鶯谷中学・高等学校 series 高校数学こぼれ話 第 25 話 渡邉泰治 数学科部長 ■アルキメデスはどのようにして放物線の面積を求めたか アルキメデス(Archimedes, B.C. 287-212年 )は古代ギリシアの天才であり、多彩な科学者として世界中に知られ ている。現代でも「アルキメデスの・・・」はたくさん息づいている。彼の数学での主な業績には、円の面積や球の体 積と表面積を始め、数々の図形の求積の証明などがあり、微分積分法が確立される遥か二千年前の発見として讃えられ ている。そのなかに、放物線と直線で囲まれた図形の求積がある。これに関連する問題は、高校数学での図形や方程式 あるいは数列や微分積分などの分野を統合的に学ぶ格好の題材であり、当然、大学入試頻出問題となっている。 この第 25 話ではこの「アルキメデスの求積」を、現代的な数学の手法を用いた高校数学の問題として扱ってみよう。 ● ア ルキ メ デ スは こ の問 題 を どの よ うに 考 えた か y 問題は、図 1 のように放物線と直線が交わっているとき、放物線と直線で囲まれた図 B 0 b, ab 21 形(以下、直線ABによる「放物線の切片」という)の面積 T を求めることである。高 校数学での解法では、放物線を y =f0 x 1 = ax 2 , 直線を y =px + q , 2 つの交点の座標を A 0 a, aa 2 1 , B 0 b, T= Q A 0 a, aa 21 ab 2 1 とするとき、積分を用いて(ただし、 a>0, a<b ) b Q x O 図 1 : 問題の設定 a b 2 3 0px + q- ax 1dx = -a a 0 x - a 10 x -b 1dx = 6 0 b - a 1 … ① a と求められる。アルキメデスの時代では、座標も曲線の方程式も微分積分法もなかった。彼はどのように考えたのか。 彼が証明したことは、図 2 のようにAB の中点 M を通り放物線の軸に平行な直線を引き、それと放物線との交点を C , △ABC(放物線の切片に内接する面積が最大の三角形)の面積を S とするとき、 T= S 4 S …② 3 M B A である。その証明の手法は、放物線の切片と△ABC から作図されるいくつかの三角形を巧 みに天秤にかけて、その釣り合い関係から比を求めるという、特異な方法であった(詳細 T C 図 2 :アルキメデスの求積 は、伊達 文治著:「アルキメデスの数学」、森北出版 を参照されたい)。 B ●アルキメデスの求積を高校数学ではどのように扱うか(part Ⅰ) 現代では、② は ① と△ABC の面積から簡単に求められる。ここでは、あえて積分を用いず、 A 区分求積法で求めていこう。というのは、その解法の過程で放物線の切片に係る複数の美しい 関係(後述の ⑤⑥⑦⑧⑨⑩)が導かれ、興味が尽きないからである。解法の概要は、△ABC の面積に、AC による放物線の切片とBC による放物線の切片にそれぞれ内接する最 大の三角形の面積を加え、これを繰り返して、無限和を求めることである(図 3)。 さて、図 4 のように文字を設定する。ここで、点 A , B における放物線の接線を それぞれ l , m とする。まず、その交点 P 0 の座標を求めよう。y =ax 2 を微分して y - =2 ax を得る。これより、点 A , B における接線の方程式を組み立てると、 8 a+b , aab (⑤)を得る。P 0 を通り y 軸に平行 2 9 な直線と、放物線、直線ABとの交点をそれぞれ C0 , M0 とする。⑤ の x 座標より、 M0 は線分AB の中点である(⑥)から M0 8 m l M0 B 0 b, ab 21 A 0 a, aa 21 n C0 l : y =2aax - aa 2 … ③ m : y =2abx - ab 2 … ④ ③, ④ を連立させて解くと、P 0 C 図 3 :区分求積 法 P0 8 a+b , aab 2 図 4 :partⅠのグラフ a +b aa 2 +ab 2 a+ b a0 a +b 1 2 , , 、また、C0 は である。 2 2 2 4 9 8 9 9 次に、P 0 , C 0 , M 0 の位置関係を調べると、P 0 , M0 の y 座標の相加平均は 1 aa 2 + ab 2 a a +b 1 2 = 0 aab + と 2 2 4 8 9 なり、 C0 の y 座標と一致するので、C0 は 線分 P 0M 0 の中点である(⑦)。ここで、△ABP 0 の面積を S 0 , △ABC 0 の面積を S 1 とすると、⑦ より S1 = 1 S の関係が成り立つ(⑧)。 2 0 さらに、C0 における放物線の接線を n とすると、その傾きは f - 8 a+b a+ b =2a = a0 a+ b 1 である。 一方、直 2 2 9 aa 2- ab 2 =a0 a + b1 であるから、接線 n と直線AB は平行である(⑨)。このことから、△ABC 0 a- b m は放物線の切片に内接する最大の面積をもつ三角形である(⑩)ことがわかる。 線AB の傾きは l B ●アルキメデスの求積を高校数学ではどのように扱うか(part Ⅱ) 図 5 において接線 l, n に着目し、AC0 による放物線の切片を考える。l, n の交点を M1 n A P 1 とし、点 P 1 を通り y 軸に平行な直線と、放物線、線分AC0 、線分AB との交点を N1 それぞれ C1, N1, M 1 とする。また△AC0C 1 の面積を S 2 とする。 C1 P1 ⑥ より N1 は線分AC0 の中点であり、M0C 0 =M 1P 1 , M0C 0SM1P 1 であるから、 N1 は線分 P1M1の中点である。また、⑦ より C 1 は線分 P 1N 1 の中点である。 C 1C0 P 1- 図 5 : partⅡのグラフ ここで、三角形の面積の関係を追うと、S2 = △AN1C 1+ △N1C 0C1 , △AN1C 1 =△N1C 0C 1= さらに、△AM1N1 = M0 1 △AM1N1 である。 2 1 1 1 △AM 0C 0 = S 1 であるから、S2 = △AM1N1 = S1 (⑪)を得る。 4 8 8 一方、図 5 において接線 m, n に着目し、BC 0 による放物線の切片を考える。m, n の交点を P 1- とし、P 1- を通り y 軸に平行な直線と放物線との交点を C1- とし、△BC 1-C0 を S2- とする。上述の AC0 による放物線の切片と同様にして、 1 1 S2- = S 2 = S 1 を得る。これより、五角形AC1C 0C 1-B の面積は、S1 に S2 と S 2- を加え、S1 + S 2+ S 2- =S 1 + S 1 8 4 となり、S1 よりも放物線の切片の面積 T に近づいた。 B S1 次に、C1 , C 1- における放物線の接線を引き、それぞれの区間にできた放物線の切片 に内接する 4 つの三角形の面積 S 3 , S 3-, S3--, S 3--- を考える(図 6)。これらは等しく、 ⑪ より S3 = 1 1 1 S = S であり、合計して 4S 3 = S 1 を五角形に加える。このよ 8 2 64 1 16 A 1 S 8 1 C 1- S3--1 = S 16 1 1 C1 S 1 を加えることになり、次の無限和から ② を得る。 1 C0 1 4n S3-- = S 1 S3 = S1 64 64 1 1 n S 3- = S1 164 1 1 1 4 4 S + S + …= S 1 %lim = S1 T= S 1+ S 1+ 図 6 : 三角形の面積の関係 4 16 1 32 1 1 3 n .* 14 うに繰り返すと、第 n 段階で 8 9 以上、放物線の切片に係る問題の解法をみてきた。このように、この問題は高校数学の異なる分野を統合的に学ぶ格 好の題材であるばかりでなく、様々な問題に派生していく核となる問題でもある。これが大学入試頻出の所以である。 ● ア ルキ メ デ スの 求 積は 現 代 に何 を 投げ か けた か アルキメデスの求積では、彼は三角形を物体として捉え、その釣り合いを巧みに利用したが、このような求積法は現 代では廃れている。一方で、当時の数学者達が議論してきた「曲線の面積を三角形に分割して考える区分求積法や取り 尽くし法」は微分積分法の概念の萌芽でもある。いずれにしても、古代ギリシアにおける輝かしい数学の成果とそこで 残された課題(円積問題など)は、その後二千年の歴史を通して数学を現代の状況へ発展させた原動力となった。
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