水稲の有機栽培における高品質安定生産技術に関する研究 −追肥施用が収量・品質や労働に及ぼす影響− 愛媛大学農学部 キーワード 1.緒言 ○上野秀人・梅田紀子,(有)あぐり 西山周 水稲,有機栽培,有機質肥料,追肥時期,栽植密度 近 年 , 食 の 安 全 性の 問 題 から 有機 栽 培 米の 需 要 が高 ま り , 水稲 の 有 機栽 培 面 積が 増加しつつある。一方,農業労働力の高齢化が進み,水田の維持管理が困難になる場合もあ り,農業法人による借地を利用した有機農業も増加してきている。しかし,このような農業形態 においては,1)個々の農地の土壌肥沃度に対する情報の蓄積がないこと,2)比較的肥沃度が 低 く , 作 業 性 の 低 い 農 地 が 供 用 さ れることが多いこと,3)有 機質肥料の肥効は緩慢であり,施 肥 時 期 や 量の 設 定 が難 し い 等の 理 由 で, 良食 味 米 の安 定 性 生産 に は , 多 く の課 題 が 残さ れ て いる と言 える 。本研 究 では ,収量 増加や 品質向上 につながる 追肥時 期や苗費 用や労 力低減の ための疎植栽培について検討を行った。 2 . 材 料お よ び方 法 供 試品 種 は ヒノ ヒ カ リ を 用 い , 標準 栽 植 密度 と して 条間 21cm,株間 30cm で栽培した。栽培試験は,愛媛県松前町および伊予市の2圃場(うち1圃場は,緑肥施用水田) で行い,それぞれの圃場を5分割し,追肥施用時期と疎植効果について5処理区を設けた(表 1 ) 。 測 定 は 各 処 理 区 4 反 復 で 行 っ た 。 供試 し た 有 機質 肥 料 は, 菜 種 油粕 , 米 ヌカ ,ぼ か し 肥料 ( 米ヌカ,カツオ節粕,オカラ混合発酵物)であり,施用量は,どの処理区とも450kg/10aとした。 処理 区は,無 追肥区 (基 肥450kg/10a+追肥0kg/10a),移植40日後追肥区(基肥300kg/10a+追 肥150kg/10a,以下同様),移植50日後追肥区,移植60日後追肥区,疎植(栽植密度1/2)+移植5 0日 後 追 肥 と し た 。 疎植 栽 培 は, 有 機 栽培 に おい て 問題 と なる 病害 虫 の 防除 効 果 を 期 待し て設 定した。測定項目は,水稲収量,品質,目視評価による虫害,病害,欠株,雑草被害および労働 時間とした。また近隣の慣行水田を比較対象とした。 3.結果および考察 供試した両圃場において,収量に対する追肥の効果が認められ,特に移 植後 50日目の 追肥で最も効果 が高くなった(図1)。緑肥なし(圃場 72)の場合,疎植区の収量 は 21% 減 収 した が , 緑 肥施 用 ( 圃 場 52) の場合 は,逆に4 %増加 する効果 も見 られ た。 モミワ ラ 比は全体的に低く,台風等による不稔籾が多く存在したと考えられたが,疎植区のモミワラ比は 高くなる傾向が見られた(図2)。疎植栽培は,通常の栽植密度に比べて若干収量の減少も見ら れたが,苗購入費用が半額になるばかりでなく,苗輸送や移植期への苗補給の労力も大幅に低 減されるなどのメリットが大きいため,大規模農業法人においては,移植時の労働集中緩和策と して,有用性が高いと考えられた。食味値は,50日追肥で低くなったが,疎植により改善が見ら れた(図3)。本研究における有機水稲栽培の追肥作業は,施用資材が緩効性であることから, 1回しか行わず,労働時間は,慣行栽培と同程度かやや高い程度となった。しかし,基肥を含め た施肥作 業時間では,2圃場で,そ れぞれ慣行栽培の2.5および2.9倍となった(図4)。また,合 計施肥時間は,雑草,病害虫防除に要する時間の27および41%を占めた。 表1 供試圃場の栽培暦 圃場番号 移植日 移植40日目追肥 移植50日目追肥 移植60日追肥 収穫日 72 6月22日 8月 1日 8月11日 8月21日 10月22日 6月17日 7月27日 8月 6日 8月16日 10月24日 処理区 食味値(相対値) 処理区 50日目追肥+疎植 60日目追肥 無追肥 50日目追肥 モミ/ワラ比 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 各処理区における籾ワラ比 圃場72 圃場52(緑肥) 慣行栽培 70 圃場52 クローバー鋤き込み+ぼかし肥料 0.7 +追肥米ヌカペレット 50日目追肥+疎植 60日目追肥 50日目追肥 40日目追肥 無追肥 モミ/ワラ比 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 80 処理区 各処理区における収量 圃場72 菜種油かす+追肥米ヌカペレット 図2 0 40日目追肥 図1 処理区 100 50日目追肥+疎植 60日目追肥 50日目追肥 0 40日目追肥 100 200 50日目追肥+疎植 200 300 60日目追肥 309 300 50日目追肥 338 圃場52 クローバー鋤き込み+ぼかし肥料 +追肥米ヌカペレット 362 351 375 400 327 344 40日目追肥 390 378 326 玄米収量(kg/10a) 400 無追肥 玄米収量(kg/10a) 圃場72 菜種油かす+米ヌカペレット 無追肥 52(緑肥) 48 36 基肥施用 追肥施用 除草・タニシ駆除・防虫 168 252 慣行栽培 40 60 50 684 圃場72 210 40 934 60 30 圃場52 240 1122 1422 20 植 培 肥 肥 肥 追 追 追 + 疎 行栽 目 目 目 肥 慣 日 日 日 追 60 50 40 目 日 50 図3 食味値への影響 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 施肥および防除に要した労働時間(のべ分) 図4 施肥および防除労働時間
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