化 学の 本 だ な 元素の事典 万物を構成する 元素の意外な エピソードが満載 ——どこにも出ていないその歴史と秘話 細矢治夫 監修, 山崎 昶 編著 (社) 日本化学会 編集 A5 判・328 頁・定価 3990 円 (発行:みみずく舎,発売:医学評論社) 素の歴史の古さを見ながら比較すると イ暗殺事件などきわめて新しい情報まで ウム(Rg )までの 111 種類の元素につ 面白い.たとえば, 金には英語の gold 網羅していることに驚かされた.これは いて,原子番号順にまとめた事典であ に関連したゲルマン系の呼び方や元素 多くの本を執筆されてきたことで定評の る.まず最初にその元素の物性値など 記号 Au に関連のあるラテン系の呼び ある著者の豊富な知識や情報収集力なら の定量的データをまとめた一覧表があ 方がある.前者は「黄色」 , 後者は「オー ではのものであり,感服せざるをえない. り,次にその元素の名称を世界三十数 ロラ(暁の神) 」に由来し,その言葉の ただし,頁数が限られているために か国の元素表現で表し,そして性質な 広がりが黄金の歴史とどのようにかか 止むをえないことではあるが,情報の らびにその元素にまつわる歴史や逸 わってきたのか興味深い. 原点,参考文献などは詳細に記載され 本書は,水素(H )からレントゲニ 話,話題を各元素ごとに 1 ∼ 4 頁で わかりやすく記述している. 通常,わからないことを調べたいと ていない.もし,大学などの講義に用 きに使うのが事典の目的であるため, いるならば,本書に記述されているキー 元素に関する事典は,物性値だけの 一般的に全部を読み通すためにはつく ワードや巻末の「参考にした辞典類」を コンサイスなものから,分厚い大型の られていない.さらに,なるべくたく もとに,情報の原点を調査する必要が ものまでさまざまある.いくつかは英 さんの情報を網羅することが重視され あるだろう. 語と日本語で出版されているが,和書 るため,一つの項目においてもストー しかし,そのような堅い用途ではな については翻訳本が多い.それらの従 リー性に乏しい.ストーリー性を重視 く,世代を超えた多くの読者が元素の 来本と比較してこの『元素の事典』の すると,大事典にならざるをえない. 話を楽しみたいときには,まさに打っ 特徴は,各元素の物性値と話題を適度 しかし本書は,ストーリー性をもた な長さで取り込んだ点,ならびに翻訳 せつつ,コンサイスにまとめることを 省が推進している「一家に一枚周期表」 本でなく著者の書き下ろしである点だ 見事に達成している.実際,この書評 を眺めながら,ふと知りたくなった元 といえる.日本独自の話題もふんだん を書くために本書を読み終えたとき, 素の歴史と科学をこの本で深めること て付けの魅力的な本である.文部科学 に盛り込まれているのは,翻訳本には 小説を読み終えたときのような満足感が をお勧めしたい. ない魅力である.また,元素名が世界 あった.そして,日本でのはじめてのダ 各国の言葉で紹介されているのも,元 イヤモンド発見やポロニウムによるスパ 評者:西原 寛 (東京大学大学院理学系研究科) 売れすじ 理 工書 Best 10(12 月1〜25 日,ジュンク堂書店京都店調べ) 1 『藤井旭の天文年鑑 2010 年版』 藤井 旭 著 誠文堂新光社, 定価 735 円 2 『天文年鑑 2010 年版』 天文年鑑編集委員会 編 誠文堂新光社,定価 1050 円 3 『完全なる証明 ── 100 万ドルを拒否した天才数学者』 M. ガッセン 著 文藝春秋,定価 1750 円 56 化学 Vol.65 No.2(2010) ❹『たまたま ──日常に潜む「偶然」を科学する』L. ムロディナウ 著,ダイヤモンド社,定価 2100 円 ❺『2010 年版 天文手帳 ──星座早見盤付天文ポケット年鑑』 浅田英夫・石田 智 著,地人書館,定価 910 円 ❻『絶滅した奇妙な動物』川崎悟司 著,ブックマン社,定価 1575 円 ❼『高校数学でわかるフーリエ変換 ──フーリエ級数からラプラス変換まで』 竹内 淳 著,講談社ブルーバックス,定価 924 円 ❽『物質のすべては光 ──現代物理学が明かす,力と質量の起源』 F. ウィルチェック 著,早川書房,定価 2415 円 ❾『math stories 変化をとらえる』高橋陽一郎 著,東京図書,定価 1890 円 ❿『道具としてのベイズ統計』涌井良幸 著,日本実業出版社,定価 2520 円
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