2005 日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」 :亀井誠二,他 連載❺ ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 2005 日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 肝ラジオ波凝固術Ⅰ 肝腫瘍の CT ガイド下ラジオ波熱凝固療法 愛知医科大学 放射線科 亀井誠二,大野良太,松田 譲,石口恒男 はじめに 肝腫瘍に対するラジオ波熱凝固療法(Radiofrequency ablation : RFA)は切除不能な肝腫瘍にする低侵襲治療 の一つとして普及している。超音波ガイド下の穿刺は 簡便であるが,横隔膜下など超音波で描出困難な腫瘍 が少なからず存在し,CT ガイド下での穿刺も習熟すべ き技術と思われる。本稿では肝腫瘍に対する CT ガイ ド下の RFA について穿刺法を中心に解説する。 適応と禁忌 肝細胞癌では切除不能な症例で原則として腫瘍径 3 ㎝ 以下で腫瘍数 3 個以内,または単発で 5 ㎝以下の場合 を適応としている。転移性肝腫瘍では切除・動注化学 療法を優先するが,症例に応じ肝細胞癌に準じた基準 で行っている。 プロトロンビン時間 50%未満,血小板 50000/㎣未満, 多量の腹水のある症例は原則として禁忌としている。 使用する器具・薬剤 CT 装置:室内のモニターは必須で,CT 透視が可能な もの,MPR の作成が容易なものが望まれる。体位や穿 刺部位によっては平面の CT 寝台を用いた方がよい。 RF 装 置: 当 科 で は Radionics 製 Cool-tip 型 電 極 針 (17G)を使用している。通常全長 15 ㎝のものを使用, 腫瘍径に応じて先端チップ長 3 ㎝と 2 ㎝のものを使い 分けている。 器具:ディスポドレープ,シート状のグリッドマーカー (Fast Find Grid, Webb Manufacturing Corporation, Philadelphia) ,局所麻酔用ディスポ注射器(10 ㎖)1 本, カテラン針(23G)1 本,メス1本,モスキート鉗子 1 本, 布鉗子 4 本,クーパー剪刀 1 本,長鑷子 1 本,滅菌した 定規。 薬剤:1%キシロカイン(10 ㎖) ,ペンタゾシン,セル シン,アタラックス P など 手技の実際 1.穿刺ルートの決定 穿刺ルートは腫瘍と同一スライス面内で骨・血管を 避けた最短の経路を第一選択とする (図1a) 。肺や心臓, 腸管などが妨げとなり同一スライス面内での穿刺が困 難な場合,冠状断あるいは矢状断の MPR 像を作成し, 70(440) 尾側より頭側方向に斜め方向の穿刺ルートを選択する 。 (図 2a,b) 2.穿刺の実際 皮膚表面にマーカーを貼り,安静呼気にて CT を撮影 し,刺入部と腫瘍部の皮膚表面をマークする。23G カテ ラン針を用いて皮膚表面および肝表面の局所麻酔を行 う。カテラン針は抜かずに方向の確認に利用する(図 1b) 。 カテラン針に沿わせて(あるいはカテラン針の角度を 記憶して) ,腫瘍部の皮膚表面のマーカーを目標として, RF 針を刺入する(図 3) 。背腹方向あるいは左右方向の 角度のずれがないよう助手にも確認してもらう。針を 刺入する長さは予め刺入点と目標の位置関係から計算 しておく。適宜 CT 撮影あるいは CT 透視にて針先を確 認し,目標部位に到達したことを確認し治療を開始する (図 1c,図 2c, d) 。 治療終了後直ちに造影 CT を施行し凝固域を確認す る (図 1d,図 2e) 。凝固域の確認は横断像だけではなく, MPR 像を作成し頭尾方向の広がりも確認しておく (図 2f,g) 。腫瘍の周囲の肝実質を含めて凝固域がみられれ ば治療を終了,不十分な部位があれば直ちに追加治療 を行う。 併用療法 RFA 前に肝動脈塞栓術(Lip-TAE)を行っておくと 病変にリピオドールが集積して同定が容易となり,穿 刺および効果判定の助けとなる。抗腫瘍効果も併せて hypervascular な腫瘍に対しては RFA 前に TAE を行っ ておくことが望まれる。 治療効果 Yamakado ら の報告では手技的成功率は 100%,局 2) 所再発は 1 年で 1.6%,2 年で 8.6%,Lencinoiら の報 告では手技的成功率は 92%,局所再発は 1 年で 4%,3 3) 年で 10%,5 年 10%とされている。Mulierら による 多変量メタアナリシスでは局所再発率は小病変,神経 内分泌腫瘍の転移,大血管や被膜から離れている病変 で有意に低いとされている。 1) 合併症と予防・対策 春日井ら や Livraghi ら により多施設調査が行われ ている。合併症の頻度は 6.9 ∼ 7.9%で,腹腔内出血,播 4) 5) 2005 日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」 :亀井誠二,他 技術教育セミナー / 肝ラジオ波凝固術Ⅰ a b c d 図 1 肝細胞癌(TAE 後)に対する RFA(同一スライス面での穿刺) a : 腫瘍にリピオドールの集積(矢印)を認める。骨を避けた最短経路での 穿刺を計画。 b : 局所麻酔に用いたカテラン針(矢印)は腫瘍にむかっている。 c : RFA 針(矢印)は腫瘍を貫いている。 d : RFA 後の造影 CT では腫瘍の周囲を全周性に取り囲む凝固域がみられる (矢頭)。 a b c 図 2 肝細胞癌(TAE 後)に対する RFA(尾頭方向への穿刺) a : ドーム下の腫瘍にリピオドールの集積(矢印)を認める。同一スライス面での穿刺では経胸腔穿刺になる。 b : MPR 像(冠状断)を作成し,腫瘍より尾側から頭側に斜め方向の穿刺を計画。 c : RFA 針は腫瘍に向かっている。 (441)71 2005 日本 IVR 学会総会「技術教育セミナー」 :亀井誠二,他 技術教育セミナー / 肝ラジオ波凝固術Ⅰ d e f g 図 2 肝細胞癌(TAE 後)に対する RFA(尾頭方向への穿刺) d : RFA 針(矢印)は腫瘍に到達している。 e ∼ g : RFA 後の造影 CT では腫瘍周囲を全周性に取り囲む凝固域がみら れている(矢頭)。 図 3 腫瘍部の皮膚表面のマーカー(矢印)を目標に穿刺 種,肝膿瘍,近接臓器の損傷,胆管損傷,門脈血栓症な どが報告されている。死亡例は 0.3%でみられている。 播種・腹腔内出血の予防には肝実質を介した穿刺を 行う,RFA 前の生検は避ける,穿刺回数は最小限とす る,穿刺経路の焼灼を行うなどの注意が必要である。近 接臓器の損傷の予防には MPR 像を用いて正確な位置関 係を確認すること,人工胸腹水,気腹などにより腫瘍と 臓器を離す,経皮的 RFA に固執せず腹腔鏡や開腹下で RFA,TAE や PEIT など他の治療法も考慮することなど が必要である。肝門部付近で門脈,胆管に近接した腫 瘍の場合,重篤な門脈血栓症や胆管障害を避けるため, 慎重に焼灼を行うことが必要である。 【文献】 1)Yamakado K, Nakatsuka A, Akeboshi M, et al : Combination therapy with radiofrequency ablation and trans catheter chemoembolization for the treatment of hepatocellular carcinoma : Short-term recurrences 72(442) and survival. Oncology Reports 11 : 105 - 109, 2004. 2)Lencioni R, Cioni D, Crocetti L, et al : Early-stage hepatocellular carcinoma in patients with cirrhosis : Long-term results of percutaneous image-guided radiofrequency ablation. Radiology 234 : 961 - 967, 2005. 3)Mulier S, Ni Y, Jamart J, et al : Local recurrence after hepatic radiofrequency coagulation : Multivariate meta-analysis and review of contributing factors. Ann Surg 242 : 158 - 171, 2005. 4)春日井博志,大崎往夫,岡 博子,他:多施設(38 施設)調査に基づくラジオ波治療の現状と問題点. 肝臓 44 : 632 - 640, 2003. 5)Livraghi T, Solbiati L, Meloni MF, et al : Treatment of focal liver tumors with percutaneous radio-frequency ablation : Complications encountered in a multicenter study. Radiology 226 : 441 - 451, 2003.
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