テーマ 薬 か ぜ ひ くすり の くすり 風邪を引いたら 薬 を飲むし、けがをしたときも 薬 ぬ くすり わたし けんこう か を塗る。 薬 は、 私 たちの 健 康 に欠かせないね。 くすり こんしゆう か ぜ ぐすり くすり かんが だろうか。 今 週 は 薬 のナゾを 考 えてみよう。 執筆/柳田理科雄 1 こう か でも、 薬 とはどういうもので、なぜ 効 果があるの テキスト版 の 制作/空想科学研究所 提供/栄光ゼミナール り ゆう 風邪薬を飲む理由 くすり の き かい おお か ぜ ぐすり 薬 のなかでも、飲む機会が多いのは、風邪 薬 だろう。 か ぜ げんいん か ぜ からだ ふ 風邪の原因は、風邪のウイルスが 体 のなかで増えることだ。でも じつ か ぜ ぐすり たお ちから からだ 実は、風邪 薬 にはウイルスを倒す 力 はない。ウイルスが 体 のなか はい お しようじよう やわ に入ったことで起きる 症 状 を和らげるだけだ。 か ぜ はな ねんまく ふ 風邪のウイルスは、のどや鼻の粘膜で増える。すると、ウイルス たたか けつえき あつ ねんまく は と 戦 うために、血液が集まってくるので、粘膜が腫れる。 ねつ よわ からだ ねつ だ また、ウイルスは熱に弱いので、体 は熱を出してやっつけようと ねつ で けつえき なが さか けつかん ひろ おな する。熱が出ると、血液の流れが盛んになって、血管が広げる。同 のう お のう けつかん のう お ひろ あたま じことが脳のなかでも起こり、脳の血管が脳を押し広げるので、頭 いた が痛くなる。 げんいん たいない いた ねつ で あたま いた か ぜ おお からだ たたか けつ か ふ か スが 体 内で増えること。でも、風 ぜ ぐすり つまり「のどが痛い」「熱が出る」「 頭 が痛い」といった風邪の しようじよう か ぜ 風邪の 原 因 は、このようなウイル たお ちから 邪 薬 にはウイルスを 倒 す 力 は ない! 症 状 の多くは、 体 がウイルスと 戦 っている結果なのだ。 しようじよう つら にんげん からだ あた これらの 症 状 はどれも辛くて、人間の 体 にもダメージを与え おお からだ たたか ちから よわ る。ダメージが大きすぎると、体 がウイルスと 戦 う 力 も弱くなっ しようじよう おさ からだ たたか ちから つよ てしまう。そこで、これらの 症 状 を抑えて、体 の 戦 う 力 を強く か ぜ ぐすり もくてき するのが、風邪 薬 の目的だ。 たお か ぜ ぐすり はつめい ま ちが しよう ウイルスを倒す風邪 薬 を発明したら、間違いなくノーベル 賞 が い しようらい みな だれ はつめい もらえると言われる。将 来、 皆さんの誰かが発明するかもしれない。 今日の1日1科学 か ぜ ぐすり たお 風邪 薬 はウイルスを倒せない き ず ぐすり 2 なん やく た 傷薬は何の役に立つ? ころ ひざ は もの て き きずぐすり 転んで膝をすりむいたり、刃物で手を切ったりしたときは、傷 薬 つか きずぐすり ぬ きり ふ を使う。傷 薬 には、塗るものや、霧のように吹きかけるものがある きずぐすり もくてき なん が、傷 薬 の目的は何だろうか。 にんげん からだ なお 人間の 体 には、もともとケガを治そうとするしくみがある。それ 1 じや ま さいきん さいきん め み ちい い もの を邪魔するのが、細菌だ。細菌とは、目に見えないほど小さな生き物 にんげん からだ ない ぶ さいきん えさ ふ だん ひ ふ で、 人間の 体 の内部は、 細菌にとっておいしい餌になる。 普段は皮膚 まも さいきん はい こ に守られているので、細菌も入り込むことができないが、ケガをす さいきん よろこ はい ば しよ ふ ると、細菌は 喜 んで入ってきて、その場所で増える。すると、ケガ なお じや ま なお おそ ふせ を治すしくみが邪魔されて、治るのが遅くなる。これを防ぐために、 さいきん ころ きずぐすり やくわり 細菌を殺すのが傷 薬 の役割だ。 にんげん からだ さいきん たたか はつけつきゆう さいきん ころ ところが、人間の 体 には、細菌と 戦 う白血 球 があり、細菌を殺 はつけつきゆう し ちか きずぐち あら すと白血 球 も死んでしまう。このため、近ごろは、傷口をよく洗っ きずぐすり さいきん たお はつけつきゆう まか たあと、傷 薬 をつけずに、細菌を倒すのは、白血 球 に任せようと ち りようほう さいきん たいない はい ケガをすると、細 菌が体 内に入り こ ば しよ ふ きずぐすり 込んで、その場所で増える。傷 薬 さいきん たお くすり は、そんな細 菌を倒す 薬 だよ おこな いう治 療 法も 行 われるようになった。 びよういん ち りようほう か てい なお ただし、これは 病 院でやる治 療 法なので、家庭で治せるぐらい ば あい きずぐち あら きずぐすり のケガをした場合は、傷口を洗って、傷 薬 をつけたほうがいい。 今日の1日1科学 き ずぐすり さいきん ころ 傷 薬 は細菌を殺す いた 3 ちゆう し や ば り 痛くない注射針があるの? す きら ひと ちゆうしや す ひと ものごとの好き嫌いは人それぞれだが、 「 注 射が好き」という人 ちゆうしや なん はいないだろう。 注 射は、何のためにあるのだろうか。 ちゆうしや からだ くすり い てん の ぐすり か 注 射は、 体 のなかに 薬 を入れるという点では、飲み 薬 と変わ はり ちよくせつ からだ い き め はや らない。でも、針で 直 接、 体 に入れるので、①効き目が早い、② しよう か えき じや ま い しき ひと つか ちようしよ 消 化液に邪魔されない、③意識のない人にも使える、などの 長 所 いつぽう けつていてき たんしよ いた がある。一方で、決定的な短所がある。それはもちろん、痛いこと! いた ほそ ちゆうしやばり かいはつ ふ つう ちゆうしやばり このため、 痛くない細い 注 射針が開発されている。 普通の 注 射針 そとがわ ちよつけい い りようひん きんぞくこうごう は、外側の 直 径が0.4㎜ぐらいだが、医 療 品メーカーと金属工業 きようどうかいはつ じつよう か ちゆうしやばり ちよつけい メーカーが 共 同開発し、すでに実用化されている 注 射針は、直 径 はんぶん ちゆうしやえき とお ない ぶ ちよつけい ちゆうしや き 注 射をすると、すぐに効く! いた けつ てん ほそ だ けど 痛 いのが 欠 点 だよね。 細 い ちゆう しや ばり はや ふ きゆう 注 射 針 が 早 く 普 及 して ほ し い! かみ が半分の0.2㎜。 注 射液が通る内部の 直 径は0.08㎜で、髪 け とお ほそ ね もと せんたん む ほそ の毛がやっと通る細さ。根元から先端に向けてだんだん細くなって ちゆうしやえき とお ぼく い ぜん しゆざい い じ ぶん いて、注 射液が通りやすくなっている。 僕も以前、 取材に行って自分 さ かん いた で刺してみたが、 「チクリ」という感じがあるだけで、痛くはなかっ た。 かんさいだいがく けんきゆうちゆう ちゆうしやばり ほそ ちよつけい また、関西大学が研 究 中 の 注 射針は、それより細い 直 径0. 03㎜! りようがわ ちよつけい はり ぼん はり その 両 側に、 直 径0.015㎜の針があり、3本の針 ぜつみよう さ ま なか はり ちゆうしやえき い か を絶 妙 のタイミングで刺して、 真ん中の針から 注 射液を入れる。 蚊 はり さんこう の針を参考にしているという。 ちゆうしやばり ひろ つか これらの 注 射針が、広く使われるようになるといいね。 2 今日の1日1科学 いた ほそ ちゆうし や ば り つく 痛くない細い 注 射針が作られている たいおんけい し く 体温計の仕組み 4 ねつ かつやく たいおんけい みじか じ かん ねつ はか 熱っぽいときに活躍する体温計。短 い時間で熱を測れるけど、ど し く んな仕組みになっているのだろうか。 むかし たいおんけい すいぎん えきたい きんぞく つか おん ど 昔 の体温計には、水銀という液体の金属が使われていた。温度を はか ぶ ぶん すいぎん うえ め も ほそ くだ 測る部分に水銀がたまっていて、その上に目盛りのついた細い管が おん ど あ すいぎん め も ぶ ぶん あ つながっている。 温度が上がると水銀がふくらみ、 目盛りの部分に上 てん り か じつけん つか おん ど けい おな おん ど けい がってくる。その点は、理科の実験で使う温度計と同じだが、温度計 ちが いち ど あ すいぎん さ く ふう た せいかく と違うのは、一度上がった水銀が、下がらない工夫がされていたこ はか お じ かん たいおん し とだ。おかげで、計り終えて時間が経っても、正確な体温を知るこ ふる すぐ き ぐ とができた。古いけれど、とても優れた器具だった。 げんざい か てい つか でん し たいおんけい ねつ はか ぶ ぶん さいきん み へ すいぎんしき 最 近 は見ることも減った 水 銀 式 たい おん けい じ かん 体 温 計 。時 間 がかかったけど、 せいかく ねつ はか すぐ たいおんけい 正 確に 熱を 測れる 優れた体 温 計 だ はん 現在、家庭でよく使われている電子体温計は、熱を測る部分に半 どうたい はい はんどうたい おん ど あ でん き ながれ 導体というものが入っている。半導体は、温度が上がると電気が 流 わき した おん ど あ れにくくなる。腋の下などにはさむと、はじめのうちは温度が上が なが でん き すく たいおん っていくので流れる電気が少なくなっていくが、しばらくして体温 おな でん き なが かた いつてい な と同じになると、電気の流れ方が一定になる。そのとき、ピピッと鳴 たいおん ひよう じ でん し たいおんけい でん き なが かた って、体温が 表 示される。つまり、電子体温計は、電気の流れ方で たいおん はか 体温を計っているのだ。 みみしきたいおんけい せきがいせん り よう せきがいせん め み 耳式体温計は、赤外線を利用している。赤外線とは、目に見えな ひかり にんげん からだ で たいおん か はな い 光 で、人間の 体 からいつも出ている。体温が変わると、放たれ せきがいせん つよ か つよ せきがいせん で る赤外線の強さが変わってくる。いま、どんな強さで赤外線が出て たいおん ひよう じ みじか じ かん はか いるかによって、体温を 表 示するので、とても 短 い時間で計れる。 今日の1日1科学 でん し しきたいおんけい でん き なが かた たいおん はか 電子式体温計は、電気の流れ方で体温を測る くすり かたち り ゆう 薬の形がさまざまな理由 5 の くすり じようざい ざい こなぐすり 飲む 薬 には、 いろいろなタイプがある。錠 剤、 カプセル剤、 粉薬、 ちい つぶつぶ か りゆうざい えきたい くすり しゆるい 小さな粒々の顆 粒 剤、液体の 薬 。なぜこんなに、たくさんの種類 があるのだろうか。 じようざい の くすり ちい かた にが 錠 剤は、飲みやすいように 薬 を小さく固めたものだ。苦くない くすり さ とう つつ こ い と い と 錠剤 ように 薬 を砂糖で包み込んだもの、胃で溶けるもの、胃では溶けず しようちよう と すこ と き め なが も に 小 腸 で溶けるもの、少しずつ溶けて効き目が長持ちするように 3 したものがある。 ざい くすり からだ あつ ざいしつ と はい カプセル剤は、 薬 が 体 のなかで溶けるカプセルに入っている。 か と じ かん と カプセルの厚さや材質を変えることで、溶けるまでの時間や、溶け ば しよ る場所をコントロールできる。 こなぐすり の と じ かん みじか からだ 粉 薬 は、ちょっと飲みにくいが、溶けるまでの時間が 短 く、体 きゆうしゆう りよう こま か カプセル剤 た に 吸 収 されやすい。また、量 を細かく変えることもできるし、他 くすり の 薬 と混ぜることもできる。 か りゆうざい こなぐすり の じようざい と はや 顆 粒 剤は、粉 薬 より飲みやすく、 錠 剤より溶けるのが早い。 えきたい くすり ひ か さ とう あじ ちようせつ 液体の 薬 は、のどに引っ掛からず、砂糖などで味を 調 節してい ちい こ とし よ の くすり せいぶん 粉薬 るので、小さな子どもやお年寄りも飲みやすい。また、薬 の成分が きゆうしゆう はじめから溶けているので 吸 収 されやすい。 くすり もくてき の ひと あ 薬 にいろいろなタイプがあるおかげで、 目的と飲む人に合わせて 選ぶことができるのだ。 今日の1日1科学 の ぐすり もくてき 顆粒剤 の ひと あ の くすり 飲む 薬 にはさまざまなタイプが えら 飲み 薬 は、目的と飲む人に合わせて選ぶ すぐ てん も ゆ い ある。それぞれに優れた点 を持っ ているんだよ くすり 6 の あ 薬の飲み合わせ くすり の き 薬 を飲むときには、気をつけなければいけないことがある。それ ほか くすり の もの く あ は、他の 薬 や、飲み物との組み合わせだ。 い じよう くすり の たが はたら よわ 2つ以 上 の 薬 をいっしょに飲むと、お互いの 働 きを弱くした ぎやく つよ の くすり やく り、 逆 に強くしすぎたりすることがある。せっかく飲んだ 薬 が役 からだ がい びよういん に立たなかったり、かえって 体 に害になったりするのだ。 病 院で い じよう くすり てん かんが しんぱい 2つ以 上 の 薬 をもらうとき、その点を 考 えてあるので心配ない やつきよく くすり か の やくざい し かくにん が、薬 局 で 薬 を買って飲むときは、薬剤師さんによく確認しよう。 の もの く あ ちゆう い ひつよう ちや ぎゆうにゆう 飲み物との組み合わせも、注 意が必要だ。お茶や 牛 乳 やジュー ふ だん からだ の もの くすり はたら しやしん か りゆうざい 【 写 真 ①】顆 粒 剤 をお湯に入れ ま くすり と て混ぜると、 薬 が溶けていく よわ スなど、普段はおいしくて 体 にいい飲み物も、薬 の 働 きを弱くし つよ たんさんいんりよう くすり の たり、強くしすぎたりすることがある。また、炭酸飲 料 で 薬 を飲 だいへん むと、大変なことになる。 じつけん しめ う らん しやしん しやしん か りゆうざい それを実験で示したのが、右欄の写真だ。 【写真①】は、顆 粒 剤 ゆ と ま ゆ いろ か をお湯に溶かして、はしで混ぜたところだ。お湯の色が変わってい くすり と しやしん か りゆうざい たんさんいんりよう るので、薬 が溶けたことがわかる。 【写真②】 は、 顆 粒 剤を炭酸飲 料 と ま くすり と こま あわ に溶かしてかき混ぜたところ。薬 がほとんど解けずに、細かい泡が で たくさん出てきて、ビーカーからあふれてしまった! くら なに い たんさんいんりよう しやしん 【写真③】 ま あわ は、比べるために何も入れない炭酸飲 料 をかき混ぜたものだ。泡は で くすり ま と に さん か たん そ い こま あわ 炭酸飲 料 に 薬 が混ざると、溶けていた二酸化炭素が細かい泡に か りゆうざい ま たんさんいんりよう くすり に入れて混ぜると、 薬 がほとんど と 出ているが、ビーカーからあふれることはない。 たんさんいんりよう しやしん 【写 真②】顆 粒 剤を炭 酸 飲 料 こま あわ で 溶けず、細かい 泡がたくさん出て くる! 4 いつ き で たんさんいんりよう くすり の くち なか なって一気に出てくるのだ。炭酸飲 料 で 薬 を飲むと、口やお腹の ちか お なかで、これに近いことが起きる。 ほか ちや ぎゆうにゆう の くすり 他にも、お茶や 牛 乳 やジュースで飲んではいけない 薬 がある。 く あ おぼ くすり かなら よくない組み合わせをすべて覚えることはできないので、 薬 は 必 みず ゆ の ず、水やぬるま湯で飲むようにしよう。 今日の1日1科学 くすり みず しやしん なに い たんさんいん 【 写 真 ③】 何 も入れない 炭 酸 飲 の 薬 は水で飲む りよう ま よう す あわ 料 をかき混ぜた様子。泡はそんな で に出てこない やなぎ た り か お へんしゆうこう き 柳 田理科雄の編 集 後記 ぼく すうねんまえ くすり からだ けんこう おも べんきよう 僕は、数年前まで「 薬 は 体 を健康にするもの」と思っていました。勉 強 して ま ちが くすり けつかん ひろ い えき はたら わかったのですが、これは間違いでした。薬 には「血管を広げる」 「胃液の 働 おさ もくてき けつかん ひろ くすり きを抑える」などの、はっきりとした目的があります。血管を広げる 薬 は、 じようたい ひと の けんこう ちか けんこう ひと ぎやく そうしたほうがいい 状 態の人が飲めば、健康に近づきますが、健康な人や、逆 じようたい ひと の けんこう とお こう か つよ くすり の 状 態の人が飲むと、健康から遠ざかることもあるわけです。効果の強い 薬 い しや し じ の ひつよう もの たよ ほど、お医者さんの指示にしたがって飲む必要があります。「物」だけに頼る き けん つか かた たいせつ くすり おな のは危険で、 「使い方」が大切、というのは 薬 も同じなんですね。 5
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