東京の空を飛ぶコウモリ - TOKYO-BIRDERS ~ 日本野鳥の会東京

野 鳥・Tokyo
東京の空を飛ぶコウモリ
コウモリの会評議員 大沢啓子 大沢夕志
夏の夕暮れ時、新宿の高層ビルを背景にひらひ
リは洞窟や隧道な
らと小さな生き物がたくさん飛び回る。アブラコ
ど に 棲 む が、 コ テ
ウモリだ。ビルや人家の隙間をねぐらとしていて、
ングコウモリは枯
都心のおしゃれな町にも、下町の水路にも、郊外
れて丸まった葉の
の住宅地でもごく普通に見られるいちばん身近な
中で寝ていること
野生哺乳類だ。餌となる虫が集団で発生するのと、
も あ る。 ヤ マ コ ウ
飛びながら水を飲むため、水辺には特にたくさん
モリは、翼開長 40
見られる。餌や、人工物をねぐらにしているとこ
㎝くらいある大き
ろはツバメに似ているのだが、ツバメと違うのは、
なコウモリで、寺社境内にあるような大きな落葉
口から超音波を出して返ってくるエコーを聞い
樹の樹洞によくいて、ヒナコウモリとともに川の
て、虫を捕まえたりまわりのようすを確認してい
中流域に採餌に来る。1997 年には原生林に棲む
ることだ。アブラコウモリの場合、この超音波は
とされていたモリアブラコウモリが桧原村で確認
1000 分の5秒ほどの短いパルスで、虫に近づく
された。東京の場合は市街地に隣接する地域で見
と更に短いパルスを頻繁に発する。バットディテ
られる。
クターという超音波を可聴音に変換する装置を使
伊豆諸島では、キクガシラコウモリとコキクガ
うと、虫を捕まえる瞬間にはブルッという細かい
シラコウモリの他に、大島でユビナガコウモリが
音の連打となるのがわかる。姿が見えれば、その
見つかっている。
とき空中で急旋回をするのが確認できる。
小笠原諸島には、翼開長1m近くあるオガサワ
コウモリは世界に 1300 種近くいて、南極や北
ラオオコウモリが生息している。超音波は使わず
極以外のほとんどの地域に生息している。さまざ
有視界飛行で果実や葉を食べる。日本、そして東
まな食性のものがいるが、昆虫食か植物食が多い。
京の固有種なので、バードウォッチングで訪れた
ねぐらも洞窟だけでなく、樹洞、建物や橋などの
ときにでも見られたらラッキーだ。
隙間、木の枝にぶら下るなどさまざまだ。
最近はコウモリ観察会もあちこちで行われてい
日本には 37 種のコウモリが記録されている。
るので、たまには夕暮れ時のバットウォッチング
東京は市街地から 2000 m級の山、そして島嶼と
はいかがだろう。コウモリの音声をバットディテ
変化に富んだ環境を含むため、そのうちの 14 種
クターで聞かせてもらおう。
の記録がある。都心や多摩地域ではアブラコウモ
リの他に冬季にときどきヒナコウモリが見つかっ
もっと詳しく知りたい方は
ている。それ以外のコウモリは、通常奥多摩地域
*身近で観察するコウモリの世界 : 町を飛ぶ不思議
か島嶼に生息している。
な野生動物
(子供の科学★サイエンスブックス)
多摩西部ではモモジロコウモリが水面すれすれ
大沢夕志・大沢啓子著 誠文堂新光社
を飛びながら虫を食べている。このモモジロコウ
*コウモリの謎 : 哺乳類が空を飛んだ理由
モリやキクガシラコウモリ、コキクガシラコウモ
大沢啓子・大沢夕志著 誠文堂新光社
ユリカモメ No.707 2014.9
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