主体的に運動に関わる児童の育成 ~「プレルボール」

運動することの楽しさを知り、主体的に運動に関わる児童の育成
~「プレルボール」での「学び合う学び」を通して~
小牧原小学校
土
谷
健
「ゴールデンエイジ」と呼ばれる小学生の時期に、様々な運動を楽しく体験することが
重要だと考えた。したがって、体育科の「プレルボール」の授業を通して、仲間との関わ
りを深め、体を動かす楽しさを実感させることで、主体的に運動に関わる児童の育成を目
指した。授業展開の工夫やグループ学習の充実によって、グループ練習や試合の中に楽し
さを見いだし、主体的に運動に関わる児童が増えたと言える。
運動することの楽しさを知り、主体的に運動に関わる児童の育成
~「プレルボール」での「学び合う学び」を通して~
小牧原小学校
1
土
谷
健
主題設定の理由
現在、日本では子どもの体力低下が問題となっている。小学校学習指導要領解説体育
編にも「運動する子どもとそうでない子どもの二極化の傾向や子どもの体力の低下傾向
が依然深刻な問題となっている」と記載されている。こう言われ続けて久しいにもかか
わらず、なかなか解決策が見つからず、体力上昇の気配が見られないのが現状である。
その理由の一つとして、運動することに興味を持てない子どもが多いのではないかと
思われる。本校の児童においても、休み時間は教室内で読書やお絵かきをして過ごして
いる姿を多く見かける。また、帰宅後は家でテレビを見たり、ゲームをしたりして過ご
している話を子どもからよく聞く。
さらに、運動する子どもでも、体育科の授業になると、単元によって好き嫌いがはっ
きりと分かれる。本学級で4月にとったアンケート結果からも、体育が大好きと答えた
子どもは、34人中16人と半分に満たない結果が出ている。
そこで、体育科の授業を通して、運動能力の向上を目指す中で、仲間との関わりを深
め 、 児 童 に 体 を 動 か す 楽 し さ を 実 感 さ せ た い と 考 え た 。 小 学 生 の 年 代 は 、「 ゴ ー ル デ ン
エイジ」と呼ばれ、運動神経のほぼすべてがこの時期に形成されると言われている。つ
まり、小学校で過ごすこの時期に様々な運動を楽しく体験することが、運動能力を高め
ることにつながり、生涯を通じて運動に意欲的に取り組もうとする姿勢を育てることに
なると考える。
さらに、本研究では、児童が自分たちで試行錯誤し、課題解決していくことで、参加
し て い る 実 感 が 持 て る よ う に 、「 学 び 合 う 学 び 」 の 場 面 を 設 定 し た 。「 学 び 合 う 学 び 」 の
良さは、友達と意見を交わすことによって、相手の考えを聞き自分の考えと比べたり、
組み合わせたりしながら、自分の考えを深めたり広げたりできることである。また、自
分たちで課題解決できたという充実感も得られる。先にも述べた、室内で一人で過ごす
ことが多く、人間関係が希薄になってきている現代の子どもたちにとって、友達と関わ
りながら学ぶことのできる資質や能力を身に付けるという意味でも「学び合う学び」の
意義は大きい。よって、体育科の授業において「学び合う学び」の場面を多く取り入れ
ることで、運動することの楽しさや充実感を知り、主体的に運動に関わるようになると
考え、本研究課題を設定した。
2
研究の目標及び研究仮説
体育科の授業で、子どもたちが試合に向けての練習方法を考えて実践し、それを繰り
-1-
返すことで、主体的に運動に取り組むようになることを本研究の目標とし、研究仮説を
以下のように設定した。
研究仮説
ボ ー ル 運 動「 ネ ッ ト 型 ゲ ー ム( プ レ ル ボ ー ル )」に お い て 、互 い に 話 し 合 い 、教 え
合い、協力し合いながら活動することによって、運動することの楽しさを知り、主
体的に運動に関わるようになるだろう。
3
研究の構想
研究の仮説に迫るため、次の三つの手立てを考えた。
(1 )
教材
事前アンケートによると、好きな運動でボール運動と答えた児童は18人と多い
が、嫌いな運動でボール運動と答えた児童は8人おり、少なくはない。本研究で扱
うボール運動「ネット型ゲーム」のプレルボールとは、ボールを自陣の床にこぶし
又は前腕を用いてボールを打ちつけ、味方にパスをしたり、ネットを越して、相手
コートにボールを返したりする運動である。
サッカーや野球、バスケットボールといった、一般的に人気のある運動は、経験
のある児童の活躍が目立つばかりで、他の児童は最初から授業に対して受け身にな
ってしまいがちである。プレルボールは、ほとんどの児童が経験したことがないと
いう同じ条件で始められるので、多少技能の差があったとしても、意欲の低下につ
ながることは少ないと考えて選んだ。また、児童の実態に合わせて、ルールや器具
などの変更ができるため、より楽しく活動するために児童の意見を反映できるメリ
ットがある。ただ、馴染みのない運動なので、最初はイメージを持たせるために、
プレルボールの動画を見せ、基本的な動作や練習方法については、教師が手本を示
した。
(2 )
グループ活動
「プレルボール」は、チームで話し合って練習や試合を行うような活動の工夫を
し て い く 必 要 が あ る た め 、授 業 で「 学 び 合 う 学 び 」の 場 を 設 定 し 、
「 練 習 」や「 試 合 」
において、基本的にグループで活動するようにさせる。
また、グループでの話し合いによって取り組む練習は、試合で生かせる技能とど
のように関連しているかを常に明らかにしてから、活動させるようにする。
(3 )
授業展開
単 元 を 通 し て 、「 練 習 方 法 の 提 示 」、「 グ ル ー プ 練 習 」、「 ゲ ー ム 」、「 振 り 返 り 」 と い
う授業の流れで行う。
ま た 、「 グ ル ー プ 練 習 」 を よ り 充 実 し た も の に す る た め に 、 い く つ か の 「 練 習 方 法
の提示」では教師が手本を見せて、まずはしっかりと理解を深めさせる。そして、
-2-
自分たちのグループに合った練習を選択したり、新たな練習を考えたりさせる。
さらに、授業後半のゲームを、全ての児童が楽しむこと、かつ、試合中の声かけ
を大切にすることを意識させる。
4
研究の計画
第1時
学習のねらいや進め方を理解し、学習の見通しをもつ。
チーム編成をして、ボールに慣れ親しむ。
第2時
基本的な動作や練習方法の確認をする。
第3時
第4時
チームで工夫して練習・試合をする。
第5時
第6時
ルールの変更を理解し、練習・試合をする。
第7時
チームで工夫して練習・試合をする。
第8時
第3時以降の授業展開は、
【資料①】
「 練 習 方 法 の 提 示 」、「 グ ル
ー プ 練 習 」、「 試 合 」、「 振 り
返り」という流れを継続し
て行い、児童が友達と関わ
り合って活動できたか、ま
た、主体的に運動に取り組
んだかを以下のような観点
から検証する。
ア
児童の活動の様子
(授業観察、ビデオ)
イ
授業での振り返り
(発表)
ウ
体育アンケート
【資料①】
-3-
5
研究と考察
(1) 授業実践の実際
ア
第1時
チーム編成で留意した点は二つある。
一つ目は、運動能力を考慮したことである。36人を4人ずつの9チームに分ける
ということは、同じチームに二人以上運動能力が高い児童がいるだけで、試合で有利
な状況ができ、全員が楽しく活動することが難しくなってしまうと考えられるからで
ある。したがって、体力テストのデータを考慮して、チームの運動能力に偏りがない
よう編成を行った。
二つ目は、リーダー性のある児童の考慮である。話し合いや練習、試合において、
4人の集団をまとめることのできる児童を、チームに一人は入れるように編成を行っ
た。また、集団で行動をすることが難しい児童の偏りがないようにも配慮した。
第1時の導入では、主にソフトバレーボールの扱いに慣れることや、みんなが楽し
んで活動することを目標にして取り組んだ。事前に動画でプレルボールの映像を見た
イメージをもとに、ソフトバレーボールを使って、手のひらでボールを弾ませたり、
キャッチしたりして慣れ親しんだ。
イ
第2時
基本的な動作の確認と以下の練習方法の紹介をした。
人数
練習
身に付く能力
2人
バウンドパス
狙ったところに打つ
バウンドパス(フラフープ)
狙ったところに打つ(難しい)
場所替えパス
素早く動く
2ボールパス
狙ったところに打つ
円陣バウンドパス
狙ったところに打つ
3 、4 人
素早く動く
チームワーク
円陣バウンドパス(フラフープ) 狙ったところに打つ(難しい)
チームワーク
円陣2ボールパス
狙ったところに打つ
素早く動く
チームワーク
確実に練習方法を覚えるように指導した。教師が手本を示す際に、大げさな声で相
手の名前を読んだり、わざと失敗例を見せたりして、子どもたちが意欲的に取り組め
るようにした。フラフープを使った練習方法はとても難しく、技能がまだ身について
ない様子がうかがえた。どの練習も、楽しんで取り組んでおり、特に円陣バウンドパ
スの練習を、大きな声で名前を呼び合って、雰囲気よく行っていた。
-4-
ウ
第3時
前時に示した練習の中から、取り組む練習を話し合いで決定し、実践した。練習方
法を確認しつつ、グループで声をかけ合って活動する姿が多く見られた。しかし、一
方 で は グ ル ー プ で う ま く 練 習 を 行 え ず に 、孤 立 し て し ま う 児 童 が 見 ら れ た 。そ の た め 、
その児童とグループ全員で難易度が低い練習から始めるように指導した。また、グル
ープ練習となって教師の目が離れると、開放感から勝手な行動をとってしまう児童も
見られ、グループ練習の成立が困難なグループもあった。そのような問題が起こるた
びに、グループで学習することの意義を理解させるよう全体に指導した。
授業の後半は初めての試合を行った。ルールは、自分のコートで3回パスを回した
後に、ネットを越して相手コートにボールを返すことである。さらに、パスをした時
に、2回以上バウンドしてしまうか、自分のコートからボールが出てしまったら、相
手に1点を加点することとした。試合自体はスムーズに展開したが、ルールが曖昧の
まま試合が流れてしまうことも多々あった。特に「2バウンド」の見極めが曖昧にな
ってしまった。
振 り 返 り で は 、「 練 習 が 難 し か っ た 」「 サ ー ブ を あ り に し た い 」「 チ ー ム で 協 力 で き
た」など、多数の意見があった。ただ、初めての試合は、児童にとって今後の学習意
欲の向上につながるとても良い刺激となり、練習やルール、協力して取り組むことの
大切さに気が付いた児童が複数いたことは、振り返りの発表からうかがえた。
エ
第4時
ここでは「身に付く能力」を意識して練習に取り組むようにさせた。グループで話
し 合 っ て 練 習 を 決 定 す る が 、「 で き な い こ と が で き る よ う に な る た め 」 の 練 習 で は な
く 、「 み ん な が で き る こ と を し っ か り と 身 に 付 け る 」 練 習 を し て い る グ ル ー プ が 多 か
った。ただし、失敗を恐れて、前へ一歩を踏み出せないグループが多くあった。
前時で「サーブをありにしたい」という意見を取り上げ、試合におけるサーブの方
法 に つ い て み ん な で 考 え た 。 そ の 結 果 、「 相 手 が 受 け 取 り や す い サ ー ブ に し た い 」 と
意見がまとまり、数分間サーブの練習を行った。そして、試合はサーブから始めるよ
うに変更した。プレルボールの「児童の実態に合わせて、ルールやコート、ボール、
人数などの設定を柔軟に変えることができる」ということを理解して、みんなが楽し
めるようにルールの変更をすることには積極的であった。
さらに、本時から審判は子どもたちによるセルフジャッジで行わせた。正確な判定
をすることは難しいが、なるべく教師の手を借りずに取り組むことによって、より主
体的な活動になるように授業を進めた。
オ
第5時
この授業では「試合を意識した」練習を選択し、取り組むように指示を出した。ま
た、自分たちで新しい練習を考えて実践してもよいことを伝え、取り組ませた。
-5-
本時あたりから、グループによって練習内容に変化が見られるようになってきた。
確 認 し た 練 習 方 法 以 外 を 考 え て 行 っ た り 、「 試 合 中 は こ う し よ う 」「 時 計 回 り で パ ス を
回して練習しよう」などと声をかけ合ったりと、試合を意識して練習したり、グルー
プ全員の技能の向上を目指して練習し
たりするグループが見られた。しかしな
がら、うまくいっているグループとは反
対に、とりあえず取り組みやすい練習を
しているグループや、みんなでやろうと
意識するが、一部の子が勝手な行動をし
てしまうグループなど、様々な行動が見
られた。そこで、上手に行っているグルー
練習方法の話し合い
プの練習を全体に紹介した。
練習中に見られた「床に思いっきりボールを打ちつける」動作は、一見すると不真
面目に見えるが、ソフトバレーボールの扱いに慣れてきて、その特性を十分に生かそ
うとしている動作である。これは、ボールを遠く、高くに飛ばすことができる。アタ
ックの際に、得点につながりやすい動作の一つである。授業では、こういったボール
の扱いは教えてないにもかかわらず、自分たちで練習の中から見つけ、次の学習につ
ながる動作をし始めていた。
ま た 、 授 業 の 最 後 に 行 っ た 振 り 返 り で も 、「 試 合 で す ご い ボ ー ル が 飛 ん で き た 」 と
発表した児童がいた。この動作について興味を持った児童が多く、あらためて紹介す
ることにより、期待感を持って、次時の学習につなげた。
カ
第6時
前時の振り返りで子どもから出た意見を生かし、プレルボールを、より力いっぱい
楽しく行うために、こぶしでボールを打ちつける練習を指導した。前時までの学習で
は、扱いやすいように、手のひらでボールを操作していたが、ボールを打つ手のひら
の 形 を こ ぶ し に 変 え る こ と は 、ボ ー ル を 正 確 に 操 作 す る こ と が 難 し く な る 。そ の 反 面 、
ボールに勢いが増し、力を入れて打ちつけなくても、大きなバウンドになるなど、力
の加減が難しくなる。そこで、練習前に、以下の打ちつけ方【資料②】を例として紹
介した。
【資料②】
-6-
本 来 、「 プ レ ル 」 と い う 言 葉 は 、 ド イ ツ 語 で 「 打 ち つ け る 」 と い う 意 味 で あ る 。 本
研究では、ボール操作の困難さから、初めは手のひらでボールを打つやさしいルール
で始めたが、子どもが意欲的に練習や試合を行った結果、技能が上達し、自ら次の学
習段階へ向かったことに驚いた。
練習をさせると、どの子も意欲的に取り組んだ。パスの練習では、予想以上に飛ぶ
ボールの感触を楽しむように活動していた。また、試合では、展開が躍動的になり、
運 動 量 も 増 し た 。 振 り 返 り で は 、「 ボ ー ル を 上 手 に 打 て な か っ た 」 と い う 発 表 も あ っ
たが、ほとんどの子が諦めずに取り組んでいた。
キ
第7時・第8時
打ち方の確認をして、グループ練習を行った。前時で教えた打ち方を、どの児童も
上 手 に 打 て る よ う に な ろ う と 練 習 に 取 り 組 ん だ 。中 に は 、思 い っ き り 打 ち つ け す ぎ て 、
ボールが遠くへ飛んで行ってしまう場面もあった。
試合を始める前に、子どもの意見を聞き、ル
ールの変更と確認を行った「
。サーブは相手の取
りにくい所を狙ってもよい「
」バウンドは必ず1
回だけ」
「 パ ス は 全 員 に 回 し て 、最 後 の 人 が ア タ
ックする」など、児童が対応できそうな範囲で
決定した。
「サーブは相手の取りにくい所を狙っ
てもよい」という変更は、ラリーをする意識で
はなく、きちんとパスをつないでアタックし、
ルール変更後の試合の様子
得点を取って勝ちたいという意欲が多く見られたからである。
ま た 、試 合 を 行 っ て い な い グ ル ー プ に 電 子 ホ イ ッ ス ル を 一 つ 持 た せ 、審 判 を さ せ た 。
不安なチームには教師が支援に入った。特に、バウンドの見極めが難しいので、審判
をするグループ全員で意識的に見るように伝えた。試合をしている時も、ルールを確
認し合う声かけが多くなり、審判を経験させることによって、グループ全体のレベル
アップにもつながった。
単元最後の振り返りでは、
「 み ん な で 練 習 す る こ と が 楽 し か っ た 。」
「教えてくれてう
れ し か っ た 。」 な ど の 発 言 が あ っ た 。 ま た 、 体 育 係 で は な い 児 童 も 積 極 的 に 器 具 の 後
片付けを行う姿が見られた。
(2) 考察
ア
授業実践から
授 業 を 進 め て い く 中 で 、単 元 前 半 で は 、慣 れ な い 運 動 に 戸 惑 い を 見 せ る 児 童 も い た 。
また、初めて行う運動に気持ちが高揚し、自分勝手な行動をしてしまい、グループ活
動に支障をきたした場面も見られた。しかし、みんなが楽しめるようにと、ルールの
変更を子どもたちで考えて取り組んでいくうちに、練習に力が入るチームが増えてい
-7-
った。特に第4時では、子どもたちの意見を反映して活動することによって、より主
体的に活動できるようになってきた。
そして、単元後半では、打ち方を変えて取り組むことによって難しさが増すことに
なった。しかし、子どもたちは、その難しさを楽しむように取り組むことができた。
さらに、ボールの勢いが増すことによって、素早く動くことが必要となり、練習や試
合でも、運動量の増加につながった。
また、
「 練 習 方 法 の 提 示 」、
「 グ ル ー プ 練 習 」、
「 試 合 」、
「 振 り 返 り 」と い っ た 流 れ で 活
動を繰り返すことで、自分だけでなくグループ全員のことを考えて取り組むことがで
き た 。 振 り 返 り で は 「 チ ー ム で 声 を か け 合 っ て 練 習 で き た 」「 ○ ○ 君 が 教 え て く れ て
うれしかった」などの発言が出たことは、友達と関わり合って活動できた証拠と言え
る。さらに、授業後に残って器具の後片づけをしてくれる児童が増えたことは、プレ
ルボールに対する好意や、関心の高まりから生まれた行動であると考えられる。
ま た 、グ ル ー プ 練 習 で は 、
「 身 に 付 け た い 能 力 」を 基 準 に 練 習 を 考 え る よ う に 伝 え た
が、全てのグループがそのことを意識して練習を決定したわけではなかった。小学3
年生の発達段階を考えると、自分たちの運動能力を考慮した練習の選択は困難だった
のかもしれない。中には、提示した練習以外の方法を考え、実践しているグループも
あ っ た が 、技 能 向 上 に 効 果 的 な 練 習 は 少 な か っ た 。た だ 、こ の よ う な 自 発 的 な 行 動 は 、
意欲の向上によって生まれたものなので、本研究においては、練習方法をグループで
話し合って決定させることは、運動への主体的な関わりを目指す視点で考えると、意
味のあったことだと思われる。
イ
アンケート結果から
4月と7月に調査したアンケートを比較して考察すると、以下のようなことが考え
られる。
①
好きな運動(複数回答可)
【資料③】好きな運動は何ですか?
「好きな運動」を答える設問【資料③】で
は、ドッジボールやサッカーなどのボール運
動と答えた児童は、18人から33人に増え
た。また、跳び箱や縄跳びなどの他の運動と
答えた人数も、14人から36人と2倍以上
も増えた。この結果から、ボール運動に関わ
らず、どの運動に対しても、前向きな気持ち
を持つ児童が増えたことが言える。
②
ボール運動が好きな理由(自由記述)
次 に 、 ボ ー ル 運 動 が 「 好 き 」、「 と て も 好 き 」 と 答 え た 児 童 を 対 象 に 尋 ね た 「 ボ ー
ル運動が好きな理由」の結果についてである。本研究実施前の4月にとったアンケ
-8-
ートには、
「 ボ ー ル を 投 げ て 人 に 当 て る と う れ し い か ら( 4 人 )」
「サッカーでゴール
を 決 め る と う れ し い か ら( 3 人 )」
「 遠 く に ボ ー ル を 投 げ る こ と が 楽 し い か ら( 2 人 )」
などの個人の達成感に関する理由が多かった。しかし、本研究実施後の7月にとっ
た ア ン ケ ー ト で は 、「 試 合 で は み ん な と 協 力 し て 、 練 習 の 成 果 を 出 せ る か ら ( 3 人 )
【 資 料 ④ 】」「 友 達 と 協 力 す る と 勝 ち や す く な る か ら ( 2 人 )」「 試 合 に 勝 つ た め に 話
し 合 っ て 、勝 つ と う れ し い( 1 人 )
【 資 料 ⑤ 】」
「 練 習 し た 分 だ け 上 手 に な る か ら( 1
人 )」 な ど 、「 練 習 し た こ と を 試 合 に 生 か す こ と の 面 白 さ 」 や 「 友 達 と 協 力 し て 取 り
組むことにより、技能が上達したり、勝利を分かち合ったりする喜び」を感じてい
るような回答があった。この回答の変化から、ボール運動の楽しみ方に対する考え
が、個人技能の上達や達成感から、試合を優位に進めるために、協力して得られる
喜びなどに変化した児童が多かったと考えられる。
【資料④】
6
【資料⑤】
研究の成果と今後の課題
(1) 研究の成果とその要因
本 研 究 で は 、運 動 す る こ と の 楽 し さ を 実 感 し 、主 体 的 に 運 動 に 関 わ る た め に 、
「学び
合う学び」の場面を設定し、グループ学習を充実させて授業実践をした。
児童にとって新鮮味があり、技能の差が小さいプレルボールを体育科の授業で実践
し た こ と で 、 興 味 を 持 っ て 取 り 組 む こ と が で き た 。 ま た 、「 練 習 方 法 の 提 示 」、「 グ ル
ー プ 練 習 」、「 試 合 」、「 振 り 返 り 」 と い う 流 れ で 授 業 を 進 め て い く う ち に 、「 楽 し む だ
け で な く 、 上 手 に な ら な く て は い け な い 」、「 チ ー ム で 協 力 す る こ と が 大 切 」、「 み ん な
でやると楽しい」などの意識が表れた。このことは、先に述べたアンケート結果や子
どもの発言からの考察による、主体的に運動に取り組むことができたという成果であ
る。
また、ルールの変更を子どもたちが考えて行ったことや、課題が難しくなったこと
で、主体的な活動につなげることができた。さらに、審判をさせたことでルールの大
切さを知り、また、その経験を自分たちの試合に生かすことができた。
-9-
今回の実践を通して、グループ練習や試合の中に楽しさを見いだし、授業中に主体
的に運動に関わる児童が増えたと言える。
これらの主体的に運動に関わることにつながった要因は、授業展開の工夫やグルー
プ学習の充実によるものである。さらには、普段の学級経営を充実させなければ、友
達と関わり合って学び合うことはできない。
(2) 今後の課題
体育科の授業を通して、運動に対して前向きになり、主体的に関わることができる
ようになったことは確かに成果といえるが、体育科以外の場面において、そのことが
生きて働いているかどうかは疑問である。
放 課 や 授 業 後 に 友 達 と 運 動 を し た く て も 誘 う こ と を た め ら っ た り 、「 仲 間 に 入 れ て 」
と 言 い 出 せ な か っ た り す る よ う な 人 間 関 係 で は 、運 動 を し な く な っ て し ま う 。そ し て 、
体を動かさないような過ごし方を楽しむようになってしまい、大人になってからも運
動を行わなくなってしまうことにつながるかもしれない。
放課や授業後においても運動に親しみを持ち、取り組むようになるために、まず必
要なことは、子ども同士が誰とでも仲良く接することができる人間関係の構築であり、
学級独自での運動を啓発するような具体的な取り組みも必要になる。
また、個人種目の場合でも、ある程度の運動経験や知識、技能があってこそ、技能
の 上 達 を 目 指 し て 、自 発 的 に 練 習 に 取 り 組 む よ う に な る 。そ の 段 階 ま で 到 達 す る に は 、
まずは「運動を楽しいこと」と感じることが必要不可欠といえる。小学3年生の発達
段 階 で あ る こ と を 考 慮 す る と 、「 運 動 は 楽 し い こ と 」 と 感 じ さ せ る に は 、 友 達 と 外 で
体をたくさん動かして楽しむ体験が近道であると考える。そのためには、やはり、分
け隔てなくよりたくさんの友達と関わり合おうとする「心づくり」が基盤になると思
われる。
今回の実践で児童が感じた、
「 み ん な で 運 動 す る と 上 手 に な る し 楽 し い 」と い う 意 識
を、体育科以外の場面で生かせるように、具体的な取り組みをすることが、今後の課
題 で あ る 。 ゴ ー ル デ ン エ イ ジ の 子 ど も た ち が 、「 運 動 は 楽 し い こ と 」 と い う 感 情 を 積
み重ねていくために、日々の学級経営と、教材研究に励んでいきたい。
<参考文献>
『小学校学習指導要領解説体育編』
文部科学省
『 こ ど も と 体 育 No.146』 光 文 書 院
『子どものつまずきがみるみる解決するコーディネーション運動
―ボール運動編―』
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明治図書