【入門講座補足】 “三分の一の話”と“アキレスと亀”

天界 No.982
【入門講座補足】
入門講座補足】 “三分の一の話”と“アキレスと亀”
【入門講座補足】
入門講座補足】
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“三分の一の話
三分の一の話”
の話”と“アキレスと亀”
“A comprehension on one third”
”and “Achilles and the Turtle”
”
井上 猛 T.Inoue
(滋賀県
滋賀県 湖南市)
湖南市)
「分数
1
を小数で表わすと 0 .333 L となり、両辺を3 倍すると、等式 1 = 0.999 L が成立する」
3
1)
と云う事に“異”を唱えたのであった 。分数
1
は、1 を 3 で割ったものなのであるから、等式:
3
n
67
8
1
1
= 0 .33 L 3 +
、 ( n = 1,2,3, L) が成立する。両辺の各項を 3 倍する:
3
3 × 10 n
n
n
67
8
67
8
1
=
0
.
99
9 + 10 − n
1 = 0 .99 L 9 +
L
n
10
この等式は n が自然数である限り成立する。明らかに 1 と 0.99 L 9 の間には差が存在して居る。
右辺の第一項を左辺に移項する:
[1]
n
67
8
1 − 0 .99 L 9 = 10 − n
(n = 1,2,3,L)
通常≪
≪此処で n を無限大に持って行けば 右辺が零になるので
右辺が零になるので等式
ので等式 1 = 0.999 L が成立する≫
が成立する≫と云
うのである。これを 我々は“
“何処まで行っても差
何処まで行っても差が残存する”
が残存する”と言い張るのである。そんな事を言
われたのでは混乱して≪
≪訳が解
『解り易い解説
訳が解らなくなる≫
らなくなる≫と云う向きの為に『解り易
『解り易い解説』
い解説』を試みる。
n
上式 [1]の各項を 10 倍した次の式に着目する。これら [1] [2] は 完全に『等価な』
等価な』等式である。
[2]
10
n
n
67
8
− 99 L 9 = 1
(n = 1,2,3,L)
≪此処で n を無限大に持って行けば 右辺の1
右辺の1が零になる≫と言うのであろうか?
が零になる≫と言うのであろうか? 不可解千万!
“小さな量”で考えた場合には ≪ドンドン零に近付いて行って
≪
≪ドンドン零に近付いて行って 遂には零になる≫
遂には零になる≫ と言われると≪
そうか≫と思ったであろうが、
“大きな量”
『これは可笑しいぞ』
そうか≫
“大きな量”で考える事にした場合には『
これは可笑しいぞ』と思わ
された筈である。上式 [1] [2] の両者は『
『完全に等価』
完全に等価』なのであって違い等は無いのにである。
等価』
上では“三分の一”の流れに沿って [2]式を導いた。これは 次の様に考えれば充分である:
n
67
8
n
67
8
10 9 + 1 100 99 + 1
10
99L9 + 1
1=
=
=
=
L= n =
=
0
.
99
L
9 + 10 −n
10
10
100
100
10
10 n
n
n
67
8
n
67
8
99L9 + 1
n
上式から、次の等式を抽出する:1 =
然る後に分母を払い移項する :10 − 99 L 9 = 1
10 n
136
井
上
猛
2007 年 3 月
実は「ゼノンのパラドックス」の中の “アキレスと亀”と呼ばれて居るものは、只今の話と密接な
2)
関係を有して居るのである。
“アキレスと亀”念の為に文献 から抜き書きして置く(原文は縦書き)
。
≫ アキレスが亀を追いかけるものとする。アキレスが最初亀の出発した点に
≫ 達したときには亀はすでにいくらか前進して少しさきの地点までいっている。
≫ また、アキレスがこの地点まで達したときには、亀はやはり少し前進している
≫ はずである。以下追ってかくのごとくであって、アキレスはいつになっても
≫ 亀に追いつくことはない。
これに対する ≪解答≫と称するものは 数多く提出されて居る。然し‘正解’と呼べるものは皆無で
3)
ある 。 「それでは」と云う事で『
『満足の
満足の行くもの
行くもの』
もの』を提示する事にしよう。
(甲)考え易くする目的で“亀の方がアキレスよりも速
“亀の方がアキレスよりも速い
“亀の方がアキレスよりも速い”と仮定する。この時にも、亀は 前方の
位置からアキレスと同時にスタートをする。
‘二倍’速いとすると、初めに亀が居た場所にアキレスが
達した時には、亀は‘二倍’先の距離に達して居る。 次には‘四倍’先、更に 次には‘八倍’先と
なって、アキレスは“永久に”
“永久に”亀に追い付く事は無い。
“永久に”
(乙)
“亀とアキレスの速さが同じ”と仮定すると、初め
亀が居た場所にアキレスが達した時には亀
“亀とアキレスの速さが同じ”
は‘同じ距離’だけ前方に居るであろう。両者間の距離は“永久に”
“永久に”一定の儘に留まる。
“永久に”
上記の状況を理解するのには、次の図が有効であろう。
距離 l
Turtle
l2
Achilles
l1
t
t2
1
時間 t
(甲)の場合
図1
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距離 l
Turtle
Achilles
時間 t
(乙)の場合
図2
(丙)通常の話では“アキレスは亀の何倍も速
“アキレスは亀の何倍も速い”
“アキレスは亀の何倍も速い”事になって居る。従って、アキレスは、アッと言
い”
う間に、亀に追い付いて仕舞う。その場合にも、先の図の様な「
「階段状の対応付け
“無限に”可
階段状の対応付け」
対応付け」は“無限に”
“無限に”
能である。
距離 l
Turtle
Achilles
時間 t
(丙)の場合
図3
138
井
上
猛
2007 年 3 月
此処では“無限に”
“無限に”と言ったが、先の(甲)
(乙)で“
“永久に”
永久に”と言ったのと同じ事である。これに
“無限に”
に”
依って、アキレスが亀に“追い付ける場合”でも“追い付
“追い付けない場合”でも何れの場合でも等しく「階
段状の無限
段状の無限操作
無限操作が可能
操作が可能」
が可能」と云うのが知れたであろう。
要するに「ゼノンのパラドックス」と云うもの『亀とアキレスの走りを表象する“
“二本の直線”
二本の直線”に
対して上述の如き「対応付け」
「対応付け」が“無限に”
≪アキレスは亀に追い付けない≫と
「対応付け」 “無限に”可能』と云う事を
“無限に”
云う言い方で“パラドックスでも無
“パラドックスでも無いもの
“パラドックスでも無いもの”
いもの”をパラドックスと言って居るのである。
「無限操作を完了する
「自然数を数え尽くす」と云う事と同じである。
「自然数を数え
無限操作を完了する」
を完了する」と云う事は「
自然数を数え尽くす」
尽くす事が不可能」
尽くす事が不可能」と云う事を認めるならば『 0.99 L 9 が1に等しくなる事は無い』と云う謂いも
抵抗なく受け容れられるであろう。
此処で 収束する数列 { a n } に於ける“元
“元 a n と極限値 a の間の関係”
の間の関係”を見て置くのも 無意味では
あるまい。 例として a n =
an =
2n + 3
、
( n = 1,2,3, L )を 再度 取り上げてみる 4 ) 。 単純計算:
n +1
2(n + 1) + 1
1
1
= 2+
から 0 < a n − 2 =
が導ける。これに依って、只今の場合の
n +1
n +1
n +1
数 2 が、極限値 a なるを知る。 大小関係 : n < n + 1 < n + 2 から
得られるから、有用な評価式:
1
1
1
<
<
が
n + 2 n +1 n
1
1
< a n − a < 、( n = 1,2,3, L )を導く事が出来る。
n+2
n
これは、
『自然数 n に‘如何なる値’
“元 a n ”が“極限値
‘如何なる値’を与えようとも、
“極限値 a ”に一致する事は‘決
して無い
して無い’
』と云う事を表わして居る。
〔参考文献〕
1)井上 猛
「分数“三分の一”に付いて」
2)吉田洋一
「零の発見」
岩波新書 49
1974 年(昭和 49 年)p.123
3)野崎昭弘
「逆説論理学」
中公新書 593
1980 年(昭和 55 年)p.109
植村恒一郎
天界
2001 年4 月号
p.125~p.141
「アキレスと亀のパラドックスにけりをつける」
思想 岩波書店
4)井上 猛
p.11
「アキレスと亀のパラドックス・再論」
思想 岩波書店
野矢茂樹
2006 年 1 月号
「天体力学入門講座(6)
」
天界
2004 年10 月号
2004 年 11 月号
p.63~p.77
p.649