Ⅲ 省察を捉え直し,次なる学びに生かす

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社
会
Ⅲ
省察を捉え直し,次なる学びに生かす
どもたち自身が学びを実感する省察
本校社会科では,単元の協働探究学習の最終段階
である「省察」において,主題に対する最終レポー
ことも大切な要素である。ポートフォリオをもとに,
単元を省察することで,取っておくファイルから活
用するファイルへと変化していくのである
トを書いている。このレポートは結論
だけでなく,単元においてどのような探究をしてき
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たかを,子どもたち自身が振り返りながら書いてい
く。最初考えていたことや,他者との主張の違いか
質の高い省察をす
るためには,それまで
ら考えたこと,そして自分の考えの変容を認識しな
の探究のプロセスが,
がら,最終自説を述べていくのだ。
子どもの思考の流れに
社会科におけるレポートは,1年生より段階的に
子どもの思考内容の可視化
沿っていないと難しい。
深まるようにしている。最初はわかったことや結論
また,多様な視点をも
だけの記述から,プロセスや友だちと意見を聞いて
って,他者と考えをぶ
考えがどうなったかを述べるなど,自分自身でレポ
つかり合わせていくコミュニティがなければ,社会
ート内容の変容も感じられるようにしている。レポ
科が求める社会認識はついていかない。そこで,本
ートを書くために,学習物をファイリングしていく
校社会科では,コミュニティにおける思考の可視化
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を大事にしている。話し合いでは,ホワイトボード
これを活用することで,子どもたちの学びを見取り
や付箋を使用するのはもちろんだが,思考回路図や
ながら,視点と思考の広がりを過ぎを抑え,焦点を
ダイヤモンドランキング,座標軸,マトリックスシ
絞った事実確認・価値判断へとつないでいくことが
ートなどグループで話し合わなければならない場と
できると考えている。
手法を活用して,話し合いの質を高めている。また,
この学習物を教師が記録し,全班に印刷配布するこ
とで,他の班との違いを認識し,クラス全体の交流
の必然性が出てくることになる。子どもの思考内容
の可視化をすることで,学ぶプロセスを子ども自身
が実感することができ,子ども自身の省察につなが
っていくといえる。
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省察から社会認識の深まりをつかむ
協働探究学習は子どもたちの視点や思考が広がり
単元の知識と流れを示した構造図
過ぎてしまうことが多々ある。特に,答えが1つで
はない社会科にとって,思考が拡散してしまい,オ
さらに,教師側の単元の振り返りとして,教師が
ープンエンドで終息してしまうことも出てきてしま
ねらう力が子どもたちについているかの省察ができ
う。この広がりから焦点を絞り,子どもたちの考え
る。単元の構造が子どもたちの協働探究学習に沿っ
が絡み合うようにするために,概念的知識,説明的
ていたか,どこで変化したのかなどを読み解くこと
知識,基本事項など,この単元でつけさせたい力を
ができる。この省察をもとに次の学びへとつなげて
教師が明確につかんでいることが必要である。子ど
いくことで,探究がスパイラルにつながり,社会認
もの思考によって単元は弾力的に変化していく。だ
識を深めていくことになると考えている。今後もさ
からこそ,単元の知識を教師が構造化する必要性が
らに活用できる単元構造図について研究を進めてい
ある。この知識構造を単元展開と合わせ,単元の展
きたい。
(森田
史生)
開を示す構造図を作成して,単元デザインしている。
参
考
文
献
福井大学教育地域科学部附属中学校『研究紀要』第36号,
2008.
福井大学教育地域科学部附属中学校『研究紀要』第40号,
2012.
福井大学教育地域科学部附属中学校『研究紀要』第40号別冊
福井大学教育地域科学部附属中学校研究会
社会科編,
2012.
『学びを拓く《探究するコミュニティ》4授業のプロセスとデザイン』
エクシート 2009.
北俊夫『社会科の学力をつくる“知識の構造図”−“何が本質か”が見えてくる教材研究のヒント−』
2011.
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明治図書出版