「うつらない・うつさないための 感染予防」 ~冬に向け

平成26年11月
第26回松江赤十字病院地域医療勉強会
感染予防の基礎を学ぼう
~標準予防策から、感染性胃腸炎・
インフルエンザの対応まで~
松江赤十字病院
感染管理認定看護師
土江和枝
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感染はどのように成立するのか?
細菌・ウイルス・カビ・寄生虫と
いった感染の原因になるもの
病原体
病原体が宿主に
伝わる経路
年齢
基礎疾患
予防接種
宿主
感染
経路
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感染症とは
• 病原体が生理的開口部(鼻、口、気管、生殖
器など)や傷口から体内に侵入して増殖し、
発熱・傷口の化膿・下痢・咳などの症状が
出る病気のことを「感染症」という
• 人から人へ感染するものの他に、動物や
昆虫、また傷口から感染するものも含まれる
• 病原体を持っていても、病気は起こしていな
い状態を「保菌」していると言い、必ずしも
治療の対象にはならない
3
感染と発症
病原体
免疫
重
症
軽症
感染あり
無症状
排除
感染
なし
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病原体を含む可能性(感染性)
があるもの
① 血液、体液、分泌物(つば、痰、膿、鼻水、涙、
めやになど)
② 汗を除く排泄物(嘔吐物、便、尿など)
③ 傷のある皮膚(湿疹、褥瘡、水ぶくれ、傷、
やけどした皮膚など)、粘膜(目の表面、
口・鼻の中、直腸など)
④ ①~③がついた(に使用した)もの(針、
カテーテル、手袋、シーツなど)
⑤ ①~④に触れた手指で取り扱った飲食物
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感染経路(病原体によって決まっている)
病原体の侵入経路
手や器具、環境についたも
接触感染 のから
最も頻度が多い
口から
経口感染
(手から口、食品から口)
咳・くしゃみや会話のしぶき
飛沫感染
から口・鼻・眼に入って
空気感染 空気中から肺に吸いこんで
針刺しや粘膜、傷口から
血液感染
入って
感染症の例
はやり目、
疥癬、MRSAなどの
薬剤耐性菌
胃腸炎、クロストリジウ
ム・ディフィシル菌
インフルエンザ、かぜ
結核
肝炎(A型、B型)、
HIV
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現在の感染防止対策の考え方
• 感染症“あり・なし”で区別せず、どの病原体
をもっていても、これをやっておけばまず安心
という方法を行う
標準予防策
• それでも防ぎきれない強力な病原体をもって
いる、または疑いがある場合は、その病原体
の特徴(侵入経路)にあわせた予防策を追加
して行う
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標準予防策
(Standard precautions)
すべてのヒトの
血液
体液・分
泌物・汗
以外の
排泄物
傷のある
皮膚
病原体を含む可能性があるもの
とみなして対応する
粘膜
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標準予防策
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
手指衛生
個人防護用具
呼吸器衛生/咳エチケット
腰椎処置の際の感染予防
安全な注射処置
患者の配置
患者に使用した物品の取り扱い
環境への対策
リネン類などの洗濯
職員の安全
蘇生処置
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手指衛生
ヒトからヒトに、ヒトから環境に、環境からヒトに、
病原体を持っていかない、持ち出さないために
行う感染対策の基本
方法とタイミングが重要
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種類
手に目に見える汚れが
ないとき
手に目に見える汚れが
ついたとき
アルコール擦式手指消毒薬
で手を消毒する
流水と石けんで手を洗う
(汚れにはアルコールは
効かない)
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手の消毒方法(全工程時間:20-30 秒)
お椀形にした手に製品を
1プッシュとる
指の間を擦る
手のひらのどうし擦る
両手の指を 連結し(連結器のように)、指
の背部を反対の手のひらに向けて擦る
手のひらで反対の手の指先を擦る(左右)
乾くまで擦り込む
手の甲を擦る(左右)
親指を握って擦る(左右)
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手洗い方法(全工程時間:40-60 秒)
手全体を水で軽く洗い流す
指の間を擦る
手のひらで反対の手の
指先を擦る(左右)
手全体を洗える量の
石鹸をとる
手のひらのどうし擦って
泡立てる
両手の指を 連結し(連結器のように)、指
の背部を反対の手のひらに向けて擦る
手の甲を擦る(左右)
親指を握って擦る(左右)
ペーパーか清潔なタオルで 止水栓を回すためには
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石鹸分を良く洗い流す 乾くまで拭く
ペーパーを使う
WHOの手指衛生の5つのタイミング
•移動介助
•体位変換
•入浴や清拭
•血圧や体温測定
•オムツ交換 など
•吸引の後
•便や吐物の処理
をした後
•畜尿バックの尿
を捨てた後
•口腔ケアや入れ
歯の手入れの後
•傷の手当ての後
など
•注射の準備の前
•吸引の前
•食事や薬の準備の前
•畜尿バックの尿を捨てる前
•点眼をする前
•口腔ケアや入れ歯の手入
れの前
•傷の処置の前 など
患者の環境を離
れる前に
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タイミング
理由
職員の手で、患者に病原
1患者に触れる前
体を運ばないため
病原体を患者の体内に入
2清潔/無菌操作の前
れないため
患者の病原体から職員と
3体液に曝露された
療養環境を守るため、
可能性のある場合
手袋のありなしに関わらず
4患者に触れた後
患者の病原体を、
持
5患者の環境に触れ
ち出さないため
た後
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アルコール入り手指消毒剤を
推奨する理由
•
•
•
•
•
•
消毒効果が高い
時間が短縮できる
どこでもできる
保湿剤入りは手荒れを予防する
濡れた手は、病原体を運びやすい
石鹸は管理が難しい
ただしアルコールが合わない人、
手荒れがある人には向かない
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流水と石鹸での手洗いが必要なとき
• 下痢や嘔吐のある患者のお世話をした後(アル
コールが効きにくいノロウイルスやクロストリジウ
ム・ディフィシル下痢症などの可能性があるため)
• 素手で血液、体液、分泌物、排泄物に触れた後
• 咳やくしゃみを手のひらでおさえた後
• 手指消毒を数回使用して手がべとついたとき
• 飲食物の準備や食事介助(経腸栄養の操作も含
む)をする前
• 出勤後と勤務終了後
• 自分の食事の前やトイレの後
など
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手指衛生の注意点
• 爪は短く切っておく
• 手首が洗えないため、時計ははずすかずらす
• 洗い残しや擦り込み忘れがないよう、手順を覚え、
まんべんなく洗う
• 手をきれいにした後は、顔や髪に触れない
• 手荒れ対策をする
– お湯での手洗いはしない
– ハンドクリームなどを使用して手をケアする
– 日常的に手指消毒剤を使う直前直後には、
石けんと流水での手洗いは行わない
– 食器用洗剤や消毒薬も手荒れの原因となる
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個人防護用具を使う
すべてのヒトの血液・体液・分泌物・排泄物などが
手に触れる
可能性
衣服に飛び
散る
可能性
口・鼻に
飛び
散る可能性
目に飛び
散る
可能性
使い捨て手袋
撥水性のある使い捨ての
長袖ガウンまたはエプロン
不織布マスク、
(ゴーグル)
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手袋が必要な場面
• 排泄のお世話をするとき
• 陰部洗浄をするとき
• 尿や便、吐いたもの、血液などで汚染した物や場所
を片づけるとき
• 採血、血糖測定、インスリン注射をするとき
• 畜尿バックの尿を廃棄するとき
• ストーマケアをおこなうとき
• 尿器や尿器、ポータブルトイレのポットを洗うとき
• 入れ歯の手入れをするとき
• 口・鼻などから痰などの吸引を行うとき
• 傷の手当てをするとき
など21
手袋を使用するときの注意
• 使い捨ての手袋を使う
• 使用前、使用後にポケットに入れて持ち歩か
ない
• 汚れが見えなくても、患者ごとに交換し、 再利
用しない
• 同じ患者でも、違うケアをするときには交換す
る
• 手袋の上から手指衛生をして、別のケアや
患者のお世話をしない
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• 感染性のあるものに触れた(可能性のある)
手袋をしたままで、患者や周りの環境、ドアノ
ブ、電話などに触らない
• はずすときは、手袋が素手に触れたり、手が
手袋の表面に触れないよう注意する
• はずしたあとは必ず手指衛生をする
自分を守るだけの手袋にならないように!!
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エプロン・ガウンが必要な場面
• 下痢や嘔吐、大量の出血の片付けをするとき
• 出血の多い処置をするとき
• 褥瘡など大きな傷を洗うとき
• 痰を出す介助や吸引など、飛沫が飛散する
可能性があるとき
• 患者に使用した器材の洗浄・消毒作業をする
とき
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エプロン・ガウンを使用するときの注意
• 使い捨ての撥水性のあるものを使う
• 使用したエプロンをつけたまま、別の患者の
お世話をしたり、ステーションに戻らない
• はずすときは汚れた外側を触らないようはず
す
• 手袋と合わせて使うときは、エプロン⇒手袋
の順に着けて、手袋⇒エプロンの順で外す
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27
呼吸器衛生/咳エチケット
政府広報オンライン
http://www.govonline.go.jp/useful/
article/200909/6.ht
ml より抜粋
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患者に使用した物品の取り扱い
• 廃棄物と再使用する器材に分かれる
• 再使用する場合、誰に使用したかではなく、
何に使用するかで分類し、処理を行う(スポ
ルディングの分類)
• ただし材質を考慮した処理の選択も必要
• 再処理する場合は、処理した器材の安全の
保証はもちろん、作業自身も安全にも配慮す
る必要がある
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汚染した器材の取り扱い分類
分
類
定義
組織・血管に
クリティカル 挿入するもの
粘膜・創のあ
セミ
る皮膚に接
クリティカル するもの
処理
器材の例
滅菌
手術器材、注射器、穿刺針、
縫合糸・針、インプラント
高水準消毒
人工呼吸器・麻酔器回路、
軟性内視鏡、膀胱鏡
中水準消毒
喉頭鏡ブレード、バイトブロッ
ク、ネブライザー、哺乳瓶
皮膚に接触し
洗浄
ノン
ない・創のな
または
い皮膚と接す
クリティカル
低レベル消毒
るもの
血圧計、膿盆、ガーグルベー
スン、コップ、吸飲み、便器、
尿器、集尿器、ポータブルトイ
レ、ベッド、床頭台、オーバー
テーブル
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洗浄・消毒・滅菌の定義
対象物からあらゆる異物(汚物など)を物理的に
洗浄 除去すること
適切に行うと微生物を99.99%除去できる
芽胞を除くすべての、または多くの病原体を殺滅
すること
消毒 熱水によるものと消毒薬を使用する方法がある
消毒薬を使用する場合、浸漬法や清拭法がある
物質中の芽胞を含むすべての微生物を殺滅除去
すること
滅菌
高圧蒸気滅菌(AC)、エチレンオキサイトガス滅菌
(EOG)、過酸化プラズマ滅菌などがある
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再生処理器材の処理手順
洗
浄
(
科
学
的
力
と
物
理
的
力
)
乾燥
す
す
ぎ
消毒
滅菌
(濯ぎ)
保管
乾燥
保管
乾燥
保管
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感染経路別予防策
標準予防策:すべての患者に適用する対策
接触予防策
飛沫予防策
空気予防策
• 薬剤耐性菌や胃
腸炎の起炎菌など、
患者や患者周囲
環境との直接・間
接接触により伝播
する微生物の感
染・保菌患者
• 多量の浸出液、便
失禁など環境汚染
が激しく、伝播リス
クを高める患者
• 咳やくしゃみで出る
飛沫中の微生物
が、2~3m以内に
いる人の眼、鼻、
起動粘膜と接触し
て伝播する感染症
(インフルエンザ、
マイコプラズマ肺
炎など)
• 飛沫の水分が蒸
発してできる飛沫
核が空中を浮遊し、
これを吸入するこ
とにより伝播する
感染症(結核、水
痘、麻疹)
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感染対策を実施するにあたって
• 原理原則を踏まえ、各施設の特徴や患者の
状況、資源に合わせた、最善の方法を検討する
• できるだけ使いやすい物品を導入する
• 実践するには、自分たちの方法に合わせるので
はなく、考え方や方法を変える必要もある
• 各自の清潔観念に任せず、普段のケアに手順
として取り入れる
• 普段からの円滑なコミュニケーションや標準予
防策の実践が、感染拡大防止や発生時の速や
かな対応につながる
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