祭礼の植物と古典 (2015 年4月 21 日植物園講演レジメ 2p) 市 忠顕 Asarum caulescens (1)フタバアオイ(双葉葵、賀茂葵) 万葉集 3834 (梨棗、黍に粟嗣ぎ 延う田葛の 後も逢はむと葵花咲く) 旧記:「(前略)また、葵・楓(かつら)の蘰を造り、厳に飾りて 之を待て。」 枕草子 66 段(冒頭)(草は菖蒲。菰。葵 いとをかし。神代よりして・・・) 西行法師山家集 神祇歌(紫の色なき頃の野辺なれや 片祭にて懸けぬ葵は) 賀茂註進雑記 第2祭礼(祭の日、松尾社司をして楓山の葵を挿頭の料とす) (2)カツラ Ceridiphyllum japonicum 神農本草経 「牡桂(=肉桂)、味辛温。(中略)久服通神、軽身、不老」 古事記 天若日子の段 古事記 海幸・山幸の項 万葉集 2202 (湯津楓) (湯津香木) (もみじする時になるらし 月人のかつらの枝の 色づく見れば) 枕草子 40 段(冒頭)(花の木ならぬは、かへで、かつら、五葉) 古今和歌集 (かくばかりあふひのまれになる人を いかがつらしと思はざるべき) (3)ショウブ(菖蒲)Acorus calamus var. angustatus 万葉集 1955 (霍公鳥厭ふ時無し 菖蒲草蘰にせむ日 こゆ鳴き渡れ) 類聚国史 五月五日条 (令群臣五位已上出走馬。) 枕草子 39 段(冒頭) (菖蒲、蓬などのかをり合ひたる、いみじゅうをかし。) 枕草子 39 段(後段) (あおき紙に菖蒲の葉ほそく巻きてゆひ、云々) 荊楚歳時記 5月5日(この日、競渡し、雑薬を採る。) (4)ヨモギ(蓬、艾、蒿)Artemisia indica var. maximowiczii 万葉集 4116 大伴家持(五月の 菖蒲草 蓬蘰き 酒宴・・・) 万葉集 3921 大伴家持(かきつはた衣に摺り付け大夫の きそひ猟する月は来にけり) 万葉集 3885 (平群の山に 四月と五月のまに 薬狩り仕ふる時に・・) 神山や大田の沢のかきつはた深き頼みは色に見ゆらむ(大田神社のカキツバタ) (5)サカキ(賢木、栄木、榊)Cleyera japonica 古事記 天岩屋戸の段 万葉集 379 (天香山の五百津真賢木を・・) 大伴坂上娘女、神を祀る歌 (奥山の賢木の枝に白香付け、・・) 枕草子 40 段(部分) (さか木、臨時の祭の御神楽の折りなど、いとをかし。) 神楽歌(榊葉に木綿とりしでて たが世にか 神の御前に いはひ初めけむ) (6)マツ(松) クロマツ Pinus thunbergii 二葉の松(陰)と三葉の松(陽):賀茂競馬と陰陽道(陰陽串と陰陽祓えなど) 2月の燃灯祭では神舘跡で小松を引き、燃灯草と共に神前に供える。 万葉集 228 河辺宮人(妹が名は千代に流れむ 姫島の子松が末に苔生すまでに) 万葉集 1043 大伴家持(たまきはる命は知らず 松が枝を結ぶ情は 長くとそ思ふ) (7)コウヤボウキ(高野箒)Pertya scandens キク科コウヤボウキ属の落葉小低木。別名タマボウキ、燃灯草、たまははき 万葉集 4493 大伴家持(初春の初子の今日の玉箒 手に執るからに ゆらく玉の緒) 正月三日に宮中の蚕室の掃除。正倉院御物、子日目利箒 (8)タケ(竹) マダケ Phyllostachys bambusoides 古事記 天岩屋戸条:「天宇受売命(中略)天香山の小竹葉を手草に結ひて・・」 「さすたけの節(よ)隠りてあれ 吾が背子の吾許りし来ずば 吾恋めやも」 (万 2773) (9)イネ(稲)Oryza sativa 万葉集 1353 「石上布留の早田を秀でずとも 縄(しめ)だに延えよ守りつ居らむ」 万葉集 1624 坂上大娘(わが蒔ける早田の穂立ち造りたる 蘰そ見つつ偲はせ吾背) 万葉集 1625 大伴家持(吾妹子が業と造れる秋の田の早穂の蘰 見れど飽かぬかも) (10)ヒカゲノカズラ(日影蘰)Lycopodium clavatum var. nipponicum 日本書紀 持統3年1月(乙卯)2日条、「大学寮献杖八十枚」 漢官儀 「正月以桃枝、作剛卯仗、厭鬼也」(建武年中行事註解より) 建武年中行事註解 「卯仗は、柊、棗、桃、柏、椿、ボケ、カリン、梅など」 古事記 天岩屋戸条:「天日影を手次〈襷〉にかけて、神懸して・・」 万葉集 4278 大伴家持「あしひきの山下日蔭蘰ける上にや さらに梅をしのはむ」 (11)モモ(桃)Prunus percica 日本書紀 「大きなる桃の木あり、(中略)その実を採りて雷に投げしかば、・・」 神農本草経 「桃華殺疰悪鬼、令人好顔色」 荊楚歳時記 「桃者有五行之精、厭伏邪気、制百鬼也。」 枕草子9段 「三月三日、柳かづらせさせ、桃の花を挿頭しにささせ、桜腰にさし・・」 (12)チガヤ(茅、茅草)Imperata cylindrical 拾遺和歌集「水無月の夏越の祓えする人は 千歳の命 のぶといふなり」 万葉集 3887 「天なるや神楽良の小野に茅草苅り 草苅りばかに鶉をたつも」 新勅撰集 家隆「風そよぐ奈良の小川の夕暮れはみそぎぞ夏のしるしなりける」 (13)キク(菊) イエギク Chrysanthemum x morifolium 類聚国史(菊花の宴)「九月九日者、菊花豊楽聞食日尓在止毛、・・・」 枕草子 39 段「九月九日の菊を あやしきすずし(生絹)のきぬに包みて・・・」 古今和歌集 「心当てに折らばや折らむ 初霜の置きまどはせる白菊の花」 (14)ツバキ ヤブツバキ Camellia japonica 古事記 磐之姫の歌 「葉広ゆつ真椿 其が花の照り坐し 其が葉の広り坐すは 大君ろかも」 ツバキは「日の御子」の花、ツバキは太陽の花。ツバキの語源は縄文語? チュプ・キ(太陽の輝き)→チュパキ→チュバキ→ツバキ
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