「そうか/そつか一」 のあいづちの機能と 日中接触場面における中国人

「
そ うか/ そ つか一」の あいづちの機能 と
日中接触場面 における中国人 日本語学習者 のあいづちの誤用分析
古)li智
樹
名 古屋大学大学院国際言語文化研 究科
tomokifurukawaOhotmail.com
l.研
究動機 と目的
筆者 が 中国人 日本語学習者 (以下 NNS)と 話 してい る とき、その NNSが 「
そ うか― ↓」 とい う
あ いづ ちを頻繁 に うつてい るの を聞 き、違和感 を覚 えることが あ つた。あいづ ちは同 じ形式であ
つ て もイ ン トネ ー シ ョンや ア クセ ン トに よつて 、様 々 な感想や感情 を伝 え られ るが、注意 しなけ
れ ば、意 図 しない こ とまで伝 わ つて しま う恐れ もある。そ こで 、本研 究ではあいづ ちの 「
そ うか
/そ つか ― ↓/‐ ヽ 」 を対象 に、 日本語母語場面で の使用実態 との比 較 か ら NNSの 誤用 を調 べ 、
上記 の よ うな違和感 をなぜ持 つたかについ て分析す る。具体的 には 、以下 の 2点 、① 「
そ うか/
そ つか ― ↓/ヽ 岬 が 日本語母語話者 (以下 NS)の 会話場面では どの よ うに用 い られ てい るの
かを明 らかにす ること②NNSが どの よ うに 「
そ うか/そ つか― ↓/ヽ
」 の意味を間違 え、NS
との会話で使用 しているのかを明 らかにす ること、を 目的 とす る。
2.先 行研究
あいづ ちの機能 については、堀 日 (1988)、メイナー ド(1993)、
ザ トラウス キー
松 田(1988)、
ま とめると以下の 6つ に分類 できる。
(1991)を
1.聞 いてい るとい う表示
2.理 解 の表示
3.同 意 の表示
3 . 否 定 の表 示
4.感 情 の表 出
6.沈 黙 を埋 め る
また、「
そ うか/そ つか― ↓、 」についての研究は筆者が見る限りではなく、日本語の教科書
A CourseinModern」
a panese[revised
edition]』
(対象としたのは 『げんき』(1999)、
(2002)
『
みんなの 日本語』(1998)『
『
なめらか日本語会話』(1997))で
も使用場面、イン トネーションな
どの詳しい記述はなく、対訳がついているのみであつた。
3.調
査概要
3.1.分
析対象 と表配方法
分析対象 は NS同 士の会話、NSと NNSの 接触場面会話 、各 10組 、計 20組 、総時間数 200分 の
会話 を分析対象 とす る。
なお、今回対象 とす るあ いづ ちは 「
そ うか/そ つか (―)」で、そ の うち疑間、疑 い を表す 「
そ
上 昇イ ン トネ ー シ ョンの もの」 は対象 としな い。 「
うか/そ つか ↑」 の よ うな 「
そ うか/そ つか
― ↓/ヽ 」の よ うに 「
急 に下が るイ ン トネ ー シ ョンの あいづ ち」と 「
緩や かに 下 が るイ ン トネ ー
ションのあいづち」を対象 とする。会話中に表記 した記号は以下に説明する通 りである。
・上昇イ ン トネーション→ ↑
。あいづち
・笑い → <笑 い>
→ ( )
・イン トネーションが急に下がる→
↓
・イ ン トネー シ ョンが緩や かに下がる→
・発話の重なり →/
/
・沈黙 → ・・・
ヽ
3.2.あ いづちの定義
あいづ ちは現在までに様 々な定義がな されてきてい る。本研究ではメイナー ド(1993:58)の
あ
いづ ちの定義 を採用す る。
話 し手が発話権を行使 している間に聞き手が送る短い表現 (非言語行動を含む)で 、短い表現の
うち話 し手が順番を譲 つたとみなされる反応を示 したものは、あいづ ちとしない。
3.3.撮 影方法 、撮影 時間及び話題
3つ の ビデオカ メラ とテ ー プ レコー ダー を使 い 、各組 30分 程度撮影 、録音 した。 なお、初 め
の 10分 は撮影 へ の心 的配慮 を考慮 し,分 析 の対象 に しない。会話 の話題 は ,自 由会話 とした。
3.4.分 析手順
Tannen(1992)がGl■
l lperz(1982)を
も とに してま とめた 「
異文化 間 の誤解 を分析す るた めのモ デ
ル (cross―
t alk■odel)」の 手順 をま とめてお り、それ を基 に以下 の よ うな手順 で分析 を行 つた。
1.NS同 士 ・NS/NNSの 接触場面 の会話を録音 し、文字化す る。
2.各 参加者 が どのよ うに会話 を解釈 したのかを確認す るために、個別に面接す るも
3.NS同 士による会話事例 とNS/NNSの 接触場面を比較す る。
4,録 音 と文字化資料 を調べ 、異文化間で異なる解釈 がな された談話行動 を確認す る。
5.会 話 の各参加者 と同 じ文化 に属す る人 々に録音を聞かせて、それ らの人 々の解釈 が会話 の参
加者 によるもの と同 じパ ター ンを示すか どうかを検討 し、解釈 の基準 の文化的差を調べ る。
4.「 そ うか/そ っか ― ↓Jと
『そ うか/そ っか一 ヽ 」 の あ いづちの 機能
4.1.「 そ うか/そ つか 一 ↓Jの 機能
4.1.1.聞 き手の既知の こ とで、話 し手の発話 によ って思 い出 した こ とを表す
NSl ,大 学生 の間はシンガポール とか (あ―)台 湾 とか (うん)あ とそ うですね韓国も何回か行 つて<S
笑 い>そ うなんです よ 結構好きで (あ―)う ちか らも結構近 くて行きやす いんですね
NS2:あ っそ うなんですか ?
NSl :うん (ふ― ん)近 い とい うとなんかあれ (うん)で すけど まぁ東京まで行 くの と (ふ―ん)お お
同 じくらい (あっそ つか ↓)そ れ よりも短い くらいで行 つちゃ うんです よ
NSlは NS2の 「
名古屋 か ら東京 と名古屋 か ら韓国は同 じくらいの距離」とい う話を聞いて、その
あつそ っか ↓」 と自分 も知 っていて、思い 出 した とい うことを表 している。
距離 を思 い出 し、 「
主に 「
あっ」「
あ― 」などの発話 の後に 「
そ つか/そ うか」を付け加 えた形で現れ る。 「
そ つか/
そ うか」 の後は、 「
そ つか/そ うか―」 と伸ばす もの もあれば、伸ば さない もの もあ つた。
4.1.2.興 味 ・関心 を表す
職
:農 学 部 か 興味摘わた人が 《
薄
靭 効 つ たんだけどほう t鵡 だわ 一ん でも研究 機 に作ろてことはやめ ぱな
んかねその人が言 つてたなん洲院 に行くには絶対英語 を勉強 降 つて言 つて (へえ― そっか ↓)でその人は
英語 がす酌 鞠
だつたか引院 にいきたぐG部 ヽ
けなかつたつてしつ感 じで
N S l の 従兄弟 が 大学院進学 を希望 していたが 、英語 がで きな いために進学 をあき らめた とい う話
へ え―
で 、聞 き手で ある N S 2 は 大学院進学 を希望 してい るため、そ の話 に興味 を持 つて お り、 「
そ つか ↓」 とい う 「
そ うか/ そ つか 」の前後
興味 ・関 心 」を表す あいづ ちを うつてい る。主 に 「
へ ぇ― 」 な ど関心 を示す よ うな表現 が後 に続 く形で現れ 、 「
に 「
あ
そ つか/ そ つか 」 の前 には 「
―」 「
あ つ」 な どの表現 は付 かない。
4.2 rそぅか/そっか_、 Jの機能
曲 幌
4 . 2 . 1 理 解 ・納得 を表す
:マ レー シア とかに も 《うん》なんかあるん じゃないんですか ?
:行 つてみた くつて 《うん》でも部活 が終わるまで多分 しヽ
けないなぁと思 つて (そつか― ヽ )う ―
んだか ら来年
今年 の 《う― ん》 12
11周 で部播が終わる予定なんで 《うん)終 わつた ら行 き
この会話 Aで は、NS2が 「
そ
部活 が忙 しいので旅行 に行 きたいのに行けない」とい う話 を受 けて 「
つカギヽ 」 とあいづ ちを うち、 「
理解 ・納得」を表 している。主に前後に何 もつ かない形式で現
れ るか、前に 「
あ」がついた形で現れ ていた。
闘 幌
4.2.2口間を埋める
:す ごい好 き嫌 いが ある子 とか 《
あ―》そ うで く2人 笑 い>/う ― ん
ふ―ん》/,… (そっか―ヽ)
《
:いいな―一回私 も一 人暮 らしとか 《う― ん》 してみたいんですよ ずっと通 つてたか ら 《うん》大
学になるときは側に自宅でいいや と
そ つか/そ うか」である。会
会話 Aで は、話 し手の発話 が終わ つた後 の沈黙 の ときに出てきた 「
話 Aで はそれ を契機 に聞き手であつた NS2が 発話権 を取 つて、次 の発話に移 つてい る。この間を
埋める 「
そ つか/そ うか」は話 し手、聞き手 の両方 が発話権を取る ことがで きる間があるときに
現れ た。使 われ方 としては、発話権 を取 らず、聞き手であることを表示す る場合 と発話権 を これ
か ら取 るとい うことを表示す る場合 の 2通 り見 られた。
4.2.3.聞 いているとい うことを表す
購
:ま だ新入なんで 《うん うん うん》 そ うい う授 業 はあん ま り 《
あ― ほん とに― )や らせ て もらえな
くて演習 を 《うん うん うん》見 た りとかです け ど (そっか ― ヽ )そ れ で もなんか説 明 した り
NS4が まだ新人 のため、授業で実験に参加 させて もらえない とい う話 で、聞き手である NS5は 「
そ
なるほ ど」「うん」といつた あいづ ち と同 じよ うに 「
うなんだ」「
聞いてい る」とい うことを表す
へ ぇ―」な どは付随せず、単独 の形で現れていた。
あいづ ちを うつている。主に 「
あ」 「
勺
4.3そ の他
そ うか/そ つ
今 回 の NSに よる会話デ ー タでは見 られ なか つたが、上記 に挙 げた ものの他 に 「
か ― ↓」では 「
理 解 ・納得 を表す」機能 もある と考 え られ 「
そ うか/そ つか― ヽ 」では 「
残念
だ/し かたない 」とい う意味合 い を含 めた 「
残念 だ とい うこ とを表す 」
機能 もあ る と考 え られ る。
5.HNSに よる誤用
:も し海外で 田本語を教えたいな ら簡単ですけど 《
ん―》英語 でそ して数学を教えるのはたぶん/難
総
ししく難 しじい/は い 饉 ししい
:で もよくカ ンボジア とか 《
あ―)の 国は 《
あ―》そ うい う日本人が多いんですね (あそ うか ↓)突
悶
あ―)そ うい うの あこが
謡で他の教科を教 えてるとか (あ―そ うか ↓)そ うしヽう人たちが多 くて 《
NNSが
「
あそ うか 」 「
あそ つか 」 とい うあいづ ちを間違 って使用 してい る場面が見 られ た。 あい
づ ちの教育 を受 けた こ とがな いた め、NS同 士の会話 を聞 いて 、 日本人 の会話 の方法 を学ぶ しか
な く、 「
あそ うか 」 「
あそ つか 」を開 い た ときに、中国語 の 「
是略」に置 き換 えて理 解 し、そ のま
ま使用 していた こ とが フ ォ ロー ア ップイ ンタビュー でわかつた。
6。 ま とめ
NSの 会話場面を調査 した結果、「
そ うか/そ つか― ↓ ヽ 」の機能 として 「
聞き手 の既知の こ
とで、話 し手の発話によって思い出 した ことを表す」「
理解 ・納得を表す 「
興味 ・関心を表す」「
問
そ うか/そ つか―
を埋める」「
聞 いているとい うことを表すJが 今回の調査で見 られた。また、「
そ うか/そ つか― ↓」にお いて は、それ
↓ ヽ 」 にはイ ン トネー シ ョンが深 く関係 してお り、 「
へ ぇ―」 の あいづ ちも機能に関係 してい ることがわかつた。
らに付随す る 「
あ」 「
そ うか/そ つか― ↓ ヽ 」
そ して、NNSの 誤用 では聞き手行動 の学習が行われなかつたために 「
の NSの 使用場面を見 て、間違 つて使用 していたことが分 かつた。学習言語 を注意深 く観察 し、
使用 してい くこ とは、言語能力を上達 させ る必要な手段であるが、今回の調査 のよ うに間違 つた
使用 も見 られ るので、聞き手 の役割 の重要性 を認識 した教育 が行われ るべ きであると考える。
<参 考文献 >
坂野永理、大野裕、坂根庸子、品川恭子、渡嘉敷恭子 (1999)『 げんき I、 工』The JapanTimes
ポリー (1993)『日本語の談話の構造分析一勧誘のストラテジーの考察一』くろしお出版
ザトラウスキー・
ス リーエーネ ットワーク(1998) 『みんなの日本語』株式会社 ス リーエーネ ットワーク
A Course in Modern Japanese[revised
edition]
名古屋大学 日本語教育研究 グループ (2002)『
volume l,2』財団法人名古屋大学出版会
富阪容子(1997) 『なめらか日本語会話』株式会社アルク
コミュニケーションにおける聞き手の言語行動」『日本語教育』64号
堀日純子(1988) 「
松田陽子(1988) 「
対話の日本語教育学一あいづちに関連して一」『日本語学』第 7巻第 13号明治書院
メイナー ド・K・泉子(1993) 『
会話分析』くろしお出版
4