児童が抱える苦手意識の克服を目指した国語教育 ~レゴ

児童が抱える苦手意識の克服を目指した国語教育
~レゴ エデュケーション
を活用した実践~
学校法人内田学園
七沢希望の丘初等学校
教諭
大澤 勇太
1.はじめに
知識中心の教授型の授業が見直され始め、21 世紀を生きていく子ども達に求められ
る力も変わってきている。基礎学力や専門知識だけではなく、OECD の「21 世紀型ス
キル」のように、より汎用的な認知・社会スキルを基に新たな価値を生み出していく能
力が必要とされている。本校職員は、
‘これからの時代を生きていくためのスキル’を
児童の実体験を通して、養わせていくことに日々力を注いでいる。
そのために本校では児童の発表の機会を多く設けているが、しかしながら、どの学級
でも見られるように、中には話し合いや発表の場面で黙り込んでしまう児童がいる。要
因として挙げられるのが、
「自信のなさ」である。どう自信をつけさせてあげることが
できるかと同時に、
「自信がない。
」
「恥ずかしい。
」といった感情を吹き飛ばし、
「考え
を人に伝えたい。」と思えるような授業を目指していかなくてはならないと常々考えて
いるが、結果は毎回成功とまでは至っていない。
この課題を克服するために何か方法はないか考えている時に、児童が LEGO ブロッ
クで楽しそうに遊んでいる姿を見た。遊びという概念から、言語活動ができないか。ブ
ロック遊びという遊び中から、学習していくことで、どこかに突破口を見出すことがで
きるかもしれない。
この研究では、ブロック遊びという普段遊びに使うものを教材とし、児童を学習に熱
中させ、話し合いや発表が苦手な児童に学習へ参加できる環境を作り出すものである。
2.仮説(研究の視点)
ブロック遊びという‘遊びの概念’があるものを教材化することにより、話し合い、
発表が苦手な児童でも、遊びという感覚の中で、より自然な感覚をもって楽しみながら
授業に参加することができる。
1
3.方法
1.毎時間の児童の授業態度の観察。
毎時間後、授業の感想などのヒアリング。
2.単元終了時にアンケートの実施。
4.児童へ身に付けさせたい力と日頃からの取り組み
本学級では、
「創造性」「意思決定」「コミュニケーション能力、コラボレーション能
力」「プレゼンテーション能力」の向上に日常の学級生活から取り組んでいる。日頃か
ら意識している学級の到達目標と取り組みについて、下記の表に記す。
身に付けさせたい力
到達目標
日頃からの取り組み
創造性
○問題を発見・把握し、自分の知識
・ふしぎのたね BOX を教室に常
や 経 験 を 基に豊かな発想を広げ
駐し、不思議に思ったことを
ることができる。
紙に書き、BOX に入れる。
○ 問 題 に対して考えることを楽し
むことができる。
意思決定
○ 意 思 決定が必要な問題あること
を認識できる。
・授業の中に、劇的活動を取り入
れている。ライアーゲームで
○問題に対して、解決できる案があ
るか探り、計画する。
は、ある絵から嘘をつき、みん
なに質問され、辻褄が合わな
○問題に対して、数ある解決策の中
い部分をつかれる。それに対
から最も良いものを選択できる。
して、嘘の答えを重ねていく
ゲームである。また、即興劇な
どの中で、自分の役割を瞬時
に見出す。
コミュニケーション能力
コラボレーション能力
○話し合いを楽しむことができ ・ふしぎのたね BOX から紙
る。
を取りだし、不思議に思う
○問題について、それぞれ気づ
いたことから意見する。
2
ことをクラスで話し合い、
クラスでの結論を出す。
○互いの意見を認め合うことが
できる。
○意見を整理・統合し、新たな発
想 を 創 り あげ る こと が でき
る。
プレゼンテーション能力
○人の前で話すことを楽しむこ ・朝には1~3年生まで集ま
とができる。
る朝会で、毎朝輪番で発表
○問題を理解し、明確に説明す
ることができる。
をする。最初は、話すことが
で き な い 児童が 多かった
○発表に道筋をつくり、堂々と
発表できる。
が、数を重ねていくことに
より、人前で話すことへの
○質問の意味を理解し、的確な
慣れが出てきつつある。
答えを出すことができる。
5.本研究における発表や話し合いの苦手な子へのアプローチの流れ
「本学級で身につけさせたい力と授業の流れ」
創造性と意思決定
・ブロック遊びを コミュニケーション能力
通して、何を置く
か多くの材料から
自分で選び、自由
な発想の中から物
語を創る。
・話し合い活動の プレゼンテーション能力
場を多く設け、コ
・発表活動にICTを
ミュニケーション
活用し、自分の発
とコラボレーショ
表を評価・検討し、
ン能力の向上を図
プレゼンテーショ
る。
ン能力の向上を図
る。
「児童の気持ち」
遊びのよう
で楽しい
伝えたい・
認め合う
挑戦したい
6.単元
第2学年 「おはなしのさくしゃになろう」
(光村図書)
3
新
た
な
価
値
を
生
み
出
す
力
自信
(1).本単元について
これまで児童達は、1年生の「本はともだち」人物のあったことを書き、2年生の「た
んぽぽのちえ」では、
「はじめ」
「中」
「おわり」についての文章構成について学習して
きた。そして、
「スイミー」では、
「はじめ」に人物紹介や設定があり、
「中」に出来事、
「おわり」でまとめがあるという細かな部分まで学んだ。
これらをふまえて、
「おはなしのさくしゃになろう」では、
「はじめ」
「中」
「おわり」
の文章構成を意識させ、「中」で出来事が起こることを理解させたい。これまでに多く
の国語教材から「はじめ」
「中」
「おわり」を学習してきた児童たちであるが、
「書く=
つくる」という活動で構成を考えるのは、初めてである。「はじめ」
「中」「おわり」と
辻褄が合うように、お話をつくる過程を楽しませたい。普段から児童たちの遊びや会話
の中では、いろいろなお話の世界や漫画の世界に入り込んでいることが多いため、その
空想力を大切にしたい。
「空想したものを文章にする楽しさ。」それを語り、友達に聞い
てもらう楽しさを味わわせ、それを聞くことの大切さも学ばせたい。お話は、児童の身
近な体験や見聞きした事柄、これまでの読書体験から構成されていくことが予想される。
教科書では、虫の例を基にお話づくりがしやすいようになっているが、本学級では児童
自らが自由な発想でお話をつくることにより、つくられたお話 1 つ 1 つが違うことに
気づかせ、
‘個性’についても感じさせたい。
そこで本単元では、既存の国語教科書(光村図書)の「おはなしのさくしゃになろう」
のお話づくりに付け加えて、
‘児童へ身に付けさせたい力’を取り入れたい。この力を
身に付けさせるための‘+α’の教材として、ブロック遊びを用いる。お話作りの単元
から発展させて、‘遊び’の中から学習を組み立てていくことを考えることができるの
ではないかと考える。ブロック遊びの特徴として、絵画による表現とは違い、児童の画
力による表現力の差ができないことで、画力に自信がない児童でも学習に参加しやすく
なる。また、絵画の平面とは違い、立体的な表現が可能となり、1つの空間を創りだす
ことも可能性としてある。なぜなら、幼児期のブロック遊びからの空間的表現は、平面
よりも、より具体的に児童 1 人ひとりの想像を膨らませることができ、お話を創りやす
いと考えられるためである。
お話作りをする過程に、グループワークや1人での作業を組み合わせることで、スモ
ールステップをしながら、全員を目標まで到達させたい。
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(2).単元目標
①初めからブロック遊びの世界を創り出す創造性と意思決定{関}
②各グループでブロック遊びの世界を創り上げる中での話し合いによる、コミュニケー
ション能力とコラボレーション能力の向上。
③発表場面などでのプレゼンテーション能力の向上を図る。
(3).単元の評価規準
関心・意欲・態度
評価
話す・聞く
伝統的な言語文化と
規準
国語の特質に関する事項
・ ブロック遊びの ・グループワークで自分の意見 ・自分の経験したこと
作 品 を 進んで作
を持って、交流しようとして
に基づいて、説明する
り、作品から想像
いる。
よさや、説得力をもっ
を広げて、楽しん ・友達のお話を想像しながら、
ていることに気づき、
で お 話 づくりを
楽しんで聞こうとしている。
それらに気を付けなが
し よ う としてい ・自分のお話を楽しんで発表し
ら、相手に伝えようと
る。
している。
ようとしている。
(4).単元計画(全10 時間)
次 時
学習過程
活動内容
指導上の留意事項
(支援が必要な手立て▲)
1
1
お話づくりはど ○お話作りの基本的な
・これまでの学習を思い起
のようなものか
文章構成を確認し、
こさせ、見通しを持たせ
知ろう
必要な事柄を考え
る。
る。
5
2
2
お話づくりをし ○絵を描き、お話の
3
よう
4
「中」を考える。
○「はじめ」を考え
5
る。
・文章構成に気を付けさ
せ、お話が膨らむような
雰囲気作りをする。
▲お話が浮かばない児童に
○「おわり」を考え
る。
は、教科書を見ながら例
を提示する。
○読み返して、正しく
書き直す。
3
6
書いたお話を交 ○作品を交換して、読
換して読もう
み合う。
・感想の視点を押さえて、
友達のいいところをたく
○振り返りカードを書
さん見つけさせる。
く。
4
(
本
論
文
抽
出
部
)
7
自分達の世界を ○学習の見通しを持つ。 ・ただブロックで遊ばせるの
つくろう
○グループでブロック
ではなく、学習の見通しを
の作品をつくる。
持たせて、いくつかの「約
束」をすることで、
‘遊び=
学習’という意識に繋げ
る。
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発表している自 ○前時の作品を使って、 ・ICT 機器を使用し、児童の
分を見よう
説明の発表をする。
発表を録画、再生。
○発表を録画したもの ・あらかじめ、自分の発表し
を見て、自分自身やグ
ている姿を見て、振り返り
ル ー プ の発表を 客観
シートを用意し、記入させ
視し、振り返る。
る。
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物語づくり
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○1人でブロック遊び ○発表場面では、前時の反省
の作品をつくり、物語
をつくる。
○物語を発表する。
○質問ゲーム
○質問の解答を基に、物
語を発表する。
を意識させる。
○‘終わり’の部分を聞き手
に想像させる。
○質問を多くさせて、設定を
細かくさせていくような
環境をつくる。
7.実践
(1)「自分たちの世界を創ろう」
(1/4時)
①ねらい
・ブロックに慣れる。
・話し合いに参加し、自分の意見を言い、相手の意見を聞くことができる。
②授業の様子
「今日はブロックで勉強します。」と言った瞬間、クラスが湧いた。意識調査(*1)では、
クラス全員がブロックを使って、遊んだ経験があった。すでに子ども達にとって、‘ブ
ロック=遊び’という概念が形成されており、遊びという概念の中で、学習を進めてい
くという理想的な環境が整っていた。
まず、2人1組にさせ、ブロックで遊ばせる。ブロック遊びの約束として、「まずテ
ーマを決める。
」ということと「1つ1つ置くものに理由をつけよう。」ということだけ
約束した。これは、次時の「説明する。」ということができるようにするためである。
本時は、出来上がったものではなく、創る工程を重視していた。この学習では児童1
人ひとりにコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力、創造性が求められる。
児童1人ひとりが‘遊び’という感覚の中で、確かなコミュニケーションや自分の意見
の主張を行っていた。
③児童の様子
児童がとても意欲的に作業を行っていたのは、言うまでもない。私にとって、本時は
児童の着眼点や気づきについて、大きな発見ができた機会となった。普段ははっきりと
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意見を主張ができない児童も、テーマ決めで「そのテーマは嫌だな。
」と反論していた。
その後の取り組みでも、色合いや設定で鋭い意見を話し、気づくとグループの中心とな
っていた。そして、授業終了間際には、
「先生、この説明を発表したい。」と伝えてきた
のだ。これは‘遊び中の学習’から、
「恥ずかしい」や「自信がない」という気持ちを通
り越して、
「主張したい」
「伝えたい」という気持ちが大きく出た結果である。1時目か
ら、この学習に対して、確かな手ごたえを感じることができた。
*1 学習前に聞き取り調査・・ブロックで遊んだことがある児童 全員
(2)「発表をしている自分を見よう」
(2/4時)
①ねらい
・グループで自分たちの作品を発表することができる。
・テレビに映る自分の発表を見て、自己評価することができる。
②授業の様子
前時、児童はグループでブロックの作品をつくることができた。本時は、それを話し
合いの中で、グループの意見を統一させ、何をつくったかということと、その説明をみ
んなの前で発表した。同時に、その姿をタブレット端末で撮影し、発表後に全員でそれ
ぞれのグループの発表についてディスカッションを行った。ここから、
「説明の上手な
グループ=物語をつくっている⇒みんなで物語をつくろう」と繋げていった。
児童は、前時につくった作品をみんなに発表することを楽しみにしていた。発表に向
けた話し合いも実に楽しそうであった。前述の
通り、本校では朝会や授業の場面で人前で発表
することが多く設定している。しかし、その慣
れからか、ぼそぼそっと話し、緊張感のない発
表となってしまうという課題がある。本時の発
表では、その課題が浮き彫りとなった。
「図1テレビで自分たちの映像を見る様子」
この発表を撮影した映像を見た児童は、かなり愕然としていた。
(図 1)
「私の発表っ
て、こんなんなんだ~。」思わずこのような言葉がこぼれ落ちる。そこで児童には、
‘よ
いポイント’と‘ここをこうしたらもっとよくなるポイント’を質問した。児童から上
がったポイントは以下である。
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よいポイント
ここをこうしたら、もっとよくなるポイント
・声が大きい
・声が聞き取りにくい。
◎内容が細かくてわかりやすい。
・作品を上にあげて説明するといい。
・おもいしろい
・ほぼ1人しか話していない。
・ ペンで指してのせつめいがわかりやす ・よくわからない。
い。
「表1 話し合いの内容」
これらから、とくに「ここをこうしたら、もっとよくなるポイント」について、児童と
話し合った。そして、上のよいポイントの中にある「◎内容が細かくてわかりやすい。
」か
ら次時の物語づくりへと発展させた。
③児童の様子
普段意見を主張できない児童が前時は積極的に話し合いに参加したことから、本時で
も活躍を期待したが、説明では一言も発することはなかった。ペアのなった児童に気持
ち的に押されてしまい、面食らったようである。しかし、その場面を自分で映像化して
客観的に見ることができた。本人の振り返りには、
「もっと話せばよかった。
」とあり、
次時での活躍に期待したい。
(3)「物語づくり -さて、ここからどうなるでしょう-」(3/4時)
①ねらい
・ブロックで作った作品を基に、自分で作った物語をつくることができる。
・物語を想像しながら、聴くことができる。
・前時の反省に気を付けながら、発表することができる。
②授業の様子
前々時のブロックの作品づくり、前時の発表の練習のまとめとして、物語を創り発表
した。
はじめに、ブロックで作品をつくった。ブロックに慣れてきた児童達には、
「10分内
に作成。」という条件を与えたが、全員時間内に作品をつくりあげることができた。1
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人ひとりの個性が出るものとなったため、題名のみ以下に記す(表2)
。
男の子と女の子の初デート
男の子のトレーニング
魔女のいたずら
森の中の夫婦
スーパーマンの失敗
九州の鉄道
マリオとルイージ
「表 2 児童の作品の題名 一覧」
良い映画は、最後に観客に終わりを考えさせるというが、児童の発表でも同じである。
物語の創り方は、ブロックの作品を「はじめ」か「中」の場面として、
「おわり」の部分
に聞き手の想像を引き出すように「さて、ここからどうなるでしょう。
」という終わり
方にさせた。この「さて、ここからどうなるでしょう。
」というのが、話し手・聞き手
にとってのポイントである。発表が終わる毎に、
「おー。
」や「わー。どうなるの?」と
いった歓声が上がる。後に物語をつくった児童と聴いた児童たちで、その後の話し合い
をさせると、そこからの展開の違いにまた盛り上がり、1人ひとりの受け取り方・思考
の違いに気が付くきっかけとなったようである。
③児童の様子
普段なかなか意見を言えず話し合いに参加できない児童も、授業後に話しを聞くと、
「自然に発表できた。
」と語ってくれた。この「自然に。」ということが大切である。い
くら話したいという気持ちがあっても、話しやすい環境(発表ということを意識しない)
が彼らには必要である。LEGO を使った学習は、児童の話したいという想いを引き出す
だけでなく、その‘遊び’という特性から、和やかで明るい雰囲気を作り出すことがで
きる。結果その環境が彼らの背中を押してくれたのである。
(4)「物語創り-詳しく発表しよう-」
(4/4時)
①ねらい
・ブロックでつくった作品を基に、細かな設定をつけて、自分で作った物語を創ること
ができる。
・友達の作品に対して、質問することができる。
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②授業の様子
単元のまとめとして、「はじめ」
「中」
「終わり」の構成を組み立てた物語を創る。し
かし児童によっては、物語の詳細を想像することができなかった。そこで、質問ゲーム
を行うことにした。児童のブロックの作品ができあがったら、物語を創る前に、みんな
に見せる。その場で、全体からの質問を多く受け、瞬時に質問に答えるというルールで
ある。児童はポストカードを使って、普段から取り組んでいる活動のライアーゲームの
発展版である。慣れている活動だけあって、どんどんくる質問に対して、早く答えるこ
とができた。この効果は、
「質問に答える=物語の詳細が決まっていく」ということで
あった。児童の作業を観察する限り、5~10個の質問に答えれば、あとは物語の流れ
を組み合わせていくだけという流れとなっていた。
前時の物語の発表は、登場人物の名前、周りの物や建物などの使用など、大切な部分
が抜けていることが多かったが、本時は質問ゲームにより、持っているものの背景など、
目には見ることができない、かなり細かな部分まで設定が加わり、物語を発表すること
ができた。
その人は、どのような仕事をしているのですか。
そのねこは、なんさいですか。
その人が塔から落ちる前には、どのようなことがあったのですか。
「表3
③児童の様子
前時同様、全員が意欲的に発表することができた。特に自信が
なく、なよなよするようなこともなく、堂々と発表できたのは、
大きな成果であると言える。今回は、授業での雰囲気による環境
もそうであるが、自分の物語発表についての慣れが出てきたと
いうことが見て取れた。
11
主な児童質問」
9.アンケート結果から研究テーマの考察と結論
ブロックは、子ども達の幼児期で扱うことが多い。成長段階の遊びの中で慣れ親しん
できたものであるからこそ、まず「楽しい。
」という感情が生まれてくるのであろう。
その経験も手伝い、この授業に、児童からマイナスの評価は出なかった。児童の感想や
授業雰囲気の中から、
‘遊び’という環境を作り出すことができたと言える。以下特に
普段は発表や話し合いが苦手な児童の感想を基に成果を検証していく。
①児童の感想より A さん「物語づくりについての感想」
「授業の感想」
前単元で全く物語をつくれなかった A さん。いつもは「自信がない。」などの理由か
ら、考えていることを行動や口にできないことが多いが、本単元では、とてもスムーズ
に授業に入って、取り組むことができた。上の感想からわかるように、まず自分の世界
を決める決断ができたということが、大きな一歩であった。これは、自分の‘楽しい’
という感情が‘恥ずかしい’という感情に勝っていたからであろう。授業全体の印象も
好意的に感じているようであった。
B さん「話し合いや発表についての感想」
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「授業の感想」
話し合いや発表の場面で言葉が出てこなかった B さん。本単元では、1 度グループの
子に圧倒されて、発表で何も話せなかったことがあったものの、そのような姿を思い出
させないほどに意欲的に学習に取り組むことができた。その一因として、上の感想から
わかるように、認め合う環境づくりができたからであろう。また、授業全体も楽しく進
むことができたようで、9 月の1番思い出に残ったことにもブロックを使った学習を挙
げていた。
以上のことから、前述の仮説である
ブロックという‘遊びの概念’があるものを教材化することにより、学習
に障壁(話し合い、発表)がある児童でも、遊びという感覚の中で、より自
然な感覚を持って、授業に参加することができる。
は、一定の成果を得たと言える。特に普段は発表などが苦手な児童に関しては共通し
て以下2点が変容した。
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成果① 発表を堂々とできたということ。
成果② この国語(発表をする)の授業が楽しかったということ。
この授業を通して、何かに取り組むきっかけを作るには‘授業を楽しむことができる
環境を作る’ということが大切であるということを再認識できた。もともと意見を主張
することが難しかった児童は、現在、以前よりスムーズに話し合いや発表に入ることが
できている。今回の研究でこうした児童は、人前で話す‘きっかけ’を作ることができ
た。しかし、まだ唐突な質問に対しての対応はできない状態である。ここからどうすれ
ば、さらに力を伸ばしていくことができるのか、この‘遊びの感覚’を応用して追究し
たい。
10.まとめ
ブロックという‘遊びの概念’があるものを教材化することにより、全ての児童にと
って学習に入り込みやすくできた。これに加え、認め合うことや子どもの気持ちを引き
出すなどの環境をつくることによって、話し合い、発表が苦手な児童でも、遊びという
感覚の中で、「恥ずかしさ」
、
「自信のなさ」を感じずに授業に参加することができた。
また、「環境」と「気持ち」が整うことで、児童が障壁を感じず、学習に参加するこ
とができることがわかった。しかし、まだこれが普段の授業の中でできるというわけで
はない。ここから、どのように‘遊びの概念’と同じような、話しやすい環境を作り出
し、それを日常の力に変えていくことができるかということが課題である。そして、ブ
ロックがどのような場面(教科)で有効なのか。他学年、特に高学年には、どのような
効果をもたらすことができるのか。まだまだ、このブロックを使った学習には、様々な
活用の可能性を秘めている。
11.おわりに
今回の研究の対象となった児童は、現在3年生になり、縦割り活動などで、下級生と
積極的に関わりを持ち、学級外でも活躍の場が広がっている。もちろん、そこまで到達
するまでには、様々な要因があった。しかし、
‘きっかけ’となったのは、この活動で
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ある。多くの学級にも、話し合い、発表が苦手といった、ある種の特徴を持ち、担任の
先生と児童が共に悩んでいるというケースがあるのではないか。しかし、ブロックは今
回たまたま私の学級で流行っていた遊びである。それをツールとしたに過ぎない。教員
は様々な学習の場面‘難’を示す児童に対して、その児童に合った‘きっかけ’を作る
ための様々な引き出しを持たなければいけないということを、これからも心にして教育
活動に励んでいきたいと共に、このような実践を繰り返していくことで広めていき、少
しでも授業が楽しいと思える児童を増やしていきたい。
12.参考文献
平成22年「こくご 二上 たんぽぽ」光村図書
松谷 英明(2013)「楽しみながら文章力が身につく日記作文の指導」
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