家康公のちから【力】

家康公の
ちから
激しい戦いの連続のなか、1572(元亀3)年の三方ヶ原合戦敗北に続き、
1579(天正7)年には嫡男信康の自害切腹など、家康公にとって生涯のなか
でも激動の時代を過ごした地が浜松だ。独自の視点で歴史を切り取り、現代
静岡県浜松市
【力】
社会と結び付けることで新たな面白みを説く静岡文化芸術大学教授の磯田
道史さんに、家康公が浜松市に残した足跡や歴史巡りのヒントを聞いた。
天下統一への足がかりとなった地、浜松
― 若かりし日々を浜松で過ごした家康公ですが、
この地にもたらした影響とは?
29歳から45歳までの約17年間、家康公は浜松で過ごしました。元々、
磐田の見付に居城を築こうと城普請を進めていた矢先、織田信長の鶴
の一声で急きょ浜松に城を築くことになった。以後、家康公は浜松城
ほんろう
(当時の引間城)
を拠点に、
織田と武田という巨大勢力に翻弄されながら、
天下人へと駆け上る足固めの歳月を過ごしたのです。
その後、家康公が
浜松を去ると、数万石の小さな大名が置かれた城下町には、家康公と
共に乱世を生き抜いた勢いのある町民が残され、民が力を持つ実利的
な町に発展したといえます。現代の楽器やオートバイなど、
モノづくりを
基盤とした産業都市へと成長を遂げる礎を築いたともいえるでしょう。
豊臣秀吉の逸話も残る、浜松元城町東照宮
― 家康公にまつわる浜松市のおすすめスポットを教えてください。
家康公にとって、荒々しい戦国の世の舞台となった引間城跡です。現
在、本丸跡には浜松元城町東照宮という小さな神社がありますが、実は
ここは、豊臣秀吉ともゆかりの深い類
まれなパワースポットなのです。当時
16歳だった秀吉が武家への奉公を
望み、尾張から針の行商しながら東
を目指していた時のこと。道中の浜松
で猿そっくりに栗を食べて、
引間城の
いい お
N
Note
浜松城
静岡県浜松市中区元城町100-2 ☎053-453-3872
(浜松城) http://www.hamamatsu-navi.jp/shiro/
開館時間/8:30∼16:30 休館日/12/29∼12/31 入場料/大人個人(高校生以上)200円 ※公園内は見学自由
東名高速 浜松IC・浜松西ICより約30分、新東名 浜松浜北ICより約40分
家康公が1570
(元亀元)年に築城し、天下統一へ礎を築いた城、浜松城。現在の天守閣は1958(昭
和33)年に再建されたもの。
自然石を積み上げる野面(のづら)積みの石垣が当時の面影を伝える。
天守や家康公像を中心に緑豊かな浜松城公園として整備され歴史散策の拠点に最適だ。
E
Event
Info
ぶ ぜんのかみ
城主だった飯尾豊前守に気に入ら
天下人の出発点となった「出世城」
家康の堀見える化事業
れ、配下の松下家に仕えることになっ
たという逸話が残されています。
N
Note
磯田道史さんが監修する事業で、家康在城期の遺構と推定される堀を期間限定で公開(9/14ま
で)。期間中は展示室を設け、発掘断面の
「剥ぎ取り標本」
や出土品などが展示される。
期間/2015年8月1日
(土)∼10月25日
(日) 場所/浜松城公園 ☎053-457-2353(浜松市公園課)
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静岡文化芸術大学 文化政策学部国際文化学科教授
磯田道史さん
岡山県出身、浜松市在住。慶應義塾大学大学院文学研究科修了。古文書に隠された様々な歴
史のエピソードから独特の視点で研究と分析を続け、新たな角度から歴史をひも解く。
『 武士の
家計簿(新潮社)』をはじめ、
『 殿様の通信簿(新潮社)』など著書、論文を多数発表。
『 広報はま
まつ』にて2014年10月号から
「磯田道史のちょっと家康み」を連載中。
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家 康 公 の ちから【力】
浜松元城町東照宮(引間城跡)
静岡県浜松市
二人の天下人ゆかりの、最強の出世スポット
― まだ無名だった、後の天下人2人にとって起点となる場所だった?
秀吉が貧しい放浪生活から抜け出し、武士への道を切り開く第一歩と
なった引間城は、
のちに家康公の手に落ちます。家康公はこの城を拡張
して浜松城と改称。武田信玄の侵攻を防ぎ、秀吉とも対決して、浜松時
代に天下人への足がかりを築きました。秀吉と家康公、二人の天下人に
とって躍進のスタート地点となった現在の浜松元城町東照宮は、
日本
最強の出世スポットと言っても過言ではないと思います。
「見える化」
で家康公の真髄に触れる
― 浜松時代の家康公を
「見える化」
する取り組みが行われているそうですね。
家康は浜松時代が一番かっこいいのです。闘う若き武将でしたから。
浜松の街は、世に出る活気「やらまいか」の精神を受け継いでいます。
これを見えるようにする、
「 見える化」の取り組みには私も監修で参加
しています。浜松市在住のジオラマ界の第一人者、情景作家の山田
卓司さんによる
「三方ヶ原合戦」のジオラマは臨場感いっぱいで必見
です。
また、私自身も楽しみにしているのが、8月から浜松城で公開され
る浜松時代の若き家康公を再現した等身大
3D像。
これは、皆さんがご存じの家康公像を
覆すのではないかと思います。
民と共に勇壮に戦い、命をかけて城下町を守
り抜いた浜松時代の家康公。
その姿、鼓動を
感じることで、天下人の新たな一面に触れる
ことができるはずです。
N
Note
引間城跡に建つ権現様(家康公)をまつる神社
浜松元城町東照宮(引間城跡)
静岡県浜松市中区元城町111-2 ☎053-457-2295(浜松市観光交流課)
東名高速 浜松IC・浜松西ICより約30分、新東名 浜松浜北ICより約40分
1886(明治19)年旧幕臣井上延陵の発起によって創建。50メートル四方
の小さな神社ながら、
かつて引間城があったことを伝える
「曳馬城跡」
と刻ま
れた史跡碑や権現道石碑などがあり、歴史のロマンを感じさせる。
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「甦る!若き日の家康公展」
浜松時代の若き家康公を再現した等身大3D像、
ジオラマ
「三方ヶ原合戦立体絵巻」、立体しかみ像などを展示。
Event
(土)∼10月25日
(日) 場所/浜松城 ☎053-457-2293(浜松市広聴広報課)
Info 期間/2015年8月1日
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