続発性無月経の鑑別

clinical question 2015年9月21日
J Hospitalist Network
続発性無月経の鑑別
作成者 坂入 慧一郎 監修 五十野 博基 吉本 尚 筑波大学附属病院 総合診療グループ 分野:婦人科
テーマ:診断
2015年9月18日
症例 38歳 女性
 【主訴】 無月経・全身倦怠感  【現病歴】 2011年1月に不明熱でリウマチ膠原病科入院となり,内服
していた薬剤を全て中止後に自然経過で解熱を認め退院した.退院後,
不定愁訴や片頭痛・抑うつに対して,近医精神科・神経内科より後述
の薬剤を投与された.前回入院以前より,3ヵ月程度の無月経を認め
ることがあったが,出血量は特に変化を認めていなかった.2014年か
ら近医で上半身の疼痛より,線維筋痛症と診断され,コルチゾール
10mg/日を内服開始され,2015年1月頃からは月経を認めなかった.5
月頃より全身倦怠感が出現し,6月までにコルチゾール2mg/日まで漸
減されたが無月経が持続するため,精査目的で2015年6月15日に当
科を受診した.  【既往歴】 2001年頃:キアリ奇形術後  【婦人科歴】0G0P,性交歴なし  【家族歴】特記事項なし 症例
 【内服歴】  【近医A神経内科】  エチゾラム(1)1T1×,ナラトリプタン(2.5)1T1×,ラメルテオン(8)1T,エスゾピク
ロン(1)1T,アリピプラゾール(3)1T1×,バルプロ酸(200)2T1×,ニトラゼパム
(5)1T1×,  【近医B精神科】  デュロキセチン(20)2C1×,セルトラリン(25)1T1×,  【近医B漢方外来】  テプレノン(50)3C3×,フェキソフェナジン(60)4T4×,フロセミド(20)1T1×,ツム
ラ桂枝茯苓丸(2.5)3P3×,ツムラ防己黄耆湯(2.5)3P3×,ツムラ五苓散
(2.5)3P3×,ツムラ大黄甘草湯(2.5)3P3×  【近医Bリア科】  プレドニゾロン(1)2T1×,エソメプラゾールマグネシウム水和物(20)1C1× 症例
 【身体所見】  Vital:BP:101/64mmHg HR:115/min BT:36.9℃  体重:61.1㎏ 身長:156.5cm BMI:25  頭部:咽頭後壁:発赤なし 扁桃腫大なし  頸部リンパ節腫大なし 頸部硬直なし ケルニッヒ徴候なし  Jolt accentuaGon headache(-­‐) 胸部:心音整 心雑音なし 呼吸音:清 水泡音なし, 笛様音なし 両側肋骨脊柱叩打痛なし 四肢:オスラー結節なし 両側足背動脈触知あり 下肢浮腫なし 皮疹なし 男性化徴候あり(ざ瘡・多毛) 軽度中心性肥満あり Clinical Ques/on
 無月経の患者を診た際にどのように診療を進めていけばよいか. 月経とは
月経とは「通常,約 1 カ月の間隔で起こり,限られた日数で自然に止まる
子宮内膜か らの周期的出血」である 月経の生理と解剖
・視床下部からGnRHが分泌され,下垂体
を刺激し,LH,FSHが分泌される. ・LH,FSHにより卵巣の卵胞が刺激され,
エストロゲン,プロゲステロンが分泌され
る. ・エストロゲンにより,子宮内膜が増殖し,
また初期ではGnRHにネガティブフィード
バックをかけるが,ある一定以上でポジ
ティブフィードバックに変化し,LHサージを
起し,排卵する. ・排卵後は黄体のプロゲステロンが内膜を
保持するが,妊娠着床しなければ,黄体
が消退し子宮内膜は脱落する. 無月経とは
【定義】月経がない状態 【生理的無月経】 初経以前,閉経以後ならびに妊娠,産褥,授乳期にお
ける無月経. 【病的無月経】 性成熟期における月経の異常な停止 原発(性)無月経 :満18歳になっても初経がおこらないもの. 続発(性)無月経 :これまであった月経が3ヶ月以上停止したも
の.生理的無月経を除く. (稀発月経 月経周期が35日より長いか,年10回未満) 続発性無月経の疫学①
【初潮から2年以内もしくは閉経前の場合】 初経2年以内もしくは最終月経(閉経)の1-­‐2年前は続発性無月経や希
発月経がみられることがある.(Harrison. PRINCIPLES OF INTERNAL MEDICENE. 18th ediGon P327) 女性の3~5%が少なくとも3ヶ月持続する続発性無月経を経験している. (Harrison. PRINCIPLES OF INTERNAL MEDICENE. 18th ediGon P326) 続発性無月経の疫学②
 【続発性無月経の疫学】  ⇒食習慣・ストレス・スポーツ・特発性(不明)が多い
日産婦誌52巻1号.2000.01: N19-­‐N22
続発性無月経に関する部
位・疾患
視床下部性とPCOSで66%を占める
病的無月経を疑う現病歴と
身体所見
乳汁分泌
高プロラクチン血症,(妊娠) 体重減少 運動歴 ストレス
視床下部性,神経因性食思不振症 BMI<18.5 体重増加 ざ瘡 多毛
PCOS,副腎性(クッシング症候群),甲状腺機能低下
症 BMI>30が半数 妊娠歴 分娩歴 Assherman症候群,Sheehan症候群など 無月経/希発月経のアルゴリズム
・ Harrison. PRINCIPLES OF INTERNAL MEDICENE. 18th ediGon P326-­‐329 子宮と産道(続発性無月経)
 卵管・子宮・膣の形成異常を示す続発性無月経はAsherman症候群
しかない(up to date. EGology, diagnosis, and treatment of secondary amenorrhea)  それ以外の形態異常は先天性によるもの.(原発性無月経)  診断には骨盤エコーの子宮内膜の層構造の消失を確認する.  (PreoperaGve sonographic measurement of endometrial pa^ern predicts outcome of surgical repair in paGents with severe Asherman‘s syndrome.FerGl Steril. 1995;63(2):410.) 無月経/希発月経のアルゴリズム
妊娠の確認
 【hCG測定(尿中・血液中)】  尿中:20~50units/L以上で陽性, 血中:5~10units/L以上で陽性  【偽陰性】妊娠直後,hCGアイソフォーム,フックエフェクト
(<500,000unit/Lで偽陰性を示す.hCG産生腫瘍による.)  【疑陽性】着床直後の流産,hCG産生腫瘍,検査キットの抗hCG抗体へ
の抗体,不妊治療中のhCG注射  陰性でも妊娠が疑われるときは,1週間後に再検査  陽性の場合は,妊娠が子宮内か子宮外かをエコーでチェックする.  (尿中hCG陽性の妊娠の場合は98%は子宮内である.) 無月経/希発月経のアルゴリズム
FSH,PRL,TSH測定
 【FSH】早期卵巣機能不全の鑑別(以下の2つを満たすと確定)  ・1か月毎測定で正常より2倍以上の上昇.(合計2回) ◦  検査所見としてはFSH>40 units/L,estrogen<50 pg/mL.  ・40歳未満で,4ヶ月≧の無月経,もしくは9回/年の希発月経  【PRL】正常値(20~27ng/ml)  (ストレス,運動,性交,食事,睡眠でも上昇するため,頭部下垂体MRI施行前に
2度は血液検査施行を推奨)(cut off:50ng/ml)  【TSH】甲状腺機能低下症でもPRL上昇するためTSH測定   必要に応じて,甲状腺機能低下症の精査.
無月経/希発月経のアルゴリズム
PRL高値の場合
 1.薬剤性の除外  Riperidone, Metoclopramide, CimeGdine,  Methyldopa, Reserpine, and verapamil  希に300~400ng/mLになることもあるが,一般的に薬剤性は
PRL<100ng/mL  2. 頭部MRI施行(ガドリニウム造影,冠状断・矢状断)  上記を踏まえて,薬剤投与中でも,PRL≧100ng/mLならMRIを考慮する. 無月経/希発月経のアルゴリズム
PCOSの診断
 1.男性化徴候,テストステロン高値の確認. ◦  LH高値およびLH/FSH>1は診断基準に含まれない.  2.超音波による多嚢胞性卵巣の確認. ◦  PCOSの診断に超音波はそこまで有用ではないが診断基準に含まれる. ◦  正常女性の半数に12個以上の小卵胞が認められるため,2014年以降では
25個以上の小卵胞が卵巣ごとにあることが提案された.  3.その他の疾患の除外 ◦  高アンドロゲン血症を来す腫瘍や, 21-­‐ヒドロコルチダーゼ欠損症,高プロラ
クチノーマ,甲状腺機能低下症,クッシング症候群など.  (all required) AES definiGon 2008  (Azziz R, Carmina E, Dewailly D, et al. The Androgen Excess and PCOS Society criteria for the polycysGc ovary syndrome: the complete task force report, FerGl Steril 2009; 91:456) 症例考察
 ・妊娠は性交歴もなく,HCG陰性なら否定的.  ・PRLはむしろ軽度低下を示し, TSH,FSHは正常範囲内だった.  ・コルチゾール・ACTHは正常上限で,ガリウムシンチ,頭部MRIでは明ら
かな下垂体異常を認めなかった.  ・高PRL血症を来しうる薬剤としては,デュロキセチン(20)2C1×,セルトラリ
ン(25)1T1×があった.また,プレドニン内服で無月経を来すことはあり,薬
剤調整を行う必要性がある.  ・PCOSの否定のために,テストステロン測定及び,経腟エコーを含めて産
婦人科にコンサルトも考えてよいかもしれない.  Conc.)上記否定された場合は,続発性無月経の原因としては,ストレスも
しくはコルチゾールによる影響を考える. Take home massage
 ・無月経の患者さんをみたら現病歴・身体所見から病的か生理的かを考える. ・無月経をアルゴニズムに沿って鑑別する.  ・妊娠検査(hCG)における疑陽性と偽陰性を理解し,疾患を見逃さない.  ・高PRL血症をきたす薬剤を鑑別し,内服中であっても100ng/ml以上であれば,
頭部MRIも検討する.  ・男性化徴候(多毛,ざ瘡,声の低音化など)を来すときは,PCOSを念頭に,テ
ストステロン測定,腹部エコーを施行する.LH測定は必須ではない.
参考文献
 ・Richard T. Griffey;Hook-­‐like-­‐effect causes false-­‐negaGve point-­‐of care urine pregnancy tesGng in emergency paGent;The Journal of Emergency Medicine, Vol.44. NO.1 pp.155-­‐160,2013  ・McChesney R, Wilcox AJ, O’Connor JF, et al. intact HCG, free HCG beta subunit and HCG beta core fragment:longitudinal pa^erns in urine during early pregnancy. Hum Reprod 2005; 20:928.  ・Pubmed:Clinical manifestaGons and diagnosis of early pregnancy  ・David SR, Taylor CC, Kinon BJ, Breier A. The effects of olanzapine, risperidone, and haloperidol on plasma prolacGn levels in paGents with schizophrenia. Clin Ther 2000; 22:1085.  ・Pubmed: diagnosis, and treatment of secondary amenorrhea. 2015 参考文献
  ・中山明子・西村真紀.お母さんを診よう プライマリケアのためのエビデンスと経
験に基づいた女性診療.(2015).南山堂.P5   ・日産婦誌54巻12号.N-­‐552   ・ Harrison. PRINCIPLES OF INTERNAL MEDICENE. 18th ediGon P326-­‐329   ・ PracGce Commi^ee of American Society for ReproducGve Medicine. Current evaluaGon of amenorrhea. FerGl Steril.2008 Nov;90(5 suppl):s219-­‐25   ・Johnstone EB, Rosen MP, Neril R, et al. The polycysGc ovary post-­‐Ro^erdam: a common, age-­‐dependent finding in ovulatory women without metabolic significance. J Clin Endocrinol Metab 2010; 95:4965   ・ Dwwailly D, Lujan ME, Carmina E, et al. DefiniGon and significance of polycysGc ovarian morphology: a task force report from the Androgen Excess and PloycysGc Ovary Syndrome Society. Hum Reprod Update 2014; 20:334   ・uptodate. Diagnosis of polycysGc ovary syndrome in adults. 2015