総合演習Ⅴ (有機化学系)120515 完全版 (1) 化合物の性質を理解するための一歩 --- 官能基の区別と IUPAC 命名法を中心に --- (2) 化合物の性質を理解するための一歩 --- IUPAC 命名法と立体化学の基礎 --- (3) 有機化学における酸と塩基の考え方を理解するための一歩 --- 酸と塩基の性質と強弱 --- (4) 有機化学における酸と塩基の考え方を理解するための一歩 --- 混成軌道と酸性度の関係 --- (5) 有機反応を理解するための一歩 --- 反応の種類と基礎(求電子反応) --- (6) 有機反応を理解するための一歩 --- 反応の種類と基礎(求核反応) --- 平成24年5月講義用 城西国際大学薬学部 0 覚えておくべき化合物 H H H C C C C C C H H H H (ethylene) H (acetylene) (chloroethene) H H C OH H H H H C C OH H H H H H H C C C OH H H H CH3 H3C C OH CH3 (methanol) (ethanol) (propanol) (tert-butanol) H O C H3C H (formaldehyde) O C H H3C CH3 CH3 (iodoform) (diethyl ether) O C H3C CH3 (acetone) (acetaldehyde) I H C I I H H H H H C C O C C H H H H H H Cl O C H H H H C C C H OH OH OH H H H C C H OH OH (ethylene glycol) (glycerol) O N O H O S O H O OH HO O HNO3 (nitric acid) (acetic acid) CH(CH3)2 H2SO4 (sulfuric acid) OH OH CH3 (benzene) (toluene) (o-xylene) (cumene) (naphthalene) (phenol) (1-naphthol) O NH2 (aniline) HN C O CH3 NH2 (benzamide) (acetanilide) CH2OH C CHO OCH3 C N (benzonitrile) COOH SO3H (anisole) (benzenesulfonic acid) COOH COOH N H N (benzyl alcohol) (benzaldehyde) H COOH H H COOH HOOC (maleic acid) COOH (benzoic acid) COOH OH (phthalic acid) COOH OCOCH3 (pyridine) (pyrrole) COOCH3 OH H (fumaric acid) (salicylic acid) (acetylsalicylic acid) (methyl salicylate) (注)上記化合物のNを含む化合物のうち、塩基性を示すのは、アニリンとピリジンのみである。 ピロールは芳香族性のため、塩基性を示さない。また、アミドとニトリルは中性化合物である。 1 (1) 化合物の性質を理解するための一歩 --- 官能基の区別と IUPAC 命名法を中心に --- 化合物の性質を理解するための一歩 --- 官能基の区別と IUPAC 命名法を中心に --- 1)1つの化合物に1つの IUPAC 名がある! 官能基を1つしか持たない化合物は、その官能基に着目して命名する。 サリチル酸 (慣用名) は2つの官能基をもう。IUPAC で命名するときはどうすればいいのだろうか? ★官能基には優先順位がある。 ★優先順位の高い官能基は接尾語として、優先順位の低い官能基は接頭語置換基となる。 ★優先順位は高い官能基が最小番号となるように命名する。 6 1 5 2 4 3 COOH COOH OH OH フェノール 安息香酸 サリチル酸 2-hydroxybenzoic acid アルコールの接頭語 phenol benzoic acid カルボン酸 > アルコール(フェノール) 2)官能基を確認しよう 官能基が分からないと、命名もできません。まずは、官能基が見分けられるようになりましょう 官能基はヘテロ原子を含むので、まず、ヘテロ原子に着目しよう。 (注)ヘテロ原子とは、C, H 以外の原子の総称である。 カルボニル基を含む官能基は、カルボニル基に直結する原子を比較してみよう。 カルボニル化合物では の部分構造は共通 O C C X X = H� アルデヒド X = CH3� ケトン X = OCH3� エステル X = NH2� アミド Xの部分がヘテロ原子である。 カルボニル基 にヘテロ原子がついたら1つの官能基としてまとめて見る。 その他 X O 官能基名では ないので注意! C C エステル C C OCH3 (ケトンとエーテルではない!) ついでに、 O X NH2 アミド (ケトンとアミンではない!) O O O NH ラクトン (環状エステル) ラクタム (環状アミド) 2 O O C N H イミド C 命名における主官能基群の優先順位と接尾語および接頭語 一般名 官能基の基本構造 高 命名の接尾語 カルボン酸 O ∼ oic acid(∼酸) carboxylic acid C O H ∼ carboxylic acid(∼カルボン酸) スルホン酸 sulfonic acid 接頭語となる場合 carboxy(カルボキシ) O S O H ∼ sulfonic acid(∼スルホン酸) O 主 官 能 基 群 と カルボン酸無水物 O carboxylic acid anhydride C O C ∼ oic anhydride(∼酸無水物) O ∼ ate(∼酸アルキル または ∼酸フェニル)alkoxycarbonyl ∼ carboxylate(∼カルボン酸エステル) (アルコキシカルボニル) エステル ester し O C O C カルボン酸塩化物 O C Cl 優 carboxylic acid chloride 先 アミド 度 amide 母 ニトリル nitrile て の 核 に な アルデヒド aldehyde り や す ケトン ketone い 順 アルコール alcohol 番 O C N ∼ amide(∼アミド) chlorocarbonyl (クロロカルボニル) carbamoyl(カルバモイル) C N ∼ nitrile(∼ニトリル) cyano(シアノ) O ∼ al(∼アール) ∼ carbaldehyde(∼カルバルデヒド) oxo(オキソ) ∼ one(∼オン) oxo(オキソ) ∼ ol(∼オール) hydoroxy(ヒドロキシ) ∼ ol(∼オール) hydoroxy(ヒドロキシ) C H O C C C C O H フェノール phenol 低 ∼ oyl chloride(塩化 ∼イル) OH チオール thiol C S H ∼ thiol(∼チオール) sulfanyl(サルファニル) アミン amine C N ∼ amine(∼アミン) amino(アミノ) alkoxy(アルコキシ) エーテル ether C O C ∼ ether(∼エーテル) スルフィド sulfide C S C ∼ sulfide(∼スルフィド) alkylsulfanyl (アルキルサルファニル) アルケン alkene C C ∼ ene(∼エン) alkenyl(アルケニル) アルキン alkyne C C ∼ yne(∼イン) alkynyl(アルキニル) アルカン alkane C ∼ ane(∼アン) alkyl(アルキル) ★ 副官能基群と呼ばれ、母核にならないものには接頭語しかない。 ハロゲン化合物(fluoro-, chloro-, bromo-, iodo-)やニトロ化合物(nitro-)など。 3 問1 実際の医薬品中に含まれる官能基を見分けてみよう。 c. ベンズブロマロン b. ナプロキセン 抗炎症薬、解熱鎮痛薬 a. 塩酸ピリドキシン ビタミンB6 O ( ) N OH ( ) H3C O Br O ( ) ( ) ( ) OH CH3 CH3 COOH ・ HCl HO 問2 H CH3 痛風治療薬 OH Br ( ) ( ) 以下の化合物のもつ官能基をアルデヒドかケトンかエステルかアミドかアミンから選びなさい。 2つ以上の官能基をもつ場合には、それぞれの官能基に矢印を付けています。 H3C O H3C CH3 N CH3 2.( ) 3.( ) ( ) H O C N H H3C O 1.( ) OH O H H3C ( ) O N C OCH3 4.( ) 5. コカイン 局所麻酔薬 O H ( ) 3)官能基が見分けられるようになったら、化合物の命名法を覚えましょう !! まずは、炭素鎖が基本骨格となる場合を学びましょう。 IUPAC命名法の基本はアルカン(alkane)です。 1. methane 6. hexane 2. ethane 7. heptane 3. propane 8. octane 4. butane 9. nonane 5. pentane 10. decane ★ 炭素鎖の一番長い骨格が母核となる。置換基の位置番号は最小となるように表す。 ★ 二重結合があったらアルケン(alkene), 三重結合があったらアルキン(alkyne). ★ 環状になったら、前にシクロをつける。シクロアルカン(cycloalkane) アルカンからアルケンやアルキンへの変換は H H C H C C H H H 接尾語の-ane → -ene(アルケン)→ -yne(アルキン) H H H H C C C H H H H H H C C CH3 H C C CH3 H シクロプロパン cyclopropane プロパン propane プロペン propene プロピン propyne シクロアルカン アルカン アルケン アルキン アルカンの置換基はアルカンの接尾語の -ane → -yl H H H H C C C H H H イソプロピル基 isopropyl 置換基 H H H H C C C H H H H プロパン propane アルカン 4 H H H C C C H H H H プロピル基 propyl 置換基 IUPAC 命名法で使用が許されているアルキル基の慣用名 CH3 CH2 CH2 CH3 CH2 CH2 CH2 プロピル基 (n-propyl-) CH3 CH2 CH CH3 ブチル基 (n-butyl-) sec-ブチル基 (sec-butyl-) CH3 CH CH2 CH3 CH CH3 H3C C CH3 CH3 CH3 イソプロピル基 (isopropyl-) イソブチル基 (isobutyl-) tert-ブチル基 (tert-butyl-) H2C CH ビニル基 (vinyl-) フェニル基 (phenyl-) H2C CH CH2 CH2 アリル基 (allyl-) ベンジル基 (benzyl-) (注)n- (normal:直鎖の)、sec-(secondary:第二級の)、tert-(tertiary:第三級の)の略である。 アルカンから官能基をもつ化合物への変換は 接尾語の-e → その官能基の接尾語に替える(p.3 の表参照) ★ 官能基を含む炭素鎖の一番長い骨格が母核となる。その他の置換基の位置番号は最小となるように表す。 H H H H H H H C C C OH H H H H C C C H H H H プロパン propane プロパノール propan-1-ol アルカン アルコール H H O H C C C H H H H O H H C C C H H H H H O H C C C OH H H H H H H C C C NH2 H H H プロパナール propanal プロパノン propanone プロパン酸 propanoic acid プロパンアミン propan-1-amine アルデヒド ケトン カルボン酸 アミン つまり、アルカンの命名が出来れば、自由自在! 問3 次の化合物(a)∼(c)の構造式を書きなさい。 (a) (b) CH3 H2C C CHCH2CH3 H3C C (c) O CH2CH2Cl Br CH3 CH3 CH3 [ エステルやアミドの命名と構造式 ] エステルやアミドの命名の前に、これらが以下の2つの化合物の脱水により合成されるのを理解してください。 カルボン酸エステル カルボン酸 + アルコール or フェノール カルボン酸アミド カルボン酸 + アミン or アンモニア 問 4 (1) エステルまたはアミド(1)∼(3)を得るために必要な2つの化合物の構造式を下スペースに書いてみよう。 (2) O O-CH3 (3) H N CH3 O 5 O N H CH3 では、エステルがカルボン酸+アルコールの脱水反応で合成できることを理解したら、命名です。 日本語と英語では、逆の付け方になるので注意が必要です。 日本語名 酸 IUPAC 名 アルコール部分 + アルコール部分 + 酸(エステル接尾語の -ate) 以下の例で確認しましょう。 酢酸エチルは 酢酸(カルボン酸)とエタノール(アルコール)から脱水反応してできたエステル。 酢酸フェニルは酢酸(カルボン酸)とフェノール から脱水反応してできたエステル。 H3C 酢酸 acetic acid(慣用名) ethanoic acid (IUPAC) OH H O CH2CH3 OH H O H3C エタノール O O フェノール −H2O ∼ic acid H3C −H2O OCH2CH3 H3C O ∼ate エステルの接尾語 O O 酢酸エチル ethyl acetate 酢酸フェニル phenyl acetate ethyl ethanoate 問5 phenyl ethanoate エステル a∼ c の構造式を書いてみよう。分子式が全て(C10H12O2)なので、これらは構造異性体の関係です。 (a) 安息香酸プロピル (b) プロピオン酸ベンジル (c) フェニル酢酸エチル 4)命名するときには優先順位の高い官能基を含む骨格が母核になるという決まりがある ( IUPAC ) ★ 官能基を持つ化合物では、基本となる母核に優先順位があって、その母核に置換基がつくかたちで命名する。 ★ 2つ以上の官能基があったときは優先順位の高い方が母核になり、低い方は置換基になる。 立体化学 例) cis(R)- など 通常、 イタリック表示 置換基の結合している 炭素の位置番号 2,4,6- など 必ず、置換基数と 同じ数が必要 置換基の数 (倍数詞) di など tri アルファベット順 には入れない 置換基名 methyl ethyl など アルファベット順 に並べる 接尾語 母核 hexane など -ol など (アルコール) 環状のときは cyclo をつける 最も優先順位の高い 官能基の接尾語 6 (簡単な例) H3C 母核だけ見ると、 CH3 NH2 HO HO HO どっちが置換基? 4 1 1 4 4-hydroxyaniline NH2 水酸基が置換基なら NH2 アミノ基が置換基なら 4-aminophenol フェノールとアミンではフェノールの優先順位が上。 だから、アミノ基が置換基で母核がフェノール。 4-amino-2,3-dimethylphenol 実際には、2位と3位にメチル基がついているので、 置換基はアルファベット順 では、次に化合物の命名をさらに、詳しく見ていきましょう。 a. アセトアミノフェン 解熱鎮痛薬 OH O H3C O O 2.(フェノール) N H N に置換基の付いたacetamideとして命名 N H H3C 1.(アミド) acetamide (母核) NH2 H3C 置換基 官能基の優先順位 4 1.(アミド) > 2.(フェノール) 1 母核 置換基は母核に遠いところから近いところ (矢印の方向)に向かって命名していく 3 2 + acetamide OH 4-hydroxyphenyl- 置換基 母核 N- 置換基 N-(4-hydroxyphenyl)acetamide 接頭語:hydroxy b. エテンザミド 解熱鎮痛薬 O 1 1.(アミド) O 4 NH2 O NH2 benzamide (母核) 2 3 O 1 CH3 2.( エーテル ) 2 NH2 置換基 2-位に置換基の付いたbenzamide 2- 置換基 + benzamide 2-ethoxy官能基の優先順位 1.(アミド) > 2.(エーテル) 2-ethoxybenzamide 母核 置換基 接頭語:alkoxy- 7 c. イブプロフェン 抗炎症薬、解熱鎮痛薬 不斉炭素 H CH3 H3C 3 H CH3 propanoic acid (母核) COOH 2 置換基 1 CH3 この記号は COOH 一番前につける。 + propanoic acid 2- 置換基 (カルボン酸) 及び鏡像異性体 H3C 及び鏡像異性体 この意味は、ここに書かれた構造と、その 母核 1 CH3 2 4 3 (4-isobutylphenyl)- isobutyl- 鏡像異性体の(1:1)混合物(ラセミ体)を 医薬品として使用しているということです。 4-位にiso-ブチル基のついたフェニル基 ラセミ体の記号は (RS)-なので、 2-(4-isobutylphenyl)propanoic acid (RS)-2-(4-isobutylphenyl)propanoic acid d. バクロフェン 骨格筋弛緩薬(中枢性) 不斉炭素 H NH2 2.(アミン) H COOH 4 3 2 COOH 1 butanoic acid (母核) Cl 1.(カルボン酸) Cl 置換基 A NH2 置換基 B 及び鏡像異性体 3-位に置換基 B、4-位に置換基 A がついた butanoic acid ハロゲンは母核にならない NH2 置換基 A 母核 1.(カルボン酸) > 2.(アミン) Cl 4 (4-chlorophenyl)置換基 B 置換基 母核 amino- 1 接頭語:amino- アルファベット(下線部)順に書く それぞれの置換基の位置番号をつけて、 4-amino-3-(4-chlorophenyl)butanoic acid ラセミ体を使用しているから (RS)-4-amino-3-(4-chlorophenyl)butanoic acid e. ハロタン 全身麻酔薬(吸入麻酔)[液体、比重 d 1.87] F F 不斉炭素 H Br 1 2 F Cl 及び鏡像異性体 1) ハロゲンは必ず接頭語、母核にはならない。 2) 炭素数 2 個だから、母核はエタン 3) 小さい位置番号により多くの置換基がついているほうが1-位 1-位に F が3個 ---- 1,1,1-trifluoro4) 2-位には Br と Cl ---- 2-bromo- ラセミ体を使用しているから 2-chloro(RS)-2-bromo-2-chloro-1,1,1-trifluoroethane 8 トラネキサム酸、フェナセチン、バクロフェン、L-メチオニンの IUPAC 名の正誤 問6 H COOH トラネキサム酸 CH3 N H H3C H )に○か を付けよう。 O O H2N ( フェナセチン 解熱鎮痛薬 抗プラスミン薬、止血薬 trans-4-(aminomethyl)cyclohexanecarboxylic acid ( ) (4-acetylamino)phenoxyethane ( ) NH2 H COOH H3C 及び鏡像異性体 COOH S H Cl NH2 L-メチオニン アミノ酸、解毒薬 バクロフェン 骨格筋弛緩薬(中枢性) (S)-2-carboxy-4-(methylsulfanyl)propylamine ( ) (RS)-4-amino-3-(4-chlorophenyl)butanoic acid ( ) 5)[名前から骨格や官能基を想像する] 日本薬局方医薬品(a ‒ d)に共通に含まれる官能基として正しいものは1∼5のうちのどれか。 (a) インドメタシン 1. カルボキシ基 (b) ニトラゼパム (c) エテンザミド 2. フェノール性水酸基 3. アミド基 (d) アセトアミノフェン 4. ニトロ基 5. エーテル結合 では、構造式を見て、骨格と官能基を確認して見ましょう。 (アミド) (アミド) O N H3C H N Cl CH3 O (エーテル) O (ニトロ基) (アミド) O (イミン) H3C CH3 a. インドメタシン 非ステロイド性抗炎症薬 c. エテンザミド 解熱鎮痛消炎薬 b. ニトラゼパム 睡眠導入薬 N H (フェノール) (アミド) (エーテル) (カルボン酸) OH O NH2 N O2N COOH O d. アセトアミノフェン 解熱鎮痛薬 O エチル基(CH2CH3) アミド基(CO-NR2) ニトロ基(NO2) N H アセト--- H3C アセチル基 O アセトアミノ--- インドール H3C CH3 O OH N O O アセトアミノ基 CH3 OH O プラノプラフェン(点眼薬) 非ステロイド性抗炎症薬 ロキソプロフェン 鎮痛消炎薬 (Na塩がロキソニン) 9 N H ---フェン フェニル(ベンゼン環) 6)[シス-トランス異性体の話] 二重結合は回転できないので、シスートランス異性体が存在する。 同様に、シクロアルカンにもシス-トランス異性体が存在する。 トラネキサム酸はトランス体である。 ★ 二重結合のときは(E)-,(Z)-表示がある。 H3C H H C C 問7 (E)-but-2-ene CH3 H C C CH3 cis-but-2-ene (Z)-but-2-ene H 置換基の優先順位を決めて、優位同士が同じ側なら(Z)-、反対側なら(E)優先順位は原子番号が大きい方が優位 (E)-: entgegen (Z)- :zusammen H3C- > H- H3C- > H- H3C trans-but-2-ene 次の記述の正誤を答えなさい。 1)二重結合を有する化合物には、必ずシス-トランス(E, Z) 異性体が存在する。( ) 2)ブテンには 1-ブテンと 2-ブテンの構造異性体が存在し、2-ブテンには E, Z -異性体がある。( ○ ) 問8 日本薬局方医薬品、酢酸レチノール(ビタミン A 酢酸エステル)の正しい化学名はどれか。 ( )には(E)または(Z)を入れて、1∼4 のうちから正しい名前を選んでみよう。 ( H3C CH3 ) CH3 CH3 O O CH3 ( ) ( ) ( CH3 ) 1. (2E,4E,6E,8E)-3,7-dimethyl-9-(2,6,6-trimethylcyclohex-1-en-1-yl)nona-2,4,6,8-tetraen-1-yl acetate 2. (2E,4Z,6E,8Z)-3,7-dimethyl-9-(2,6,6-trimethylcyclohex-1-en-1-yl)nona-2,4,6,8-tetraen-1-yl acetate 3. (2E,4E,6E,8E)-3,7-dimethyl-9-(2,2,6-trimethylcyclohex-1-en-1-yl)nona-2,4,6,8-tetraen-1-yl acetate 4. (1E,3E,5E,7E)-3,7-dimethyl-9-(2,6,6-trimethylcyclohex-1-en-1-yl)nona-1,3,5,7-tetraen-1-yl acetate 考え方:①官能基はエステルのみで、カルボン酸部分が酢酸である。 大きなアルコール部分をもつので、[alkyl acetate] と言う名前になる。 ②アルコール部分の番号は水酸基のついてる炭素が 1-位になります。 ③アルコール部分の主鎖(炭素鎖 9 個)に二重結合が 4 個、9-位の置換基の中に 1 個ある。 (2E,4E,6E,8E)-3,7-dimethylnona-2,4,6,8-tetraen-1-yl 2,6,6-trimethylcyclohex-1-en-1-yl アルコール部分 主鎖の置換基 H3C 実際はアルコール部分 主鎖の9位に置換 9-(2,6,6-trimethylcyclohex-1-en-1-yl) 5 アルコール部分主鎖 CH3 CH3 6 4 3 1 2 9 8 7 6 CH3 5 4 3 2 O 1 O CH3 CH3 酢酸部分 アルコール部分 10 acetate (2) 化合物の性質を理解するための一歩 ----- IUPAC 命名法から立体化学の基礎 ----- 化合物の名前の前に、cis-, trans-, (Z)-, (E)-, (RS)-, (R)-, (S)- などの記号がついていることがある。 まず、異性体の種類について学んでから、これらの立体化学を表す記号について理解しよう。 HO2C HO2C CH3CH2 OH CH3 O CH3 異性体の種類 CO2H 構造異性体 structural isomer 異性体 isomer CO2H 二重結合に起因 (幾何異性体) regioisomer シス、トランス異性 立体異性体 stereoisomer 環状化合物に起因 stereoisomer 光学異性体 optical isomer CH3 CH3 CH3 CH3 CH3 CH3 CH3 CH3 1)キラルな化合物 ---- 不斉炭素について (乳酸を例に) ★乳酸は 4 個の異なる置換基をもつ炭素をもち、これを不斉炭素(キラル中心、キラル炭素)とよぶ。 ★不斉炭素をもつと、分子内に対称面がなくなるため、鏡に写った像(鏡像)とは平面上で重ならなくなる。 → 重ならないということは同じものではない。鏡像体が存在することが光学活性の条件。光学活性体。 ★光に対する性質が異なるので光学異性体ともいう。 → 偏光が光学化合物を通過すると、偏光面が回転する(旋光性をもつという)。 ★ 下図の A と A’((A の鏡像異性体)は同じ置換基をもち、空間的な配置だけが異なっている。 → 鏡像異性体(エナンチオマー)は旋光度の符号が異なるだけで、その他の物理的、化学的性質は同じ。 → 鏡像体間では核磁気共鳴スペクトル(NMR)も質量分析スペクトル(マススペクトル)も同じ。 ★ A と A’(A の鏡像異性体)の等量混合物 (1 : 1)をラセミ体という。ラセミ体は光学不活性体。 H * H3C C 不斉炭素 COOH COOH 立体図(三次元図) で表すと H C CH 3 HO OH lactic acid(乳酸) A 平面構造式 問1 ( COOH H3C 鏡 C H OH A' (Aの鏡像異性体) a∼d は乳酸を三次元図で表したものである。b∼d は a と同じ(絶対配置を持つ)か、a の鏡像異性体かを ) に書きなさい。 a. H H3C COOH C OH (S)-2-hydroxypropanoic acid b. HO HOOC c. CH3 C COOH HO H H ( ) 11 C CH3 ( ) d. HO H CH3 C COOH ( ) 2)絶対配置の表示 A も A (A の鏡像異性体)も乳酸なので、区別するために名前の前に立体化学を表す(R, S)記号をつける。 (R,S)-表示を決めるために、まず置換基に優先順位をつける。 (1)原子番号が大きい方が優位。 (2)直接結合している原子を比較して決まらない時はその次の原子を比べる。 (3)二重結合があったら、同じ原子が2個あると見なす(三重結合なら3個)。 COOH H C CH3 HO O H A > 優先順位を決めたら の置換基が 奥になるように見る COOH C H H H H → → の回り方が 時計回りだったら (R) R : rectus 右 HO A' CH3 の置換基が 奥になるように見る COOH COOH H OH H3C > CH3 COOH H C CH3 HO C C OH > O O H C O C O H3C OH A'(Aの鏡像異性体) (R)-lactic acid 鏡像異性体同士は (R) と (S)の関係 → → の回り方が 反時計回りだったら (S) S : sinister 左 (S)-lactic acid ★1つの不斉炭素に1つの R または S の記号がつく。 ★2個の不斉炭素があったら、それぞれに R または S の記号がつきます。例えば、(1S, 3R)-など。 問2 問3 優先順位の高い順に置換基を並べなさい。 (1) ‒CH3, (2) ‒H, ‒CH2Br, (3) ‒C(CH3)3, ‒OH, ‒CH2Cl, ‒CHO, ‒C6H5, ‒CH2OH ) ( ) ‒C CH ( ) L-methionine の正しい命名の番号を選びなさい。( H3C COOH S H NH2 L-methionine 問4 ( ‒CH3 ) 1. (2S)-2-carboxy-4-(methysulfanyl)propylamine 2. (2R)-2-amino-4-(methylsulfanyl)butanoic acid 3. (2R)-2-carboxy-4-(methylsulfanyl)propylamine 4. (2S)-2-amino-4-(methylsulfanyl)butanoic acid Fischer 投影式で示した下の2つのアミノ酸の正しい命名の番号を選びなさい。 COOH H2N H CH2OH L-serine ( 1 ) COOH H2N H CH2SH L-cysteine ( 4 ) 1. (S)-2-amino-3-hydroxypropionic acid 2. (R)-2-amino-3-hydroxypropionic acid 3. (S)-2-amino-3-sulfanylpropionic acid 4. (R)-2-amino-3-sulfanylpropionic acid 12 以下にℓ-menthol の構造を示す。IUPAC 命名法で表すとき、化学名の前に入れる絶対配置の記号 R, S を書 問5 きなさい。R, S を付けにくい場合は、右図に示したℓ-menthol の安定ないす形構造を使って考えてみよう。(注: 普通、いす形構造式にはくさびは書かない)。 H H OH H H3 C CH3 H H3C CH3 HC HO CH3 CH3 H H (1 ,2 ,5 )-2-isopropyl-5-methylcyclohexanol エピネフリンの化学名は(1R)-1-(3,4-dihydroxyphenyl)-2-(methylamino)ethanol であり、アドレナリンはそ 問6 の別名である。アドレナリンの構造式は次の 1∼6 のうちのどれか。 1. 2. H OH H N H OH CH3 OH 4. 3. H OH H N NH2 CH3 HO OH ) 答 ( HO OH OH H OH H N 5. 6. H OH H OH H N NH2 CH3 OH CH3 HO OH CH3 CH3 HO OH OH 3)Fischer 投影式 当初は糖類の絶対立体配置を表すのに使用した立体図である。Fischer 投影式を立体図に戻せるようにしましょ う。 H C CH3 HO eyes COOH COOH COOH H C H OH Fischer 投影の 見方に直した図 を基準に縦の結合を奥側に、 横の結合が手前に来るように見る。 縦は酸化段階の高い炭素を上に、 酸化段階の低い炭素を下にもってくる。 OH CH3 Fischer 投影式 A 見たままを投影式に直す。 H HO CH3 CH3 立体図 A COOH Fischer 投影式 A' (Aの鏡像異性体) 鏡 Fischer 投影式は横も縦も実線で書く。 4)その他の立体異性体(ジアステレオマーとメソ体) ★ ジアステレオマー:エナンチオマー以外の立体異性体。不斉炭素が2個以上ないと存在しない。 ★ [ 可能な立体異性体の数 ] n 不斉炭素が分子内に n 個あると最高で2 個の立体異性体が存在する(メソ体の例外は後述) 2 不斉炭素が2個なら2 =4 個の立体異性体がある。 3 不斉炭素が3個なら2 =8 個の立体異性体がある。 17 問7 ephedrine [1]の異性体を Fischer 投影式 [2]∼[4] で示した。以下の a)∼c)の記述が○か を答えなさい。 CH3 NHCH3 OH H H CH3 NHCH3 H H HO ephedrine [1] CH3 H H NHCH3 HO [2] CH3 H OH NHCH3 H [3] [4] (a) [1]と[2] および [1]と[4] とはそれぞれ互いに diastereomer の関係にある。( ) (b) [1]と[3] および [2]と[4] とはそれぞれ enantiomer (鏡像異性体)の関係にある。( (c) [2]と[4] の旋光度は、絶対値が等しく、正負の符号は逆である。( ) ) 医薬品として用いられているエフェドリンは(1R,2S)-2-methylamino-1-phenyl-propan-1-ol である。 ( 問8 ) Newman 投影式で示す4種の立体異性体のうち該当するのはどれか。ただし、フェニル基は Ph で表してある。 ★ Newman 投影式のままでは見にくかったら、立体図にしてから R, S を決めてもよい。 ★ 命名法に従って、優先される官能基は、アルコール>アミンであることは問6でやりました。 OH H Ph CH3 H H NHCH3 eyes H H NHCH3 CH3 NHCH3 HO 2 C NHCH3 H C 2 1 H C Ph 問9 H H NHCH3 Ph 4 NHCH3 OH H H NHCH3 H HO H PhCH3 CH3 H C 1 Ph NHCH3 PhCH3 PhCH3 H3C 3 H OH H H H Ph NHCH3 2 H OH H3C CH3 1 HO NHCH3 OH OH PhCH3 CH3 H H H OH Ph 2 C 1 C CH3 H NHCH3 OH HO 2 C NHCH3 1 Ph H C Ph 日本薬局方医薬品カプトプリルの合成中間体[A]に関する以下の記述 a∼c の正誤を答えなさい。 H N O CH3 CH3CSCH2CHCCl ラセミ体 O CO2H (L-proline) NaHCO3 O CH3 CH3 CH3CSCH2CHC O N 数工程 N CO2H CO2H [A] カプトプリル (a) 生成物[A]は単一エナンチオマーである。( (b) 生成物[A]はラセミ混合物である。( HSCH2CHCO ) ) (c) 生成物[A]はジアステレオマー混合物である。( 18 ) レニンアンジオ テンシン系 血圧降下薬 問 10 以下の記述内容の正誤を答えなさい。なお、アキラルとは光学不活性(キラルでない)という意味であるが、 必ずしも不斉炭素(キラル中心)を持っていないということではない。 (a) 2,3-dibromobutane は 2 個の不斉炭素(キラル中心)を持ち、4個の光学活性体が存在する( (b) (2S,3S)-dibromobutane はアキラルである( ) ) (c) (2S,3S)-dibromobutane と(2R,3R)-dibromobutane は、ジアステレオマーの関係にある( ) ★ メソ体: 不斉炭素を持つが、分子内に対称面を持つために光学不活性な化合物(鏡像体が存在しない)。 光学活性 不斉炭素 * * H3C-CH-CH-CH 3 4個の立体異性体が 考えられ、Fischer 投影式で書くと CH3 Br H R Br Br H OH HO OH HO H H OH H HO H キシリトール Br H H Br Br R Br Br R H S H CH3 CH3 3 メソ体 4 CH3 2 エナンチオマー (鏡像異性体) 4 を180 右向きに回転すると 3と同じ構造になるから同一化合物 CH2OH OH H OH CH2OH (a)キシリトールは光学活性である ( ) (b)キシリトールは不斉炭素を持たない ( ) 光学活性な化合物に○をつけなさい。Fischer 投影式で示してある。 CH2COOH HO COOH CH2COOH a( ) 問 13 Br H Br S CH3 CH3 S 以下の記述内容(a)(b)は○か か。キシリトール自体で分かりにくかったら右に示した Fischer 投影式を見て。 対称面 問 12 H S CH3 1 結局、2個の光学活性体と1個の光学不活性体。 一組のラセミ体と1個のメソ体。 光学不活性 CH3 H R 平面構造式 問 11 光学活性 COOH COOH H HO COOH OH H OH HO H H OH H COOH COOH b( ) COOH H H H OH H H COOH c( ) COOH d( ) e( ) 以下の化合物中に含まれる不斉炭素の数と存在する光学活性体数を書きなさい。 O COCH3 CH CHCH3 OH N CH3 CH3 CH3 b. キラル炭素の数 ( ) 光学活性体の数 ( ) 光学活性体の数 ( ) CH2NH2 H3C CH3 O a. キラル炭素の数 ( ) H HOOC O C NCH3 H O d. キラル炭素の数 ( ) c. キラル炭素の数 ( ) 光学活性体の数 ( ) 光学活性体の数 ( ) OH HO OH H H e. キラル炭素の数 ( ) 光学活性体の数 ( ) H3C CH CH3 CH3 f. キラル炭素の数 ( ) 光学活性体の数 ( ) FClHC-CF2-O-CHF2 g. キラル炭素の数 ( ) 光学活性体の数 ( ) 19 HOOC CH CH COOH Cl Cl h. キラル炭素の数 ( ) 光学活性体の数 ( ) 5)反応生成物と立体化学の関係(付加反応を例に) (1)シン付加の場合 四酸化オスミウム(OsO4)のアルケンへの付加 (シン付加) ---- 1,2-ジオール体が生成 [cis-2-butene と OsO4 の反応] a route H3C H C C O O OsO4 CH3 H H3C H b route NaHSO3 H2O Os O O C C H CH3 C H H3C H C メソ体が生成する O O NaHSO3 H2O O C 3 C CH3 H (2S,3R)-butane-2,3-diol a route オスメート中間体 cis-2-butene 2 H3C H CH3 OH HO H3C 2 H C CH3 C H 3 OH HO Os O (2R,3S)-butane-2,3-diol b route オスメート中間体 (S,R)-ジオールと(R,S)-ジオールが 1:1 で生成するが、同一物。 分子内に対称面があるからメソ体。光学不活性。 [trans-2-butene と OsO4 の反応] a route H3C H C C O H OsO4 CH3 b route O NaHSO3 H2O Os O O C C OH OH H3C H H H3C CH3 H a route オスメート中間体 C C H CH3 (2S,3S)-butane-2,3-diol trans-2-butene ラセミ体が生成する H H3C H C C O O O CH3 Os O b route オスメート中間体 NaHSO3 H2O H3C H C 性 体 H C CH3 OH OH (2R,3R)-butane-2,3-diol 必ず、(S,S)-体と(R,R)-体が 1:1 で生成。両化合物の真中に鏡を置くと、鏡像の関係になっている。 両者を重ね合わせようとしても、重ならないから、鏡像異性体(エナンチオマー)の関係。 鏡像異性体の(S,S)-体だけなら、光学活性体。 鏡像異性体の(R,R)-体だけなら、光学活性体。 鏡像異性体(エナンチオマー)の等量混合物 (1:1)であるラセミ体は光学不活性。 ★対称構造を持つアルケンの反応のとき。 → シス体へのシン付加では必ずメソ体が生成し、トランス体へのシン付加では必ずラセミ体が生成。 ★ 非対称アルケンへのシン付加では、シス体からもトランス体からも必ずラセミ体が生成。 20 鏡 像 異 同 一 化 合 物 (2)アンチ付加の場合 臭素(Br2)のアルケンへの付加 (アンチ付加) ---- 1,2-ジブロモ体が生成 [cis-2-butene への臭素の付加] 鏡像異性体(エナンチオマー) H3C H C C Br+ CH3 H cis-2-butene + Br b CHCl3 or CCl4 H3C H C a C b route Brー CH3 H Br H3C H a route Brー + Br2 C CH3 H C H3C H C Br Br a route (S,S) - 体 ブロモニウムイオン中間体 Br C CH3 H b route (R,R) - 体 ラセミ体が生成する 必ず、(S,S)-体と(R,R)-体が1:1で生成。 2つの生成物は鏡像の関係なので、鏡像異性体(エナンチオマー)の関係。 [trans-2-butene への臭素の付加] 同一物(メソ体) H3C C C CH3 H trans-2-butene Br b Br+ H + H3C H CHCl3 or CCl4 C a C Brー H CH3 H3C H a route b route Brー + Br2 ブロモニウムイオン中間体 メソ体が生成する Br H3C Br CH3 H 2 3 C C C H Br Br CH3 2 3 C H a route (2S,3R) - 体 b route (2R,3S) - 体 (S,R)-ジオールと(R,S)-ジオールが 1:1 で生成しますが、同一物です。 分子内に対称面があるからメソ体。光学不活性です。 ★対称構造を持つアルケンの反応のとき。 → シス体へのアンチ付加では必ずラセミ体が生成し、トランス体へのアンチ付加では必ずメソ体が生成。 ★非対称アルケンへのアンチ付加では、シス体からもトランス体からも必ずラセミ体が生成。 アンチ付加 ラセミ体が生成 R C C H R シン付加 メソ体が生成 H 対称 cis -アルケン アンチ付加 メソ体が生成 R C C H H シン付加 ラセミ体が生成 R 対称 trans -アルケン アンチ付加 ラセミ体が生成 R C C H R' R' 非対称アルケン 21 シン付加 ラセミ体が生成 ★ 付加反応の反応機構をしっかり抑えて、立体化学を考えてみよう !! 問 14 次の記述に〇か をつけなさい。 1)臭素を用いるアルケンの臭素化反応では、ブロモニウムイオン中間体が生成する。( ) 2)オレフィン(アルケン)への臭素の付加反応はトランス(アンチ)付加で進行する。cis-2-butene に臭素を反応さ せた結果、ラセミ体のみが生成した。( ) 3)オレフィン(アルケン)への臭素の付加反応はトランス(アンチ)付加で進行する。trans-2-butene に臭素を 反応させた結果、1種のメソ体のみが生成した。( ) 4)オレフィン(アルケン)への KMnO4 の付加反応はアンチ付加で進行する。( ) * KMnO4 のアルケンへの付加の反応機構は OsO4 と同様で、生成物はジオール。 5)cyclohexene に四酸化オスミウムを反応させたとき、主生成物は分離可能な一対の鏡像異性体となる。( 6)cyclohexene に臭素を反応させたとき、主生成物は分離可能な一対の鏡像異性体となる。( 22 ) ) (3) 有機化学における酸と塩基の考え方を理解するための一歩 --- 酸と塩基の性質と強弱 --- 生体内の反応を考える上で、酸の強弱は大切な概念である。ここでは、以下の5項目について、酸と塩基についての 考え方をしっかりと理解しよう。 1)酸と塩基の定義 2)酸の強弱 --- 水を中心に、水より強い酸(強酸∼弱酸)、水より弱い酸(アルカリ)の定性的な尺度を整理する。 3)酸性度に影響を与える置換基の効果 4)塩基性度の強弱(酸の強さと塩基の強さは背中合わせ) 5)混成軌道と酸の強弱 1)酸と塩基の定義 (a)Arrhenius(アレニウス)の酸と塩基の定義 + 酸とは水に溶けてプロトン(H )を生じるもの。 (例)HCl → H + ー + Cl 塩基とは水に溶けて水酸化物イオン(OH )を生じるもの。(例)NaOH → Na + ー + OH ー (b)Brönsted-Lowry (ブレンステッド・ローリー)の酸と塩基の定義(こちらが大切!) + 酸とはプロトン(H )を放出できるもの。プロトン供与体。 + 塩基とは相手からプロトン(H )を受け取る能力を持つもの。プロトン受容体(非共有電子対をもつ)。 + 酸・塩基の強さは H を供与しやすいか、受容しやすいかによって決まる。 A H + A- B 塩基 酸 H + 共役塩基 B+ 共役酸 酸(AH)からH+(プロトン)がとれたものが共役塩基(A) 塩基(B)にH+(プロトン)がついたものが共役酸(HB+) (注)共役塩基および共役酸の電荷は元の形による。 例:酸(AH+)の共役塩基はA、塩基(B)の共役酸はHB 問1 共役酸と共役塩基に関する以下の記述の正誤を答えよ。 ー (a) CH3COOH は CH3COO の共役酸( ー (c) CH3COO は CH3COOH の共役塩基( 問2 a∼f に該当するものを( (a) H2O の共役酸( (b) CH3COOH は CH3COO の共役塩基( ) ー (d) CH3COO は CH3COOH の共役酸( ) ) )に化学式で書いてみよう。 ) (d) HCl の共役塩基( ー ) ) ー (b) OH の共役酸( ) (c) NH3 の共役塩基( (e) NH3 の共役酸( ) (f) H2O の共役塩基( 2)酸の強弱 酸の強さ 塩酸 > カルボン酸 > 炭酸 > フェノール > 水 > アミン HCl > R-COOH > H2CO3 > 23 OH > H2O > R-NH2 ) ) これらの関係から、フェノールの中和反応の例を見てみよう。 a. フェノールは水酸化ナトリウム水溶液に溶ける(反応する)。 OH ONa + NaOH + H2O + フェノール > 水であるから、フェノールの方がH (プロトン)を放出しやすい ↓ フェノールの方が塩になりやすい(イオンになりやすい) b. フェノールは炭酸水素ナトリウム水溶液に溶けない(反応しない)。 OH ONa + NaHCO3 + H2CO3 + 炭酸 > フェノールであるから、炭酸の方がH (プロトン)を放出しやすい ↓ 炭酸の方が塩になりやすい(イオンになりやすい) [ Side Menu ] 抗炎症薬には酸性医薬品が多い。 H CH3 CH3 H CH3 COOH H3C H3CO COOH COOH N H3CO イブプロフェン 抗炎症薬、解熱鎮痛薬 mp 75-77˚C CH3 O ナプロキセン 抗炎症薬、解熱鎮痛薬 mp 154-158˚C インドメタシン 抗炎症薬、解熱鎮痛薬 mp 155-162˚C Cl 3)その塩の水溶液は酸性、中性、塩基性? 酸と塩基が反応したら塩ができて、それが水溶液ではイオン化して溶ける。 塩がどのような強さの酸と塩基からできているのかを考えてみよう。 強酸と強塩基の塩は、水に溶けて中性を示す。 強酸と弱塩基の塩は、水に溶けて弱酸性を示す。 弱酸と強塩基の塩は、水に溶けて弱塩基性を示す 問3 次の塩のうち、水溶液は酸性、中性、塩基性のどれかを答えなさい。 (a) NH4Cl ( (d) Na2SO4 ( ) (b) NaCl ( ) (e) Na2CO3 ( ) ) (c) NaHCO3 ( ) (f) CH3COONa ( ) 以下の医薬品はいずれも固体であるが、水に溶けて弱塩基性を示す。強塩基と弱酸の組合せであることを確認しよう。 COONa CH3 COONa Cl NH COONa Cl H3C CH3 O ロキソプロフェンナトリウム 鎮痛性消炎剤 ジクロフェナクナトリウム 抗炎症剤、解熱鎮痛薬 24 バルプロ酸ナトリウム 抗てんかん薬 4)共役塩基 それぞれの酸の共役塩基を( )に化学式で書いてみよう。 HCl(塩酸) > PhーCOOH(安息香酸) > H2CO3(炭酸) > PhーOH(フェノール) > H2O(水)酸としての順 ( ) ( ) ( ) ( ) ( )(上の共役塩基) 共役塩基は塩基です。塩基としての強さの順はどうなる? 強酸の共役塩基は弱塩基 HCl(強酸) Cl (弱塩基) 弱酸の共役塩基は強塩基 H2O(弱酸) OH (強塩基) 共役塩基の塩基としての強さは、共役酸(もとの酸)の強さとは反対になるのが分かる。 問4 Cl , Ph-COO , HCO3 , Ph-O , OH を塩基として強い順に並べなさい。 [ヒント]このままでは分からない人は、それぞれの共役酸を書いて、酸性の強い順に並べてみて。共役塩基の強さ の順番は共役酸の強さの順番と反対になることを思い出して。 5)酸の強さ(=塩基の弱さ) 以下の表に、H2O より弱い酸を含めて 11 種の化合物を酸として強い順に並べた。絶対覚えて !! 左から右に向かって酸性が弱くなる。 HCl 塩酸 H3C O C HO C O OH OH OH H2O CH3CH2OH HC CH 酢酸 (カルボン酸) 炭酸 フェノール 水 4.8 7.1 10 15.7 pKa -7 水より強い酸 水に溶けたとき酸性を示す(酸性物質) エタノール (アルコール) 16 H2 NH3 H2C CH2 CH3CH3 アセチレン 水素 アンモニア エチレン エタン (アルケン) (アルカン) (アルキン) 25 35 35 44 50 水より弱い酸 水に溶けても酸性は示さない。 水に溶けないものも多い( はよく溶ける)。 以下は上の表と同じであるが、反応の矢印の上が共役酸、下が共役塩基の関係となっている。 酸の強さ HCl Clー H3C H3C O C O C HO OH HO Oー C O C O OH Oー OH Oー H2O CH3CH2OH HC CH H2 NH3 HOー CH3CH2Oー HC Cー Hー NH2ー H2C CHー CH3CH2ー H2C CH2 塩基の強さ 25 CH3CH3 問5 CH3CH3, CH3COOH, H2O, NH3, H2SO4 について、共役塩基の塩基性が強い順に並べなさい。 (A)酸性の強さが H2O > NH3 > CH4 になるのは何故? 電気陰性度の大きい原子についている水素の方がプロトンとして放出され易い。 酸性度は H2O > NH3 > CH4 H2 O → H + + NH3 → H CH4 → H + ー + ー + OH 同じ周期(第二周期)の元素の水素化物の NH2 酸性度は電気陰性度で考える。 ー + 電気陰性度は O > N > C である。 CH3 ★ アンモニア(アミン)が塩基性と覚えていると、メタンより酸性が弱いと間違えやすいので注意する。 [強酸] HClO4 > H2SO4 過塩素酸 > 硫酸 O HO S OH HCl > PhSO3H 塩化水素 > HNO3 ベンゼンスルホン酸 硝酸 O O O 硫酸の水酸基ひとつをベンゼン環または アルキル基に変えたのがスルホン酸。 H3C S OH S OH O O これらは強酸である。 ベンゼンスルホン酸 硫酸 メタンスルホン酸 ★ ハロゲン化水素酸の酸性度の順は、HI > HBr > HCl > HF。HF だけは弱酸。 ★ 同一周期の元素を較べるときに使う電気陰性度の考え方ではない。次の(1)または(2)の考え方。 (1)共役塩基の安定性 I ー > Br ー > Cl ー >F ー (非局在化=軌道の広がりを考える) + (2)結合の切れやすさ(原子核からの結合距離が長いとH が放出されやすい)。 問6 以下の記述の正誤を答えなさい。 1)フッ素の電気陰性度はヨウ素より大きいので、HF のほうが HI より強酸である。( ) 2)H2O と H2S では、第二周期の酸素原子の電気陰性度が第三周期の硫黄原子より大きいから、水のほうが硫化水 素より酸性が強い。( ) 3)炭素、窒素、酸素の水素化物の酸性度は、強い順に、アンモニア>水>メタンである。( (B)脂肪族カルボン酸 ★ 酢酸を基準にして、構造の変化を捉えるのが分かりやすい。 NO2 C N C=O F, Cl, Br, I OH ニトロ基 シアノ基 カルボニル基 ハロゲン 水酸基など アルキル基など 電子求引性基の結合 酸性は強くなる 電子供与性基の結合 酸性は弱くなる。 誘起効果(inductive effect)により単結合(σ結合)を介して電子のやりとりをする。 26 ) ★電子求引性基のハロゲンが増えるほど電子の偏りが大きくなるので、酸性は強くなる。 酸性の強さ Cl Cl Cl C C O H Cl O Cl H O トリクロロ酢酸 Cl H O 酢酸 H Cl C C O H H C C O H H C C O H H O H O Cl O H C C O H クロロ酢酸 Cl C C O H H C C O H H O ジクロロ酢酸 Cl Cl H C C O H Cl H O ★ ハロゲン以外の置換基での電子求引基が結合した例 酸性の強さ O N CH2 C O H O N C CH2 C O H Cl O O ニトロ酢酸 シアノ酢酸 CH2 C O H H3CO CH2 C O H CH3 C O H O O O メトキシ酢酸 クロロ酢酸 酢酸 HO CH2 C O H は誘起効果による電子の偏りを示す O ヒドロキシ酢酸 酢酸にメトキシ基がつくと、酸素の電気陰性度は水素より大きいため、酸素の方に電子が引かれてカルボキシル基の 水素は放出され易くなる。水酸基もメトキシ基と同様に考えればよい。ハロゲンは酸素より電気陰性度が大きいのでク ロロ酢酸の酸性はまた少し強くなる。シアノ基はハロゲンより電子求引性が強く、この中ではニトロ基が最も電子求引 性が強いので、酸性は一番強くなる。 問7 どちらが強い酸か不等号を付けてみよう。 (a) 問8 Cl Cl C C O H Cl O F F C C O H F O トリクロロ酢酸 トリフルオロ酢酸 H H H C C C O H Br H O 3-ブロモプロピオン酸 H H H C C C O H H Br O 2-ブロモプロピオン酸 ギ酸と酢酸ではどちらの酸性が強いか答えなさい。(ヒント:アルキル基は電子供与性基である) H C O H O ギ酸 問9 (b) H H C C O H H O 酢酸 酢酸と 2-メチルプロピオン酸と 2,2-ジメチルプロピオン酸を酸性の強い順に並べなさい。 H H C C O H H O 酢酸 CH3 H3C C C O H H O CH3 H3C C C O H CH3 O 2-メチルプロピオン酸 2,2-ジメチルプロピオン酸 27 問 10 以下の記述の正誤を答えなさい。 (a) モノクロロ酢酸は酢酸よりも強い酸である。( ) (b) トリクロロ酢酸はモノクロロ酢酸よりも強い酸である。( ) (c) トリクロロ酢酸はトリフルオロ酢酸よりも強い酸である。( ) (d) 2-クロロプロピオン酸は 3-クロロプロピオン酸よりも強い酸である。( (e) CH3COOH のほうが(CH3)3CCOOH より酸性が強い。( 問 11 ) ) A∼C を酸性の強い順番に並べなさい。 (1) (2) H2CO3 H2O A B CH3CH2OH C O CH3CCH2COOH OH CH3CHCH2COOH CH3CH2CH2COOH A B C OH (3) CF3COOH A CH3CHCOOH (CH3)3CCOOH B C (C)芳香族カルボン酸 ★ 安息香酸のベンゼン環に置換基がついたら、安息香酸を基準に考える。 ★ 脂肪族カルボン酸の基準にした酢酸と、芳香族カルボン酸で基準とする安息香酸の酸としての強さはほぼ同じ。 ★ 基本的には芳香族化合物でも酢酸(脂肪族化合物)に置換基がつく場合と同様に、ベンゼン環に電子求引性基が つけば酸性は強くなり、電子供与性基がつけば酸性は弱くなる。 ★ 芳香族化合物はπ結合を持つため、共鳴が可能であり、誘起効果の他に共鳴効果を考える必要がある。 芳香族化合物では、 共鳴効果 > 誘起効果 酸性を示す置換基(COOH, OHなど)に対して、 オルト位 パラ位 置換基 のときのみ オルト位 メタ体 パラ位 置換基 O 全て O + C C H+ O O H O O 電子求引性基 効果の大きさ C C O H O H 酸性の強さ ベンゼン環についた置換基 電子求引性基 酸性は強くなる 電子供与性基 酸性は弱くなる 28 O 電子供与性基 C O H アルキル基は電子供与性 (誘起効果)なので、 酸性は弱くなる O N O N C O H3C C O O C C OH O H Cl C OH 共役系ではメトキシ基は、 共鳴効果>誘起効果 OH C C O OH O CH3 CH3 O C OH O C OH O OH 炭素から酸素への電子求引 性の誘起効果があっても、 酸性は弱くなる 酸性の強さ ★ メトキシ安息香酸の場合 誘起効果 共鳴効果 < OCH3 OCH3 OCH3 OCH3 OCH3 OCH3 < C O C OH O C OH メトキシ基による誘起効果は 芳香環上の電子密度を減少 させるので酸性を強める。 O C OH O C OH O C OH O OH メトキシ基による共鳴効果は芳香環上の電子密度を増加させるので酸性を弱める。 共鳴効果は酸性を示す置換基のオルト位またはパラ位で効果が大きい。 メタ位についている場合は共鳴効果は無視できるほど小さい。 だから、酸性の強い順に並べると上に述べた順になります。 問 12 以下のカルボン酸 A∼C を酸性の強い順に並べなさい。 CH2CH3 Cl COCH3 COOH COOH COOH A B C (D)フェノール類 フェノールの場合も誘起効果と共鳴効果の両方を考える必要があるので、考え方は芳香族カルボン酸と同じである。 O N O OH N C OH H3C O CH3 C Cl H CH3 O OH OH OH OH OH 酸性の強さ 29 問 13 以下のフェノール (1)∼(6)について以下の問いに答えなさい。 (a) フェノール (1)∼(3)を酸性の強い順に並べなさい。 (b) フェノール (4)∼(6)を酸性の強い順に並べなさい。 NO2 NO2 NO2 OH OH OH (1) (2) (3) O2N NO2 問 14 OCH3 NO2 Cl C N OH OH OH (4) (5) (6) 正しい記述には○を、誤っている記述には をつけて正しく直そう。 (a) phenol は酸性物質であり、炭酸水素ナトリウムと容易に塩を形成する。( (b) phenol は炭酸より強い酸である。( (c) phenol は水より強い酸である。( ) ) ) (d) 炭酸は安息香酸より酸性が強く、安息香酸は phenol より酸性が強い。( (e) p-methoxyphenol は p-nitrophenol よりも酸性が強い。( ) ) (f) 酸性度の強い順に並べると、p-メチルフェノ-ル、p-クロロフェノ-ル、p-ニトロ安息香酸、シクロヘキサノールにな る。( ) 6)塩基性の強さ(アミン誘導体) アミンは弱塩基性を示す。 + 「塩基性を示す」=「窒素原子上の非共有電子対が H (プロトン)を受け取る」ということ。 塩基性が強いということは、窒素原子上の電子密度が大きいということ。塩基性度の強弱は窒素原子上の電子密度の 大きさを比較する。また、窒素原子をもつ全ての化合物が塩基性を示すわけではない(後述)。 塩基性が強い = pKaが大きい 塩基性の強さ B + H = 非共有電子対の電子密度が大きい BH 共役酸 塩基 = 電子が局在化 ★ 脂肪族アミンと芳香族アミンでは、塩基性が異なる。まずは、脂肪族と芳香族の区別をしっかりと。 問 15 脂肪族アミンと芳香族アミン、アミドの区別をしなさい。 c. b. a. H N CH3 NH2 N e. d. CH3 NH2 CH3 NH2 O ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ★ 窒素が直接ベンゼン環についていたら芳香族アミン。窒素にアシル基 (RーCOー:R=Ar , R , H ) が結合していた らアミンではなく、カルボン酸アミドとなる。 30 は中性を示す 塩基性の強さ 脂肪族アミン > 芳香族アミン > アミド > シアノ基 > ニトロ基 R N O C N Ar N O C N N O R:アルキル基 Ar:芳香環 sp混成軌道上の電子は 強く原子核に引きつけ られて塩基性はない 非共有電子対が無い (A)まず、脂肪族と芳香族アミンの塩基性の違いについて。アミドとの違いは? 脂肪族アミン 非共有電子対が窒素原子上 に集まっている(局在化) N H H H + N H H + H (共鳴なし) 芳香族アミン 非共有電子対が窒素原子上 だけではなく、分子全体に 広がっている(非局在化) N H H H + N H H + H N上の非共有電子対は アニリン全体に 非局在化している (共鳴あり) アニリンはたくさんの共鳴構造式が書ける。 NH2 O C N NH2 NH2 NH2 NH2 アミドは中性 O C N N上の非共有電子対が消失 (塩基性を示さない) ★ 芳香族性に注意しよう 窒素原子が環内に含まれる場合には、芳香族性を示すかどうかに注意しよう。5員環と6員環含窒素化合物である、 ピリジン(塩基性)とピロール(塩基性ではない!)を比べてみよう。 他にも、インドールは分子内にピロールが含まれていると考えれば、塩基性を示さないことが分かる。一方、プリ ンがピリミジンとイミダゾールからなると考えると、4つの窒素のうち1つだけが塩基性を示さないことになる。 これはイミダゾールに含まれる2つの窒素原子のうち、ひとつが芳香族性に関与し、残りのもう一つの窒素原子は 芳香族生に関与しないので、塩基性を示すためである。 芳香族性を示すための条件 (1)平面の環状構造を持つ (2)共役構造を持つ (3)(4n+2)π電子をもつ。ここでnは整数 31 非共有電子対あり 非共有電子対が芳香族性に使用される 塩基性を示す 塩基性を示さない 4 3 4 2 5 6 1 3 5 6 N 2 1N 6π電子 ピリジン (芳香族) (pyridine) 4 3 5 2 1N H 3 4 5 2 1 N H 6π電子 ピロール (pyrrole) (芳香族) 4 3 10π電子 5 (芳香族) 6 + 2 N 1 7 H インドール (indole) 塩基性を示さない 7 1 N 10π電子 (芳香族) 2 6 ベンゼン (brnzene) 3 3 N N 5 3N 太字のNは塩基性を示す N H ピロール (pyrrole) 2 4N H プリン (purine) 4 1N 5 + 6 ピリミジン (pyrimidine) 4 5 3 4 N 2 塩基性を示す 5 6π電子 1 N (芳香族) H N 2 1N H 塩基性を示さない イミダゾール (imidazole) この窒素のみ塩基性を示さない 問 16 リドカイン、ピンドロールは塩基性医薬品で、いずれも水には溶けにくく、酸には溶ける。どちらも窒素原子 を二種類もつが、酸性溶液中でリドカインとピンドロールでは①と②のどちらの窒素がプロトン化されるか。 CH3 H N N HN CH3 O O H OH H N CH3 CH3 CH3 CH3 ピンドロール (交感神経β受容体遮断薬) リドカイン(局所麻酔薬) [ Side Menu ] 以下の左から三つの医薬品はいずれも水に溶けて弱酸性を示す(強酸+弱塩基の塩)。塩酸塩でなく、 マレイン酸塩でも塩なので水には溶ける。 H N CH3 H O HO HCl O Cl H OH H N NH H H OH 3H2O 塩酸モルヒネ 鎮痛薬(麻薬) CH3 HCl CH3 HCl OH 及び鏡像異性体 及び鏡像異性体 塩酸ケタミン 全身麻酔薬 塩酸エチレフリン 交感神経興奮薬、昇圧薬 32 CH3 CH3 N CH3 N O CH3 H COOH COOH S マレイン酸レボメプロマジン 抗精神薬 今までの内容から窒素を含む有機化合物 A∼E の塩基性を比較して、塩基性の強い順に並べてみよう。 NH2 NH2 NH2 OCH3 NO2 D E N H N H B A C まず、A∼E の中ではAだけが脂肪族アミンで、その他は芳香族アミンである。したがって、Aが最も塩基性が高くな る。また、Bは芳香族性を示すために窒素原子の非共有電子対が使われ、塩基性を示さない。ここまでで、 A > C、D、E > B とわかる。では、C∼Eの塩基性の強さの順番を考えてみよう。 ★ ベンゼン環に置換基がついたら H+ 置換基 N H H H N H H 置換基 電子求引性基 電子供与性基 NH2 NH2 NH2 塩基性の強さ ベンゼン環についた置換基 電子供与性基 塩基性は強くなる 電子求引性基 塩基性は強くなる アルキル基は電子供与性 (誘起効果)なので、 共役系ではメトキシ基は、 共鳴効果>誘起効果 塩基性は強くなる O CH3 NH2 CH3 H Cl NH2 NH2 NH2 H3C O N O O C C N NH2 NH2 NH2 塩基性の強さ 以上の置換基の関係は、酸の強さのときと逆になっていることに気づいたかな? 再度確認してみよう。 O O 電子求引性基 C C O H O H 酸性の強さ ベンゼン環についた置換基が 電子求引性基ならば、電子を引き寄せるので酸性は強くなり、 電子供与性基ならば、電子を供与するので酸性は弱くなる。 33 O 電子供与性基 C O H 問 17 塩基性の最も強い化合物はどれか。( 1 NH2 問 18 3 N H N 4 5 CH3CH2NH2 O H3C C NH2 塩基性の最も強い化合物はどれか。(4) 1. アニリン 問 19 2 ) 2. インドール 3. ピリジン 4. ピロリジン 5.アンモニア 今までの内容を整理して、○か をつけてみよう。 (a) 塩基性の強い順に並べると、pyridine, aniline, indole, dimethylamine になる。( ) 3 (b) piperidine (hexahydropyridine) 窒素の非共有電子対(lone pair)は sp 混成軌道を占めるのに対して、pyridine 2 窒素の非共有電子対は sp 混成軌道を占めている。( ) (c) 塩基性度は pyridine の方が piperidine よりも高い。( (d) p-nitroaniline は aniline よりも強い塩基である。( ) ) (f) ピロ-ルは、非共有電子対が sp 混成軌道に収容され塩基性はない。( ) 2 (g) ピリジンは、非共有電子対が sp 混成軌道に収容され弱い塩基性を示す。( ) 3 (h) エチルアミンは、非共有電子対が sp 混成軌道に収容され、強い塩基性を示す。( + (i) CH3NH3 のほうが pyridinium ion (ピリジンの共役酸)より酸性が強い。( (j) ) aniline, pyrrolidine, pyridine を塩基性の大きい順番に並べると、pyridine, pyrrolidine, aniline である。( (k) 4-nitrobenzoic acid の pKa は benzoic acid より小さい。( (l) ) 酸性度の大きさを比較すると次のようになる。( CH2(COCH3) 2 問 20 > H3CCOCH2COOCH3 ) )[ヒント]共鳴のしやすさを考えよう。 > H3CCOCH3 次の酸・塩基反応が進行するかどうか答えなさい。また、進行する場合は反応式を完成させなさい。 (1) CH3CH2OH (2) CH3CH2Li + (3) NH3 + (4) HC CH + + NaH H2 O → → CH3CH2ONa NaNH2 → → [ヒント](4)はアルキンの炭素を増やす反応で使う定番の反応条件(塩基)である。 34 ) 問 21 以下の3種類の化合物の分離操作で、( )に当てはまる化合物をその層に存在する形で書きなさい。電荷が ある場合は正しく書くこと。なお、その層に有機化合物が何も存在しない場合は、無しと書きなさい。 OH COOH NH2 H3C benzoic acid p-cresol in CH3COOC2H5 酢酸エチル aniline 酢酸エチル層 水層 NaHCO3水溶液で抽出 NaHCO3水溶液 酢酸エチル層 H COONa NH2 H2C HClで酸性とした後に、 酢酸エチルで抽出 HCl 溶液 NaCl NaOH水溶液で抽出 NaOH水溶液 酢酸エチル層 酢酸エチル層 ONa COOH 無し NH2 H3C HClで酸性とした後に、 酢酸エチルで抽出 参考 0.1mol/L NaOH pH 13.0 0.1mol/L NH3aq. pH11.1 0.1mol/L NaHCO3 pH 8.3 0.1mol/L CH3COONa pH 8.87 HCl 溶液 酢酸エチル層 OH NaCl 無し 35 H3C (4) 有機化学における酸と塩基の考え方を理解するための一歩 --- 混成軌道と酸性度の関係 --- ★ 炭化水素の酸の強さは、アルキン>アルケン>アルカンである。何故そうなるかについて混成軌道から考えてみよう。 1)原子と混成軌道 混成軌道に入る前に、簡単に、原子について復習しよう。 原子の内部構造は、中心に原子核(正の電荷を帯びている)があり、その周りに電子(負の電荷を帯びている) が存在していて、原子全体としては電気的に中性である。 陽子(1.673 x 10-24 g) 原子核 (正の電荷を持つ) 原子 (正の電荷を持つ) 重さはほぼ同じ 中性子(1.675 x 10-24 g) (電荷を持たない) 電子(9.109 x 10-28 g) 重さは陽子の約 (負の電荷を持つ) 1 1840 陽子や中性子に 比べてとても軽い 電子配置を決める時の規則: (1)組み立て原理:電子はエネルギーの低い軌道から順に入る。 (2)Pauli の排他原理:ひとつの軌道には最高 2 個の電子が入ることができる。 2 個の電子のスピンは逆平行。逆向きの矢印で書く。 (3)Hund の規則:エネルギーが等しい軌道(縮退軌道)に電子が入るときは、電子は 1 個ずつ、別々の軌道に、 スピンを同じ向きにして、分かれて入る。全ての縮退軌道に 1 個ずつの電子が入った後に、 2 個目の電子がそれぞれの軌道にスピンを逆向きにして入る。 ★ 炭素(C:第 2 周期、14 族、原子番号 6)の電子配置を考えてみよう。 軌 道 の エ ネ ル ギ I 不対電子 2p 空軌道 2s 1s 電子対 2 2 炭素原子の基底状態での電子配置 1s 2s 2p 2 ★原子軌道同士が重なって、分子軌道(結合)を形成する 原子軌道 ★原子と原子が近づいて、結合ができ、形を持った分子ができる。 =原子軌道が重なり合って、分子軌道ができあがる。 + s 軌道 s 軌道 σ軌道 + s軌道 混成軌道 (sp, sp2, sp3) p 軌道 分子軌道 σ結合(単結合)を形成するのに使われる p 軌道 s 軌道 σ軌道 + π結合(多重結合)を形成するのに使われる 芳香族性に関与 p 軌道 36 p 軌道 π結合 3 2) sp 混成軌道(メタンを例に) z z z x x x y y 2 px x x y y y 2s z z 2 py sp3混成 2 pz 3次元上で4つの軌道が 最も離れるように位置する (結合角 109.5 ) H メタンのでき方 H C H C H H H H C H H H 1s x 4 + (H x 4)+ (C) x4 1s 109.5˚ H H sp3 混成 H H C 109.5˚ H H (正四面体構造) CH4 sp3混成軌道 σ結合 σ結合は s軌道または混成軌道の 重なりにより形成される 水素原子(H) + 2p C sp3 sp3 1s 1s 2s 1s CH4 炭素原子の電子配置(基底状態) 2 3) sp 混成軌道(エチレンを例に) sp2 混成 H H C H C π結合 2p 軌道(π結合を形成する) σ結合 + π 結合 H 120˚ H 120˚ H C C H H H H H C C H H H C C H H (平面構造) (エテン) σ結合 電子的に見た エチレンの炭素の混成 2p C 2p 2s sp2 1s 1s z 3本の σ結合を形成 するのに使われる z x y π結合の形成に使われる x + σ y 37 σ 4)sp 混成軌道(アセチレンを例に) σ結合 + π結合 + π結合 π結合 σ結合 180˚ H C C 形成される2本の H H C H C π結合は直交している sp 混成 (アセチレン) π結合 C 2p 電子的に見た エチンの炭素の混成 2本のπ結合のを形成 2p 2s sp 1s 1s するに使われる 2本のσ結合を形成 するのに使われる z z x + y σ σ x y sp 混成 π結合の形成 σ結合の形成 5)アルカン、アルケン、アルキンの酸性度 ★エタン、エチレン、アセチレンを酸性の強い順番に並べたらどうなる? sp3 H H C C sp2 H H H ethane 酸 性 度 s 性の意味 H H C H 1s sp H C H H ethylene (ethene) 1s C acetylene (ethyne) H C 1s s 性:s 軌道の性質をどれくらい持っているかの尺度 s 1 = = 25 (%) アルカン sp3 混成軌道:s 性 = 4 s+p+p+p s 1 2 = = 33 (%) アルケン sp 混成軌道:s 性 = 3 s+p+p s 1 アルキン sp 混成軌道:s 性 = = = 50 (%) 2 s+p s 軌道は球形であり、原子核に一番近いところに位置する軌道である。s 性が大きい炭素ほど、炭素ー水素 結合を形成する共有電子対を原子核に引きつけていることになる。従って、s 性が大きい炭素に結合している水素はプ ロトンとして放出され易くなる(ふつうの酸の強さを考えるときと同様に s 性が大きい炭素は電気陰性度が大きいと考 えると理解しやすい)。つまり、酸として強いことを意味している。 2 3 sp-混成軌道についている水素 > sp -混成軌道についている水素 > sp -混成軌道についている水素 酸性度の強い順 アルキンの水素>アルケンの水素>アルカンの水素(例;アセチレン>エチレン>エタン) 38 問1 以下の a∼p の記述に関して、正しいものには○を、誤っているものには をつけ正しく直しなさい。 (a) s 性の大きい炭素に結合している水素のほうが、s 性の小さい炭素に結合している水素より酸性度が大きい( (b) 酸性度はアセチレンのほうがエチレンよりも高い( ) ) 2 (c) ethylene(ethane)炭素の混成軌道は sp であるのに対し、acetylene(ethyne)炭素の混成軌道は sp であり、 後者の軌道の s 性のほうが大きい。( ) (d) アセトニトリルの窒素の非共有電子対は p 軌道に収容され、塩基性はない( (e) ピロールは非共有電子対が sp 混成軌道に収容され、塩基性はない。( ) ) 2 (f) ピリジンは非共有電子対が sp 混成軌道に収容され、弱い塩基性を示す( 3 (g) エチルアミンは非共有電子対が sp 混成軌道に収容され、塩基性を示す( ) ) (h) 次の化合物の矢印で示した炭素原子の混成の種類を答えなさい。 ( ( ) H ) ( CH3 H H3C C C C C H H ( ) O C O H ( ) ( ) CH3 O ) 2 (i) アンモニアの窒素原子は sp 混成軌道をもち、分子全体はほぼ平面構造である( 2 (j) 三フッ化ホウ素(BF3)のホウ素原子は、sp 混成軌道をもつ( 3 (k) イソプロピルカルボカチオンの中央炭素は、sp 混成軌道をもつ( 2 (l) 安息香酸の炭素は、すべて sp 混成軌道をもつ( ) ) ) ) (m) 窒素分子(N2)の結合には、シグマ(σ)結合は含まれない( 3 ) (n) 1s 軌道と 3 つの 2p 軌道が混成して、sp 混成軌道が形成される。( 3 ) (o) メタンの炭素原子も水の酸素原子も sp 混成であるが、メタンの H-C-H 結合角より水の H-O-H 結合角の方が小さ い。( ) (p). 酸性度の大きさを比較すると次のようになる。( > ) H3C CH CH2 > 39 (5) “有 機 反 応 を 理 解 す る た め の 一 歩 ” --- 反 応 の 種 類 と 基 礎 ( 1 ) --- 1.反応の種類(全体的なまとめ) a. 置換反応 H 入れ替わり 入れ替わり R R Nu R X 求電子置換 R Nu 求核置換 1.求電子置換反応(芳香族化合物の置換反応はほとんどが該当する) 2.求核置換反応(SN 反応 ̶ nucleophilic substitution reaction) a)SN1反応・・・反応速度は原料の濃度だけ(1分子)に依存、3級基質で起こり易い カルボカチオン中間体、ラセミ化 b) SN2反応・・反応速度は原料と試薬の両方の濃度 (2分子)に依存、1級基質で起こり易い 立体反転 b. 脱離反応(隣同士の炭素から HX が脱離する) CH3 H3C C X CH3 CH3 CH3 E1 H3C C 脱離反応 B H3C C X H 1.E 反応 ̶elimination reaction C H3C CH3 CH2 脱離反応 CH3 CH3 CH2 E2 H3C C X CH3 CH2 C CH3 H3C アルケンが生成 2.ザイツェフ則とホフマン則 (アルケンが生成するとき)付加反応では全く関係しない ・・・ザイツェフ則は多置換アルケンが生成するという経験則(反意語がホフマン則) 3.E1反応・・・反応速度は原料の濃度だけ(1分子)に依存、3級基質で起こり易い、 中性及び酸性条件下で進行、カルボカチオン中間体を経る、ザイツェフ則に従う 4.E2反応・・・反応速度は原料と試薬の両方の濃度(2分子)に依存、 塩基性条件下で進行、3級基質で起こり易い(強塩基条件では1級基質でも進行する) アンチ脱離、ザイツェフ則に従うが環状基質ではザイツェフ則に従わない場合がある ̶ かさ高い塩基 [(CH3)3CO ]を用いた場合や4級アミンの脱離反応はホフマン則に従う c. 付加反応 CH3 CH2 HBr H3C C Br CH3 マルコフニコフ付加 HBr, ROOR(過酸化物) C H3C CH3 反マルコフニコフ付加 H H3C C CH2Br CH3 1.アルケンやアルキンへの求電子付加反応(マルコフニコフ則と反マルコフニコフ則) ・・・通常はマルコフニコフ則に従う ・・・アルケンのヒドロホウ素化(BH3)は反マルコフニコフ則に従う(シン付加でもある) 2.カルボニル化合物への求核付加反応 d. 転位反応(バイヤービリガー転位、ベックマン転位、ホフマン転位、ワーグナーメイヤーワイン転位など) O N CH3 バイヤービリガー転位 O CH3 O (m-クロロ過安息香酸) 40 OH ベックマン転位 (H+) H N O 2.付加反応と置換反応を区別する H H C C H H H C C H H H C C H2SO4 (水和反応) H H OH C H2SO4 HgSO4 (水和反応) H H H H2O O H3C C H H H2O C H OH H C C H O 付加反応 H 多重結合数が減っている 逆に考えれば、脱離反応は 多重結合数が増える。 OH H2O H3C C OH (水和反応) H H HNO3 H H NO2 NO2 置換反応 H2SO4 多重結合数に変化無し H H3C Br C H 単結合へは付加できない H OH (SN2反応) H3C OH + Br C H ★ベンゼン環は安定なので、付加は起こりにくい! H H C C H Br2 H H H H C C Br Br2 H vs FeBr3 Br Br アルケン H Br H Br + HBr 芳香環 生成しない → アルケンとベンゼン環が共存する場合、アルケン部分へだけ付加や酸化が進行する。 Br2 Br Br Br Br 生成しない KMnO4 OH- HO OH OH OH 生成しない ★カルボニル化合物への求核反応は(付加:アルデヒド、ケトン)vs(置換:カルボン酸誘導体) OH O CH3MgBr vs H3C C CH3 H3C C H (付加反応) H O H3C C OCH3 CH3MgBr (置換反応) OH O H3C C CH3 CH3MgBr (付加反応) 41 H3C C CH3 CH3 3.反応の種類を予測する(求電子と求核の違い) 電気陰性度 分極 = = 原子が共有電子対を引きつける強さを表す 電気陰性度の異なる原子が共有結合を形成するときに原子間で生じる電荷の偏り クロロメタン(CH3Cl)での例 同 る な 電気陰性度 一 く 族 き δ+と δ- で分極(電荷の偏り)を表す で 大 は ど 、 ほ 周 く 行 2.1 期 へ Hδ H2.5C Cl H C Cl H H の の 上 表 へ 期 行 周 、 く は ほ で ど 期 大 周 δ- 3.0 き 一 A な く 同 + H 表 右 る 2.1 H H H2.5C Cl H C Cl H H δ+ 3.0 δ- B 有機化学反応を考える上で重要なのは B (炭素原子より電気陰性度の大きな元素に着目!) ★反応が起こるのは C 原子上である(大前提) →反応する炭素上の電子状態はどうなっているか? 通常、こちらの考えで反応の種類を区別できる。 + ̶ 電気陰性度の大小を比べて、結合の分極(δ 、δ )を考えることで判別できる。 →反応する試薬の電子状態はどうなっているか? これが認識できていると、なお良い。 最低限、知っておくべき電気陰性度の基本 ハロゲン > C > H > Metal および O > N > C 反応は大きく、求電子と求核に分類される。また、付加と置換があるのでこれらをまとめて概説すると、 (A) 求電子反応(付加と置換) ①結合ー炭素多重結合への求電子付加反応(C=C、C C への反応) 例(アルケンへの HBr の付加) C C E C C E H H C H C H H H H C C H H H Br H Br H C C H H H 他に Br2, HCl, HI, H2O の付加など ②結合ー炭素多重結合への求電子置換反応(ベンゼン環への反応) E 例(ベンゼンのニトロ化) H O N 2 NO2 NO2 H - H+ 他にベンゼンのスルホン化、ハロゲン化、FriedelーCrafts反応など 42 (B) 求核反応(置換と付加) ③炭素ーヘテロ原子への求核置換反応(C̶X への反応) → 炭素原子よりも電気陰性度の大きな原子 X(ハロゲンなど)が単結合している場合 例(ハロゲン化物の反応) δ+ δー または C C 矢印は結合に相当する X (注)単結合へは付加できないので、 付加反応はない。 H δー H C + Cl δ H + HO HO H C H + Cl H ④炭素ーヘテロ原子への求核付加反応(C=O, C N への反応) → 炭素原子よりも電気陰性度の大きな原子(酸素、窒素など)が多重結合している場合 例(アルデヒドへのグリニャール試薬の付加) 炭素原子よりも電気陰性度の大きな原子 Oδ δ+ δー C δ+ O C OH ー δ+ δー C N H H δー δ+ H3C MgBr H C H CH3 4.求電子反応をさらに理解する (A) アルケン、アルキン、芳香族の共通点は C̶C のπ結合をもつこと。 C C C C の部分で反応する C C アルケン アルキン ベンゼン環 C C δ+ に分けられない δ- (ほとんど分極してない) π結合は2p軌道の電子が対になって形成されるので、マイナスの扱い (あくまで考え方で荷電はしていません) 反応の始まりでは、プラスの試薬が近づいてくる(つまり、求電子反応) (1)アルケン、アルキンは付加反応を起こす π 結合の電子対を受け取る 求電子反応 H H H C H C H Cl H H Cl C H H H C H H π 電子と反応 H Cl C C H H 求電子付加 43 δ+ H δ- H Cl H H OH H 求電子試薬 ★マルコフニコフ則 + ー 2 + 非対称アルケンへ試薬 H X が付加する場合、より多くの水素が結合している sp 炭素に H が結合する。三重結合で も同様。通常、二重結合、三重結合への付加はマルコフニコフ型で進行する。 H H Br H H C 2級カルボカチオン中間体 (より安定) CH3 C H H H C C H H CH3 H プロペン C C H CH3 H Br C C H H CH3 主生成物 Br H H H (マルコフニコフ付加物) > H C H C H Br H CH3 H H C C H H 1級カルボカチオン中間体 (より不安定) Br H CH3 H C C H H CH3 副生成物 カルボカチオンの安定性 CH3 > C H3C H CH3 > C H3C CH3 H3C > C H C H H 3級カルボカチオン H 2級カルボカチオン H メチルカチオン 1級カルボカチオン ★アルキル基は電子供与性基である(超重要) ★逆マルコフニコフ型付加の反応例(2つ) (1)過酸化物(RO-OR)存在下での酸の付加 過酸化物 Br H H C CH3 C H RO OR H Br Br C H H H Br CH3 C H H 2級ラジカル π 結合と反応 ー (2)ヒドロホウ素化(BH3)に続く酸化(OH , H2O2) Br H C C H H CH3 逆マルコフニコフ付加 --- 生成物はアルコール → 結果的には水(H2O)がアルケンに対して、逆マルコフニコフ型でシン付加したことになる。 CH3 シン付加 H CH3 CH3 BH3 H OHー, H2O2 H H2B H CH3 H 酸化 BH2 OH アルコール H CH3 逆マルコフニコフ付加 H2O, H2SO4 ! こう してお OH 対比 H マルコフニコフ付加 44 ★1,2-付加と 1,4-付加(ジエンの反応) 1,3-ブタジエンに代表される共役ジエン化合物への求電子付加では 1,2-付加体と 1,4-付加体が生成する。 → 低温では速度論的生成物の 1,2-付加体が主生成物 → 高温(40℃以上)では熱力学的生成物の 1,4-付加体が主生成物 Br H CH H2C H この点線内は考えなくてよい Br H CH H2C CH2 CH CH CH2 カルボカチオン中間体 (共鳴できない) H2C CH CH CH2 1 置換アルケン Br + 1 H Br CH H2C CH CH2 2 H2C CH H Br H CH CH2 1,2-付加体 (速度論的生成物) Br 1 CH H2C CH H2C CH2 2 3 4 CH CH CH2 Br H H カルボカチオン中間体 (共鳴できる) 1,4-付加体 (熱力学的生成物) 反応温度が40℃以上 2 置換アルケン 環状ジエンの反応では 1,2-付加体と 1,4-付加体が同じ構造になる場合があるので、生成物をよく見比べる必要がある。 H H H Br Br 1,2-付加体 H H Br HBrの付加した位置は異なるが、 1,2-付加体と1,4-付加体の構造は 同じである 1,4-付加体 ジエン部分が非対称な場合は、アルキル置換基の多い二重結合から反応が始まる。 → アルキル基は電子供与性 + → 二重結合部の電子密度が高まるから H と反応しやすくなる H Br H3C H C CH CH Br CH2 H3C H CH CH CH H3C CH2 1 2 CH CH H H CH CH2 Br 1,2-付加体 より電子密度が高い (メチル基による電子供与のため) Br H3C CH CH CH CH2 H カルボカチオン中間体 (共鳴できる) 45 H3C 1 2 CH CH 3 CH H 4 CH2 Br 1,4-付加体 ★アルケンのその他の代表的な反応を示す。 逆マルコフニコフ付加 アルケンの反応 HO H CH3 H CH3 H アルコール Br マルコフニコフ付加 H CH3 HBr Br HBr 1) Hg(OCCH3)2 2) NaBH4, H2O OH H KMnO4 H3O+ 1) O3 2) Zn CH3CO2H Br H アンチ付加 O Br- または H2O は置換数の CH3 C Na マルコフニコフ付加 O KMnO4 OHまたは 1) OsO4 O エポキシド HO OH CH3 H cis-1,2-ジオール O CH3 HO アルデヒドまたはケトン アルキンの反応 O CH3 OH 2) NaHSO3 O H 多い炭素へ求核攻撃する Br (還元反応) H Br2 ブロモニウムイオンを経る ケトンまたはカルボン酸 アセチリド経由の増炭反応 これだけ求核反応 還元反応 H H CH3 C C H H H H H HBr (1 mol) Pd, H2 1) NaNH2 2) CH3Br Pd, H2 または PtO2, H2 H Br H HBr (2 mol) HgSO4 H2SO4 H2O H Lindlar触媒, H2 H C C H Br H H シン付加 Pd, H2 Br2 (2 mol) Na liq. NH3 Br2 (1 mol) O H C C H H アルデヒドまたはケトン CH3 (MCPBA) H Br CH3 O Cl CH3 H アルコール CH3 Brまたは H2O H O CH3 Br+ H H シン付加 1) BH3 Pd, H2 2) H2O2 または OHPtO2, H2 ROOR (過酸化物) H H シン付加 Br Br Br C C H Br Br Br 46 H H アンチ付加 H H アルケンは平面構造であり、試薬が同じ側から反応するシン付加と反対側から反応するアンチ付加がある。 アンチ付加で重要なのは臭素の付加のみである。 シン付加の反応は多いが、KMnO4 酸化と OsO4 酸化、接触還元が重要である。 なお、過マンガン酸カリウム(KMnO4)、四酸化オスミウム(OsO4)、オゾン(O3)、m-クロロ安息香酸(m-ClC6H4CO3H) のように、酸素原子を3個以上もつ試薬は酸化剤であることが多い。 アルケンの酸化反応における注意点は以下の通りである。 (1)オゾン酸化ではアルデヒドまたはケトンが生じ、カルボン酸へは酸化されない。 (2)KMnO4 はアルカリ性条件下では 1,2-ジオール(アルコール)までしか酸化されないが、酸性条件下ではさら に開裂が起こりケトンやカルボン酸を生じる。 (3)KMnO4 や OsO4 による 1,2-ジオールへの酸化はシン付加である。 アルキンもπ結合をもつので、アルケンと同様な反応が起こる。 ただし、末端アルキンでは、σ結合部分で求核反応を起こす(π結合の反応でないことに注意)。 ★対称アルケンへのシン付加、アンチ付加で立体化学が生じる場合 シン付加する場合:(E)-対称アルケンへの生成物はラセミ体、(Z)-対称アルケンの生成物はメソ体である。 アンチ付加する場合:(E)-対称アルケンへの生成物はメソ体、(Z)-対称アルケンの生成物はラセミ体である。 対称アルケンの反応 Br H3C 180 回転 H H H CH3 Br H Br2 Br すると同じ シン付加 アンチ付加 CH3 H3C H H CH3 H3C KMnO4 OH OH- CH3 H H3C Br H H Br CH3 CH3 CH3 H シン付加 アンチ付加 H Br2 Br Br H H CH3 CH3 H 鏡 像 異 性 体 ラセミ体 メソ体 H OH Br H3C 鏡 像 異 性 体 H OH HO H (E)-アルケン CH3 H CH3 CH3 (Z)-アルケン KMnO4 OH- OH HO H OH CH3 H ラセミ体 CH3 OH CH3 メソ体 47 180 回転 すると同じ (2)芳香族化合物は置換反応を起こす π電子がドーナツ状に分布。極めて安定(共鳴安定化)。 全ての炭素が sp2 混成 2p軌道 π結合 電子豊富のため、 求電子反応が起こりやすい ベンゼン σ結合 (平面構造) [塩基性の復習] 2p軌道(芳香族性に使用、塩基性を示さない) sp2混成軌道(塩基性を示す) 4 3 4 3 5 2 5 6 1 6 N 1 6π電子 (芳香族) N 2 4 3 5 2 1 N H 3 5 1 N H 6π電子 (芳香族) ピロール (pyrrole) ピリジン (pyridine) 2 4 + ベンゼンの反応の基本は、ベンゼン環の水素(H)が求電子試薬(E )で置換される反応 + →E が何であっても、反応過程は同じ H SO3H Br ハロゲン化(臭素化) HNO3, H2SO4 NO2+ SO3, H2SO4 SO3H+ CH3 CH3C O すべて、求電子置換反応 CH3+ O CH3CCl, AlCl3 O いずれの反応でも生成する 試薬が+の電荷を持つ(求電子試薬) Br+ CH3Cl, AlCl3 O Friedel-Craftsアシル化 実際の求電子試薬 Br2, FeBr3 CH3 Friedel-Craftsアルキル化 E - H+ E 反応条件の例 NO2 スルホン化 H E 反応生成物 ニトロ化 H H H CH3CO+ O CCH3 なお、いずれの反応の例でも反応条件の後ろ側の試薬が求電子試薬(+試薬)を生成させる役割をしている。 特に、ハロゲン化、Friedel-Crafts 反応によく用いられる FeBr3, AlCl3 は空軌道をもちルイス酸と呼ばれる。 (例)Br2 + FeBr3 ルイス酸 → + Br + 求核試薬 FeBr4 ー CH3Cl 48 + + AlCl3 → CH3 + AlCl4 ルイス酸 求核試薬 ー ★ 一置換ベンゼンの反応性と配向性 (1)電子密度が高いほど反応し易い 電子供与性基(活性化基)の存在 電子求引性基(不活性化基)の存在 → → 電子密度が高くなる 電子密度が低くなる → → 反応が速い 反応が遅い (2)配向性はどの反応でも同じ (求電子置換反応は試薬に関係なく、全て同じ経路を通るから) ★電子を豊富に持つ位置が反応し易い。 非共有電子対あり X o- X X δ- δ- X X X X X δ- o, p -配向性(活性化基と不活性化基がある) p- X 非共有電子対なし X δ+ δ+ m- δ+ ーNO2 X X O ーCOH ーSO3H m -配向性(不活性化基のみ) O ーCH ーOCH3 ーNH2 ーF ーBr 反応性 大きい ーC N O ーCCH3 ーI O ーCOCH3 ーCl ーCH3 ーH (ベンゼン) オルトーパラ配向性 不活性化基 メタ配向性不活性化基 ーOH (アルキル) オルトーパラ配向性 活性化基 ベンゼンに比べて反応が遅い ベンゼンに比べて反応が速い [酸性度の復習] O N O N O C H3C C OH O C OH O 共役系ではメトキシ基は、 電子供与性(酸性は弱くなる) アルキル基は電子供与性 酸性は弱くなる 電子求引性基は酸性を強める O C C H Cl OH O C OH 酸性の強さ 49 O C CH3 OH O C OH O O C CH3 OH [混成軌道でも理解できる] カチオン(-NH3+ など)を除いて sp3 ならば、必ずo, p- 配向性 O NO2 H O H ヘテロ原子を含む sp2 (sp) ならば、必ずm- 配向性 H O O H C H O NO2 HNO3 C H HNO3 + H2SO4 H H H2SO4 NO2 NO2 ★芳香族化合物の求核置換反応 ベンゼン環状にイオン(マイナスイオン)または中性分子の非共有電子対が攻撃する。ベンゼン環は電子が豊富なた め、求核反応は少ない。以下に求核置換反応の典型例を3つ示す。 ベンゼンの求電子置換反応(Hの置換)と異なり、出発物のベンゼン環に電気陰性度の大きなヘテロ原子をもち、それが 置換されていることに注意する。 (1)ジアゾニウム塩への反応 N NH2 N HNO2 OH H2O - N2 ジアゾニウム塩の合成法 ジアゾニウム塩 (2)ベンザイン経由の反応 Br δ δ+ H2N − H NH2 H NaNH2 NH3 ベンザイン ハロゲン置換ベンゼン(Fを除く)を強塩基で処理すると、ベンザインが生成する。 ベンゼン環を再生するために、求電子試薬と反応する。 (3)マイゼンハイマー錯体を経由する反応 δ− Cl δ+ OH Cl OH NO2 OH NO2 NO2 マイゼンハイマー錯体 (マイナスイオンの安定化) 強力な電子求引性基であるニトロ基の隣の炭素にマイナスイオンができるo-またはp-置換体で起こる。 m-置換体では を安定化できないので起こらない。 50 (B) 炭素 C よりも電気陰性度の大きな原子 X(N, O, ハロゲンなど)が結合している場合の共通点は、 C O カルボニル の C 部分で反応する ハロゲン化 アルキル 化合物 2.5 3.0 C O X C 〔カルボニルの例は後半で〕 SN2 = 2分子反応 起こり易さ 1級 > 2級 > 3級 H3C δ+ (分極している) C Br 2.5 2.8 (1)求核置換反応(SN1 と SN2 反応)--- ハロゲン化アルキルの例 C C は常に、電子不足(δ+) δ+ δ- OCH3 δ− Br ˚ δ− H3CO C H3C H (R)-1-bromo-1-phenylethane δ+ Br 立体的要因(立体障害)に由来 δ− C H3CO H + Br H (S)-1-methoxy-1-phenylethane 立体反転 1段階反応 反応速度=[原料濃度] [求核試薬濃度] CH3 Williamsonのエーテル合成(SN2) アルコール + 1級ハロゲン化アルキル SN1 = 1分子反応 起こり易さ 3級 > 2級 > 1級 C H3C H3CH2C H3C H2O δ+ δ− Br ー Br カルボカチオンの安定性に由来 H2O C H3C H3CH2C H3CH2C 1段階目 反応速度=[原料濃度] C HO CH3 CH2CH3 速い ! 2段階目 律速段階 ! OH ラセミ体の生成 + HBr (不斉炭素を持つときのみ) カルボカチオン中間体 (立体化学の消失) (S)-2-bromo-2-phenylbutane + C 2段階反応 ★ SN 反応が起こりやすさ(優れた脱離基ほど反応は速い) H3C H C Nu δ+ X C δ− Nu + X CH3 H 強酸の共役塩基は優れた脱離基である(弱塩基だから) 反応性 大 脱離基(Xー) SN2での反応性 NH2 OH <1 F Cl 1 200 Br 10000 51 I 30000 この考え方は、後の求核アシル 置換反応(p58)でも同じ。 ★ SN 反応が起こらない例 1) 二重結合上の置換基 Br Br 芳香環との共鳴により二重結合性が生じ、脱離しにくい(SN1) アルケン上の置換基でも同様な共鳴が起こるのでSN1反応は起こらない Br Nu 芳香環は平面構造なので、脱離基の背面の原子にブロックされて反応できない(SN2) 二重結合上の置換基でも同様にSN2反応は起こらない 2) 橋頭位の置換基 カルボカチオンは平面構造であり、環の集まっている炭素 (橋頭位という) では大きなひずみのために生成できないため、 Br Br SN1反応は起こらない 平面構造をとれない Nu 脱離基の背面の原子にブロックされて反応できない(SN2) Br 3) かさ高い置換基に隣接する場合(ネオペンチル位の例) ネオペンチル基 CH3 H3C C CH2 Br CH3 脱離基 H SN2 H δ+ δ− C Br HO H3C C H C CH3 立体障害 3 ネオペンチル位 SN1 - Br H HO H 脱離基の結合しているネオペンチル位炭素は C C CH3 H3C CH 3 1級だが、かさ高いtert-ブチル基に求核試薬が ブロックされて反応できない(SN2) CH3 H3C C CH2 1級カルボカチオンは不安定であり 生成しないのでSN1反応は起こらない CH 3 SN 1 SN 2 基質選択性 3級で優先 ベンジル、アリル、2級は極性溶媒中 で中程度に起こる 1級では起こらない メチル、1級で優先 2級は優れた求核試薬で中程度で起こる 3級では起こらない 反応点での立体的要因 込み合っていると加速 (カルボカチオン中間体が生じ易い) 込み合っていると、著しく速度低下 (試薬が近づきにくいため。この場合はβ脱離に よるE2 反応が起こることが多い) 反応速度 基質濃度のみに依存、一次反応 (求核試薬の濃度は関係しない) 基質と求核試薬の両方の濃度に依存する 二次反応 立体配置 ラセミ化 反転 反応中間体 カルボカチオン中間体 存在しない 52 その他(脱離反応) E1 = 1分子反応 起こり易さ 3級 > 2級 > 1級 CH3 C H3C H3CH2C H3C H2O δ+ δ− Br C カルボカチオンの安定性(酸性、中性) H3C CH3 + HBr H3CH2C ー Br 1段階目 反応速度=[原料濃度] CH3 Hofmann 速い ! 2段階反応 E2 = 2分子反応 起こり易さ 3級 > 2級 > 1級 H > Saytzeff 2段階目 律速段階 ! H3CH2C H H3C カルボカチオン中間体 2-bromo-2-methylbutane H3C CH3 アンチ脱離(塩基性) CH3 CH3 NaOC2H5 ー HBr ー HBr Br Br CH3 NaOC2H5 H Saytzeff Hofmann trans-1-bromo-2-methylcyclohexane cis-1-bromo-2-methylcyclohexane H 1段階反応 H H H H H H 反応速度=[原料濃度] [塩基濃度] H H H H CH3 H Br CH3 H H cis-体からのアンチ脱離 H H H H H H Br trans-体からのアンチ脱離 シクロヘキサンでは、脱離基は必ずアキシャル位になる ー ★ かさ高い塩基を用いるとホフマン則に従う(tert-BuO のとき) H3C CH3 a b H3C C O H3C 立体反発大 H3C H H C C O C CH3 CH3 立体反発小 H C C H KOC(CH3)3 δ- H H H3CH2C Br H 2-bromobutane H C C C CH3 H H H 主に a を経由 H3C but-1-ene trans-2-butene (主生成物) (副生成物) ホフマン則に従う ★ 4級アンモニウム塩を用いるとホフマン則に従う CH3CH2O H3C a b H H H C C C H N H CH3 H3C CH3 OCH2CH3 H H3CH2C C H NaOCH2CH3 主に a を経由 C H H3C C C CH3 H H H trans-2-butene but-1-ene (主生成物) (副生成物) ホフマン則に従う 53 E1 E2 基質選択性 3級は酸性溶液中で優先 1級、2級では起こらない 3級、2級は塩基性中で優先 強塩基中なら1級でも起こる 反応点での立体的要因 込み合っていると加速 込み合っていると、著しく速度低下 反応速度 基質濃度のみに依存、一次反応 酸性溶液中で優先 基質と求核試薬の両方の濃度に依存、二次反応 塩基性溶液中で優先 生成物 常に Sayzeff 則に従う 鎖状化合物は Sayzeff 則に従う 環状化合物は Hofmann 則に従う場合がある 反応中間体 カルボカチオン中間体 存在しない、アンチ脱離を経る 脱離基の性質 安定なほど加速される 安定なほど加速される (2)求核付加反応 R --- カルボニル化合物の主な反応 O O C C H R アルデヒド OH R' 求核付加反応 R C R' Nu Nu O C OH C R カルボン酸 R OH R C H ケトン O R Nu or NuH 同じ構造(Nu = H, C のとき) OR' エステル O O C C X R Nu or NuH NH2 求核置換反応 アミド 酸ハロゲン化物 (X = Cl, Br, I) O R C O R R C Nu 求核付加反応 Nu Nu + O O C OH Nu 脱離基 C Point R 酸無水物 Nu が、炭素または水素 のときは ヘテロ原子部分 (太字で示した)が 脱離基となる カルボン酸誘導体 (LiAlH4 や Grignard反応など) Nu 同じ が 2回反応 する。 ★カルボン酸誘導体の反応性 反応性 大 O R C O NH2 アミド R C O OR' エステル R C C O 酸無水物 O 脱離基 NH2 OR' O O O C R R R C X 酸ハロゲン化物 (X = Cl, Br, I) Cl Br I O 共役酸 NH3 HOR' HO C R HCl HBr HI 酸性度 大 54 強酸の共役塩基は 優れた脱離基である (弱塩基だから) 各論 ★ Grignard 試薬との反応(他の炭素求核試薬や還元反応も同じ) グリニャール Grignard 試薬 O δδ+ C 考え方 R Mg X R + MgX R OH MgX R C R C 求核付加 R X = Cl, Br, I (Fはダメ) δO 切れる R MgX +に分極した炭素上へ求核攻撃を起こす。 SN2 δ+ C OH 求核置換 R 原料 生成物 例外基質 アルデヒド 第2級アルコール ホルムアルデヒド(第1級アルコール) ケトン 第3級アルコール なし エステル 第3級アルコール ギ酸エステル(第2級アルコール) エポキシド アルコール なし ニトリル ケトン なし ★ 還元反応のまとめ 求核試薬 強 H Oδ 2.1 δH Li LiAlH4 H 1.5 δ+ Al 水素化アルミニウムリチウム C 弱 水素化ホウ素ナトリウム CH3 H H 2.0 δ+ B OH C 2) H3O+ CH3 H H Oδ 2.1 δH Na 1) LiAlH4 or NaBH4 δ+ H 還元力 NaBH4 - - OH 1) LiAlH4 + Cδ OCH3 H H 2) H3O+ C H H H アルデヒド ケトン カルボン酸 エステル アミド ニトリル NaBH4 1級アルコール 2級アルコール 還元されない 還元されない 還元されない 還元されない LiAlH4 1級アルコール 2級アルコール 1級アルコール 1級アルコール アミン* 1級アミン *アミドの還元では3級アミドからは3級アミンが、2級アミドからは2級アミンが、1級アミドからは1級アミンが生 成する。 55 ★ 含酸素試薬(水、アルコール)の求核付加 O δδ+ C R R' OH ROH R C 酸性のときのみ R' 脱水可能 OR ROH C R' OR アルデヒド ケトン R R C OR OR オキソニウムイオン R = H gem -diol (1,1-diol) R = 炭素 ヘミアセタール R' アセタール 酸性条件のときに生成 ★ アミン類の求核付加 O δδ+ C R R' RNH2 アルデヒド ケトン 求核試薬 1級アミン OH R C N R' R + H2O C R NHR Point R' 1つの炭素原子に2つ以上の へテロ原子が付くと片方は脱離しやすい 試薬例 RNH2 生成物 イミン 生成物の基本構造 N NH2OH オキシム N RR’N—NH2 ヒドラゾン N C C OH CH3 N C H3C N * 2-propanone との反応生成物(R = CH3 R = CH2CH3 する) ** NH2NH2 + KOH の反応は Wolf-Kischener 還元となる(途中でヒドラゾンを経由する) 56 R N H3C C ヒドラジン** 反応生成物の例* R C ヒドロキシルアミン Nの求核付加反応では カルボニル炭素へ付加後 必ず 脱水 が伴う N C H3C OH CH3 CH3 N CH2CH3 CH3 ★アルデヒドのその他の代表的な反応を含めたまとめを次に示す。 なお、基本的にはアルデヒドとケトンは同じ反応を起こす。ケトンの反応では上記アルデヒドの反応とほぼ同じである が、付加や還元反応では生成物の級数が異なる(別表で確認のこと)。 なお、ここではアルドール反応(活性メチレンの反応)については詳しく触れないが、各自で確認しておく必要がある。 カルボニル化合物の反応(アルデヒド) O O H3C O H H O H H CH3 カルボン酸 CH2CH3 酸化反応 CH3 (エノラートイオンを経る自己縮合)(アルドール縮合) Br Br OH エノール H ( O CH3CH2 CH ノ H 自己縮合 3C モ O 2H ブ を経て生成 CH3 2, ロ 第1級アルコール H CH3CH2 C H (Clemmensen 還元) H Zn (Hg) (Jones 酸化) NaOH H 還元反応 CrO3 NaBH4 希H2SO4 または LiAlH4 O CH3 OH CH3CH2 C H H CH3CH2 C OH モ 化 アルカン HCl または NH2NH2, KOH 加熱(Wolff-Kishner 還元) ) OH C H CH3 CH3CH2 O CH3MgBr (Grignard 反応) HCN CH3CH2 CH3CH2 C H H+ P= 3 Ph (脱水)(Sayzeff 則) アルケン CH3 ( H CH3CH2 C H2 it W 二重結合の位置が異なる アルケンが合成できる CH2 H3O+またはOH(加水分解) CN シアノヒドリン 第2級アルコール H3C OH C H tig 応 NO2 反 CH3OH H+ CO2H NO2 NHNH2 N CH3CH2 C H NO2 OCH3 アセタール N OCH3 CH3CH2 C H αーヒドロキシ カルボン酸 NH2OH CH3NH2 NO2 OCH3 アルケン OH CH3CH2 C CH3 ) H CH3CH2 OH (ヘミアセタールを経る) NH N CH3CH2 CH3 H OH H2SO4 H2O H CH3CH2 オキシム (Beckmann 転位) イミン ヒドラゾン 試薬が求核付加した 後に脱水して生成 アルデヒド及び ケトンの検出 CH3CH2 H N アミド カルボニル化合物の反応(カルボン酸誘導体ー酸塩化物の例) O NH2 O 1級アミド OH 1) NaOH 2) H3O+ カルボン酸 NH3 O NHCH3 (加水分解) NH 2 CH 3 O O O H3C C CH3 ONa 2級アミド O O (CH3)2NH O Cl N(CH3)2 3級アミド 酸無水物 57 H O カルボニル化合物の反応(カルボン酸誘導体ーエステルの例) CH2N2 OEt OEt O O OH (エノラートイオンを経る自己縮合) O β H+ CH3OH OCH3 O α OCH3 NaOEt O βーケトエステル NHCH3 1) NaOH 2) H3O+ OEt O (加水分解) 自己縮合 OH C CH3 CH3 O CH3NH2 (Claisen 縮合) CH2 O (Fischer 合成) アミド 第2級アミンも反応する CH3MgBr OEt (Grignard 反応) O 第3級アルコール H H C C OH H H LiAlH(還元反応) 4 NaBH4 では還元が 進行しない 第1級アルコール O CH2 C CH3 H O (ケトンを経る) (アルデヒドを経る) カルボニル化合物の反応(カルボン酸誘導体ーアミドの例) O C N OH N C O N AlH3Li H (イソシアナートを経る) NH2 1) NaOH (加水分解) 2) H3O+ P2O5 (脱水反応) (イミンを経る) O Br2 NaOH H C NH2 H LiAlH4(還元反応) NH2 (Hofmann 転位) アミン NaBH4 では還元が 進行しない アミン カルボニル化合物の反応(カルボン酸誘導体ーニトリルの例) O OH MgBr N N C CH3 (イミンを経る) (加水分解) O CH3 CH3MgBr H3O+ or 1) NaOH 2) H3O+ C N (Grignard 反応) H (イミンを経る) LiAlH4(還元反応) NaBH4 では還元が 進行しない ケトン 58 AlH3Li H C NH2 H 1級アミン 反応の種類(官能基別のまとめ) 付加および置換反応は求電子と求核反応の2つに分類される。 その反応が求電子であるか求核であるかは、反応する炭素原子の(部分)電荷を考えるとよい。例えば、炭素よりも + 電気陰性度の大きな原子が結合している場合は、その炭素原子は常にδ の状態であり、求核反応を受ける。一方、電気 陰性度が同じ炭素からなる C=C や C C の場合は部分電荷を持たないため、π電子が関与する求電子反応となる。 官能基 主な反応 例 H アルカン 置換反応 備考 H3C C CH3 + H3C C CH3 H3C C CH3 CH3 CH3 (Br2, heat) アルケン Br CH3 H 求電子付加 H Br H H CH3 H C C H Br H H H Br C C H H CH3 π 電子と反応 H 求電子付加 Cl H H Cl C H H3C H Cl C C H3C π 電子と反応 ラジカル置換反応 くらい CH3 H H Br Br Br Br H C H3C 過酸化物存在下、 HBr と 反 応 さ せ ると逆マルコフニ コフ付加がラジカ ル機構で起こる π電子(p 軌道) との反応 H アルキン δ- δ+ 求核置換 NH2 H H3C CH3 I CH3 H3C H3C (NaNH2) π 電子は関与しない H 芳香族 化合物 H H 求電子置換 H NO2 求核置換反応には ジアゾニウム塩の 反応、マイゼンハ イマー錯体やベン ザイン経由の反応 がある H HSO4 NO2 NO2 π 電子と反応 (HNO3 + H2SO4) δ- SN2反応 δ+ (NaCN) Cl H ハロゲン化 アルキル H C δ- H CN δ+ C CH3 (H2O) OH H3C CH3 アルコール および フェノール C H3C CH3 H2O CH3 H 求核置換 O CH3 OH C CH3 I O O CH3 (NaOH) 求核付加 H3C C - δ+ H O (CH3MgBr) MgBr H3C C H CH3 CH3 59 H2O 3級基質は酸性条 件下ではE1脱離 が伴い、強塩基と の反応ではE2脱 離反応が進行する CH3 δ- δ+ Oδ アルデヒド H C SN1反応 Cl H3C H CN H 求核置換 アルキンの酸性を 利用した反応 σ電子(sp 混成 軌道)が関係 OH H3C C H CH3 この例は、ウイリ アムソンのエーテ ル合成である。 求核付加後に 脱水が起こる 場合あり* Oδ ケトン 求核付加 Cδ H3C Oδ 酸塩化物 求核置換 H3C C 酸無水物 求核置換 H3C O (NaBH4) + CH3 H O C O エステル 求核置換 H3C Cδ O (NaOH) OH2 Oδ アミド 求核置換 H3C Cδ C 求核付加 OH δ- (CH3MgBr) N CH3 δ- δ+ アミン 求核置換 C Ph OH 求核置換後に求核 付加が起こる場合 あり** NH2 求核置換後に求核 付加が起こる場合 あり** OH 求核置換後に求核 付加が起こる場合 あり** C C H3C O H3O NH2 OH CH3 - OCH3 H3C - OCH3 O H3C C N OCH3 O OCH3 NH2 (NaOH) NH2 δ+ ニトリル NH2 求核置換後に求核 付加が起こる場合 あり** O H3C C - + H3C O (NaNH2) OCH3 OCH3 OH - C H3O AcO C CH2 + - NaCl OCH3 Ac Oδ CH3 Cl - δ+ 求核付加後に 脱水が起こる 場合あり* H3C C CH3 O H3C C OCH3 Oδ OH H (NaOCH3) Cl H2O H3C C CH3 - δ+ O C - - NH2 MgBr C H3C H3O O (加水分解) Ph C CH 3 CH3 求核付加後に生成 するイミン部分は カルボニル基と等 価である H I N NH2 CH3 NHCH3 H * アルデヒドとケトンで求核付加後に脱水が起こる場合の例 同じ炭素原子にヘテロ原子が結合すると脱離しやすい方が脱離することが多い(アセタールを除く)い ここで、R = H または CH3 などの炭素置換基である。 Oδ H3C C - OH δ+ R R H3C C NH2OH H3C C R - H2O N NHOH H H3C 脱水 OH R C Oδ N OH H3C Cδ - H3C + R R + H2O 加水分解 R C O R 等価 R CH3 イミン アミンとの反応によるイミンの生成も同じ C N R' **カルボン酸誘導体で求核置換後に求核付加が起こる場合の例 求核付加反応しか起こさない ここで、X = Cl, OCOCH3, OCH3, NH2 などである。 Oδ H3C C - (CH3MgBr) δ+ X CH3 Oδ O H3C C X CH3 H3C C - (CH3MgBr) δ+ CH3 CH3 O H3C C CH3 CH3 求核付加反応 求核置換反応 60 R N NH2CH3 オキシム 求核付加反応 C H2O OH H3C C CH3 CH3
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