6.外装材の流失が考慮可能な建築構造模型の製作と津波実験

外装材の流失が考慮可能な建築構造模型の製作と津波実験
工学部
建築学科・澤田樹一郎
1.はじめに
2011 年 3 月 11 日の東北地方太平洋沖地震で、我が国は、尊い犠牲を強いられた。特に、津波
による被害は、甚大で、これに対して、同年 12 月 14 日に制定された「津波防災地域づくりに関
する法律」により、都道府県知事は、津波浸水想定を設定し、公表することとなった。津波浸水
想定には、専門家らによる地震・津波シミュレーションの数値的検討も必要であり、その点から
も地震・津波シミュレーション技術の高速化・高精度化は、我が国の喫緊の課題と考えられ、現
在、精力的にこれに関する研究が行われている例えば 1)2)。地震・津波シミュレーションの妥当性検
証の手段としては、建物模型と津波水槽による模型実験との比較がある。これに関する既往の実
験の多くは、建物を木質直方体模型でモデル化することが多い例えば 3)。しかし、実際の東北地方太
平洋沖地震の津波被害では、木造建物、鉄骨建物、RC 建物などの構造種別によって、被害の様相
は大きく異なっており、特に、鉄骨建物では、外装材の流失が生じ、骨組は、残存するケースが
多くみられた 4)。鉄骨建物における外装材の流失は、津波荷重や津波の流体の動きに影響を与え
ると推定され、著者は、木質直方体模型ではなく、さらに詳細な建築構造模型を製作し、津波実
験を行う必要性があると考えた。
本研究では、木製外装材を装着したアルミ製建築構造模型を製作して津波実験を行う。目的は、
以下の 3 点である。
(1)建物の外装材の流失の有無が建物に作用する津波荷重に与える影響があるのかどうか(あるい
はあるのならどの程度か)を模型実験により調べる。
(2)建物の外装材の流失の有無が建物まわりの流体の動きに与える影響があるのかどうか(あるい
はあるのならどの程度か)を模型実験により調べる。
(3)数値シミュレーションの妥当性検証のための実験データを提供する。
2.建物模型の製作
本研究では、(1)外装材が全く流失しない模型、(2)少量の外装材の流失が再現できる模型および
(3) 多くの外装材の流失が再現できる建物模型を製作した。いずれも S 造 3 層の建物を想定し、
外形寸法を 1/30 スケールで製作する。模型フレーム(写真 1)を構成する部材には、溝形のアル
ミ材を使用し、接合部(写真 2)にはスチール製の金折れ金具を用いてボルトとナットで固定す
る。二つの同じ設計の模型フレームを製作し、外装材の取り付け方の違いにより、前述の 3 種類
写真 1 模型フレーム
写真 2 模型接合部
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の建物模型を区別する。なお、模型フレームは、予想される津波実験荷重で降伏することがない
ように設計している。以下に3種類の建物模型の製作概要を示す。
(1) 外装材が全く流失しない模型(外装材非流失モデル)
1 層目から 3 層目まで 1 枚の外装材(木製板)とする。模型フレームの梁部分に取り付けた外
装材取付用木板に、外装材を木ねじで固定する。
(2) 少量の外装材の流失が再現できる模型(外装材流失少モデル)
幅 22mm、高さは各層の階高に合わせた多数の外装材(木製板)を製作し、これらの上下に孔
を設ける。外装材の孔に合わせて、外装材取付用木板に釘を打つ。この上下の釘を外装材の上下
の孔にはめこむ。
(3) 多くの外装材の流失が再現できる建物模型(外装材流失多モデル)
外装材流失少モデルと同じ模型フレーム及び外装材を用いる。外装材流失多モデルでは、外装
材の上の孔だけに釘をはめこむ。
写真 3 外装材非流失モデル
写真 4 外装材流失少モデル
写真 5 外装材流失多モデル
3.実験方法
実験では、プランジャー型の造波装置を有する鹿児島大学地域防災教育研究センターの地震・
津波室内実験システム 5)を活用する。実験室内のコンクリート床版の上に鋼製基盤を接合し、そ
の上に、図 1、図 2 のように建物模型を設置した。各モデルによる津波荷重の水平力の大小を検
討するために、鋼製基盤と柱脚部は図のようにローラー仕様とし、金折れ金具を鋼製基盤と柱脚
部の間に取り付け、金折れ金具のみに水平力が伝達するようにした。その金折れ金具の上下面に
歪ゲージを貼り付けた。図 3 のように模型側に取り付けたゲージを上、設置用鋼板側に取り付け
たゲージを下とする。ゲージには防水加工を施した。
前述の 3 種類のモデルについて、同じ条件下で計 5 回ずつ津波実験を行い、図 1、図 2 中の建
物模型柱脚部 A , B , C , D の歪を計測する。また、図 1、図 2 中の計測器 1,2,3,4 の位置の水位変
動を波高計で計測する。なお、波高計は模型設置用鋼製基盤から 40mm の高さに設置している。
4.実験結果
以降に示す実験結果のグラフは、いずれも同じモデルでの5回の造波実験の平均値を示してい
る。図 4 は、A から D の位置での柱脚部ひずみ時刻歴を示している。ここで、外装材流失少、流
失多モデルの B 上歪ゲージがはがれ、計測不可能となったため、それらの値は 0 としている。図
より、外装材非流失モデルに比べて、外装材流失多モデルの柱脚部ひずみは、大きく異なり、最
大値が2倍程度となっていることが確認された。図 5 は、計測器 1 から 4 の位置での水位変動の
時刻歴を示している。波高計 1 , 4 では、モデルの違いによる最大水位の変化はないが、模型の側
面となる 2 , 3 の計測器位置では、流失が多くなるにつれて、最初の波および返しの波が高くなっ
ており、流失多モデルは、非流失モデルの2倍程度となっていることが確認された。なお、流失
多、流失少モデルとも外装材の流失は、第 1 層に集中した。5 回の実験を平均すると、流失多モ
デルでは、第 1 層の外装材の 80 から 90%程度が流失し、流失少モデルでは、第 1 層の外装材の
10 から 20%が流失した。
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図 1 建物模型の設置(立面)と計測器番号
図 2 建物模型の設置(平面)と計測器番号
図 3 ローラー仕様の柱脚部
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写真 6 防水加工
柱脚部ひずみ(μ)
経過時間(s)
図 4(A)
柱脚部ひずみ時刻歴(外装材非流失モデル)
柱脚部ひずみ(μ)
経過時間(s)
図 4(B) 柱脚部ひずみ時刻歴(外装材流失少モデル)
柱脚部ひずみ(μ)
経過時間(s)
図 4(C) 柱脚部ひずみ時刻歴(外装材流失多モデル)
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水位変動(mm)
経過時間(s)
図 5(A) 水位変動時刻歴(外装材非流失モデル)
水位変動(mm)
経過時間(s)
図 5(B) 水位変動時刻歴(外装材流失少モデル)
水位変動(mm)
経過時間(s)
図 5(C) 水位変動時刻歴(外装材流失多モデル)
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4.まとめ
本研究では、木製外装材を装着したアルミ製建築構造模型を製作して、外装材非流失モデル、
外装材流失少モデル、外装材流失多モデルの津波実験を行った。得られた知見を以下に示す。
(1) 外装材非流失モデルに比べて、外装材流失多モデルの柱脚部ひずみは、大きく異なり、流失
多モデルの最大値が非流失モデルの2倍程度となっていることが模型実験により確認された。
(2) 模型の側面の計測器位置では、流失が多くなるにつれて、最初の波および返しの波の波高が
高くなっており、流失多モデルは、非流失モデルの2倍程度となっていることが確認された。
今後は、解析面での検討も行いながら、ここで得られた知見の理由について考察していく予定
である。
謝辞
本研究を行うにあたり、建築模型の製作、実験の実施とデータ作成面での協力をいただいた鹿
児島大学平成 26 年度卒論生の松元綾子君と技術員の井崎丈氏、貴重なご指摘とご支援をいただき
ました鹿児島大学地域防災教育研究センター長の浅野敏之教授、事前実験準備でご協力をいただ
きました浅野研究室、澤田研究室の学生諸君に心より感謝の意を表します。
参考文献
1) 野中哲也、本橋英樹、吉野廣一、原田隆典、川崎浩司、馬越一也、菅付紘一:京コンピュー
タによる橋梁を含む広域3次元津波シミュレーション、第 16 回性能に基づく橋梁等の耐震設
計に関するシンポジウム講演論文集、2013
2) 川崎浩司、鈴木一輝、高杉有輝、李光浩、中村友昭、鈴木進吾:東北地方太平洋沖地震によ
る三陸海岸南部の津波被害と浸水特性、土木学会論文集 B2(海岸工学)Vol.68、No.2、
I_381-I_385、2012
3) チャルレス シマモラ、鴫原良典、藤間功司:建物群に作用する津波波力に関する水理実験、
海岸工学論文集、第 54 巻、831-835、2007
4) 国土交通省国土技術政策総合研究所、独立行政法人建築研究所:平成 23 年(2011 年)東北地
方太平洋沖地震被害調査報告、2012
5) 浅野敏之:津波室内実験システムを用いた津波に強い建築物・防災都市構造の研究、
「南九州
から南西諸島における総合的防災研究の推進と地域防災体制の構築」報告書
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