ波電極先端
c : Covidien 社製ラジオ波電極先端
74(332)
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表 1 ラジオ波システムの比較
製造会社
RITA
Boston Scientific
Covidien
RF 周波数
460 KHz
460 KHz
480 KHz
最大出力
150W
180W
120W
電極径
15G
15 or 17G
17G
電極の形状
展開型(7 or 9 本)
展開型(10 本)
1 本針
術中モニターと終了
温度
インピーダンス
インピーダンスまたは時間
保険適応
2004 年 4 月
2005 年 4 月
2006 年 1 月
ジェネレーターの値段
800 万円
350 万円
580 万円
電極の値段
15 または 21 万円
9 万円
11.8 万円
診療報酬
15,000 点
15,000 点
15,000 点
本邦でのシェア
2 〜 10%
15 〜 20%
70 〜 90%
治療時間
やや長い
8 〜 10 分
12 分
液体注入
可能
一部可能
できず
温度測定
Real-time
できず
RFA 後
最大凝固域(短径)
5㎝
4㎝
3㎝
(0.5%キシロカイン)やメス,鉗子に加え,いざという
時の救急薬品や挿管セットも整えておくべきである。
RFA 手技とコツ
穿刺位置は腫瘍径と形状によるが,腫瘍のみなら
ず,腫瘍周囲の肝実質にも焼灼範囲が及ぶように穿刺
位置を決定し,safety-margin を確保することが再発防
止のために極めて重要である。このためには,用いる
電極の種類により焼灼のされ方が異なるので焼灼範囲
がどのように拡がっていくか,十分理解しておくこと
が肝要である。展開型電極では展開された電極周囲か
ら bubble が発生し始め,やがて癒合する。
一本針型電極では通電後,絶縁部の両側から bubble
が出始めやがて全体に癒合する。癒合する際,
“ポン”
という爆発音(popping)
が聞かれることも稀ではない。
RF 電極留置には US を用いることが多いが,腫瘍が
US で確認できない場合,人工腹水・胸水下で RFA を
行うこともある。我々は,人工腹水・胸水は煩雑であ
3)
。
るため,CT 透視下での RFA を専ら行っている(図1c)
CT 下での RFA は肺も死角とならず,腫瘍と電極と
の位置関係が容易にかつ客観的に判定されうるため,
焼灼範囲の推定に有用である。また,RFA 最中に発生
する bubble も治療の妨げとならない点も CT 下 RFA の
有利な点である。
前述の如く周囲臓器の collateral damage を予防する
ことは極めて重要である。腸管が接する場合には,体
位変換や人工腹水が有効な場合もある。上級者には腫
4)
瘍と腸管の間にバルーンを挿入するという手もある 。
色々な手を尽くしても腸管損傷など重篤な collateral
damage が避けられない場合には,経皮的手技にこだ
わらず,開腹手技や腹腔鏡を用いることも考えるべき
である。
RFA 終了直後の CT 画像では腫瘍内部に bubble formation のみられることが多い。腫瘍周囲に低吸収がみ
られ十分な焼灼が判定できる場合もあるが,正確な評
価は造影 CT と造影 MRI に委ねられる
(図 1b, d)
。
前述の如く,safety-margin は極めて重要で,術後
の画像診断で safety-margin が十分でなければ,肝機
能,解剖学的に許せば,再度 RFA を行い十分な safetymargin をとるようにすることも RFA を行う上で重要
なコツである(図 1c, d)
。もちろん,肝機能を考慮し
て治療の追加時期や範囲を決定すべきである。
【参考文献】
1)肝癌診療ガイドライン 2005 年度版.科学的根拠に
基づく肝癌診療ガイドライン作成に関する研究班
編.金原出版, 東京, 2005.
2)Koda M, Ueki M, Maeda N, et al: Diaphragmatic
perforation and hernia after hepatic radiofrequency
ablation. AJR Am J Roentgenol 180: 1561 - 1562,
2003.
3)Yamakado K, Nakatsuka A, Takaki H, et al: Subphrenic versus nonsubphrenic hepatocellular carcinoma: combined therapy with chemoembolization
and radiofrequency ablation. AJR Am J Roentgenol
194: 530 - 535, 2010.
4)Yamakado K, Nakatsuka A, Akeboshi M, et al:
Percutaneous radiofrequency ablation of liver neoplasms adjacent to the gastrointestinal tract after
balloon catheter interposition. J Vasc Interv Radiol
14: 1183 - 1186, 2003.
(333)75
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RFA(肝臓)
2 . 治療効果,合併症と予防・対策
京都府立医科大学大学院医学研究科 放射線診断治療学教室
山上卓士
して知られている。Cooling effectへの対策として様々
な方法が提案されてきた。すなわち,肝動脈血流を減
らして冷却を少なくする目的で,RFA に TAE(肝動脈
塞栓術)を併用する方法や肝動脈をバルーンカテーテ
ルで閉塞する方法がある。また,肝動脈だけでなく門
脈血流も減らしてより強力に cooling effect を少なく
する目的で,開腹下に肝動脈及び門脈をクランプして
RFA を行う方法や肝動脈・肝静脈をバルーンカテーテ
ルで閉塞しつつ RFA を行う方法がある。これらの中
で最も一般的に行われる方法が RFA と TAE の併用療
法である。
2)
Yamakadoら は,3 ㎝以下 3 個以内または 5 ㎝以下単
発の肝細胞癌症例に対し,RFA と TAE の併用療法が施
行された 104 例と肝切除術が施行された 62 例を比較し
た。1,3,5 年生存率は前者ではそれぞれ 98,94,75%,
後者ではそれぞれ 97,93,81%で有意差はなかった。
また 1,3,5 年無増悪生存率についても,前者でそれぞ
れ 92,64,27%,後者でそれぞれ 89,69,26%となり有
意差はなかった。この結果,RFA と TAE の併用療法と
外科的肝切除術の肝細胞癌に対する治療効果は同等と
はじめに
ラジオ波焼灼療法(RFA)は,肝癌に対する有効な低
侵襲的治療法として広く知られている。肝細胞癌に対
する肝移植の適応基準として提唱されている Milan 基
準の範囲内,即ち,3 ㎝以下 3 個以内または 5 ㎝以下単
発の肝細胞癌に対しては,RFA は外科的切除術に匹敵
1)
する治療成績を示したという報告もある 。今回のセ
ミナーでは,肝癌に対する RFA 治療の治療効果,合併
症と予防・対策について講演した。
治療効果
肝細胞癌に対するRFAの治療成績については多数の
論文が報告されている
(表1)
。これらの報告によると,
初期治療成績は 65 ~ 96%,1 年生存率は 89 ~ 100%,
5 年生存率は 33 ~ 84%程度である。腫瘍内血流が豊富
な腫瘍あるいは腫瘍が大血管近傍にある場合は,血流
の冷却効果により腫瘍の温度が十分に上昇せず,RFA
を行っても十分な凝固壊死が得られないことがある。
これは cooling effect と呼ばれ,RFA の弱点のひとつと
表 1 肝細胞癌に対する RFA 治療成績(参考文献
(22)から一部改変して掲載)
腫瘍
最大
個数 腫瘍径
(個) (㎝)
初期治療 平均観察
効果(完全
期間
壊死,%) (mo)
局所腫瘍
進展率
(%)
年
針
患者数
(人)
1999
C
42
52
≦3
90
Buscarini et al
2001
C&R
88
101
≦ 3.5
93
34
11.8
Llovet et al
2001
C
32
32
≦5
65
10
6
2002
L
36
48
≦4
96
18
8
56
65
≦3
16
18
著者
Livaghi et al
13)
14)
9)
Shibata et al
15)
Komorizono et al
2003
17)
Lencioni et al
2005
R
187
240
≦5
92
24
5
4)
2006
C&L
74
83
≦3
94%
27
21
97
16)
Shibata et al
Ymakado et al
2002
54
柴田ら
2006
189
≦ 4.5
2
27.6
≦5
23
18)
19)
2005
C
87
21)
2007
C
173
Yamakado et al
2008
C&L
104
Tateishi et al
Takaki et al
20)
2)
255
≦5
7
生存率(%)
1年 2年 3年 4年 5年
89
62
33
97
89
71
57
48
95
81
72
57
41
100
93
91
91
84
93
82
61
TACE 後
98
94
75
TACE 後
C: cool tip R: RITA L: LeVeen
76(334)
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技術教育セミナー / RFA(肝臓)
考えられた。
3)
一方,Shibataら は 3 ㎝以下の肝細胞癌に対して RFA
と TAE の併用療法を行った 46 例 49 病変と RFA 単独で
治療した 43 例 44 病変を比較検討した。両者の 1,2,3,4
年局所腫瘍進展率は,それぞれ 14.4%,17.6%,17.6%,
17.6% vs 14.4%,17.6%,17.6%,17.6%,1,2,3,4 年全
生存率は 100%,100%,84.8%,74.0% vs 100%,88.8%,
84.5%,74.0%,1,2,3,4 年局所無増悪生存率は 84.6%,
81.1%,69.7%,55.8% vs 88.4%,74.1%,74.1%,61.7%,
1,2,3,4 年無イベント生存率は 71.3%,59.9%,48.8%,
36.6% vs 74.3%,52.4%,29.7%,29.7%でいずれも有意
差はなかった。この研究からは 3 ㎝以下の肝細胞癌に
対する RFA と TAE の併用療法と RFA 単独療法との比
較では,両者の有効性に差は見られなかった。この結
果から,RFA の際,TAE の併用の必要性についてはま
だ結論が出ていないと言える。
また 3 ㎝以下の肝細胞癌に対する RFA において,
4)
Cool tip 針と展開針の成績を比較した Shibataら の検討
では,1 年,2 年,3 年局所腫瘍進展率はそれぞれ 12%,
20%,20%と 17%,22%,22%,1 年,2 年,3 年生存率は
それぞれ 100%,94%,94%と 94%,92%,77%となり
いずれも統計学的に差はなかった。Major complication
の発生率についても Cool tip 針で 0%,展開針で 2.8%
となり有意差はなかった。
現時点までの報告をまとめると,3 ㎝以下 3 個以内
または 5 ㎝以下単発の肝細胞癌に対する治療法として
RFA は有力な選択肢となる。いずれの針を用いても治
療効果に差はないが,治療対象の病変が,血流が豊
富である場合や大血管近傍にある場合など,cooling
effect が予想される時には,TAE との併用も考慮すべ
きということになろう。
合併症と予防・対策
肝癌に対する RFA に起因する合併症による死亡率
5)
は 0.3%と報告されている 。直接死因は,腸管穿孔,
腹膜炎,大量出血,胆管狭窄などである。死亡以外の
major complication は 2.2%で見られ,出血,播種,肝
膿瘍,腸管穿孔,血胸,肝不全等が含まれる。Minor
complication は 4.7%に見られる。その中で疼痛,熱発,
胸水貯留は高頻度で生じる。死亡または major complication のリスクファクターについての検討では,針の
種類や腫瘍の大きさとは有意な関連性を認めなかった
が,治療回数が多いほど有意に死亡または major complication が生じる頻度が高かった。
6)
最も頻度が高い合併症である疼痛に関して,Leeら
は,RFA の術中,術後疼痛の Visual analog scale は平
均 5.5 点であったと述べている。彼らの研究結果では,
疼痛との関連性の高いリスクファクターとして,1)初
回治療である,2)臓側腹膜に隣接している,3)複数回
治療されている,4)腫瘍が大きい,5)臓側腹膜から近
い,6)焼灼時間が長いことが挙げられる。このような
ファクターを持つ症例に対して RFA を行う際には,疼
痛コントロールを厳重に行う必要がある。一方,年齢,
性別,肝機能障害の程度,隣接臓器が横隔膜・門脈・
小腸・十二指腸・胃・胆嚢・腎臓・大腸,人工腹水の
有無,横隔膜からの距離とは有意な関連性は認められ
なかった。
7)
Choi ら は,肝 RFA を施行した 751 例中,13 例(1.7%)
で肝膿瘍が生じたと述べている。肝膿瘍のリスクファ
クターとしては,胆道再建術,乳頭切開術,胆道ドレ
ナージ術後など上行性感染しやすい biliary abnormality,肝動脈化学塞栓療法の際の Lipiodol が貯留してい
ることを挙げている。また彼らは,Cool tip 針を使用し
た場合,膿瘍の頻度が高かったと報告している。Bili8)
ary abnormality との関連については,Shibata ら も胆
管空腸吻合術の既往例で肝膿瘍の頻度が高いと報告し
ており,胆管系の手術後症例に対する RFA の際は,肝
膿瘍に十分気をつける必要がある。これは,胆管系の
手術後の症例に RFA を行うと,腸内細菌による上行
性感染があった場合,壊死組織に感染が併発され膿瘍
が形成され,時に重篤な結果となるものと説明がつ
く(図)
。肝膿瘍に対する治療法としては,抗生剤投与,
ドレナージ術施行などがある。
肝梗塞は,RFA により肝動脈と門脈が閉塞し広範囲
の肝細胞壊死が生じることにより起こる。肝梗塞が生
じると GOT,GPT の上昇や 38.5℃以上の高熱を認め
るようになる。治療領域に門脈がある症例や TAE 後
の症例など,RFA により肝動脈や門脈が閉塞する可能
性があり,肝梗塞が生じるリスクが高いと考えられる
場合には,RFA の際に出力を落とし気味にするなどの
工夫が必要と思われる。また各電極針の出力が小さい
展開針の方が梗塞にはなりにくいとの報告もある。肝
梗塞が起こった場合,感染予防のため抗生剤投与を行
うことがある。
隣接する臓器への熱損傷により起こりうる合併症と
しては,胆管損傷・biloma,腸管穿孔(胃,十二指腸,
胆管空腸吻合後
内視鏡的乳頭切開術後
RFA
腸内細菌
胆道からの上行性感染
壊死組織に感染
肝膿瘍のリスクが極めて高い
図 肝膿瘍・原因
(335)77
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技術教育セミナー / RFA(肝臓)
表 2 経肺的肝 RFA における気胸のリスクファクター
有意差なし
有意差あり
性 別
年 齢
焼灼範囲が横隔膜に接する
肝内の穿刺距離
腫瘍の位置
R F A 出 力
最終組織温度
ブレークの回数
手 技 時 間
肺気腫の有無
肺野貫通距離
への対策が必要となる。我々の検討では,
経胸アプロー
チで肝 RFA を行った場合,気胸の発生頻度は 67%で,
12)
CT ガイド下肺生検よりも高頻度であった 。しかし,
脱気用チューブ留置が必要な症例は 5.3%と比較的少
なく,致死的なものはなかった。気胸の頻度は高いも
のの,多くは経過観察で軽快し,重篤化することは少
ないといえる。また,種々のリスクファクターのうち,
肺野貫通距離のみが気胸の発生頻度と有意に関連して
いた(表 2)。この結果から,気胸の合併を減らすため
には,肺野を通過する距離がなるべく短いアプローチ
ルートを選択する必要があると考えられる。
おわりに
大腸)
,横隔膜損傷などがある。予防策として,体位
変換する,胃管を挿入し胃を収縮させるなどの簡易な
方法のほか,人工腹水を入れる,気腹を行う,バルー
ンカテーテルを腫瘍と隣接臓器の間に挿入するなどの
種々の方法により,隣接する臓器を針先から離したの
ち RFA を行うことが挙げられる。またこれらの方法を
試みても針先から臓器が離れない場合は RFA を行わな
いことも選択肢のひとつとなる。臓器損傷が起こった
場合,まずはドレナージ,ステントなどが適応となる。
しかし,例えば消化管の穿孔では自然閉鎖に約 3 ヵ月
要することから,状況次第では,迅速な開腹術,内視
鏡的縫合などの処置が必要となる。
9)
2001 年,Llovet ら は,肝細胞癌に対する肝 RFA 後,
12.5%で播種を認めたと報告し,その頻度の高さから
物議をかもした。しかし,その後の報告では,播種の
頻度はそれほど高くなく,0.5 ~ 3.2%程度とされてい
5)
る 。播種のリスクファクターとしては,治療回数,複
数の穿刺箇所,針の種類,被膜下に位置する,病理学
的悪性度の高い病変などがある。播種の原因は,穿刺
経路を通じて腫瘍細胞が腹腔内に流出することによる
と考えられるため,予防策としては,肝表の腫瘍に対
する RFA の場合直接穿刺を避ける,術前生検を避け
る,RFA 後 track ablation で凝固する,腫瘍内圧の急
激な上昇を避けるなどの方法がある。最後に述べた腫
瘍内圧の急激な上昇を避けるための具体策としては,
出力の上昇を段階的に上げる(10W 刻みにするなど)
,
popping を避けるなどの方法がある。腫瘍内圧の急激
な上昇は cool tip 針のほうが起こりやすいとの報告も
あり,cool tip 針と播種との関連性が指摘されている。
また播種は緩除に起こることもあるため,長期間の経
過観察が必要である。播種が起こったときの対策とし
10)
ては,播種病変の切除や RFA 治療などがある 。
RFA 後に急速に腫瘍が増悪することがある。Ruzze11)
nente ら は,130 例中 3.1%(4 例)に急速な増悪を認め
たと報告している。予防策としては,先に述べた腫瘍
内圧の急激な上昇を避ける工夫が必要と考えられる。
放射線科医は CT ガイド下に肝 RFA を行う機会が多
い。その場合経胸アプローチとなることも多く,気胸
78(336)
RFA は肝癌に対する主要な治療法となっているが,
肝動脈化学塞栓療法など他の治療法との組み合わせ方
などについてはまだ議論の余地がある。合併症は時と
して重篤であるが,予防・対処可能なものが大部分で
ある。治療効果および合併症と予防・対策を十分理解
した上で RFA 治療を行うことが重要である。
【参考文献】
1)木村 達:RFA 適応と禁忌,動画でわかる肝癌ラ
ジオ波凝固療法の実践テクニック,大崎住夫編.
中山書店,東京,2008,p8 - 11.
2)Yamakado K, Nakatsuka A, Takaki H, et al: Earlystage hepatocellular carcinoma: radiofrequency
ablation combined with chemoembolization versus
hepatectomy. Radiology 247: 260 - 266, 2008.
3)Shibata T, Isoda H, Hirokawa Y, et al: Small hepatocellular carcinoma: is radiofrequency ablation
combined with transcatheter arterial chemoembolization more effective than radiofrequency ablation
alone for treatment? Radiology 252: 905 - 913, 2009.
4)Shibata T, Shibata T, Maetani Y, et al: Radiofrequency
ablation for small hepatocellular carcinoma: prospective comparison of internally cooled electrode
and expandable electrode. Radiology 238: 346 - 353,
2006.
5)Livragni T, Solbiati L, Meloni MF, et al: Treatment of
focal liver tumors with percutaneous radio-frequency
ablation: complications encountered in a multicenter
study. Radiology 226: 441 - 451, 2003.
6)Lee S, Rhim H, Kim YS, et al: Percutaneous radiofrequency ablation of hepatocellular carcinomas:
factors related to intraprocedural and postprocedural
pain. AJR Am J Roentgenol 192: 1064 - 1070, 2009.
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第 39 回日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」:山上卓士
技術教育セミナー / RFA(肝臓)
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