特別支援教育コーディネーターに対する学級担任の意識に関する調査研究 福田 Ⅰ 問題と目的 特別支援教育を推進するためのキーパーソン Ⅲ 充 結果及び考察 1 回収率及び有効回答数 として,特別支援学校に限らず,すべての小・中 学級担任 280 名に配布し,221 名から回答が得 学校に特別支援教育コーディネーター(以下,コ られ,回収率は,78.9%であった.また,221 名 ーディネーターとする)を指名する構想を示した の回答のうち,有効回答数は 210 名であった. (文部科学省,2003).コーディネーターや学級 2 コーディネーターに対する意識と要因の影響 担任を対象とした先行研究(新井,2005;畑・ コーディネーターに対する学級担任の意識が,要因に 小貫,2006;国立特別支援教育総合研究所, 影響を受けるかどうかを検討するために,コーディネ 2006;三宅ら,2008;柘植ら,2007)から「コ ーター意識項目から 5 件法により算出した平均値 ーディネーターの役割が教職員に周知されるこ を従属変数とし,学校規模(2;大, 小中)×性別 との必要性,両者が理解や協力を求めていること, (2;男性,女性)×相談経験(2;あり, なし) コーディネーターの役割について認識や理解が を独立変数とした 3 要因の分散分析を行った.学 されていない現状,両者の理解が進むことでコー 校規模は,大規模校と小中規模校とし,性別は,男性と ディネーターの職務が円滑になること」という知 女性とし,相談経験を相談経験ありと相談経験なしとし 見が明らかにされている.しかし,先行研究はコ た.学校規模と性別の交互作用が,4 つの項目でみ ーディネーター導入当時の調査が多く,意識の実 られた.Table2 から大規模校では女性の意識が高 態を掴むことにとどまっている.また,秋山 く,小中規模校では男性の意識が高い傾向が伺え (2004) ,室岡ら(2005)は,学校規模,特別支 た.また,性別と相談経験の交互作用が 1 つの項 援教育の経験等の要因によって校内支援体制や 目でみられた.Table3 から相談経験のある群では 特別支援教育に対する意識に違いがあることを 男性の意識が高く,相談経験のない群では女性の 報告している.しかし,コーディネーターに対す 意識が高い傾向が伺えた.さらに,学校規模,性別, る学級担任の意識に影響を与える要因について 相談経験の主効果が複数の項目でみられた の検討は行われていない現状にある. (Table4,5,6).具体的には,小中規模校よりも大 以上を踏まえ,本研究では,小・中学校の学 規模校の方が,女性よりも男性の方が,相談経験 級担任を対象に調査を行い,コーディネーター なし群よりも相談経験あり群の方の意識が高いこ に対する学級担任の意識の実態と学級担任の とを意味している.つまり,コーディネーターに 意識に影響を与える要因について明らかにす 対する意識が,学校規模,性別,相談経験の有無 ることを目的とした. といった要因に影響を受けることが示唆された. Ⅱ 一方,飯島(2008)は,コーディネーターが学級 方法 畑・小貫(2006),国立特別支援教育総合研究 担任の特別支援教育に対する意識を育てるために 所(2006)を参考に質問項目を設定し,小・中学 「学級担任への支援」を積極的に行っていくべき 校の学級担任やコーディネーターを対象とした 3 であると述べている.本研究では,コーディネー 回の予備調査から 18 項目を設定した(Table1). ターへの相談経験を有している学級担任ほど意識 調査対象は,C県 D 市及び E 村の公立小・中学 が高いという示唆が得られたため,飯島(2008) 校の学級担任 280 名とし,郵送により配布した. の知見と多尐の違いがみられるが,コーディネー Table1 コーディネーター意識項目 No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 項目 特別支援教育の理解・啓発を職員全体に促していると思いますか 校内での支援の流れを職員全体に説明していると思いますか 校内の特別支援教育の取組みを保護者に説明していると思いますか 支援を必要とする子どもの様子等について保護者と情報を交換していると思いますか 学校全体の協力体制が得られるように働きかけていると思いますか 校内において機能していると思いますか 支援を必要とする子どもについて話し合いの場を開くように呼びかけていると思いますか 支援を必要とする子どもの様子について把握していると思いますか 障害についての専門的な知識をもっていると思いますか 支援を必要とする子どもの支援方法についての専門知識をもっていると思いますか 支援を必要とする子どもの発達についての専門知識をもっていると思いますか 外部専門機関との連絡を取り合っていると思いますか 専門機関や特別支援学校のコーディネーターとの繋がりをもっていると思いますか 校内において,複数のコーディネーターが必要であると思いますか 校内では,コーディネーターを含めた教員同士での意見交換や議論を行っていますか あなたは,これまでにコーディネーターの業務に協力したことがありますか あなたは,コーディネーターの業務に協力したいと思いますか あなたは,職員室等でコーディネーターの方と日常的に会話をしていますか No. 1* 2 ** 5* 7* No. 18 * Table2 学校規模×性別の交互作用について 大規模校 小中規模校 男性 女性 男性 Mean(SD) n Mean(SD) n Mean(SD) n 3.60(0.88) 67 3.85(0.82) 32 3.69(0.69) 53 3.49(0.86) 68 3.81(0.86) 32 3.63(0.70) 53 3.56(0.92) 68 3.87(0.73) 32 3.72(0.72) 53 3.46(0.80) 68 3.79(0.78) 32 3.50(0.62) 53 n 57 57 57 57 n 45 女性 Mean(SD) 3.36(1.02) 3.13(0.98) 3.28(1.08) 3.38(0.90) Table3 性別×相談経験の交互作用について 相談経験あり 相談経験なし 男性 女性 男性 女性 Mean(SD) n Mean(SD) n Mean(SD) n Mean(SD) 4.00(0.56) 85 3.71(0.70) 43 2.95(0.87) 33 3.21(1.05) *p<.05 **p<.01 ター自身が積極的に働きかけていくだけではな 考慮して学級担任に働きかけていく必要があり, く,学級担任自身もコーディネーターに対して相 学級担任もコーディネーターに対して積極的に相 談を求め,両者が連携していくことが必要である 談を求めていくことが必要であろう. と考えられる.教職員間の連携について,淵上 3 コーディネーターに対する学級担任の意識構造 (2005)は,教育活動を含めた組織全般について, コーディネーターに対する学級担任の意識構造 教師が相互に情報を共有しながら共通理解を深 を明らかにするために,因子分析を用いた.因子 め,協力し合う協働関係が重要であると述べてお 分析は, コーディネーター意識項目の 18 項目を共 り,学級担任とコーディネーターが互いに連携し 通性の初期値を 1 として,主成分分析法バリマッ 合い, 協働していくことの必要性を支持している. クス回転により 2 因子を抽出した.2 因子による 特に,コーディネーターは,相談経験の有無を 累積説明率は,64.3%であった. No. 4 ** 6 ** 12*** 13 ** Table4 学校規模の主効果 大規模校 小中規模校 n Mean(SD) n Mean(SD) 125 3.68(0.98) 85 3.25(1.15) 125 125 125 3.71(0.88) 4.03(0.69) 3.92(0.71) 85 85 85 3.33(1.11) 3.59(0.80) 3.59(0.91) n Mean(SD) n Mean(SD) Table8 因子Ⅱと要因との関係性 独立変数 標準化回帰係数 t値 担任経験 0.17 2.66 ** コーディネーター 0.41 5.61 *** 相談経験 *p<.05 **p<.01 ***p<.001 4 コーディネーターに対する意識と要因の関係性 88 3.18(0.85) 116 3.09(0.81) コーディネーターに対する学級担任の意識と要 Table5 性別の主効果 男性 No. 16 * Table7 因子Ⅰと要因との関係性 独立変数 標準化回帰係数 t値 学校規模 0.25 3.39 ** 教職年数 0.48 2.09 * コーディネーター 0.29 3.73*** 相談経験 女性 因との関係性を検討するために,因子分析より得 Table6 No. コーディネーター相談経験の主効果 相談経験あり n Mean(SD) n 相談経験なし Mean(SD) 1 *** 131 3.88(0.78) 78 3.22(0.90) 2 *** 132 3.73(0.82) 78 3.18(0.95) 3 ** 132 3.40(0.93) 78 2.99(0.94) 4 ** 132 3.67(1.03) 78 3.23(1.10) 5 *** 132 3.83(0.81) 78 3.24(0.94) 6 *** 132 3.82(0.87) 78 3.12(1.05) 7 ** 132 3.70(0.74) 78 3.31(0.87) 8 *** 132 4.11(0.74) 78 3.54(0.89) 9 *** 132 3.96(0.84) 78 3.50(0.83) 10 ** 132 3.86(0.86) 78 3.50(0.83) 11 *** 132 3.86(0.83) 78 3.45(0.84) 12 *** 130 3.99(0.77) 78 3.62(0.70) 13 *** 132 3.92(0.83) 78 3.56(0.73) 15 *** 132 3.73(0.64) 78 3.19(0.77) 16 *** 129 3.36(0.71) 75 2.75(0.87) 17 *** 131 3.91(0.58) 78 3.51(0.69) *p<.05 **p<.01 ***p<.001 因子Ⅰは,コーディネーターの役割や業務を認識 しているかに関連する因子であると解釈し,「コ ーディネーター役割・業務性」と命名した.因子 Ⅱは,コーディネーターとのかかわりに関する因 子と解釈し,「コーディネーターかかわり性」と 命名した.因子Ⅰの支配力が大きいため,コーデ ィネーターに対する学級担任の意識構造は,等質 的なものであることが考えられる. られた各因子のコーディネーター意識得点を従属 変数とし,要因を独立変数とした重回帰分析を行 った.Table7,8 からコーディネーターに対する意 識は「学校規模,教職経験年数,特別支援学級担 任経験,コーディネーター相談経験」と正の相関 がみられた.つまり,学校規模が大きい,教職年 数が長い,特別支援学級の担任経験やコーディネ ーターとの相談経験を有していることがコーディ ネーターに対する意識を高める要因であろう.特 に,コーディネーターに対する意識の向上のため には相談経験を考慮するべきであると考える. 文献 秋山邦久(2004)特別支援教育に対する小中学校教員の 意識に関する調査研究.文教大学人間科学部人間科学 研究,26,55-66 新井英靖(2005)通常学校の特別支援教育コーディネー ターの役割および校内での地位に関する調査研究.発達 障害研究,27,76-82. 淵上克義(2005)学校組織の心理学.日本文化科学社. 畑譜美・小貫悟(2006)教員及び特別支援教育コーディ ネーター自身のニーズ調査-特別支援教育コーディネ ーター導入時に求められる支援体制について-.LD研 究,15(1) ,118-133. 飯島知子(2008)小学校通常学級における発達障害の特 性を生かした授業改善に関する研究-特別支援教育コ ーディネーターの行う「校内研修会」からの検討-.特 別支援教育コーディネーター研究,4,1-11. 国立特別支援教育総合研究所(2006)「特別支援教育コ ーディネーターに関する実際的研究」報告書.第4章小 学校・中学校の特別支援教育の推進に関する調査報告 書,130-159. 三宅康勝・横川真二・吉利宗久(2008)小・中学校にお ける特別支援教育コーディネーターの職務と校内支援 体制.岡山大学教育実践総合センター紀要,8,117-126. 文部科学省(2003)今後の特別支援教育の在り方につい て(最終報告) . 室岡徳・恵羅修吉・大庭重治(2005)通常の学級に在籍 する軽度発達障害のある児童に対応した校内支援体制 に関する学級担任の意識.発達障害研究,27,316-330. 柘植雅義・宇野宏幸・石橋由紀子(2007)特別支援教育 コーディネーターに関する全国悉皆調査.特別支援教育 コーディネーター研究,2,1-76.
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