418 山小屋カレー この山小屋は御在所岳一の谷新道の入り口近くにある。旧名:近鉄御在所山の家。 2006 年当時。ご主人、佐々木正一さん 94 才。妻の春江さん 92 才。山の家を 2 人で切り盛り する。無口で働き者の正一さん。頑固でおしゃべり自分勝手な春江さん。 老夫婦は半世紀以上もこの山小屋で暮らし続けてきた。2 人のたくましい「老い」の日々を 見ていると、老いることの本質は何かと考えさせる。近くに住む子息の助けも借りず 2 人きり で小屋と生活を両立させている。 この 2 人の生活を幾年もかけて追い続け、淡々と撮影され たドキュメンタリードラマ。これが 2006 年 11 月に放映されたCBC制作の「山小屋カレー」 である。 ドラマは 2 人の日々を春や秋に追ったもの。それが見る人の感動を呼んだ。 この年 11 月。アジア太平洋法曹連合賞の最高賞、第一回放送文化大賞を受賞している。 淡々とした暮らし、2 人の会話は噛合わない。妻がカップ麺のカップを出すと、「薬か」 と聞きながら夫は湯を注いでやる。妻がビールのコップをつき出せば、夫は黙ってお付き合い する。「山小屋カレー」は妻の自信メニュー。お客に遠慮なく手伝わせる。レトルトカレー、 みりん出し汁、ソース、肉やら加えて煮込む。スパイスは妻が仕上げ最後に片栗粉を入れる。 そのウンチクを客に得意そうに話す。夫はそれを嬉しそうに黙って見ている。2 人とも耳が 遠い。 朝、オニギリ作る当番は夫、妻は口を出さない。それが山小屋のきまりだ。 テレビは音を消して画像だけ見るのが妻。 今日は妻がお出かけ。美容院で髪をセットし、 お嬢さんと洋服を新調する。高い買い物。昔はいつもオーダーメイドだった。 「知らんうちに年をとったわ」 。妻が帰宅した音を聞きつけ、夫はそっと出入り口に回り妻の 荷物を受け取る。 秋、「明日はどうなるかわからん」と云いながら 今日もお客さんを迎える。お客を山に送り出す。 いつも 2 人きりの静かな家にに戻る。寝具の天日干 し、部屋内の修理、登山道の補修をする。 ところ がある場面から夫の正一さんが独りでカレーを作って いる。 あれほどカレー作りにこだわった妻の春江 さんの姿が台所にない。夫は呟く「人間は、倒れ るまで働かなあかんでな…」 。 カメラがゆっくりと棚の上にある妻の春江さんの若き日の遺 影を映す。 それからも、夫は黙々と山小屋を守る。いつもまるで変わ らない。柔らかい緑の中…。このドキュメンタリードラマ は「老い」をテーマにしながら、老いの悲惨さがない。 ユーモアにあふれており、佐々木さん老夫婦の何気ない 会話に思わず微笑みが沸いてくる。 見終わった後も実にさわやかな空気が胸に残った。 残念ながら 2010 年正一さんは亡くなられた。享年 99 才 いま息子の正巳さんが藤内小屋から転じて守っている。 御在所岳山の家
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