家族の機能状態と子どものレジリエンス・自尊感情及び学校適応との関連 -小中移行期の中学生に注目して- 学校教育専攻 学校臨床研究コース 八重沢 央 捉える理論として,Olson, Sprenkle, & Russell 問題と目的 小中学校の学校不適応の課題は山積してお (1979)の円環モデルを取りあげる。 り,特に中 1 ギャップが指摘され,小中移行期 以上のことから,本研究は,小中移行期の中 での未然防止が重要視されている。 学生に注目し,レジリエンスが自尊感情・学校 この時期において,子どもには大きなストレ 適応感に及ぼす影響及びレジリエンスを促進さ スが生じる。しかし,子どもはそのストレスを せる家族の機能状態を明らかにし,学校適応を 乗り越え,学校に適応する。この際,学校適応 促進するそれぞれの影響過程について検討する を促進させる要因は何なのであろうか。 ことを目的とした。 本研究では,ストレスを感じていたとしても 精神的健康を維持し,回復できる能力として, 方法 レジリエンスに注目する。レジリエンスが高い A 県にある中学校 1 年生 512 名とその保護者 子どもは肯定的なコーピングを用いて自尊感情 512 名を対象に,2014 年 5 月中旬に,質問紙調 を高め(石毛,2003),ストレス反応の表出を 査を実施した。各学校で「校内実施用調査用紙」 低減する(石毛・無藤,2005)。この知見から, を配布し,担任の教示のもと回答を求めた。ま 小中移行期のストレスフルな状況でも,レジリ た「家庭実施用調査用紙」を各家庭に持ち帰ら エンスを高く有していれば,自尊感情が高く維 せ,保護者の同意を得た後,各家庭で回答を求 持され,学校適応感も促進されると予想される。 めた。なお,実施にあたり,調査協力校の校長 一方で,子どものレジリエンスは肯定的な家 に承諾を得た。 族コミュニケーションによって高まるとされる 「校内実施用調査用紙」は,レジリエンス尺 (下川・室田,2007)。しかし,肯定的な家族 度(23 項目),自尊感情尺度(6 項目),学校適 コミュニケーションが本来意味する所は,それ 応感尺度(8 項目),小中移行期ストレス経験 によって家族成員間に情緒的つながりのある関 尺度(18 項目)で構成され,「家庭実施用調査 係が構築され,また,しつけや役割遂行などの 用紙」は,子ども用及び保護者用家族機能尺度 家族機能が適切に働くということなのではない (それぞれ 14 項目)で構成された。 だろうか。よって,家族機能の視点から,レジ リエンスを促進させる家族の機能状態を明らか 結果 にする必要があり,その方がより実際的である 1.各尺度の検討 と考えられる。そこで本研究では,家族機能を 紙」の各尺度について,回答に不備のない 497 -1- まず,「校内実施用調査用 名を対象に因子分析を行った。レジリエンス尺 4.家族の機能状態とレジリエンス・自尊感情 度は 4 因子構造を示し,「自己志向力」「関係志 及び学校適応感の因果モデルの検討 向力」「忍耐力」「楽観的思考力」と命名され, 用いて共分散構造分析を行った。その結果,レ 各因子の項目は石毛・無藤(2005)とほぼ一致 ジリエンス下位概念 4 項目が学校適応感に,自 した。自尊感情及び学校適応感は 1 因子構造を 己志向力を除く 3 項目が自尊感情に正の影響を 示し,それぞれ桜井(2000),須藤(2005)と 及ぼし,楽観的思考力はストレス経験に負の影 同様の結果を得た。ストレス経験尺度は,小泉 響を示した。男子では,家族の凝集性からレジ (1995)の構造とは異なり,1 因子構造を示した。 リエンス各下位概念と自尊感情に正の影響が見 各変数を 次に,「家庭実施用調査用紙」の家族機能尺 られ,女子では,家族の凝集性と適応性から自 度について,回答に不備のない 351 名を対象に 己志向力と関係志向力に正の影響が示された。 因子分析を行った。その結果,円環モデル理論 を支持する 2 因子構造を示し,それぞれを「凝 考察と課題 集性」「適応性」と命名した。保護者も同様の 以上のようにレジリエンスは,小中移行期で 因子構造であり,子どもの因子との相関も示さ 生じるストレスを乗り越え,自尊感情や学校適 れ,その妥当性が確認された。 応感を促進させる働きをしていた。レジリエン スを高めることは,学校不適応を未然に防止で 2.レジリエンスの自尊感情・学校適応感に及 きる可能性が示されたと言える。さらにレジリ ぼす影響 レジリエンスの各下位概念とストレ エンスは,家族の凝集性や適応性が高い状態, ス経験の得点に基づいて分けた高低群を独立変 すなわち家族から受容され尊重されることで, 数,自尊感情・学校適応感を従属変数とした分 高まる能力であることが明らかとなった。強い 散分析を行った。その結果,レジリエンス及び 情緒的つながりをもつ家族を基盤とし,子ども ストレス経験の自尊感情・学校適応感における はレジリエンスを高め,不慣れな環境に立ち向 主効果が有意であった。よって,レジリエンス かう。それに伴い,学級や友人関係の不安を訴 が高い子どもは,自尊感情及び学校適応感が高 えたり,日常生活に関する要求をしたりする。 いことが示された。 子どもの話や意見を十分に聞きながら柔軟に課 題を解決する家族の構造もまた,レジリエンス 3.家族の機能状態とレジリエンス・自尊感情 を高める。つまり,家族は無条件の受容と親密 との関連 なつながりをもち,かつ,子どもの自立心と不 家族の凝集性と適応性を,その得点 により高中低の 3 群に分け,それらを独立変数, 安も理解しうるものであることが,子どもの自 レジリエンスの各下位概念・自尊感情を従属変 らの成長と適応を促すものと考えられる。 数とした分散分析を行った。凝集性・適応性そ 今後は,レジリエンスを醸成する効果的な教 れぞれ高群の方が,レジリエンスの各下位概念 育活動について,家族の機能状態を参考に検討 と自尊感情の得点が有意に高かった。つまり, し,実証的研究を行う必要がある。 家族の凝集性あるいは適応性が高いことが,レ ジリエンスや自尊感情を促進する家族の機能状 指導 態であることが示された。 -2- 越 良子
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