粘土のコンシステンシーのメカニズムに関する研究 土は含水比によって,固体・半固体・塑性体・液体と状態を変化させ,これに伴って変形に対する抵 抗性も変化させます。これを土のコンシステンシー特性といい,これらの状態の境界値をコンシステン シー限界(収縮限界 wS・塑性限界 wP・液性限界 wL)といいます。コンシステンシー限界は地盤工学分 野における重要な物性値ですが,土のコンシステンシーのメカニズムは明らかにされていません。地盤 工学研究室では粘土のコンシステンシーのメカニズムの解明を目指し,X 線小角散乱法や分子動力学法 を用いて,含水比の変化に伴う「粘土粒子」と「水分子」の挙動の解析を行っています。 : 収 縮 限 界 : 塑 性 限 界 : 液 性 限 界 粘土のコンシステンシーのメカニズムに関する研究 粘土の主要構成鉱物である粘土鉱物は負電荷をもった厚さ 1nm 程度の薄いシート(単位層)の重な りからなります。この負電荷を中和するために層間に陽イオンなどを取り込む性質をもちます。このよ うに電気的に活性な粘土は極性の大きい水と反応し,膨潤などの特殊な性質を示します。粘土のコンシ ステンシーにはこのような粘土のミクロ構造・物性が関係していると考えられます。そこで本研究では, 粘土のコンシステンシーのメカニズムの解明に向け,X 線小角散乱法や分子動力学法を用いて,粘土の ミクロ構造・物性の解析を行っています。 1.X 線小角散乱法による粘土粒子の構造 粘土鉱物の中でも明瞭なコンシステンシー特性を示す Na 型モンモリロナイトに対して X 線小角散乱 実験を行いました。X 線小角散乱法とは試料に X 線を照射して散乱した X 線のうち,10°以下の低角 領域に現れるものを測定し,物質内の周期的構造を評価する分析手法のことです。粘土鉱物は図1によ うに周期的な層構造をもっているで,この手法によってその構造を評価することができます。測定は大 型放射光施設 SPring-8 内にあるビームライン 40B2 で実施しました。 図 1.粘土粒子の層構造 図図2.大型放射光施設 2.大型放射光施設 SPring-8 図図3.ビームライン 3.ビームライン 40B2 40B2 測定結果 固体から液体まで(w=5-9344%)に含水比調整した粘土試料に対して測定を行った結果,図4に示 すような X 線散乱像が得られました。含水比の変化に伴い散乱像は大きく変化することが分かります。 とくに塑性限界から塑性体にかけて散乱像は異方的であり,これは粘土粒子の配向を意味するものです。 本研究では,これらの散乱像より粘土鉱物の層間距離や粒子の配向性に関する解析を行いました。 図 4.X 線散乱像の変化 層間距離の解析 解析の結果,含水比の増加に伴って粘土の層間距離は増加し,液性限界(wL=964.7%)付近では 14nm 程度まで広がることが分かりました。固体領域においては層間に水分子層を 1-3 層形成して段階的な 増加を示しますが,塑性限界付近から水分子層 12 層に相当する層間距離が生成し始め,急激に増加す ることが分かります。塑性体の領域では連続的な増加を示し,液性限界に近づくにしたがって散乱強度 が弱まっていき,層間距離を測定することができなくなりました。これは液体の領域では粘土粒子が単 位層まで分解して層構造が消滅していることを表していると考えられます。また,塑性限界(wP=67.9%) から w=140%にかけて,層間距離の 3 層から 12 層以上への移行のみが進行する領域が存在することが 分かりました。 図5.含水比と層間距離の関係 図 5.含水比と層間距離の関係 図4.X 線散乱像の変化 配向性の解析 X 線散乱像の形状の変化を定量化し,粘土粒子の配向性を評価しました。散乱像は粒子の配向が進む と,真円から楕円へと変形します(Zone1) 。さらに配向が進むと,図4の真ん中の写真のように楕円の 両端に輝度が偏ってきます(Zone2) 。このように散乱像の変形過程を二段階にとらえ,Zone1 では楕円 率より,Zone2 では楕円両端の輝度より粒子の配向性を定量化しました。その結果が図7になります。 これより塑性限界付近で粒子は急激に配向することが分かります。さらに塑性体領域でも配向性は高ま っていきますが,w=500%付近で急激に配向性が低下し,そこから液体領域にかけてはランダムな配向 をとることが分かります。まとめると,粒子は固体・液体ではランダム,塑性体では配向しています。 このような粒子の配向性の変化は間隙水量の変化などが影響している可能性があります。 図 図6.配向性の評価 6.配向性の評価 図 図7.含水比と配向性 7.含水比と配向性 2.分子動力学法による粘土の層間構造 X 線小角散乱法による粘土粒子の構造(層間距離)をもとに粘土鉱 層間水分子 物モデルを作成し,含水比の増加に伴う粘土の層間構造の変化につい て解析しました。図8に示すのが,水分子層 2 層の Na 型モンモリロ 単位層 ナイトモデルのスナップショットです。層間水分子は単位層に対して 強く配向していることが分かります。図9には水分子層数ごとの層間 層間水分子 陽イオンの軌跡を示します。2 層の時,層間陽イオンは層間のほぼ中 央に位置しますが,3 層になると層間中央から粘土単位層表面にかけ 単位層 て広く分布します。4 層以上になると単位層表面にのみ分布し,層間 中央には存在しません。このように,水分子層数が増加するにしたが 層間水分子 って,層間陽イオンの位置が変化する可能性が示されました。 図 8.MD セルのスナップショット 2層 3層 図 9.層間イオン位置の変化 4 層以上 次に層間陽イオン位置の変化が層間に働く力に及ぼす影響について考えます。水分子 2 層の時,層間 陽イオンは層間の中央で向かい合う単位層を引き付ける役割を果たすと考えられます。しかし,4 層の 時は単位層表面が正電荷で覆われるため,層間に引力は働かないのではないかと考えられます。3 層の 時はこの中間的な配置をとるため,比較的弱い引力が働くと予想されます。これより,層間陽イオン位 置の変化が塑性限界付近において層間距離が急増する要因である可能性があります。 単位層 図 10.層間に働く力の変化 図10.層間に働く力の変化 図11に示すのは,Israelachvili らによる二つの雲母表面間の短距離力の測定結果になります。表面 間距離が大きい領域で表面間に働く力は DLVO 力に従いますが,1.5nm 以下の領域では振動的な力が 測定されています。振動の周期はおおよそ水分子の直径に相当するため,この振動は層間への水分子層 の生成に起因するものと考えられます。表面間距離が 1nm 以上の領域,すなわち水分子層 4 層以上の 領域では DLVO 力が発達し始めることから,雲母表面に電気二重層が形成し始めると考えられます。こ れより,先ほどの分子動力学法によって求めた 4 層以上における層間陽イオンの分布も,単位層表面に 電気二重層が形成され始めていることを意味する可能性があります。 図11.雲母表面間力の測定結果 図 11.雲母表面間の測定結果
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