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NPO法人 素材広場
理事長 横田 純子(よこた・じゅんこ)氏
「宿泊客を呼び込むための切り札は地元の食材にある」と考
え、旅館・ホテルと生産者を結び付け、「食」による魅力づくりに
取り組んでいるNPO法人 素材広場。前回の取材からちょうど2
年が過ぎた今も、会津地方および福島県の観光振興に奮闘し
ている。
お勧めの会津産商品を手にするNPO法人素材広場の皆さん(中央の女性が理事長の
横田純子さん)。会津らしさを活かした「食」の魅力で観光客の呼び込みに奮闘している
会津漆器を惜しげもなく使う
前回の記事で紹介した宿泊企画「会津・麗の食スタイル」は、3年計画の最終年度を迎えた。「会津らしいおもてなしをしよう」と、本物の会津漆器と食
材を組み合わせたこの提案は、当初は「とんでもない!」と拒否反応もあったとNPO法人 素材広場(以下、素材広場)理事長の横田純子さんは言う。
その理由は食洗機を使えないから。漆器は手洗いしなければ傷んでしまうので、億劫がる向きが多かったのだ。
「でも3年目を迎えた今、お宿さん(ホテル・旅館・ペンションなど)の意識は変わりましたよ」と横田さん。
「お客さまが喜んでくれるんですよ!」「常連さんにはできるだけ漆器で料理をお出ししています」との声が増えている。会津の郷土料理「こづゆ」に用
いる会津漆器「手塩皿(てしおざら)」も躊躇なく使うようになった。
「会津・麗の食スタイル」は、旅館・ホテルに「会津ならではのものを使うべき」との意識改革をもたらしたこの試みは大成功といえそうだ。
日本ミツバチの「百花蜜」を一流ホテルで
一方、旅館・ホテルと生産者をつなぐ「素材広場」らしい新たな事業もはじまっている。
横田さんが真っ先に挙げたのが「日本ミツバチ ハニーヌーボーフェア」(以下、ハニーヌーボー)。これは日本
ミツバチのはちみつをスイーツで味わうもの。ご存じのとおり日本ミツバチは希少種で、いろいろな花の蜜が
入ったそのはちみつは「百花蜜」と呼ばれ貴重だ。それを福島県郡山市の「ホテルハマツ」のシェフパティシエ2
人が「はちみつアマンド」「はちみつババロア」「ブリュレ入りはちみつムース」として創作。ディナーコースのメイ
ン料理「会津地鶏のソテー フォワイヨ風」にハニーヌーボーソースとして用いている。
きっかけは、横田さんがアドバイザーを務める奥会津の商品開発チームで「奥会津日本みつばちの会」の人
たちと出会ったこと。奥会津日本みつばちの会は、里親およそ40人が巣箱を山々に置いて生態を研究しつつ、
はちみつを採取している。
そもそも日本ミツバチのはちみつは量が限られる、瓶詰で販売しても多くの人に行き渡らずもったいない、固
定ファン以外に広がりをもたせるならばどこかのレストランで採用してもらい「食べて広げる」のはどうか――。
そう考えた横田さんは格式高いホテルハマツに話を持ち込んだ。ホテルハマツも奥会津の百花蜜を独占的に
使える集客効果を見込んで同意し、「ハニーヌーボー」がはじまった。
奥会津の日本ミツバチが集めた「百花蜜」をス
イーツや料理に用いる「日本ミツバチ ハニー
ヌーボーフェア」の告知チラシ。集客効果が高
まったとホテル側も喜んでいるという
「プロの料理人によい素材を提供すると素敵な料理にしてくれるので楽しいですよ!」と笑う横田さん。また、
人間には、日ごろ食べないものにも旅先では挑戦する傾向があると説く。
「家の近所のスーパーで変わったものに手は出さないでしょう。けれど、たとえば遠出したときに立ち寄る農産物直売所ではふだん食べない野菜を
買ったりしますよね。そんなチャレンジを自然とする旅先は新しいファンを増やすチャンスなのです」
横田さんの思惑通りに販売は好調。当初は9月20日から10月20日までの1カ月限定の予定が、ホテル側から「もう少し続けよう」と言われ、11月まで
続いた。フェアが終わりスイーツの販売は終了したが、はちみつの販売は現在も続いている。「こちらからお貸ししているノボリやフラッグが返ってこなく
て、ちょっと困ってしまいました♪」と横田さんはうれしい悲鳴をあげている。
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福島にはまだ眠っている素材がある
2014年、横田さんたちがてんてこ舞いだったのが、会津若松市農政課と立ち上げ
たイベント「あいづ 食の陣」だ。コンセプトは「会津人が胸をはって美味しいといえる
食材を、旬の時期に味わってほしい」。3カ月ごとに取り上げる食材を決めて、会津市
内の飲食店や宿泊施設の料理人がそれぞれ工夫を凝らしたメニューを用意。それを
パンフレットとHPで紹介して、会津の食の魅力を存分に味わってもらおうという企画
だ。
横田さんは、江の島海岸のシラス丼がよいお手本だと言う。
「まったく食べる気がなくても、駅を降りて歩いているとそこかしこにシラス丼の文
字を見かけます。『あ、シーズンなんだ。食べてみようか?』と思うじゃないですか。し
かもシラスなのに結構いい値がする(笑)。ああいうことを会津若松市内で仕掛けた
会津若松市農政課からの委託で取り組んでいる「あいづ食の陣」のカタログ類。
会津の特産品に集中的な光をあてることで、飲食店や宿泊施設の魅力アップにつ
なげていく
かったのです」
4~6月は「会津アスパラ」、7~9月が「会津トマト」、10~12月は「会津米・酒」で、
2015年1~3月が「会津地鶏」。あれもこれもと手を広げない、一点集中のマーケティングである。
でも会津でアスパラガスって意外ですね、と水を向けると横田さんに「福島県の作付面積は全国3位で、そのうち90%以上が会津地方なんですよ!」
と言われてしまったが、地元の人も会津でそれほど栽培されているとは知らないそうだ。しかも細いアスパラガスしか見かけない。食べごたえのある2L
サイズは市場に出されてしまうからだ。昔から横田さんを悩ませている「福島の食材は豊富だけどよいものは県外に出荷してしまう」ことと同じだ。
アスパラは鮮度が命。収穫してそのまま食べるのがいちばんおいしい。だからもっとも大きい2Lサイズのアスパラガスの仕入れルートを探すところか
ら出発し、少しずつ開拓していった。
パンフレットづくりも苦難の連続だった。似たような料理が並んでは新鮮味に欠ける。1軒ずつ取材に回る中で、ときにはダメ出しをして、メニューを変
えてもらったこともある。外から人を呼び込むためにしたことだが、実はそれによって地域の人たちの意識が変わることにもつながっている。
「会津アスパラ」のイベントが終わった後、地元のアスパラガス消費量は3割もアップしていた。生産者側で2600万円の増収なので、飲食店側ならさら
に売り上げが伸びているはずだ。
旬のものを地産地消で提供するためにも「あいづ 食の陣」を3年間は続けたい。横田さんはそう意気込んでいる。
新潟との連携で魅力あふれるエリアに
実は「あいづ 食の陣」は「にいがた 食の陣」からののれん分けである。「にいがた 食の陣」は新潟の豊
富な食材を全国に広めるために20年以上前に旗揚げされた食のイベント。成功事例として知られている。横
田さんは新潟市にも相談しながら「あいづ 食の陣」を立ち上げたのだ。
共通しているのは、会津地方も新潟も米と日本酒の味に定評があること。そもそも阿賀川(新潟側は阿
賀野川)でつながっているので、特に水運が主流だった頃はつながりが深かった。
横田さんは「新潟と組みたいんです」と大胆なことを口にした。
「1泊2日、あるいは2泊3日で会津と新潟を巡ってお酒と食を楽しむことができたら、魅力的な観光エリア
になると思いませんか?」
かつて日本全国は川や谷筋を中心とした「流域」で文化圏が形づくられていた。だから阿賀川(阿賀野
川)を1つの流域として見れば、会津と新潟が組むことはけっして夢物語ではない。事実、食文化はきわめ
てよく似ているという。
「日本でおいしいお酒と食が楽しめるのは、あのエリアだね。そう言われたいのです」。横田さんは熱っぽ
く語った。
福島県内の観光は今も震災前の水準に戻っていない。旅館やホテルの人手不足、放射能の風評被害
など原因はいくつかある。いずれも困難な問題だが、それを会津地方の魅力を高めることで吹っ飛ばしてや
ろう。口にこそ出さないものの、横田さんはそう考えているように思えた。
素材広場のこれからの目標は、これまでと同じく「食」と「観光」を結び付けること。「福島に留まって今が
んばっている人たちは、次の世代に食文化や伝統を残したいと思っているはず。私たちはそういう人たちを
支えるために、いろいろなかたちで手伝っていきたいです」と横田さんは目を輝かせる。
(上)NPO法人 素材広場のオフィスには、ここ数年、
全国的に評価を高めている日本酒や伝統工芸品と
して名高い会津漆器などがずらりと並ぶ
(下)「食」と「観光」を結びつけるために、さまざまな
アイディアを生み、それを実現しようと駆け回る横田
さん
2015年1~3月の「あいづ 食の陣」は会津地鶏。日本酒もおいしい季節だ。どうだろう、酒と地鶏を味わい
に、冬の会津を訪れてみては?
2014年11月取材
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