新・地方自治ニュース 2015 No.9 (2015 年8月 10 日) マイナンバー導入の前提となる X 非効率への認識 多くの地方自治体では、職員数の削減による組織・業務の最適化に努力してきた。しかし、人件費、 職員数等表面的な数値による最適化を求める意思決定を展開し、民間化等も含め行財政のスリム化を 実現しただけでは、行政の効率化、そして住民の利益を現実に最大化することは難しい。なぜならば、 政治や行政の中の意思決定や行動の中では、認識されない「見えない非効率」を残しながらスリム化 が進行するからである。下図で分かるように予算額や人員等を削減しても、従来展開してきた意思決 定や行政活動のプロセスに潜む「見えない非効率」を温存し続ければ、行き着く結果は「努力しても 報われない実態」となる。見えない非効率は、日常、ルーティン的に実施してきた当たり前と認識、 無意識化している領域に多く存在する。マイナンバー制度の導入も最終的には、行政そして公共サー ビスの効率化に資する要因となり得る。しかし、その導入過程、そして既存の見えない非効率を抱え たままマイナンバー制度を導入すると、合成の誤謬を発生させ期待した効率化は実現しない。 【スリム化前】 【スリム化後】 予算額・職員数 見えない 非効率 予算額・人員数の削減 努力しても報 われない実態 見えない 非効率の 非効率温存 比率が拡大 予算額や職員数を削減しても「見えない非効率」を従来同様温存したとすれば、全体に占める非効 率の比率は、むしろスリム化後の方が拡大する。その結果、効率化に努力するほど地方自治体の組織・ 機能が苦しくなりスリム化努力が住民の利益に結び付かない実態をもたらす。こうした実態を克服す るには、予算額等の見直し、マイナンバーの導入・活用への工夫と共に「見えない非効率」を掘り起 こし排除することが必要となる。この掘り起こしにおいて、重要なトリガーとなるのが民間化である。 但し、ここで指摘する民間化とは、民間組織体に公共サービスを委ねること自体ではなく、委ねたこ とを通じて民間の発想や視点を行政組織内に取り込み実践することを意味する。形式的な目標管理で はなく、そのプロセスの中に組み込まれたノウハウを公的部門も吸収し、民間の異なる視点から自分 達の「当たり前」を再発掘することである。 マネジメントに関して「1:29:300」の原則がある、ひとつのミスがあった場合、その背後には 29 の認識できる問題点があり、さらにその 29 の問題点の背後には 300 の認識が難しい問題点が存在 しているという意味である。組織で何かひとつの認識されたミスや問題点が発見される。それは、行 為者等のひとつの原因から導き出されることは希有であり、多くの場合には複合した原因からもたら される。そして、ひとつのミスを組織内で精査することでさらに認識可能な 29 の問題点が存在する。 良くても多くの場合は、この 29 を認識する段階でとどまることが多い。なぜならば、さらに 300 と 言われる深層部に至るには、日常化し無意識化した原因を発掘しなければならず、そのことは組織内 だけの視点ではかなりの困難性を有するからである。しかし、この 300 の日常化した認識しづらい問 題点を放置し続ければ当然、組織に内在した病巣の本質は残されたままとなり、同じミスを繰り返し て発生させる。日常的に、組織自らは発掘困難な 300 の問題を外部の視点等を取り入れつつ、継続的 に発掘し見直している組織は、29 の問題点も減少し、結果として大きなひとつのミスを発生させず に済むことになる。行政評価を通じたプロセス評価でも、300 の無意識化した問題点を発掘し改善し なければ、スリム化に向けた努力は逆に従来の問題点を多発させる方向に機能しかねない。 © 2015 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE
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