Lecture_jiang_yi_zi_liao_files/有明高専 有機化学I 小テスト1解答

有機化学 I 小テスト 2015.4.21 担当:石川勇人
問題1:りん(P)の基底状態の電子配置を示せ。また、りん(P)の価電子はいくつ
か答えよ。
解答に当たって 原子核には陽子と同数の中性子が存在し、質量数とはその和である。電子は存在して
いても、その質量数は極めて小さい。周期表において原子番号は陽子の数に等しい。
従って、同位体を考えなければ原子の質量数は原子番号の2倍となる。正確には中性
子の数か異なる同位体がある。また、原子は通常陽子の数を相殺するだけの電子を持
つ。(陽子が+で、電子が-)従って、原子番号から電子の数が導き出せるはずであ
る。 原子核(陽子+中性子)を取り巻く殻について、復習する。原子核から近い順に第一
殻、第二殻、第三殻と存在する。第一殻には一つの S 軌道がある。第二殻には S 軌道
と3つの P 軌道(Px, Py, Pz; x, y, z は軸を表す)がある。第三殻には S 軌道、3
つの P 軌道、5つの d 軌道がある。それぞれの軌道には電子が2つ、逆のスピンを持
って入る。また、3つの P 軌道には一つずつ入って行き、最終的に6つの電子が入る。
d 軌道も同様である。最外殻とは電子が入っている最も外側の殻のことであり、最外
殻にある電子を価電子と呼ぶ。 では、りん(P)について電子配置を考えてみよう。 りん(P)の原子番号は15である。すなわち、原子核に15個の陽子を持ち、殻に
15個の電子を持っている。 順番に軌道に入れてみよう。下のような図が書けるようにしておく。 りんの最外殻は第三殻である。したがって価電子の数は5となる。 )
Z
(
d
1s
2s
2px
2py
2pz
3s
3px
3py
3pz
3dz2 3dx2-y2 3dxy 3dyz 3dzx
P
)
)
周期表を全部覚えろとは言わないが、せめて Ar(アルゴン)までは原子番号とともに
頭に入れておくように!また、希ガスがなぜ安定なのか。理解しておくこと。 問題2:どちらの結合の極性が大きいか答えよ。
H−F と H−I
H−OH と H−SH
Na−Cl と Na−H
イオン結合、極性共有結合、非極性共有結合の理解と、電気陰性度について問う問題
である。 イオン結合とは符号の異なるイオン同士の引力によって形成される結合である。では、
正(+)や負(-)に帯電する原子はどのようなものがあるのか? 正に帯電するためには電子を1つもしくは2つ失って最外殻の電子を満たすような
原子である。すなわち、アルカリ金属(Li, Na, K, Rb, Cs, Fr)やアルカリ土類金
属(Be, Mg, Ca, Sr, Ba, Ra)である。当然ながら、アルカリ金属は Li+であるのに
対し、アルカリ土類金属は Mg2+というように失う電子の数によってカチオンの数が異
なる。アルカリ金属、アルカリ土類金属の電子配置を確認しよう。 負に帯電するためには電子を受け取って最外殻が満たされる原子である。すなわち、
ハロゲン(F、Cl、Br, I, At)が相当する。容易に電子を受け取って F-のようにアニ
オンとなる。ハロゲンの電子配置を確認しよう。 極性共有結合とはイオン結合のように完全に分極していないが、電子に偏りが生じて
いるような結合である。例えば、H-Cl は H がδ+、Cl がδ-のように結合間に電荷の
偏りが生じている。では、どのような場合に偏りが生じるのか?これには電気陰性度
が大きく影響している。周期表の右上に行くほど電気陰性度が高い。原子番号が小さ
いということは原子核に近く、原子核は正(+)に帯電していることを思い出そう。
原子核の近いほうがより電子を受け取りやすい。もちろん、最外殻の電子配置により
周期表上、右に行くと電子を受け取りやすくなることも関係している。(希ガスは除
く。) 非共有結合は同じ原子同士の結合や、炭素ー水素間の結合など、ほとんど分極がない
場合の結合様式である。 したがって、解答は H-F > H-I (電気陰性度が F の方が大きい) H-OH > H-SH (電気陰性度が O の方が大きい) Na-Cl > Na-H (NaCl はイオン結合、NaH は極性共有結合。イオン結合の分極は最も大
きい。比べるまでも無し。) 問題3:プロトンとヒドリドイオンの違いについて説明せよ。
同じ水素原子から派生するプロトンとヒドリドについて理解できているかを問う問
題である。 水素原子は 1s 軌道に一つの電子を持った原子である。この原子は電子を1つ受け取
ることも、放出することもできる。電子を一つ受け取った場合、水素原子は H-となり、
ヒドリドと呼ばれる。電子を一つ放出した場合は H+となり、これがプロトンである。 ヒドリドとプロトンの化学種は有機合成において、非常に重要な反応剤となるので、
しっかり理解しておくように!
解答は http://www.sci.kumamoto-u.ac.jp/~ishikawa/ishikawa-lab/Top.html の Lecture(講義
資料)に掲載する。必ず確認しておくこと。