2-4-9 経済的自由権全般 経済的自由に関する次の記述のうち、最も適切なのはどれか。 1. 職業選択の自由は、個人の尊厳と密接に関わる不可侵の人権であるため、社会生活に不可欠な公共の安全 と秩序の推持を脅かす事態を防止する目的での規制は許されるが、政策的な配慮に基づいて積極的な規制 を加えることは許されないと解されている。 2. 農地改革による買収農地である国有農地のうち買収目的の消滅した農地を旧所有者に売り払う場合にお いて、旧所有者に売却する価格を買収の対価相当額から時価の7割に相当する額に変更することは、社会 経済秩序の保持及び国有財産の処分の適正という公益上の要請と旧所有者の権利との調和を図ったもの であったとしても、法律で一旦定められた財産権の内容を事後の法律で変更するものであり、憲法第 29 条第1項に違反するとするのが判例である。 3. 憲法第 22 条第2項は、国籍離脱の自由を認めるものであるが、無国籍になる自由を含むものではないと 解されている。 4. 公衆浴場の適正配置規制を定めた公衆浴場法の規定は、国民保健及び環境衛生を保持するために設けられ たものであるが、必ずしも規制の手段としての必要性と合理性を有しているとはいえないから、憲法第 22 条第1項に違反するとするのが判例である。 5. 財産権の侵害に対し補償請求をする場合は、関係法規の具体的規定に基づいて行うことが要求されるため、 直接憲法第 29 条第3項を根拠にして補償請求をすることはできないとするのが判例である。 2-6-5 生存権までの総合問題 憲法第 25 条に関するア~オの記述のうち、適切なもののみを全て挙げているのはどれか。 ア.生存権の法的性格については、学説上複数の見解が存在する。このうち、いわゆるプログラム規定説は、 憲法第 25 条は、国民の生存を確保するための立法を行う法的義務を国に課しているが、国民の具体的権 利を認めたものではないとする見解であり、同説によれば、立法府がその義務を履行しない場合であって も、個々の国民が裁判所に対して国の不作為の違憲訴訟を提起することはできない。 イ.平成元年改正前の国民年金法が、20 歳以上の学生を、国民年金の強制加入被保険者として一律に保険料納 付義務を課すのではなく、任意加入を認めて国民年金に加入するかどうかを 20 歳以上の学生の意思にゆだ ねることとした措置は、著しく合理性を欠くものとして憲法第 25 条に違反するとするのが判例である。 ウ.憲法第 25 条の定める健康で文化的な最低限度の生活を維持するために必要な生活費は経済学等の学問的知見によ って容易に計量化が可能であり、所得税法における課税最低限を定めるに当たっては立法府の裁量を認める余地 はないから、同法の定める課税最低限が健康で文化的な最低限度の生活を維持するための生計費を下回ることを 立証すれば、当該課税最低限に基づく課税の憲法第 25 条違反を主張することができるとするのが判例である。 エ.社会保障上の施策における在留外国人の処遇については、国は、特別の条約の存しない限り、当該外国人 の属する国との外交関係、変動する国際情勢、国内の政治・経済・社会的諸事情等に照らしながら、その 政治的判断により決定でき、限られた財源下での福祉的給付に当たり自国民を在留外国人より優先的に扱 うことも許され、障害福祉年金の支給対象者から在留外国人を除外することは、立法府の裁量の範囲に属 する事柄であって、憲法第 25 条に違反するものではないとするのが判例である。 オ.社会保障法制上、同一人に同一の性格を有する2以上の公的年金が支給されることとなるべき場合において、 社会保障給付の全般的公平を図るため公的年金相互間における併給調整を行うかどうかは、立法府の裁量の範 囲に属する事柄と見るべきであり、また、この種の立法における給付額の決定も、立法政策上の裁量事項であ り、その給付額が低額であるからといって当然に憲法第25条に違反するものではないとするのが判例である。 1. ア、イ 2. ウ、エ 3. イ、オ 4. ア、ウ 5. エ、オ 1 2-4-9 の解説 財務専門官・国税専門官・労働基準監督官 正答:3 1. 適切でない。職業選択の自由などの経済的自由権は、社会的・経済的弱者を救済するための積極目的規制 にも服する。これは政策的観点から課されるものである。 2. 適切でない。まず、農地改革による買収で被った損失は、相当補償で足りるというのが判例ある。そして、 旧所有者に売却する価格を買収の対価相当額から時価の7割に相当する額に変更することは、公共の福祉 に適合するものであって、憲法 29 条に違反するものではないとしている(最大判昭 53・7・12) 。 3. ○ 適切である。国籍離脱の自由は保障されているが、無国籍になる自由はない。常識的に考えよう。 4. 適切でない。公衆浴場の適正配置規制は、憲法 22 条1項に違反しない(最判平・1・20、公衆浴場距離制限 事件) 。 5. 適切でない。財産権の侵害に対し補償請求をする場合は、関係法令の具体的規定に基づいて行うことが要 求されるが、関係法令に具体的規定がない場合には、直接憲法第 29 条第3項を根拠にして補償請求をす る余地がないわけではないとするのが判例である(最大判昭 43・11・27、河川付近地制限令事件)。 2-6-5 の解説 国家一般職 正答:5 ア.適切でない。プログラム規定説は、憲法 25 条の権利性自体を否定する考えで、生存権規定を単なる国の 政治的目標に過ぎないとするものである。本肢の説明は、抽象的権利説の内容となっている。 イ.適切でない。20 歳以上の学生に対して、任意加入を認めていた措置は、著しく合理性を欠くとは言えな いので、合憲である(最判平 19・9・28、学生無年金訴訟)。 ウ.適切でない。 「健康で文化的な最低限度の生活」を判断するには、高度に専門技術的な考察とそれに基づ いた政策的判断を要するので、立法府の広い裁量判断にゆだねられている(最判平元・2・7) 。 エ.適切である。 (最判平元・3・2、塩見訴訟) 。 オ.適切である。障害福祉年金と児童扶養手当との併給禁止規定は合憲(最判昭57・7・7、堀木訴訟)。事故が 2つ重なったからといって、稼得能力の喪失又は低下の程度が必ずしも事故の数に比例して増加するとは いえないからである。 2 3-1-24 国会全般 国会に関するア~オの記述のうち、最も適切なもののみを全て挙げているのはどれか。 ア.常会は、法律案等の議決のために毎年1回召集される。常会の会期は 150 日間と定められているが、両議 院一致の議決により、何度でも会期を延長することができる。 イ.内閣は、臨時の必要により臨時会を召集することができる。この場合の召集は、内閣の自由な判断による ため、内閣は、国会の閉会中新たに生じた問題についてのみならず、前の国会で議決されなかった問題の 処理のためにも臨時会を召集することができる。 ウ.特別会は、内閣総理大臣の指名のみを目的として、衆議院の解散による総選挙の日から 30 日以内に召集 される国会であり、常会と併せて召集することができない。 エ.法律案の議決について、衆議院と参議院が異なった議決をした場合において、両院協議会を開いても意見 が一致しないときは、衆議院が出席議員の4分の3以上の多数で再可決することによって、当該法律案は 法律となる。 オ.内閣総理大臣の指名の議決について、衆議院と参議院が異なった議決をした場合には、両院協議会が開か れることになるが、それでも意見が一敦しないときは、衆議院の議決が国会の議決とされる。 1. ア、イ 2. ア、ウ 3. イ、オ 4. ウ、エ 5. エ、オ 3 3-1-24 の解説 国家一般職 正答:3 ア.適切でない。 「何度でも」という点が誤り。常会は1回、臨時会と特別会は2回までと決まっている(国 会法 12 条2項) 。 イ.適切である。臨時会は内閣の判断で召集することができる。理由は問わない。 ウ.適切でない。特別会は、常会と時期が重なる場合には、常会と併せて召集することができる(国会法2条 の2) 。 エ.適切でない。再可決の要件が誤っている。「4分の3以上」ではなく「3分の2以上」である(憲法 59 条2項) 。法律案の場合には、両院協議会の開催は任意的である。 オ.適切である。憲法 67 条2項のとおり。 4 3-3-26 違憲審査権 裁判所の司法審査に関するア~オの記述のうち、判例に照らし、最も適切なもののみを組み合わせたものはどれ か。ただし、該当する選択肢が適切なものを全て挙げているとは限らない。 ア.裁判所法第3条第1項にいう「法律上の争訟」として裁判所の司法審査の対象となるのは、法令を適用するこ とによって解決し得べき権利義務に関する当事者間の紛争をいうと解され、裁判所は、具体的事件を離れて法 令の合憲性を判断することができない。 イ.日米安保条約のように、主権国としての我が国の存立の基礎に重大な関係を持つ高度の政治性を有する条約が 違憲であるか否かの判断は、内閣と国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断に従うべきであり、終局的には 主権を有する国民の政治的批判に委ねられるべきものであるから、純司法的機能を使命とする裁判所の審査に はおよそなじまない性質のものであり、裁判所の司法審査の対象にはならない。 ウ.特定の者が宗教団体の宗教活動上の地位にあることに基づいて宗教法人である当該宗教団体の代表役員の地位にある ことが争われている訴訟において、その者の宗教活動上の地位の存否を審理、判断するにつき、当該宗教団体の教義 ないし信仰の内容に立ち入って審理、判断することが必要不可欠である場合には、その者の代表役員の地位の存否の 確認を求める訴えは、裁判所法第3条第1項にいう「法律上の争訟」に当たらない。 エ.自律的な法規範を持つ社会ないし団体にあっては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ、 必ずしも裁判による紛争解決を適当としないものがあるが、地方公共団体の議会はその性質上、自律性を有す る団体であるため、当該議会が議員に対する懲罰として行った除名処分については、裁判所の司法審査の対象 にはならない。 オ.大学は、国公立であると私立であるとを問わず、一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を形成しており、大学 の単位授与(認定)行為は、一般市民法秩序と直接の関係を有すると認めるに足りる特段の事情のない限り、 純然たる大学内部の問題として大学の自主的、自律的な判断に委ねられるべきものであって、裁判所の司法審 査の対象にはならない。 1. エ、オ 2. ア、エ 3. イ、ウ 4. ウ、オ 5. ア、イ (参考)裁判所法 (裁判所の権限) 第3条 裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において 特に定める権限を有する。 (以下略) 3-4-2 財政(2) 予算に関する次の記述のうち、最も適切なのはどれか。 1. 予算が会計年度開始までに成立しなかった場合には、暫定予算によることになるが、暫定予算も会計年度 開始までに成立しなかったときは、暫定予算が成立するまでの間、内閣は、当然に前年度の予算を執行す ることができると解されている。 2. 国会は、内閣から提出された予算案の議決に際し、予算案の一部を排除削減する修正をすることはできる が、予算案の一部を増額修正することは一切できないと解されている。 3. 予算について憲法は衆議院の優越を認めている。予算案が衆議院で可決され、参議院でこれと異なった議 決がされた場合、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決されたときは、予算となる。 4. 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて一定の金額をあらかじめ予備費として設け、 内閣の責任において支出することができる。 5. 予算案には内閣が作成して国会に提出するもの及び議員の発議によるものがあるが、議員が予算案を発議 するには、衆議院においては議員 50 人以上、参議院においては議員 20 人以上の賛成が必要となる。 5 3-3-26 の解説 財務専門官・労働基準監督官 正答:4 ア.適切である。付随的審査制説そのまま(最大判昭 27・10・8) 。 イ.適切でない。条約については、 「一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法 審査権の範囲外のものである」とするのが判例である(最大判昭 34・12・16、砂川事件)。つまり、司法審 査が及ぶ場合がある。 ウ.適切である。 (最判平 5・9・7) 。 エ.適切でない。地方公共団体の議会による懲罰のうち、「除名処分」には裁判所の司法審査が及ぶ(最大判 昭 35・10・19) 。 オ.適切である。 (最判昭 52・3・15、富山大学事件)。「一般市民法秩序と直接の関係を有すると認めるに足り る特段の事情」とは、専攻科修了認定のような場合をさすものと考えておいてほしい。 3-4-2 の解説 国家一般職 正答:4 1. 適切でない。現行憲法下では、前年度の予算を執行することは認められていない。 2. 適切でない。予算案の一部を増額修正することもできる(国会法 57 条の3、財政法 19 条)。ただし、同 一性を損なうような大修正はできない。 3. 適切でない。衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決する必要はない。両院協議会を開いても 意見が一致しないときは、衆議院の議決がそのまま国会の議決となる(憲法 60 条2項)。 4. ○ 適切である。憲法 60 条2項。予備費は設定が義務ではないことも併せて覚えておこう。 5. 適切でない。予算案の作成・提出は内閣の権限である。よって、議員がこれを発議することはできない。 予算を伴う「法律案」を発議するためには、衆議院においては議員 50 人以上、参議院においては議員 20 人以上の賛成が必要となる(国会法 57 条)。 6
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