平成 27 年度 有機化学 I 小テスト 第 9 回 【問題 1】次の反応式を完成させよ。 HCl 生成物 H2SO4, H2O 反応中間体 生成物 H2SO4 OH 生成物 解答の指針:酸の種類および条件によるハロゲン化水素の付加反応、水和反応、アルコー ルの付加反応に関する問題である。どのような条件でなぜそのような反応が起きるのかし っかり理解する。まず、HCl を用いたハロゲン化水素の付加反応は前回の小テストで詳細 を述べているが、簡単に復習する。原料である1-メチル-1-シクロヘキセンに HCl を作用 させると、まず、二重結合上のπ結合が H+を求核的に補足する。その時、赤の矢印と青の 矢印の2通りが考えられるが、生じる3級カチオンが安定なため、中間体 A が生成する。 塩 酸 か ら 生 じ た Cl- が 3 級 カ チ オ ン に 求 核 攻 撃 す る こ と で 、 生 成 物 が 得 ら れ る 。 (Markovnikov 則です。いい加減覚えてくださいね。)また、生成物の新たに付加したプ ロトン(ピンク)は省略されることがほとんどである。 平成 27 年度 有機化学 I 小テスト 第 9 回 基本的にHは省略 H H Cl– H Cl A H Cl Cl CH3 CH3 Markovnikov rule H Cl B 次に、硫酸水溶液で反応を行った場合はどうなるのかを考える。問題2で硫酸と塩酸の違 いを説明するが、硫酸は水と反応してオキソニウムイオンを生じる。(水の酸素原子には 2つの不対電子があることを思い出そう。)オキソニウムイオンは正に帯電した核種であ り、水と酸が反応して生じるオキソニウムイオンの場合は、酸素上に非常に酸性度の高い プロトンを持っている(酸として働く)。従って、塩基などの求核剤と速やかに反応して 水に戻る。 O H O S O H O + H O H H H O H + –O O S O H O H H O Nu– H H O H + NuH さて、実際の反応に目を戻してみよう。1−メチルシクロヘキセンと水から生じるオキソニ ウムイオンが反応すると、塩酸の時と同様にカチオン中間体が生じる。もちろん、マルコ フニコフ則に従うため、3級カチオンであることは言うまでもない。塩化水素の付加反応 では Cl-が求核種として働いたが、今回は水の不対電子が求核種として働く。理由は2つ! 一つは水分子が溶媒として大量に存在していること!もう一つは硫酸アニオンが共鳴安定 化のため極めて低い求核性しか持たないことである。(問題2で理由を説明する。)水が 付加してできる中間体 C はオキソニウムカチオンである。このオキソニウムカチオンも酸 性度の高いプロトンを持っている。従って、もう一分子のシクロヘキセンと反応するもし くは水分子と反応しオキソニウムカチオンを再生する。従って、本反応では理論的に触媒 量の硫酸で反応が進行する。(オキソニウムカチオンが再生するから!!)最終的な生成 平成 27 年度 有機化学 I 小テスト 第 9 回 物は3級アルコールである。このように形式的に水が付加する反応を水和反応という。 H H O H H H CH3 O H CH3 A O H C H –O O S O H O H O H or H O H 分子内にアルコールが存在する基質の反応は応用編である。前述した水和反応の形式はア ルコールにも適用できる。例えば、1−メチルシクロヘキセンを硫酸とメタノールで処理す ると、エーテルが合成される。下図参照。反応機構は水和とほとんど同じであり、オキソ ニウムイオンを経由して反応が進行する。 CH3 H O H H H CH3 A C H H O O CH 3 CH3 CH3 O CH 3 この反応を分子内反応へと応用したのが問題となっている。硫酸の処理によりオキソニウ ムカチオンが生成し、分子内で二重結合がプロトン化を受ける。マルコフニコフはもうい いでしょう。生じた3級カチオンにアルコールの酸素原子の不対電子が分子内で環化し、 エーテル構造を有するオキソニウムカチオンが生成する。この際、アルコールの付け根の 炭素がシクロヘキセン環上で立体特異的に結合していることから(*印)、環化反応は立 体選択的に起こる。(というより、逆の立体は作れない。疑問がある人は分子模型を組ん でみよう。たぶん壊れます。)最後に再生したオキソニウムカチオンが再生されて、それ が、解消されることで生成物ができる。この生成物、椅子型配座で描けますか?今回の試 験で立体配座は範囲ですのでよく勉強しておいてください。 平成 27 年度 有機化学 I 小テスト 第 9 回 H H CH3 H2SO4 CH3 H OH CH3 O H ∗ O H H O H H O H H H CH3 O H O CH3 H 【問題 2】問題1の反応で塩酸と硫酸は分類上同じ酸であるが、異なる反応性を示す。硫 酸の特徴を「共鳴安定化」という語句を用いて述べよ。 解答の指針:塩酸と硫酸の違いは問題1でも触れたように、対アニオンの求核性にある。 Cl-は不対電子が丸裸で存在しているため、非常に求核性が高い。一方で硫酸アニオンは極 めて低い求核性を示す。その理由は共鳴安定化にある。以下に硫酸アニオンの共鳴安定化 について示す。 –O S O O– O O H O O S O O H O S O O– H 見ての通り、一見同じ構造でも酸素に色をつけると一目瞭然である。最初、赤の酸素上に あったアニオンは、分子内で移動することにより青の酸素や緑の酸素に移ることができる。 このような、アニオンの移動(もしくはカチオンの移動(今回は範囲外))を「共鳴」と いい、共鳴することにより、そのものが安定化されることを「共鳴安定化」という。また、 同じ分子の中でアニオンが一箇所にとどまっていないことを「非局在化」という。わかり やすく言えば、Cl–は他の分子と反応するしか安定化を得られないのに対し、硫酸アニオン は外に電子が攻撃するよりも、分子の中で動き回ることでその寿命を延ばしている(安定 化している)。従って、対アニオンの求核性が低いと言える。対アニオンの求核性が低け れば今回のように水やアルコールなどの分子を二重結合と酸により生じたカチオンに付加 することができる! なお、同様に共鳴安定化される対アニオンを持つ酸として、メタンスルホン酸、トリフル オロメタンスルホン酸などのスルホン酸は覚えておく。 また、硫酸ほどではないが、酢酸やトリフルオロ酢酸なども共鳴安定化される酸である。 上述の酸、どの酸がより強い酸かもう分かりますよね! 平成 27 年度 有機化学 I 小テスト 第 9 回 O F3C S O H O O H3C S O H O H3C O OH F3C OH O– O H3C O H3C O– O 以上を踏まえた模範解答は 「硫酸が酸として働いた際に生じる硫酸アニオンは共鳴安定化のため、求核性に乏しく、 水和反応やアルコールの付加反応に用いることができる」とでもしておけば OK です。キー ワードは共鳴安定化、低い求核性です。 【問題 3】次の化合物を命名せよ。 H3C H3C CH3 Br おまけの問題です。三重結合がある場合は alkane→alkyne とすれば OK です。 もう君たちはできるはずです。できない場合は二重結合の命名法を復習してください。な お、三重結合にはシスートランス、E, Z はありません。当たり前ですが。。。。直線分子 ですしね。 解答は「6-bromo-5-methyl-2-octyne」もしくは「6-ブロモ-5-メチル-2-オクチン」です。 学籍番号 名前
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