日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要 No.50(2015)pp.95 − 114 太陽活動と対流圏・下部成層圏気圧系および海面水温との関係 山川 修治*・大石 徹也** The Relationships between Solar Activity and Atmospheric Pressure System in the Troposphere and the Lower Stratosphere and Sea Surface Temperature Shuji YAMAKAWA * and Tetsuya OHISHI ** (Received November 17, 2014) Relationships between solar activity and variations in the atmospheric circulation in the four phases of solar activity and sea surface temperature (SST) are examined. The cycles of solar activity are divided into four phases such as increasing years, maximum years, decreasing years and minimum years. Influences of solar activity on global atmospheric pressure variations in the four phases are also analyzed from 1950 to 2000. Results indicate that higher geopotential height anomalies tend to appear in the lower stratosphere and the troposphere. Blockng highs tended to appear over the northern high latitudes in January during the decreasing and minimum years. The global distribution of correlation coefficients between monthly relative sunspot numbers (SSN) and SST in the simultaneous month is shown over the 40-year period from 1960 through 1999. Significant positive correlation areas are relatively dominant in the whole sea areas, mainly in several regions of the Pacific. The SST distribution pattern that resembles the Pacific Decadal Oscillation (PDO) in the Pacific was exhibited from July to September. Keywords: solar activity, atmospheric pressure pattern, blocking high, sea surface temperature (SST), Pacific Decadal Oscillation (PDO) 布を調べる。これらの解析を通して,太陽活動が地球気 1 .はじめに 候に及ぼす影響に関して新知見を得たので報告する。 太陽活動には明瞭な 11 年周期があるが,それが地球の 気候に影響を与えている可能性がある。20 世紀はその周 2 .データおよび方法 ①太陽黒点相対数:1950 年 1 月∼2000 年 12 月の月平 期がやや短い傾向にあったが,21 世紀に入って,その周 期が急に長期化の兆候が現れている。周期が短いときに 均値(The Sunspot Index Data Centor: SIDC) 。 ② 10.7cm 太陽放射フラックスデータ:1950 年 1 月∼ は世界で高温傾向,周期が長いときには低温傾向という 解析結果があり(Burroughs, 1992 ; Miyahara, et al., 2008) , 2000 年 12 月の月平均値(National Geophysical Data Cen- 今後の気温の推移が心配されるところである。 ter: NGDC) 。 本稿では,20 世紀後半のデータを用い,2 つの方法で ③ 500hPa,100hPa 月平均高度偏差,海面更正気圧: 太陽活動と地球成層圏・対流圏の気圧系,ならびに海面 1950 年 1 月∼2000 年 1 月の月平均高度偏差,気圧偏差 水温との関係を探究する。まず,太陽活動のフェイズ別 (NCEP/NCER 再解析データ)。 ④海面水温(SST)データ:1960 年 1 月∼1999 年 12 月 にみた気圧場の特徴を求める。次いで,太陽活動と海面 水温(SST)との相関係数を格子点ごとに算出しその分 の月平均データ(気象庁および NOAA 編集)。 * * 日本大学文理学部地球システム科学科: 〒 156-8550 東京都世田谷区桜上水 3-25-40 ** 株式会社タカラレーベン Department of Geosystem Sciences, College of Humanities and Sciences, Nihon University: 3-25-40, Sakurajosui, Setagaya-ku, Tokyo 156-8550, Japan ** Takara Leben CO., LTD ─ 95 ─ ( 27 ) 太陽活動と対流圏・下部成層圏気圧系および海面水温との関係 図 2 太陽黒点相対数の増大年 5 か年の北半球1月における 100hPa 高度偏差(a),500hPa 高度偏差(b) ,海面気圧偏差(c) ; 100hPa 平均高度(d),500hPa 平均高度(e) ,平均海面気圧(f) ─ 97 ─ ( 29 ) 山川 修治・大石 徹也 図 3 太陽黒点相対数の極大年 5 か年の北半球 1 月における 100hPa 高度偏差(a),500hPa 高度偏差(b) ,海面気圧偏差(c) ; 100hPa 平均高度(d),500hPa 平均高度(e),平均海面気圧(f) ( 30 ) ─ 98 ─ 太陽活動と対流圏・下部成層圏気圧系および海面水温との関係 図 4 太陽黒点相対数の縮小年 5 か年の北半球 1 月における 100hPa 高度偏差(a),500hPa 高度偏差(b) ,海面気圧偏差(c) ; 100hPa 平均高度(d),500hPa 平均高度(e) ,平均海面気圧(f) ─ 99 ─ ( 31 ) 山川 修治・大石 徹也 図 5 太陽黒点相対数の極小年 5 か年の北半球 1 月における 100hPa 高度偏差(a),500hPa 高度偏差(b) ,海面気圧偏差(c) ; 100hPa 平均高度(d),500hPa 平均高度(e),平均海面気圧(f) ( 32 ) ─ 100 ─ 太陽活動と対流圏・下部成層圏気圧系および海面水温との関係 リューシャン低気圧は東偏することもあって,日本付近 特に,アリューシャンの正偏差は,対流圏中層に及び, の冬の季節風は弱い。 強固なものとなっている。一方,低緯度帯の負偏差が顕 500hPa(図 4-b)では,モンゴル付近の正偏差が強く, 著で,南北流型につながっている。 アラスカ西方とイギリス付近のブロッキング高気圧が現 3.2.2 極大年 れる。寒波は中東方面へ最も流出しやすいのに対し,東 地上気圧場(図 7-c)では,アイスランド付近の高気圧 アジア・アメリカ合衆国・西欧は暖冬傾向となる。 が顕著で,大西洋側からのブロッキングを示唆する。一 100hPa(図 4-a)では,500hPa のブロッキング高気圧 と関連して,東アジアとグリーンランド付近の正偏差が 方,ベーリング海峡付近は低気圧偏差で,オホーツク海 高気圧は現れにくい状況となっている。 500hPa(図 7-b)においては,アリューシャン正偏差 著 し く,成 層 圏 突 然 昇 温(松野,2013)を 暗 示 し て い とアイスランド正偏差が特徴的で,次に述べる 100hPa る。 (図 7-a)でも同様の傾向なことから,明瞭なバロトロ 3.1.4 極小年 地上気圧場(図 5-c)で最も顕著なのは,アイスランド ピック構造のブロッキングパターンとなっている。日本 低気圧が弱化し,地中海地方から中東にかけて低気圧傾 付近は負偏差で梅雨前線活動の活発な状況を示す。北偏 向で,NAO は負フェイズとなることである。一方,ア する北太平洋高気圧からの湿潤な北東気流が梅雨前線の リューシャン低気圧は北偏・東西分化し,その南の北太 活発化に繋がっている。 100hPa では,チベット高気圧はほぼ平年並みだが, 平洋高気圧は北東偏し,PNA パターンが強めに現れて 西アジアと中国方面で幾分強いことがわかる。 いる。 500hPa(図 5-b)では,北極圏の太平洋側で寒気が蓄積 3.2.3 縮小年 されていること,地中海方面へ寒波が進入していること 地上気圧場(図 8-c)では,モンゴル付近の低気圧偏差 が認められる。後者は,西は(太平洋の亜熱帯∼)中米 が最も目立っている。ユーラシア大陸は全般に負偏差傾 ∼北大西洋中緯度と連なり,東はチベット高原に達する 向で,モンスーンが強化されることを暗示する。一方, 寒帯前線帯の強化とみることもできる。 北極海では,ボーフォート高気圧が例年以上に発達して 100hPa(図 -a)でも,ほぼ同様の負偏差帯がみられ, いる。その結果,北極海の日射量は平年より多く,北極 北極圏の太平洋側における負偏差は極めて発達してい 海海氷の融解が進む。また,北極海の高気圧性循環が活 る。それとは対照的に,東アジア北部とアイスランドの 発化して,海氷が北大西洋方面へ流出しやすくなる。近 正偏差が顕著で,ブロッキングパターンを呈する。 年では,2007 年がそれに該当する(山川,2010)。 500hPa(図 8-b)では,シベリア西部を中心に,負偏差 (2)7 月 が非常に強化され,一方,北極海では正偏差も強化され 3.2.1 増大年 ていて,シベリアの北極海沿岸で偏西風が弱化し,南北 地上気圧場(図 6-c)において,北太平洋高気圧は北東 流型となることを示している。 偏し,小笠原高気圧が弱く,ユーラシア寒帯前線帯は発 100hPa(図 8-c)では,チベット高気圧が比較的強く, 達傾向となる。北大西洋でもアゾレス高気圧が北偏し, 特に,中国東北部から北海道を含む日本列島へ張り出す その影響を受けるフロリダ半島付近では高温となる。南 (図 8-d) 。また,地中海付近では,同高気圧の張り出し アジアのモンスーンは平年並みだが,その西方,アフリ が強く,500hPa の正偏差も勘案すれば,夏の乾燥が著 カ北東部∼西アジアに低気圧偏差がみられる。 しい。 500hPa(図 6-b)では,北極圏で正偏差傾向が強く,ブ 3.2.4 極小年 ロッキングパターンとなっている。アリューシャン列島 地上気圧場(図 9-c)は,チベット高原付近が低気圧偏 付近の強い正偏差は,オホーツク海を経て,シベリア北 差で,インドモンスーンが強まることを示唆する。北極 岸∼グリーンランドに達している。これは,地上のオ 海方面では低気圧偏差であるため,日射量は少なく,低 ホーツク海高気圧の発達(図 6-c)に繋がり,上記の小笠 気圧性循環が卓越するので,海氷は比較的保たれる。北 原高気圧の未発達とあわせて,梅雨前線活動が本州南岸 太平洋高気圧は東偏強化で,日本付近はその西縁部で縁 で活発化し,梅雨明けが遅れるパターンといえる。しか 辺流が入る一方,オホーツク海高気圧は現れやすく,梅 し,梅雨明け後は平年並みの暑夏に移行する。 雨前線活動は活発で,台風も到来しやすい。北大西洋高 100hPa(図 6-a)では,チベット高気圧の北偏強化が特 気圧は北偏・強化し,西欧もその東縁部で暑夏となる。 徴的である。東アジアのブロッキング高気圧が目立ち, 500hPa(図 9-b)では,極渦発達の状況で,極前線の発 ─ 101 ─ ( 33 ) 山川 修治・大石 徹也 図 6 太陽黒点相対数の増大年 5 か年の北半球 7 月における 100hPa 高度偏差(a),500hPa 高度偏差(b) ,海面気圧偏差(c) ; 100hPa 平均高度(d),500hPa 平均高度(e),平均海面気圧(f) ( 34 ) ─ 102 ─ 太陽活動と対流圏・下部成層圏気圧系および海面水温との関係 図 7 太陽黒点相対数の極大年 5 か年の北半球 7 月における 100hPa 高度偏差(a),500hPa 高度偏差(b) ,海面気圧偏差(c) ; 100hPa 平均高度(d),500hPa 平均高度(e) ,平均海面気圧(f) ─ 103 ─ ( 35 ) 山川 修治・大石 徹也 図 8 太陽黒点相対数の縮小年 5 か年の北半球 7 月における 100hPa 高度偏差(a),500hPa 高度偏差(b) ,海面気圧偏差(c) ; 100hPa 平均高度(d),500hPa 平均高度(e),平均海面気圧(f) ( 36 ) ─ 104 ─ 太陽活動と対流圏・下部成層圏気圧系および海面水温との関係 図 9 太陽黒点相対数の極小年 5 か年の北半球 7 月における 100hPa 高度偏差(a),500hPa 高度偏差(b) ,海面気圧偏差(c) ; 100hPa 平均高度(d),500hPa 平均高度(e) ,平均海面気圧(f) ─ 105 ─ ( 37 ) 山川 修治・大石 徹也 達が地上の低気圧発達につながる。シベリア,カナダ中 (2)2 月(図 10-b) 部,北大西洋にブロッキング高気圧があり,ブロッキン 2.1)正偏差有意域 グ型の循環系を示す。亜熱帯高圧帯は全般に弱く,亜熱 1 月に引き続き,黒潮続流域が顕著で,東方拡大の傾 帯リッジの張り出しがないところでは冷夏傾向といえ 向もみられる。インド洋北部∼南シナ海∼黒潮流域を連 る。日本は極東リッジの影響を受け,地上のオホーツク ねる正相関域が特徴的となる。ハワイ近海の正偏差も継 海高気圧の出現もあって,冷夏傾向といえる。 続するが,ハワイ南西方約 2,000 km に中心を移す。南太 100hPa(図 9-a)では,チベット高気圧は比較的弱く, 平洋では,東部にまとまる傾向だが,有意域は縮小する。 インド洋では,北高南低のパターン化が進み,ベンガ シベリアと中東は正偏差で干ばつ傾向を示す。北極圏に ル湾とアラビア海に集中するものの,有意域は僅かとな 寒気が蓄積されやすい構造となっている。 る。北大西洋では,イギリス西方沖とカナリア諸島西南 4 .太陽活動の海面水温との相関関係 西約 2500km においてやや拡大する。南米南部東方沖 1960 年 1 月∼1999 年 12 月について,太陽黒点相対数 は,ブラジル南東端部沖とアルゼンチン南部沖に二極分 と SST の関係を相関係数によって解析した。同時相関か 化する。南極海では,フェゴ島南方のみの有意域が縮小 ら太陽活動先行の 6 か月ラグ相関まで求めたが,ここで する。 は同時相関に絞って示す。太陽放射線・太陽風の影響は 2.2)負偏差有意域 数時間から約 2 日で地球へ到達し,7 日後をピークに影 太平洋では,アリューシャン列島西部と東部近海の有 響が現れると考えられている(宮原,2014)ためである。 意域がやや拡大する。インド洋ではオーストラリア西方 対象年間は 40 年なので,およそ 0.33 以上,−0.33 以下 沖に出現する。北大西洋ではグリーンランド南西沖の が 95%で有意となる。本稿では「有意域」とはこの 95% デーヴィス海峡に出現する一方,バミューダ北東方では 水準を指す。その分布について月別に海域ごとに記述す 終息する。ブラジル高原東方沖では,強めの有意域が現 る。 れる。南極海の負相関値は約 9 割を占め,有意域も拡大 する。特に,南極大陸のインド洋側の有意域は拡大・離 (1)1 月(図 10-a) 岸し,ビクトリアランド近海でも拡大傾向となる。 1.1)正偏差有意域 全般に正相関が優勢となっている。これは Reid(1987) (3)3 月(図 10-c) の成果と一致している。北太平洋とその周辺では,日本 3.1)正偏差有意域 東方の黒潮続流域で,西は日本海北東部,東は日付変更 2 月以上に,インド洋北部∼南シナ海∼黒潮・黒潮続 線付近まで及び,世界的にみて強度の点でも面積の点で 流域の帯状構造が明瞭化する。なかでも,関東地方東方 も最も顕著な海域といえる。また,ハワイ諸島の南約 沖の相関は 1 ∼ 3 月と次第に強度を増す。ハワイ近海の 200km を中心として,北太平洋東部の亜熱帯海域に広 正偏差も継続し,ハワイ南西方約 1,500 km を中心に,西 がる。南太平洋では,ペルー西方約 2,000 km,ニュー 南西∼東北東の帯状構造が顕在化する。これは亜熱帯高 ジーランド東方 2,000∼5,000 km で強めに現れている。 圧帯の南縁を吹く貿易風帯に相当し,同高圧帯が南に拡 インド洋ではスマトラ島・ジャワ島の南西沖,アラビ 大,日射量が増大したことに起因するものと推測され ア海南部が目立つ。大西洋は比較的少ないが,イギリス る。チリ沖のサンフェリックス島付近に有意域が出現す 西方沖,大西洋中央部の北回帰線付近,アンゴラ西方 る。 沖,アルゼンチン東方沖に認められる。南極海ではフェ ゴ島南方沖のみとなる。 インド洋では,北高南低型が続くが,スマトラ島北西 方のベンガル湾南東部と同湾中西部に正のピークがみら 1.2)負偏差有意域 れる。その南,赤道の南縁部にも有意域が東西に連な 太平洋では,アリューシャン列島付近,ニュージーラ り,それは赤道西風の強化と赤道湧昇流の弱化を示唆す ンド北東方海域に出現する。北大西洋では相関係数が東 る。北大西洋では,亜熱帯正相関域が中心を大西洋中央 高西低傾向で,バミューダ諸島の北東方海域が該当す 部に移す。ブラジル南東端部沖の正相関は強度を増す。 る。南極海では約 7 割は負相関で,特に,南極大陸のイ 南極海では,正偏差の有意域が皆無の状態となる。 3.2)負偏差有意域 ンド洋側と太平洋側東部で有意域が広く認められる。 太平洋では,アリューシャン列島近海の有意域がやや 縮小傾向となる。インド洋では,オーストラリア西方沖 ( 38 ) ─ 106 ─ 太陽活動と対流圏・下部成層圏気圧系および海面水温との関係 し,東南東方へ拡大する。南大西洋では,アルゼンチン 達し,東方へ伸びてピークを迎える。インド洋では,南 東方沖約 3000km の有意域は南方へ拡大傾向となる。 インド洋寒帯前線帯に沿うように NW − SE 走向の有意 域が出現するが,グローバルにみて特徴的な存在で,極 (5)5 月(図 11-b) 大期の寒波到来を暗示している。北大西洋では,グリー 5.1)正偏差有意域 ンランド中部の西方と東方に初めて出現する。 太平洋では有意域が減少する。インドシナ半島南方の 南シナ海における有意域はさらに発達し,グローバルに (7)7 月(図 12-a) みて,最も顕著となる。モンスーンの開始時期に当たり 7.1)正偏差有意域 注目される。太陽活動の極大期〔極小期〕に SST が高温 太平洋では,梅雨前線に沿うように,津軽海峡東方約 〔低温〕になるため,沿岸部は多雨〔少雨〕となるが,モ 500 km から東南東方 2,000∼3,000 km にかけて,有意域 が断続的に現れる。台湾東方約 1,000 km,ニューギニア ンスーンは不活発〔活発〕になると考えられる。 ハワイ近海では有意域が消える。南米西方沖の有意域 島の東方約 2,000 km のツバル島西方近海にも有意域の はペルーに接岸し,引き続き,チリ西方沖約 3,500 km の ピークが現れる。概略,太平洋 10 年規模振動(Pacific イースター島付近で発達する。インド洋では,北高南低 decadal oscillation: PDO;Hare,1996; Mantua and Hare, 型傾向は残るなかで,上記の南シナ海から繋がる有意域 2002)の負フェイズに類似のパターンが現れ始める。 がベンガル湾南東部から南シナ海南西部にかけて顕在化 インド洋では,マダガスカル島の南方に,北大西洋で する。北大西洋では,4 月にその兆候はみえていたが, は,ニューファンドランド島東南島方約 3,000 km に有 ニューファンドランド島南縁部に強い有意域が発現す 意域が現れる。西インド諸島の南方,南米北縁の海域に る。熱帯の有意域がカリブ海南部に初めて出現し,亜熱 有意域が発現する。南大西洋では,ブラジル高原の東方 帯から南下してきた有意域と連結して卓越する。 約 1,500 km,ならびにケープタウンの西方約 2,000 km に 5.2)負偏差有意域 有意域が認められる。 7.2)負偏差有意域 太平洋ではアリューシャン列島近海の有意域が西部中 心で残る。インド洋では有意域はベンガル湾南東部のみ 北太平洋では有意域は皆無となる。ハワイ島の南南 となる。大西洋ではグリーンランド南西部の西方とアイ 東,赤道付近には有意域が認められ,PDO 負に類似す スランド北方約 500 km に有意域が現れる。アルゼンチ るパターンの中枢を占める。南太平洋では,ニュージー ン東方沖約 3,000 km の有意域は南方拡大傾向となる。 ランド北島の東方約 2,500,3,500 km にピークをもつ有 意域が現れる。インド洋では,南極海に面する方面で, (6)6 月(図 11-c) 有意またはそれに近い値がみられる。北大西洋では,グ 6.1)正偏差有意域 リーンランド中部の東西に現れ,ハドソン湾にも繋が 太平洋では有意域の少ない状況が続く。関東地方東南 る。南極海では,フェゴ島の西南西方約 4,500∼6,000 km, 東方,つまり小笠原諸島の東方約 2,000 km に有意なピー ケープタウンの南方約 2,000∼3,000 km の広大な有意域 クが現れる。南太平洋では,ニュージーランドの北北東 をはじめとして,負相関域が卓越している。 方約 2,000 km に有意域があり,その東方には,イースター 島近海,および,アタカマ沙漠沖に有意域が存在する。 (8)8 月(図 12-b) 8.1)正偏差有意域 インド洋では,北東部で正相関傾向が弱まる。アフリ カ中南部東岸には卓越する有意域が現れる。北大西洋で 太平洋では,三陸沖約 2,500 km 東方に有意域が認めら は,ニューファンドランド島南縁部の有意域が強化さ れ,北太平洋高気圧の発達に呼応すると考えられる。海 れ,また,イギリス北方近海にかけて正相関帯が繋が 南島の東方約 200 km,ならびにニューギニア島の西方 る。南大西洋では,アンゴラ西方沿岸からブラジル東縁 海域,および同島東方約 1,500 km のナウル島南方近海に 海岸線から約 800 km まで,卓越した有意域が認められ 有意域が現れ,同系統の解析(Yamakawa, et al., 2015) る。これらアフリカ大陸を挟んで東西に卓越する有意域 と整合する特性がみられる。概略,PDO 負に類似のパ は,太陽活動極大期〔極小期〕に南大西洋∼南インド洋 ターンが継続している。 西部の亜熱帯リッジが強化〔弱化〕することを示唆する。 インド洋では,ベンガル湾南方の赤道付近にホットス 6.2)負偏差有意域 ポットともいえる海域が現れることは特筆される。太陽 太平洋では,アリューシャン列島近海の有意域が再発 活動不活発年に地球磁場が弱まり,下層雲量が増加し ─ 109 ─ ( 41 ) 太陽活動と対流圏・下部成層圏気圧系および海面水温との関係 赤道湧昇流の強化〔弱化〕→ SST 低下〔上昇〕のプロセス が幾分東方・南方に移動傾向となる。南太平洋東部の東 が推論される。南太平洋では,チリ西方約 4,000 km に 太平洋海嶺付近で有意域が発達する。 ピークをもつ有意域が現れ,南極海との繋がりが認めら インド洋では,マダガスカル島北北西方のケニア・タ れる。インド洋では皆無となるが,その南西方・南東方 ンザニア東岸で有意域が残る。インド洋の南部,中央イ の南極海に,広域の有意域が発現している。 ンド洋海嶺南部付近に非常に発達した有意域が出現す る。北大西洋では,西インド諸島の東方約 500 km の有 (9)9 月(図 12-c) 意域はやや強めのままで継続する。南大西洋では東西中 9.1)正偏差卓越域 央,15°S 付近の有意域が顕著となる。 太平洋では,三陸沖約 2,000 km 東方に有意域が残るほ 11.2)負偏差有意域 太平洋では,グレートバリアリーフの東方約 1,500 km, か,ベーリング海北部に発現する。海南島の近海,なら びにニューギニア島の東北東方約 2,000 km のナウル島近 ニュージーランド北島の東北東方 4,500∼5,000 km に現 海にも有意域が認められる。 れる有意域は,その東に正相関有意域が接するので,気 インド洋では,マダガスカル島の北と南に有意域が現 圧配置への影響が大きいとみられる。つまり,南太平洋 れる。北大西洋では,ニューファンドランド島南西方約 中央部の高気圧循環が発達し,12 月のハワイ南方への正 500 km に有意域が現れ,ほぼ連続的に西インド諸島の 相関拡大につながる。インド洋南東部のオーストラリア 北東方および東南東方に有意域が多発し,広域の正相関 南西端の南方には発達した有意域が残る。 領域をなす。このことから,太陽活動強化〔弱化〕→バ ミューダ高気圧発達〔非発達〕→日射量の増大〔減少〕 (12)12 月(図 13-c) → SST 上昇〔低下〕のプロセスが推論される。 12.1)正偏差有意域 太平洋では,三陸沖東方約 2,000∼2,500 km の有意域 9.2)負偏差有意域 グローバルに有意域が皆無となる。 が幾分拡大傾向となる。ハワイ南西方近海にも有意域が 現れ,同系統の解析(Yamakawa, et al., 2015)と類似す (10)10 月(図 13-a) る。南太平洋東部の東太平洋海嶺付近の有意域は北上し て 20∼25°S で継続する。 10.1)正偏差有意域 太平洋では,三陸沖約 2,000 km 東方に東西に長軸をも インド洋では,北東部の特に,ベンガル湾中部ならび つ楕円形の有意域が存在する。ニューギニア島の北東方 にジャワ島南岸に有意域が出現する。北大西洋では,西 約 2,000 km,東北東方約 3,000 km,東方約 1,000 km に有 インド諸島の東方約 3,000∼3,500 km に有意域が残る。 12.2)負偏差有意域 意域の強いピークが認められる。 インド洋では,マダガスカル島周辺,特に東方 100∼ 太平洋では,フィリピン・台湾の東岸における有意域 500 km で有意域が発達する。アラビア海北部に有意域 が発達する。このことは,太陽活動極小期にラニーニャ が現れる。北大西洋では,ニューファンドランド島南東 現象が現れやすいことを示す。極小期の冬には北太平洋 方約 500 km に有意域が移る。キューバ島の北東岸およ 高気圧から北熱帯収束帯に向かう貿易風(偏東風)が強 びその東方に有意域が伸びる。 化すること(図 5-b, e)に対応する。そして,極小年の 12 10.2)負偏差有意域 月に発現したラニーニャ現象が,ハドレー循環の強化, 太平洋では,カムチャッカ半島の南端沖,アリュー ならびに,ロスビー波の励起によって,1 月のシベリア シャン列島の南約 1,000 km に有意域が現れる。ニュー 高気圧を発達させる(図 5-c, f)というプロセスも,本稿 ジーランド北島の東方 3,500∼5,000 km にも有意域が現 の総合的成果として導き出される。 れる。インド洋ではほぼ中央部,オーストラリア寄りに 大西洋では,ブラジル高原東方沿岸部で有意域が再発 有意域が認められる。オーストラリアの南西方近海には する。南極大陸のインド洋側に有意域が出現する。これ 発達した有意域が出現する。南大西洋では,ブラジル南 らは,南大西洋高気圧と南インド洋高気圧の発達に伴う 東部沖の有意域が接岸傾向となる。 海水循環の強化によるところが大きいものと推測される。 5 .議論とまとめ (11)11 月(図 13-b) 11.1)正偏差有意域 本稿で得られた新知見について,議論を含めてまとめ 太平洋では,三陸沖東方約 2,000∼2,500 km の有意域 ると,太陽活動のフェイズ別にみた気圧場の観点,なら ─ 111 ─ ( 43 ) 太陽活動と対流圏・下部成層圏気圧系および海面水温との関係 陽活動の極大期〔極小期〕に SST が高温〔低温〕になるた ある。 ③縮小年の 1 月には,顕著なブロッキング高気圧が極 め,モンスーンが不活発〔活発〕になると推論される。 ④ 4 ∼ 6 月には,アフリカ南東岸ならびに中米東方の 東,アラスカ,西欧に生じやすく,日本は暖冬傾向となる。 ④極小年の 1 月には,北大西洋振動(NAO)は負フェ 正相関有意域もかなり強まる。6 月にアフリカ大陸を挟 イズで,北大西洋に強いブロッキング高気圧が現れやす んで東西に卓越する有意域は,太陽活動極大期〔極小期〕 い。極小年の QBO 東風フェイズで成層圏突然昇温が起 に南大西洋∼南インド洋西部の亜熱帯リッジが強化〔弱 こりやすいこと(Labitzke and van Loon, 1988)と関連す 化〕することを示唆する。 ⑤ 7 ∼ 9 月には,一時弱化・南下していた黒潮続流域 るので,興味深い。 ⑤増大年の 7 月には,オホーツク海高気圧が現れるこ の正相関有意域が再び強まるとともに,太平洋 10 年規 とがあり,小笠原高気圧が弱く,梅雨前線が活発という 模振動(PDO)負フェイズのパターンが支配的となる。 状況となる。梅雨明け後には,北太平洋高気圧は北偏強 中米東方の正相関有意域は移ろうが継続する。太陽活動 化し,チベット高気圧は日本へ強く張り出しやすくなる と北半球亜熱帯高気圧の成層圏 70hPa を中心とする有意 ので,暑夏傾向となる。増大年 7 月における 日本∼華 な正相関は,Labutzke and van Loon(1992)により論述 北∼中東∼地中海地域における猛暑・干ばつ傾向は,増 されているが,本稿まとめの(1)⑥(左記)と関連して 大年 8 月の中央アジアを中心に南北に連なる乾燥帯(山 考察すれば,PDO 負フェイズの SST パターンが対流圏 川,1998)との関連性がみられる。 における北太平洋高気圧の発達へ関与している可能性を ⑥極大年の 7 月には,北太平洋高気圧の日本付近へ平 示すものとして注目される。 年並みに張り出すが,チベット高気圧も東方張り出しが ⑥ 8 月にインド洋では,ベンガル湾南方の赤道付近に 強く,猛暑傾向となる。中央アジアは,高気圧圏内に入 ホットスポットが現れるが,太陽活動不活発年に地球磁 りやすく,干ばつ傾向であることを示すが,増大年 8 月 場が弱まり,下層雲量が増加し(Svensmark and Friis- の乾燥域(山川,1998)と類似している。 Christensen, 1997) ,SST が低温化するというプロセス ⑦縮小年の 7 月には,北太平洋高気圧の日本付近への が推論される。 張り出しは南方から徐々に進行し,チベット高気圧の東 ⑦ 8 月に,ハワイ南方,赤道上に負相関有意帯が出現 方張り出しは強く,日本では梅雨明け後に猛暑傾向とな するが,太陽活動強化〔弱化〕→南北の太平洋高気圧発 る。アジアの広域にみられる低気圧傾向は,縮小年 8 月 達〔非発達〕→赤道付近の東風強化〔弱化〕→赤道湧昇 に日本とチベットにみられる湿潤域(山川,1998)に繋 流の強化〔弱化〕→ SST 低下〔上昇〕のプロセスによって がる。 解釈できよう。 ⑧極小年の 7 月には,チベット高気圧の東方張り出し ⑧ 10∼12 月には,インド洋北部の正相関有意域が強 は強いが,極東リッジとオホーツク海高気圧が現れやす 度・面積ともにピークとなる。黒潮続流域と南米西方沖 く,日本は冷夏傾向となる。極小年 7 月の日本における はそれぞれ独立して正相関有意域が発達するものと捉え 冷夏・多雨傾向は,8 月の日本ならびに南アジア・東南 られる。また,極小年〔極大年〕のこの時期には,ラニー アジアにみられる湿潤傾向(山川,1998)に移行する。 ニャ現象〔エルニーニョ現象に類似した海況〕が発現し やすいことが特筆される。 以上,太陽活動が地球の気候に与える影響について, (2)太陽活動と海面水温との相関関係 ①通年で,正相関域が負相関域を上回っており,有意 2 系統の方法で論述した。今後,そのメカニズムについ 域の出現面積も正相関の方が約 5 倍の出偏状況を示す。 て探究していく必要がある。メカニズムに関しては,成 この結果は期間を代えて検討した解析(Yamakawa et al., 層圏からの下方伝搬理論(Kodera and Kuroda, 2002)の 2015)と整合性がある。南極海は例外的に約 9 割が負相 導入による解釈とともに,海面から大気への応答という 関でその値は 2 月を中心に高まり,有意域も拡大する。 観点からも検討が必要であろう。それらの探究が進展し ② 1 ∼ 3 月には,黒潮続流域,ハワイ諸島付近の亜熱 たとき,数か月ないし数年先の長期予報の精度が向上に 帯,オーストラリア南東方沖の正相関有意域が顕著であ 貢献できるものと考えられる。 る。特に,3 月にはインド洋∼南シナ海∼黒潮流域の正 相関有意帯が卓越する。 ③ 4 ∼ 5 月には,インド洋方東部から南シナ海の正相 関有意域が卓越し,モンスーンの開始時期に当たり,太 謝辞 本研究を遂行するにあたり,遠藤邦彦名誉教授(当時:教 授)には「ハイテクリサーチプロジェクト経費」の一部を使 ─ 113 ─ ( 45 ) 山川 修治・大石 徹也 わせていただくとともに,終始励ましをいただきました。ま た,吉井敏剋元教授には解析図示手法に関して有益なご教示 をいただきました。さらに,佐野清文非常勤講師には,種々 の適切なコメントをいただきました。3 先生に深く御礼申し 上げます。 なお,本稿は第 2 著者が日本大学大学院・総合基礎科学研 究科・地球情報数理科学専攻の 2003 年度修士論文で執筆し た内容に基づいてまとめた。その後 11 年の時間が経過した が,その発表価値は高まったと判断し本紀要にまとめた次第 である。 参考文献 Burroughs, W. 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(2015) : Relationships between solar activity and SST variations and the atmospheric circulations in the stratosphere and troposphere. Quaternal International (to be pubrished). ─ 114 ─
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