『昭和鎮魂歌』キャプション ○ この作品は、太平洋戦争で戦死した筆者の兄の日記等様々な資料を基に、昭和という 時代の前半が、実は「落日の時代」であったことを描いた小説です。 また、兄をはじめ兵士の経験や家族が生きた日々、そして迎えたかった明日はどういう ものだったのかを語りました。 ○ 主人公勝一の故郷、越後・十日町は織物とお米の産地で、豪雪の降る雪国です。勝 一はテーラー修業のため上京し、東京・日本橋の老舗に住み込みます。やがて同郷の岩崎 紀子と出会い、恋仲になります。 ○ 勝一の歴戦 出征した勝一は南方戦線のフィリピンへ渡り、マニラ、レイテ、カンギポット山で戦い ますが、戦場はだんだん厳しさが増していきます。 海に浮かぶ死体、火炎に焼かれる兵士、頭蓋を砕かれる軍人、ジャングルで白骨化する 日本兵など、戦火に倒れ、戦陣に散る兵の姿を描きます。やがて、勝一の心に異変が起こ ります。 ○ 一方、家族の銃後も前線と変わらない戦地であることを描きました。都市は激しく爆 撃され、国民は鋸屑をパンにしたり、蛹(さなぎ)の佃煮や鼠を食べたりしました。銃後も前 線も変わらないという描写は、この作品のテーマの一つです。 ○ 頭から腐っていた鯛 勝一は日本に帰還しますが、東条英樹はじめ大本営が実は「張り子の虎」だったと気づ きます。昭和天皇の「人間宣言」も「白黒逆転」の世界です。このように黒を白とした逆 転の昭和を明らかにすることも本作品のテーマです。 ○「昭和の落日と鎮魂」がテーマです。 母が最後に語ります。 「私たち家族にとって昭和の前半は、どうやら〝落日の時代〟だったような気がいたし ます。日が落ちていくように、戦争の進行と敗戦とともに、家族、家運が傾き、衰退して いったからです。 私たちの希望は過去の日々からのみ汲み取れることを信じ、その様子を記録に残します。 この記録は私が家族に捧げる、いわば鎮魂の歌でもあります。」
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