風土色を考慮した河川景観評価に関する研究 環境開発工学 北村 拓也 1

風土色を考慮した河川景観評価に関する研究
環境開発工学
1.はじめに
北村
拓也
景観に対する評価は主観的で基準があいまいなことが多い。本研究で
は、河川景観の評価を定量的に行うことを目指し、印象評価に関わる心理量と河川景
観を特徴付ける物理量(色、形状)との関連性を見出すことを目的とする。その中で、
河川景観に反映されている風土性(社会の空間や自然に対する関係性)を風土色とい
う観点からも考慮した。
2.アンケート調査
河川景観の印象
がどのように形成されているのかを明
表1 対象とした河川景観
大阪
三重
①大和川大和橋上流方向 ②宮川宮川橋上流方向
③大和川新大和橋上流方向 ④宮川久具都比売橋下流方向
⑤堂島川玉江橋上流方向
⑥五十鈴川宇治橋下流方向
⑦堂島川玉江橋下流方向
⑧宮川萩原橋上流方向
らかにするため、写真を用いたアンケート調査
を行った。被験者は、大学生以上が中心の一般
グループ(123 名)と小学生・中学生の生徒グ
ループ(236 名)の、計 359 名である。提示し
た写真は 8 枚であるが風土性の違いが反映され
るよう、大阪と三重の河川を対比させた(表 1)。
設問 1
各々の写真を見たときに視線の行く場
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
上記の評価形容詞対は一般グループに対してのもの.
生徒グループに対しては上の2、8の評価形容詞対の代わりに
2 遊んでみたい−遊びたくない
8 大丈夫そうだ−危なそうだ とした.
パワー・スペクトル解析
(Power-spectrum Analysis)
所について写真中にチェックしてもらった。
2.15
8 枚の写真それぞれについて、10 の評価
形容詞対(表 2)に対して 5 段階の評価尺度で回
答するSD法による質問。結果は系列範疇法で集
36
2.05
8
4
フラクタル次元(D)
設問 2
表2 アンケートに用いた評価形容詞対
美しい − 美しくない
好感が持てる − 好感が持てない
変化のある − 単調な
雄大な − こぢんまりとした
自然的な − 人工的な
地味な − 派手な
まとまりのある − まとまりのない
安全な − 危険な
明るい − 暗い
立体的な − 平面的な
1.95
1.85
7
1.75
5
設問 3
2
1.65
計し、主成分分析を行った。
1
1.55
0.18
一般グループに対してのみの質問(生徒
0.22
0.26
0.30
0.34
0.38
0.42
0.46
フラクタル性(R)
グループの被験者への負担を考慮して)。8 枚の河
図1
パワースペクトル解析(色彩情報のみ)
ボックス・カウンティング法
(Box-counting Analysis)
川景観の写真を“良い景観であると思う”“景観の
1.40
5
色合いが良いと思う”“親しみを感じる”という 3
果は、順位法で集計した。
2.色および形状の調査・分析
定量的な指標と
してフラクタル解析を行い、色(図 1)、形状(図
2)という 2 つの観点からの解析を行った。色につ
フラクタル次元(D)
つの観点から順位付けしてもらった。得られた結
1.36
1
1.32
4
6
3
1.28
2
7
1.24
1.20
8
1.16
0.980
0.982
0.984
0.986
0.988
0.990
0.992
0.994
0.996
フラクタル性(R)
図2
ボックスカウンティング解析(形状情報のみ)
15
いては現地での測色から作成した色度図
14
13
12
(図 3)を元に色分析を行った。
設問 1
4.考察
11
10
9
色分析の結果より、色
8
7
6
彩的に周りと比べて際立っている部分や誘
5
4
3
目性の高い部分に多くの視線が集まってい
2
1
0
ることがわかった。また、山並みや樹
10
9
木群など自然的なものに対する印象は
8
7
良く、橋や建物など人工的なものに対
川
6
川 岸 (岩 )
川 岸 (草 )
5
樹木
する印象は良くない傾向がみられた。
山
4
壁
屋根
3
設問 2
写真全体の主成分分析結果か
2
1
らは、景観に対する印象の次元はおお
0
N
5R
10R
5YR 10YR 5Y
5GY 10GY 5G 10G 5BG 10BG
5B
10B
5PB 10PB
5P
10P
5RP 10RP
宮川萩原橋(上流)
むね 2 つの主成分に集約されることが
わかった。写真ごとの主成分分析結果
10Y
図3
色度図(宮川萩原橋上流方向)
からは、各写真景観に対する印象の次元は 2 つから 4 つの主成分に集約されることが
わかった。これらをまとめた結果、河川景観全体に関しても、それぞれの河川景観に
関してもその心理的印象の次元は 3 つに集約され、それらは様々な印象評価に共通し
て抽出されるといわれている、評価性・活動性・力量性に対応していた。また、主成
分分析の結果から、全体的な傾向として一般グループは生徒グループよりも景観を評
価するにあたっての考え方が複雑であることがわかる。
設問 3
色に注目したパワースペクトル解析では、フラクタル次元と順位評価との間
に関係が見出だされ、順位評価の結果が良い景観はある一定の色のばらつきを有する
ことがわかった。形状に注目したボックスカウンティング解析では、たくさんのもの
(特に建物)が存在する景観はフラクタル性及びフラクタル次元が大きく、自然の樹
木群や水面というような構成物が多く存在する景観はフラクタル性及びフラクタル次
元が小さいという傾向が見られた。しかし、心理的評価との関係性は見られなかった。
5.まとめ
人間の主観的な景観評価は景観全体の好ましさをその評価の第一に考え
ていて、その景観全体の好ましさは景観における色のばらつきと関係が深いことがわ
かった。好ましいとされる色のばらつきは自然のもので構成されている景観において
見られることが多い。また、色彩的に周りと比べて際立っている部分や誘目性の高い
部分に多くの視線が集中する際の心理的評価も、山並みや樹木群など自然的なものに
対する印象は良く、橋や建物など人工的なものに対する印象は良くないという傾向が
みられた。