2009 過去問解説 - シケタイ2007- YCUMed

産科学試験解説
文責:伊集院
(1) 胎児および新生児について
1. 胎児循環では左心系に比べ右心形の方が圧が高い
[解答]○
[解説]
胎児は肺呼吸をしておらず胎盤を通してガス交換を行っている。従って肺は使わないので膨らん
でおらず、血管抵抗が高い。そのため胎児期は右心系>左心系となっている。要は使ってない臓
器(肺)に血を送るより必要な臓器に血を送るようにできているということ。出生後の血中 O2↑・
CO2↓・皮膚への刺激がトリガーとなって⇒第一啼泣⇒肺膨らむ⇒血管抵抗↓⇒右心系<左心系
となる。
2. 胎盤で最も酸素化された血液は、卵円孔を介して効率よく胎児脳へ循環する
[解答]○
[解説]
胎児循環では一番大事な脳に如何に酸素を送るかがポイントとなっている。胎盤で酸素化された
血液は臍静脈から右心房へ流れ込む。卵円孔が存在することで、右心房から左心房へと血液が流
れる。これによって酸素化された血液の多くが肺を通ってからではなく体循環に入っていく。胎
児循環の解剖確認しておいてください。
3. 新生児の尿は成人に比べ濃縮傾向である
[解答]×
[解説]
新生児の腎機能の特徴としては糸球体の発達に比べ尿細管の発達が未熟な傾向がある。このため
ろ過はするものの、再吸収がうまくできないため水・Na は喪失傾向で濃縮はイマイチである。
4. Apgar Score は、呼吸、心拍数、反射、胎動回数、皮膚色で評価する
[解答]× (胎動回数→筊緊張)
[解説]
Apgar Score は新生児の評価に用いられる。7~:正常、4~6:Ⅰ度仮死、~3:Ⅱ度仮死
点数
0
1
2
心拍数
なし
緩徐(100 未満)
正常(100 以上)
呼吸
なし
弱々しい泣き声
強く泣く
筊緊張
だらりとしている
いくらか四肢を曲げる
四肢を活発に動かす
反射性
反応なし
顔をしかめる
泣く
皮膚色
全身蒼白 or 暗紫色
躯幹淡紅色、四肢チアノーゼ
全身淡紅色
他に評価法としてシルバーマンの評価法・Dubowitz 法などがある。Apgar Score は覚えてくださ
い。
5. 羊水は主に羊膜から吸収される
[解答]×(羊膜→胎児が嚥下して消化管にて吸収)
[解説]
羊水は胎児の尿である。羊水を嚥下→腸で吸収→体循環→胎盤→母へ老廃物を渡し排泄している。
(2) 妊娠の異常について
6.妊娠悪阻の症状は、通常、妊娠 20 週ごろがピークである
[解答]×(20 週→8~10 週)
[解説]
妊娠悪阻 5、6 週から始まり、ピークは 8~10 週、12 週~収まる。
7.子宮外妊娠では、卵管膨大部妊娠は最も多く 80%を占める
[解答]○
[解説]
頸管妊娠もあるので異所性妊娠というようになってきている。
卵管膨大部 82.3% 卵管峡部 10.8% 卵管間質部 2.5% 卵巣 2.5% 腹腔 0.6% 頸管 1.3%
となっている。
8.無月経 10 週間の女性で妊娠反応陽性、胎嚢が描出されなければ子宮外妊娠を確定診断できる
[解答]×
[解説]
先生が重要って言っていました。このタイムスケジュールは覚えておいてください。
CRL:頭殿長
0
最終月経初日
排卵
4w
6w
7w
9w
10w
妊娠反応(+)
胎嚢見える
心拍
CRL20 ㎜
CRL30 ㎜
診断は子宮腔内に胎嚢がない、hCG 値が高い、卵管に胎嚢・FHB、腹腔内出血(妊娠検査薬の普
及によりこうなる前に来る人が多いので稀)、で行う。
9.無月経 7 週間の女性で胎児心拍が確認され、二週後の受診で胎児心拍が消失した場合、稽留
流産と確定診断できる
[解答]○
[解説]
稽留流産というのは自覚症状がない流産のこと。診断としては一度心拍が確認できたものの消失、
7 週に心拍が確認できない、胎嚢が一週たっても不変の場合、診断できる。出血というのは正常
でも 2、3 割あるので症状ではない。
10.妊娠高血圧症候群は経産婦の方が高リスクである
[解答]× (経産婦→初妊婦)
[解説]
妊娠高血圧症候群のリスクファクターとしては
① 遺伝的要因:両親のどちらか一方の高血圧の既往
② 母体年齢:15 歳未満・35 歳以上
③ 母体体格:極端なやせ・肥満
④ 経産回数:初産婦に多い
⑤ 多胎妊娠
⑥ 合併症:糖尿病、本態性高血圧、慢性腎炎合併妊娠
⑦ 社会的文化的要因:低栄養・貧血・過労・低所得・低教育レベル
⑧ 抗リン脂質抗体症候群など
(3) 多胎について
11.日本人の場合、自然妊娠による双胎は一絨毛膜二羊膜性双胎の方が多い
[解答]○
[解説]
自然発生だと一絨毛膜二羊膜性双胎が多い。今は不妊治療で二絨毛膜二羊膜性双胎が多い。
12.双胎間輸血症候群は、一児の羊水過多と他児の羊水過小が特徴的である。
[解答]○
[解説]
供血児は循環血液量が減るので尿量が減り羊水は少なく、膀胱は小さい。重症だと腎不全。受血
児は多尿により羊水過多を来たし、膀胱は大きい。心不全となる。診断基準として羊水過多/羊水
過小、羊水深度が≧8 ㎝/≦2 ㎝がある。
13.双胎のうち一児の死亡を発見したら、直ちに生存児を娩出する
[解答]×
[解説]
二絨毛膜二羊膜性双胎ならそのまま。生存児への影響は否定的であるが、若干の早産傾向。
一絨毛膜二羊膜性双胎なら生存児が元気ならそのまま。ただし生存児の 10~30%に神経学的後遺
症が残るとされている。この原因として DIC(この場合早く出した方がよい)、生存児から死産児
へ血流が流れ一次的に血圧が下がること(→片方が死んだ時点で後遺症が出るかどうかが決まっ
ている)が言われている。現在では後者が支持されている。
14.二絨毛膜二羊膜性双胎は必ず二卵性である
[解答]×
[解説]
二絨毛膜二羊膜性双胎は①二卵性であるか、②1 個の受精卵が 1~3 日以内に分離する、のいずれ
か。一絨毛膜二羊膜性双胎と一絨毛膜一羊膜性双胎は一卵性。
15.わが国の多胎は増加傾向である
[解答]○
[解説]
不妊治療の結果として増加傾向。
(4) 妊娠・発生について
16.受精は子宮内でおこる
[解答]× (子宮→卵管膨大部)
17.受精卵は桑実胚で着床する
[解答]× (桑実胚→胞胚)
[解説]
桑実胚の段階で子宮腔に入る。胞胚(胚盤胞)で着床。
18.皮膚・神経系は外胚葉から分化する
[解答]○
[解説]
覚えましょう。
〈外胚葉由来〉
皮膚・羊膜・羊水・中枢神経系・感覚器
〈内胚葉由来〉
消化管・呼吸器・肝胆膵・膀胱
〈中胚葉由来〉
骨・筊肉・結合織・心臓・血管・腎臓・尿管・性器
19.心臓は内胚葉から分化する
[解答]× (内胚葉→中胚葉)
20.妊娠 10 週未満の胎児を胎芽という
[解答]○
[解説]
10 週未満を胎芽、10 週以降を胎児という。(8週を境にしてるものもありました)
(5) 偶発合併症妊娠と管理
21.妊婦へのインフルエンザワクチン接種は推奨される
[解答]○
[解説]
妊婦では重症化の恐れがあり、ワクチン接種は推奨される。
22.HIV 感染妊婦では分娩は選択的帝王切開を行う
[解答]×?(たぶん○・・・倉沢先生のプリントには選択的帝王切開とかいてありました)
[解説]
母子感染予防を目的に、妊娠中の抗 HIV 薬投与・選択的帝王切開・人工栄養・新生児に抗 HIV
薬予防投与を全て行う。
23.心疾患合併妊婦では一般的に帝王切開分娩が推奨される
[解答]× (帝王切開分娩→経腟分娩)
[解説]
経腟分娩が心臓に負担をかけないので推奨されている。分娩時の怒責は禁じ、無痛分娩・鉗子分
娩により負担を軽減する。
24.ヘパリンは胎盤通過性がない
[解答]○
[解説]
ヘパリンは胎盤通過性がないがないので静脈血栓症の治療に用いる。
25.インスリンは胎盤通過性がない
[解答]○
[解説]
糖尿病合併妊娠・妊娠糖尿病の治療では食事療法・インスリン療法を行う。SU 薬は胎盤通過性
があるので使わない。
(6) 乳腺の疾患について
26.乳腺炎は産褥期に多い炎症性疾患である
[解答]○
[解説]
授乳期に多い。
27.線維腺腫は、高齢女性に多い良性腫瘍である
[解答]×
[解説]
10 代後半~30 代の若年に好発。エストロゲンの影響が示唆されている。境界明瞭・可動性良好・
無痛。
28.乳腺症は、若年者に多い乳腺の変化である
[解答]×
[解説]
30~50 代に好発。両側性・境界明瞭・疼痛・緊満を伴うことあり。
29.炎症性乳がんは、時に乳腺炎と鑑別が問題になる悪性度の高い乳がんである。
[解答]○
[解説]
リンパ管浮腫による peau d’ orange が特徴的。なったらほぼ死亡。
30.乳がん健診は 40 歳以上の女性に対して触診とマンモグラフィーの併用が基本である
[解答]○
[解説]
40 歳以上は二年に一度マンモグラフィー併用検診をする。受診率が低いのが問題。また若い女性
は乳腺組織が多く脂肪が少ないため、マンモグラフィーでの検出が難しい。若い女性に有効な検
診方法をつくるのが課題。
(7) 乳がんについて
31.乳がんは一次予防が有効な悪性腫瘍である
[解答]×
[解説]
乳がんのリスクファクターとして女性ホルモンへの曝露・肥満・遺伝的要因などが挙げられてい
るが、はっきりしたことは不明。一次予防としてできることは健康的な生活をするくらい。した
がって二次予防である検診が重要となってくる。
32.薬物療法の重要性が増し、手術前に薬物療法を行う症例が増加している
[解答]○
[解説]
術前化学療法をすることで予後は変わらないが、がんが縮小するため温存率があがる。ちなみに
術後化学療法は予後を改善する。
33.乳房部分切除術が増加し、現在、術式の 60%を占める
[解答]○
34.センチネルリンパ節生検は、リンパ節郭清を省略するための手技である
[解答]○
[解説]
センチネルとは見張るという意味。乳房に張っているリンパ節を見てここに転移がなければリン
パ節郭清をしない。要は乳房から一番近いリンパ節に転移がなかったら先のリンパ節まで転移し
てる筈ないからリンパ郭清しなくていいって発想。
35.触視診、超音波およびマンモグラフィーで乳癌で診断された場合は、治療を行うべきであ
る
[解答]×
[解説]
診断は①視触診、②画像(マンモグラフィー・超音波)、③細胞診、の 3 つが全て一致して初めて
確定診断を行う。しなかった場合は組織診を行う。
(8) 産科手術について
36.妊娠 30 週で前期破水後、子宮内感染と子宮腔開大を認めたため頸管縫縮術を行った
[解答]×
[解説]
頸管縫縮術は予防的に 12~16 週のころに行うので×。34 週未満で前期破水をした場合、妊娠の
継続を図って抗菌剤・子宮収縮抑制剤を投与する。子宮内感染が疑われる場合、場合により分娩
誘発・帝王切開を行う。
37.帝王切開の際、全身麻酔は児に悪影響があるので禁忌である
[解答]×
[解説]
麻酔薬の殆どが胎盤を通過して胎児に移行するので必要最少量を用いることが大事であるが、禁
忌とまではいかない。全身麻酔は胎児仮死、大量出血など緊急帝王切開に用いられることが多い。
38.帝王切開の場合、術後肺塞栓は経腟分娩の約 5-10 倍の頻度で起こる
[解答]○
[解説]
帝王切開の合併症として、母体出血、膀胱・腸管出血・肺血栓塞栓症・腸閉塞、肝障害、感染な
どが挙げられる。
39.骨盤位経腟分娩は、週数が早く児が小さい方が娩出容易のため安全である
[解答]×
[解説]
骨盤位経腟分娩の要約として①妊娠 34 週以降であること、②推定児体重が 2000g 以上 3000g 未
満であること、③足位でないこと、④軽侮過伸展がないこと、⑤児頭骨盤不均等がないこと、が
ある。
40.帝王切開のリスクのひとつとして次回妊娠時に癒着胎盤や子宮破裂がある
[解答]○
[解説]
その他、前置胎盤・瘢痕部妊娠などがある。
(9) 乳汁分泌および母乳育児について
41.オキシトシンは乳汁を産生するホルモンである
[解答]× (オキシトシン→プロラクチン)
[解説]
オキシトシンは射乳反射・子宮収縮に関与するホルモン。
42.プロラクチンの基礎値は妊娠中のほうが分娩後より高値である
[解答]○
[解説]
脳下垂体から分泌され乳腺の発育を助ける。妊娠末期にピーク。
43.カンガルーケアは、母乳育児成功のための方法のひとつである
[解答]○
[解説]
カンガルーケアの利点としては、赤ちゃんの保温、母親の喪失感の軽減、母の常在菌をつける、
哺乳行動を覚えさせる→母乳育児成功、が挙げられる。
44.成熟した正常新生児であっても、母乳分泌開始までは糖水やミルクで水分を補わなければ
ならない。
[解答]×
[解説]
水・皮下脂肪を蓄えて生まれてくるので充分な体重で生まれたら母乳のみでよい。
45.母乳のみで栄養でき、補完食を必要としない期間は約一年間である。
[解答]× (一年間→半年)
[解説]
5、6 ヶ月になると離乳食をはじめます。
(10)
胎児・付属物・妊娠による母体の変化について
46.臍静脈は二本である
[解答]× (二→一)
[解説]
臍動脈は二本、臍静脈は一本である。
47.羊水はアルカリ性である
[解答]○
[解説]
破水の診断に羊水がアルカリ性であることを用いる。
48.アランチウス管(静脈管)は下大静脈へつながる
[解答]○
49.循環血漿量は妊娠 32 週ごろに最大となり非妊時の 40~50%増加する
[解答]○
[解説]
問題文の通り。このため心拍出量・腎血流量は増加、赤血球は増加に対応しきれず妊娠貧血とな
る。
50.腎の糖排泄閾値は上昇する
[解答]× (上昇→低下)
[解説]
腎の糖排泄閾値が低下するので、食後糖尿を認めることが多い。