ゲーム理論(2015 年度後期) 教授 清水大昌 第 6 回 2015 年 10 月 28 日 [email protected] http://www-cc.gakushuin.ac.jp/˜20060015/lecture/game2015.html 今回は交渉ゲームの 1 回目。交渉力を上げるために必要なものとは何でしょう? 交渉ゲーム • 2 人のプレーヤーが協力したら得られるであろう合計利得をどのように分割しようかとい う問題を分析するゲーム。 • 捕った獲物の分配、遺産分割、企業提携における利潤の分配、企業と労働者の賃金交渉。 • 交渉において最終的に利得を多く得られるようになるような要因のことを交渉力という。 今回は均衡利得と交渉力との関係について考察してみよう。 同時提案ゲーム • 2 人が同時に自分の分け前を提案する。合計がある基準 (例えば 1) より小さいか同じであ れば、分け前を確保できる。逆に大きければ交渉が決裂して利得はお互い 0 となる。 • イメージは兄弟がケーキを分け合っている状態。二人が同時に自分が欲しい割合を宣言す る。例えば兄が 0.5、弟が 0.3。この場合にはそれぞれの値が確保できる。 • 一方、兄が 0.8、弟が 0.7 だと、けんかになり、お母さんがやってきてケーキを取り上げて しまうので 2 人の利得は (0,0) となる。 • 今日の分析で注意してほしい点は、各プレーヤーは 自分の利得にしか興味がないこと。相 手へのやっかみ、羨望、または利他性もここでは考えない。興味がある方はそういうこと がある場合を拡張として考えてみることをお勧めします。 • 例として、ケーキの大きさを 4、戦略を 0 から 4 の整数として戦略型で表現してみましょう。 弟 兄 0 1 2 3 4 0 0,0 1,0 2,0 3,0 4,0 1 0,1 1,1 2,1 3,1 0,0 2 0,2 1,2 2,2 0,0 0,0 3 0,3 1,3 0,0 0,0 0,0 4 0,4 0,0 0,0 0,0 0,0 利得表: 同時提案ゲーム • ここでは合計でケーキを無駄なく分ける分け前の組は全てナッシュ均衡。つまりパレート 効率的である。 1 • また、全取りをお互い主張する (4, 4) もナッシュ均衡。(意味があるかは不明) • ここで、outside option (代替手段) について紹介しよう。これは交渉が決裂した際に得られ る利得のことであり、交渉力を反映する要素の一つ。outside option のことを threat point (威嚇点・脅し点) 、交渉の不一致点、現状点とも呼ばれ、交渉が決裂したときの利得、ま たは機会費用とも考えることも出来る。 • 例えば、けんかになってケーキを取り上げられた際、優しいおばあちゃんがやってきてお せんべいを兄弟にあげるとする。おせんべいの価値が兄にはケーキ 1 つ分、弟には 2 つ分 だとすれば、戦略型表現では次のようになり、均衡で得られる利得は脅し点より同じか高 い値になることが分かる。 弟 兄 0 1 2 3 4 0 0,0 1,0 2,0 3,0 4,0 1 0,1 1,1 2,1 3,1 1,2 2 0,2 1,2 2,2 1,2 1,2 3 0,3 1,3 1,2 1,2 1,2 4 0,4 1,2 1,2 1,2 1,2 利得表: 同時提案ゲーム (おばあちゃんバージョン) 割引因子 • 次から考えるゲームの前に、そこで扱う概念を紹介する。2 期間以上ある問題で、今期と 来期で同じ財や金額に対して、プレーヤーが感じる評価額が違うことがある。例えば、同 じ 1 万円でも、今年もらえるものと来年もらえるものでは前者の方が価値が高い。なぜな ら、(1) 銀行に預ければ利子分だけ得をするから。(2) 来年に生きているか分からないか ら。(3) 今遊びたいから。 • このような評価額の違いを描写するときに使われるのが割引因子である。 • (1) の解釈では、来年までに利子 r のもとで預金できれば、今年の 10000 円は来年は 10000(1+ r) 円になっている。同じように、来年の 10000 円を確保するためには今年は 10000/(1 + r) 円預金すれば良いことが分かる。この 1/(1 + r) ≡ δ を割引因子と呼ぶのである。 • これから毎年 10000 円を得られる債権は今いくらの価値があるのだろうか?これを割引現 在価値と呼ぶ。求める際には等比数列の和の考え方を使うことになる。 • (2) の解釈では、δ を ゲームが続く確率 と考えることができる。毎年 10000 円もらえるけ ど、この債権国が毎期 (1 − δ) の確率でデフォルトする場合の計算式は、上の式と一致する。 • (3) は分かりやすく言うと我慢強さに相当する。割引因子が低い人は今期を重要視して来 季のことはあまり興味がない。つまり近視眼的である。割引因子が高い人は今期が最も重 要だが来期以降も重要度が高い。つまり我慢強いことと対応するのである。 2 最後通牒ゲーム • ここから逐次手番ゲームにおいて交渉を行う場合を考えていこう。 • プレーヤー A が先に提案し、プレーヤー B がそれを受け入れるか拒絶するか選ぶ。 • 最後通牒とは、自分の提案が受け入れられなければ合意しないという提案。 • 図 6 − 1 を参照。x はプレーヤー A の取り分としましょう。 • 提案 x は実数の値でできるため、サブゲームの数がとても多い。そのため、図のような表 記を行い、代表的な 1 つのサブゲームだけ表す。 • サブゲーム完全均衡での結果は基本的に提案者 (A さん) の全取り。戦略の組み合わせ (x = 1 を提案、相手のどの提案に対しても相手の提案を飲む。) がサブゲーム完全均衡。 • 提案する権利が交渉力となり重要であることが分かる。 • Outside option がある場合にはその分だけは保証される。例えば、弟の脅し点としておば あちゃんのせんべい(ケーキ 0.4 分) があるとする。その場合のサブゲーム完全均衡は (兄 は x = 0.6 を提案、(兄が x ≤ 0.6 を提案していれば受け入れ、それ以外なら拒絶)) という 戦略の組み合わせとなる。 2 期間の交互提案交渉ゲーム • それでは 2 期間の交互提案交渉ゲームを考えてみよう。 • 最初に B さんが (A さんの) 取り分 x を提案する。A さんが OK すればその取り分で合意。 拒否すれば次の期になり、上記の最後通牒ゲームの状況になる。 • 注意するのは、拒否して次の期になった時点で、各プレーヤーの利得が一回割り引かれる、 つまり割引因子 δ が掛けられる。時間が経つとアイスクリームが溶けてしまうイメージ。 • 図 6 − 2 を参照。2 期目のサブゲームは(1 回割引されていること以外) 上記の最後通牒 ゲームと同じ。それを踏まえて 1 期目に B さんは提案を行う。 • サブゲーム完全均衡の結果は、第 1 期での提案で合意、取り分は (δ, 1 − δ) となる。2 期 目の A さんの利得 δ が威嚇点になっていることが分かる。 • 割引因子が低いほど A さんは我慢できず第 1 期で交渉を終えたいため、自分の取り分が 減ってしまうのである。 まとめと次回 • 交渉ゲームにおいては、均衡ではパレート効率性が成り立つ。 • 交渉力を上げる要因: 威嚇点、割引因子、最後に提案できる権利。 • 次回: 3 期間以上の交互提案。割引因子がプレーヤーごとに違う場合。ナッシュ交渉解。 3
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