(研究テーマ) 言葉を大切にして、楽しんで文学作品を読み味わう生徒の

(研究テーマ)
言葉を大切にして、楽しんで文学作品を読み味わう生徒の育成
―2年生「新しい短歌のために」の実践を通して―
北里中学校
三
輪
友
利
恵
本実践は、言葉を手がかりに文学作品の心情や情景を楽しんで考えられる生徒の育成を
目指したものである。短い言葉で心情や情景が表現されている短歌を用い、言葉から読み
を深める活動を行った。短歌の中にあるキーワードに注目させ、グループでの聴き合いを
有効に活用することで、生徒たちは意欲的に考えを深めることができた。文学作品を読む
最初の段階として短歌を用いることは生徒の意欲を喚起するのに有効な手立てであった。
(研究テーマ)
言葉を大切にして、楽しんで文学作品を読み味わう生徒の育成
―2年生「新しい短歌のために」の実践を通して―
北里中学校
1
三
輪
友
利
恵
テーマ設定の理由
国語の学習に関して、生徒たちは、文法などの答えが明確になる単元には意欲的に取
り組むことができる。しかし、文学作品を読むことには、あまり意欲的でなく、特に情
景描写などから登場人物や作者の心情を考えることを苦手とする生徒が多い。また、教
科書に掲載されている物語文の多くが長編作品であるため、文章量の多さだけで意欲を
なくしてしまう生徒も少なくない。また、生徒に語彙が少ないため、言葉を正しく理解
できないことや、考えをうまく言葉にできないことから、自分の中で漠然と考えるだけ
で終わってしまうことも多い。そこで、文章中の「言葉」に注目し、言葉を手がかりに
して情景や心情を考えられる生徒、そして、それを楽しいと感じられる生徒を育てたい
と考え、テーマを設定した。
2
研究のねらい
文学作品を学習する最初の段階として短歌を取り上げ、キーワードを手がかりに心情
や情景を豊かに想像する学習を通して、他の文学作品を読み味わう楽しさにつなげたい。
3
研究の仮説
①
文学作品を学習する最初の段階として、内容の把握が容易な短歌を取り上げること
で、情景や心情を想像する楽しさに気づくことができるのではないか。
②
キーワードを基に詠われた作者の思いや情景を豊かに想像する学習を行えば、言葉
を大切にして文学作品を読み味わう楽しさに気づくことができるのではないか。
③
4人グループや全体での話し合いを積極的に取り入れ、自分の考えを仲間に伝えた
り、お互いの意見を聴き合ったりする活動を行うことで、自分とは違う考えに触れた
り、自分の考えをより深めたりすることができ、物語文を読み味わおうとする意欲化
が図れるのではないか。
4
研究の手立て
(1) 文学作品を学習する最初の段階として、短歌を取り上げる。
短歌は31音という短い言葉で情景や心情を切り取るものであると考える。短い
言葉で端的に表現されているため、一読して大意をつかむことができる。そのため、
長文が苦手な生徒でも読みやすいのではないか。短歌は短く、簡単に思える言葉の
中に、作者の深い思いを込めてある作品が多く、読みを深めることの楽しさに気づ
かせるのに最適であり、他の文学作品への興味関心を高めることも期待できると考
えた。
(2) キーワードを基にして心情や情景を想像して読み味わう。
短歌の中には、作者の心情や情景を読み取る上でのキーワードがあり、比較的そ
れが見いだしやすい。そして、その言葉を基にして心情や情景を深くまで考えるこ
とで、文章を読み味わう楽しさの一端を感じることができるのではないかと考えた。
(3) 4人グループや全体での話し合いによってお互いの意見を積極的に聴き合うよ
うにする。
文章を読み取るとき、語彙の少なさから、考えをうまく表現できない生徒、考え
ただけで満足してしまう生徒が多い。そのため、4人グループや全体での聴き合い
を授業に積極的に取り入れる。仲間の考えを聴き、自分の考えと比べれば、共感し
たり、意見が対立したりする。そこから、より考えが深まる体験をさせることがで
きるのではないか。今回は近代短歌を教材にすることで、容易に自分の考えをもつ
ことができると考えられる。それゆえ、グループでの聴き合いも活発になるのでは
ないか。そして、この体験から生徒たちは文章を読み味わう楽しさを感じ、より長
い物語文などを読もうという意欲につなげられるのではないかと考えた。
5
研究の計画
平成24年度の2年生と平成26年度の2年生を対象に、以下の単元構成で授業を
行った。
単元
6
豊かな言葉「新しい短歌のために」(4時間完了)
第1次 短歌について知り、短歌を読み味わう。
第1時 短歌の基本的な知識を理解する。
第2時 短歌を読み味わう。
第2次 実際に短歌を作る
第3時 表現したい気持ちや情景を文章にする。
第4時 短歌のリズムにまとめ、作品を発表し合う 。
研究の実際
(1) 平成24年度7月の授業実践
① 短歌の選定
短歌の授業を行う上で、以下の2首を教材に選ぶことにした。
第1時
第2時
「向日葵は金の油を身に浴びてゆらりと高し日のちひささよ」前田夕暮
「深々と人間笑ふ声すなり谷一面の白百合の花」 北原白秋
生徒たちはこの単元で初めて短歌を学習する。教材として、生徒が見たこ
とがあると思われる情景を描いた短歌を選ぶことにした。言葉から情景をイ
メージしやすく、短歌を読み味わうことを楽しいと感じさせ、他の作品も読
みたいと思わせることができると考えたからである。短歌には、心情を中心
に表現したものや恋愛を詠ったものも数多くあるが、生徒の興味が拡散して、
言葉から離れたり、自分の経験と重ねすぎたりして、根拠のある読みができ
なくなる恐れがあるので、短歌との出会いの教材としては、情景を中心に詠
まれているこの2首が最適であると判断した。
第1時は、一読して情景が想像しやすいものとした。ほとんどの生徒が、
「夏の日差しを浴びて、向日葵が元気に咲き誇っている」という情景を想像
でき、「金の油」が何の比喩なのかを考えたり、「日のちひささ」から、向日
葵が大輪の花を咲かせているという情景を思い描いたりできると考えた。
第2時の最初の読みで生徒は「谷一面に咲く白百合の花を見て、人間が笑
っている」と考えると思われる。しかし、「声すなり」は「声がするようだ」
と読むことが分かれば、擬人法が用いられていることに気付き、笑っている
のは人間ではなく百合だという読みができるはずである。言葉に注目して読
むことで、最初とは違う考えに辿り着き、面白さを感じることができるので
はないか。また、なぜ百合が人間を笑っているように見えるのかを考えるこ
とで、情景だけではなく、作者の心情にまで迫ることができるのではないか
と考えた。
② 授業の実際
ア
第1時
今回は、初めて短歌について学習する場面であるため、まずは短歌の基礎
的な事項を説明した。また、短歌は作者が感動した情景や強い心の動きを言
葉で切り取ったものだということを伝え、これから学習する短歌では、作者
のどんな感動が切り取られているのかを考えていくことを確認した。それを
意識し、生徒たちは「金の油」が何の比喩であるかを考え、様々な考えをも
つことができた。また、
「ゆらりと高し日のちひささよ」から、大輪の向日葵
が日を浴びて元気に咲いている情景を考えることができた。短歌を扱う第1
時として、十分に興味を持たせることができた。
イ
第2時
前時では主に言葉を根拠として情景を考えることができたので、今回は情
景だけでなく、作者がどんな心情を込めたのかにまで踏み込んで考えさせた
いと考え、授業を行った。
まず、音読をして4人グループでこの短歌にはどのような情景や心情が切
り取られているのかを考えさせた。多くのグループが「深々」、「すなり」の
意味が分からず、辞書を引いたり、あれこれ想像したりしていた。しかし、
明確な答えは出ず、言葉の意味を考えることに終始しているようだった。ま
た、意味の分かる部分から考えているグループも、百合の花が咲いているの
を見て、人が笑っているという考えで納得し合っていた。
全体での聴き合いでは、まず
生徒の疑問を出させた。すると、
半数程度の生徒が挙手をし、授
業記録のC1、2のように、多
授業記録
1 回目 の 全体 での聴 き 合 い
T
:疑問に思ったことはありますか?
(半数程度の生徒が挙手する)
C1:
「声すなり」の「すなり」の意味が分かりませ
んでした。
C2:
「深々と」がどんな様子かわからなかったです。
くの生徒から疑問が出た。そこ
で、
「声すなり」の意味を伝えた上で、再度4人グループで聴き合わせた。言
葉の意味が分かったので、1回目よりも内容に踏み込んだ話し合いができた。
2回目の全体での聴き合いで
は、C1の意見をきっかけに、
授業記録
T
C4、5のように同じような読
2 回目 の 全体 での聴 き 合 い
:どんなことを考えましたか?
C1:この短歌を下の「谷一面の白百合の花」のと
ころから読むと、
「谷一面の白百合の花が人間笑
みをした生徒が増えていった。
う声がするように見える・・・と考えられる。
最初に一面に白百合が咲いてい
C4:作者には、白百合の花が、人間が笑っている
る風景の写真や、実物の百合の
T
ように見えたんじゃないかな。
:他の人はどう思う?
花を見せていたため、C6、7
C5:自分も、谷一面の白百合の花が笑っていたん
のように、写真や実物と言葉を
C6:写真を見ると、谷一面に咲いている百合を見
照らし合わせ、情景を考える意
見も出てきた。その考えを聴き、
じゃないかと思う。
渡せるのは、谷の上からとは限らず、同じ目線
でも見える。
「すなり」がするようだって意味で、
さっき先生が持っていた百合の花がゆれて音を
立てていたから、風が吹いてそういう音が、百
多くの生徒が感心したり、頷い
たりする反応を見せた。その中
で、C8のように、仲間の考え
合の中にいる作者には百合が笑っているように
聞こえたんじゃないかな。
(すごい、というざわめき)
C7:私もそう思って、百合の花の形が開いている
みたいだから、それが口みたいに見えたんだと
を聞いたことによって自分の考
えが変わったという生徒が増え
思う。
C8:最初は人が笑っていると思ったけど、みんな
の意見を聴いていたら、笑っているのは百合だ
と思った。
た。言葉の意味が一つ分かった
ことで、1回目よりも明らかに
授業記録
深い読みをすることができた。
T
ここから、百合が何を笑って
ど、百合は何を笑っているのかな?
んじゃないかなと思います。
T
た。それを受けて、C10~1
2のように、百合の姿に映した
:百合が笑っているという意見が多かったけれ
C9:「人間が」じゃなくて、「人間を」笑っている
いたのかという心情についての
発問をすると、C9の意見が出
2 回目 の 全体 での聴 き 合 い
:どういうこと?
C9:百合が人間のことを笑っている。
C10:人間をバカにしているような笑いだと思う。
C11:百合が人間を笑っていることになるから、
バカにしているんだと思う。
C12:人間のことを嫌っているんだと思う。
作者の心情に迫る考えを引き出
(終了のチャイム)
すことができた。
③
授業の考察
第 2 時の短歌は、難しい言葉が含まれているが、敢えて正確な言葉の意味を
理解できていないままグループで考えさせてみた。そうすることで、生徒から
自然に「わからない」という声があがり、「声すなり」というキーワードに注
目させることができた。
「声すなり」の意味を伝えた後は、予想通り、より言葉に注目して読みを深
めることができた。2回目の全体の聴き合いでは、「笑っているのは人ではな
く百合ではないか」という意見を聴き、自分の考えと比較したり、根拠を聞い
たりして、「百合が笑っているようだ」という方向に考えが変わっていく生徒
が増えていった。しかし、言葉の意味を理解させ、キーワードに注目させるま
で時間がかかり過ぎたため、「百合が何を笑っているのか」というこの短歌に
込められた心情を考える時間を十分にとることができなかった。
(2) 平成26年度6月の授業実践
① 短歌の選定
第1時 「海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手を広げていたり」寺山修司
第2時 「思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ」俵万智
(1)の実践では、生徒たちは言葉に注目して情景を考えることができたが、
言葉が難しく、短歌の意味をつかむことに時間がかかり、心情を考える時間が
少なかった。今回は心情を読み取る時間を長くし、より深く考えさせたいと考
えた。そのためには、情景を考える時間をできるだけ短くすることが必要であ
る。そこで、言葉から情景を考えることが容易で、言葉を根拠に豊かに読みを
広げていける短歌としてこの2首を教材として選んだ。
第1時の短歌は、情景だけでなく、「われ」がなぜ両手を広げているのか、
この場所がどこかを考えることで心情を様々に想像することができる。「海」
という言葉から、生徒たちはこの場所を海だと考えがちだが、「海を知らぬ少
女」から、少女は海を見たことがないことに気づき、ここが海でないことが分
かる。そういったことから、われがどんな思いで両手を広げているのかという
心情に迫っていけると考える。また、「寺山修司少女詩集」の「海を見せる」
にこの短歌を作った背景が書かれているので、それを読むことにより、自分の
考えとの共通点や違いに驚き、短歌を読み味わう楽しさを感じられるのではな
いかとも考えた。
第2時の短歌は平易な言葉で、どこにでもあるような光景を描いた作品であ
る。だからこそ、そこに込められた情景を考えやすい。一読すると、「麦わら
帽子がへこんだことを夏の思い出の一つとしてとっておきたい」と読み取れる
が、「ようで」に注目することで、「麦わら帽子がへこんだことが思い出ではな
く、麦わら帽子のへこみも、夏に体験した思い出の中の一つとして大切にした
い」という作者の思いを感じることができるのではないか。また、それが作者
にとってどんな思い出だったのかまで考えを広げることで、さらに深い読みが
できるのではないかと考えた。この短歌は情景がわかりやすく、言葉も容易で
理解しやすいため、作者の心情をより幅広く考えることができると考えた。
②
授業の実際
ア
第1時
(1)の取り組み同様、短歌の説明を行った後、音読をし、4人グループ
でどんな思いが込められているのかを考えさせた。生徒たちは「麦わら帽子
をかぶっている人が海を知らない少女の前で両手を広げている」という情景
を想像できていたようだった。
全体の聴き合いでは、「われ」が人か帽子かという対立が起きた。しかし、
「前に」や「いたり」という言葉から、帽子ではなく人だという考えにまと
まっていった。そこで、
「われ」がなぜ両手を広げていたのかを、再度グルー
プで考えさせた。生徒たちは声に出して読みながら様々な考えを伝え合うこ
とができた。
全体では、この短歌が詠まれた場所によって、両手を広げている理由が変
わることから、場所を考えることに焦点が置かれた。すると、「ここは海だ」
という意見と、
「 海でない場所だ」という意見に分かれた。繰り返し音読をし、
考えていくうちに、「『海を知らぬ』だから、ここが海で、海を見てしまった
ら、海を知ったことになる」という意見が出た。すると、それまで海で詠ま
れた短歌だと思っていた生徒も納得し、この場所は海でないと考えるように
なった。そして、
「海を見たことがない少女に、海の大きさを伝えるためにわ
れが両手を広げている」という考えになっていった。最後に、
「寺山修二少女
詩集」の「海を見せる」を読み、自分の考えと近いことを喜んだり、考えて
いた以上の背景があることに驚いたりしていた。生徒たちは短歌に多くの心
情が込められていると知り、十分に面白さを感じることができた。
イ
第2時
最初に音読をし、4人グループでどんな思いが切り取られているのかを聴
き合わせた。この短歌は平易な言葉で表されているため、情景が想像しやす
く、どのグループも「麦わら帽子がへこんでいるのを見て詠んだ短歌である」
という場面を想像することができた。しかし、情景を想像したことで満足し
てしまったのか、言葉から心情を考えることができずにいる生徒もいた。
全体では、グループで
互いの考えを聴き合った
後の自分の考えを発表し
た。1回目の授業記録C
2~4の発言のように、
生徒たちは言葉から離れ、
自由に想像し始めた。こ
れは、短歌の世界が生徒
の生活体験や、テレビ等
で描かれている世界に近
いためと考えられる。理
由を尋ねても根拠を挙げ
授業記録 1回目の全体での聴き合い
C1:帽子を落としてしまって、へこんで、それも思い出だから
そのままにしておく。
C2:麦わら帽子ということは、季節は夏。夏にたくさん遊んで、
何かあって帽子がへこんで、それを見て「夏休み楽しかっ
たなあ」と思っている。
C3:夏休みに、友達と遊んでいたら帽子が飛んでいってしまっ
て、石にぶつかってへこんだ。それも楽しかったなぁとい
う感じ。
C4:麦わら帽子は彼氏からもらったもので、俵さんの彼氏が病
気になって、最後に頭をポンってしたあとのへこみかなぁ
C5:
「へこみ」にそんなに思い出があるわけではない。帽子が勝
手にへこんだけれど、思い出がへこみにあったかのようにそ
のままにしておいた。
T :どの言葉からそう思ったの?
C5:
「思い出の一つのようで」ってことは、思い出じゃないけど、
思い出の一つのようということだと思う。
T :今の意見を聞いてどう思いましたか?
C6:思い出の一つかもしれないし、一つじゃないかもしれない
と思いました。
C7:麦わら帽子のへこみには、思い出はないけれど、へこんで
いるということは、自分が使ってきたという証拠なのかな。
て説明ができなかったことからもそれが分かる。そんな中、C5が「ようで」
という言葉を根拠にした考えを出した。この意見をどう思うのかを全体に投
げかけたところ、C6、7のような意見が出始めた。
「ようで」をキーワード
として考えることは、最初から意図していたことであり、それを生徒たちか
ら引き出せたことで、全体に揺さぶりをかけられたと思う。ここでグループ
に戻すことで、より深く読むことができるのではないかと考え、再度4人グ
ループで聴き合わせた。グループでも生徒たちは「ようで」を中心とした言
葉に注目し、帽子のへこみや、その原因となる出来事が思い出なのかを考え
ていた。
2度目の全体での聴き
授業記録
2 回目 の 全体 での聴 き 合 い
C 8:毎 日ず っ と使 って い て 、麦 わ ら 帽子 が 欠か せ ない も
合いでは、それまでとは
違い、C10~15の意
見など、明らかに「よう
で」を根拠として作者の
の に な って い た。 だ から へこん で も 手放 せ ない 。
C 9:夏 にた く さん 使っ て いて 、何 か があ っ てへ こん で し
ま っ た 。その と きは 気 にし なか っ た けど 、今 思う と 思
い 出 の よう な 気が す るか らとっ て お く。
C 1 0:思 い 出 は 形 じ ゃ な いけ ど 、へ こ み は 形 に な っ て い
る。
T : 他 の人 は どう 思 いま すか?
心情を深くまで考えた意
見が増えていった。最初
はC2、3のような読み
をする生徒が多かったが、
C 1 1 : へ こ み は 簡 単 に 作 れる し 、 す ぐ に 直
せ る け れ ど 、 思 い 出 の 一 つ のよ う だ か ら
そのままにする。
C 1 2 :「 一 つ の よ う で 」 と い う こ と は 、 小 さ な こ と 。 押
し 入 れ を 整 理 し て い る と き に、帽 子 が 出 て き て 、そ
れ を 見 て 思 い 出 が あ っ た か なぁ 、な か っ た か な ぁ と
思っている。
平易な言葉で書かれた短
歌を用いることで、
「 よう
で」に注目させることで、
C 1 3 :「 よ う で 」 と い う の は 「 思 い 出 み た い 」 と い う こ
とだと思った。何でへこんだのか分からないけれ
ど 、 思 い 出 み た い に と ど め てお き た か っ た の か な 。
C 1 4 :「 よ う で 」 が あ る か ら、 へ こ み は 思 い 出
で は な い け れ ど 、 思 い 出 に 限り な く 近 い
こちらの意図通り、作者
も の 。 へ こ ん で い る こ と が 思い 出 の 一 つ
の心情に迫る深い読みが
C 1 5 : 思 い 出 の 一 つ じ ゃ な い け ど ・・・と い う こ と は 、 小
ではないけれど、そう思える
さ な こ と 。そ の と き は ど う で もい い よ う な こ と だ け
できた。
ウ
授業の考察
ど 、し ば ら く す る と 思 い 出 すな ぁ・・・と い う こ と
か な 。 自 分 の 中 で は 大 切 な もの 。
(2)の実践では、
(1)の実践の反省から、平易な言葉で書かれ、情景を
想像しやすい短歌を選んだ。生徒たちは予想通り、一読して大意を読み取っ
ていた。初めは詠まれている情景を漠然と想像するだけで、言葉を根拠とし
ない想像をしている者が多かった。しかし、一人の発言をきっかけに、
「よう
で」がキーワードであることに気づき、その言葉を手がかりにすることから、
作者の心情を考えていくことができた。言葉に注目し、じっくりその言葉の
持つ意味を考えることや、仲間の意見を聴き、自分の意見と照らし合わせ、
新しい考えに触れることで、最初に漠然と感じたり、考えたりしたものが、
より鮮明で深いものになっていく「喜び」を感じさせることができたのでは
ないかと考える。
右は、ある生徒がワークシート
に書いた内容である。Aが最初に
考えたことを書いたもので、B、
Cはグループで聴き合った後に書
いたものである。ここから、グル
ープで考えを聴き合うことで、読
生 徒 の ワー ク シー ト から
A 麦わら帽子のへこみも1つの思い出だか
ら 、 直 す の はも っ た いな い から そ の ま ま にし
ておく。
B 夏 に 使 った 良 い 思い 出 も、 悪 い 思 い 出も 詰
ま っ た 麦 わ ら帽 子 を 見て 、 しみ じ み と 思 い出
に浸る。
C へ こ み 自体 は そ んな に 大き な 思 い 出 じゃ な
い ん だ け ど 、そ の へ こみ も 1つ の 夏 の 思 い出
の よ う に思 え て、 そ のま まにし て あ る。
みが変わっていることがわかる。生徒たちは短歌の言葉を根拠にして考え、
仲間の意見を聴き合うことで、短歌に詠まれた情景だけでなく、作者の心情
にまで深く踏み込んで考えようとしていたといえる。
また、生徒のふり返りでは、Aや
Bのように、仲間の意見を聴き合う
中で違う考えに触れ、考えが広がっ
ていくことに喜びや満足感を感じて
いる記述が多く見られた。最初の考
えで満足させてしまったら、このよ
うな気持ちを味わわせることはでき
ない。教師側が教材を精選し、意図
を持って授業に取り組むことで、生
徒たちに「文章を読み味わう楽しさ」
の一端を感じさせることができたよ
生 徒 の ふり 返 り
A 友達の話を聴いて、文をもっと読み深
めていくと『~のようで』という言葉で
思い出ではないけれど、思い出のようと
いうことに気づいた。仲間の話・意見を
聞いて考え直せたりできてとてもよい授
業 だ っ た。
B みんなの意見にあーそうかと納得する
ようなものばかりだけど考えていくとこ
れを書いた人がどんな気持ちかがわから
ないから、どんなことも考えられておも
し ろ か った 。
C よく読んで、声に出して言葉の一つ一
つの意味まで考えてみると、思い出のよ
うでのところとかすごく深くて難しい短
歌 だ と 思い ま した 。
D 短い文にこんなに思いがこめられてい
る ん だ なぁ と 思い ま した 。
E もっと他の短歌もみてみたいと思いま
した。
うに思う。また、CやDなど、言葉
を手がかりにして読み深めることの難しさや、言葉に込められている思いの
深さに驚く記述も見られた。ここからも、前述した「文学作品を読み味わう
楽しさ」を感じることができ、さらにEのように、他の短歌に対する意欲が
生まれ、もっと他の文学作品を読んでみたいという意欲を生むきっかけ作り
になったのではないかと考えることができる。
7
結果と考察
この二つの実践から、生徒たちは短い言葉で表現された短歌という文学作品を読み
味わう中で、言葉を手がかりにして情景や心情を深く考えることができ、そこに楽し
さを感じることができた。文学作品を読むことへの苦手意識がある生徒も、短い言葉
で書いてある短歌なら、抵抗なく言葉を大切にして作品を読み味わうことができたよ
うに思う。そういう意味で文学作品を読み味わう最初の段階として短歌を取り上げる
ことは生徒の意欲を喚起するのに有効な手立てであることが分かった。
また、一つ一つの言葉を大切にすることでキーワードを見つけ、それを基に作者の
心情や情景を豊かに想像して考えることができ、短歌を楽しんで読み味わうことがで
きた。これは、他の文学作品を読み味わう楽しさにもつながると考えられる。
4人グループや全体で仲間の意見を聴き合うことは、最初は思いつかなかった考え
に出会ったり、自分の考えを見直すきっかけになったりした。このような活動には、
生徒一人一人の考えをより深めていき、楽しいと感じられる効果があることが分かっ
た。
「ほかの短歌を読んでみたい」という意欲をもつ生徒もおり、作品を読み味わうこ
との楽しさを感じ、もっと読みたいという意欲を持たせることができたように思う。
物語文などの文学作品などで、言葉に注目して読み味わう楽しさを味わわせるため
には、教材の与え方や学習課題、グループの使い方など、まだまだ改善していかなく
てはいけないことは多い。しかし、今回持たせることができた文学作品に対する意欲
は、是非次につなげていきたいと考えている。
8
今後の課題
今後の課題として、生徒の語彙力が低いという点が挙げられる。今回の取り組みで
言葉から根拠を得て自分の考えを表現することや、仲間と意見を聴き合って、意欲的
に作品を読むことはできた。しかし、登場する言葉の意味を正しく理解することや、
様々な言葉で自分の考えを適切に表現することは不十分な生徒もいた。言葉の意味が
分からないことで、作者の意図に気がつけなかったり、自分の考えを正確に伝えたり
できないと、せっかく意欲を持って取り組んでも、そのもどかしさから意欲が低下し
てしまう恐れがある。言葉に注目して文学作品を読み味わうだけでなく、注目した言
葉を自分のものとして活用し、表現の幅を広げていけるよう指導していきたい。
参考文献
「寺山修司少女詩集」(寺山修司著
角川書店
昭和56年1月)