(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第48回(平成27年度)研究発表会 論集 プレゼンテーション発表アブストラクト №236 甲府盆地南東部、京戸川における過去 3 万年間の土砂移動の変遷 明治コンサルタント株式会社 新井 悠介 が浸水し,礫が堆積したことが記録されている 12).扇状地 1.はじめに 扇状地は,山地と平野の境界に形成されるため,山地か の上流側を構成するⅢ面は,現河床の標高が約 400〜570 m らの土砂供給の指標となる地形である.したがって,扇状 の範囲で発達し,現河床との比高差は 20 m 程度である.ま 地の発達と気候変動との関連を明らかにすることで,土砂 たⅢ面は,扇状地よりも上流の河成段丘へ連続する.京戸 供給量の変遷を推定することが可能である.本研究では, 川扇状地の北東側では,日川扇状地のⅡ面が京戸川扇状地 きょう ど 甲府盆地南東部に位置する 京 戸川扇状地を主な対象地域 のⅢ面を切り,約 10 m の段丘崖を形成している. とし,過去 3 万年間の土砂移動の変遷を地形分類と野外調 4.2.Ⅲ面における堆積物の記載結果 査の結果から議論することを目的とする. 京戸川流域のⅢ面を構成する扇状地構成層は,主に花崗 閃緑岩から構成され,礫径が 1 m 以上の巨礫を伴う. 2.既往研究 扇状地構成層は,Loc.1 では風化火山灰土に,Loc.2 では 甲府盆地には数多くの扇状地が分布し,盆地西部や南西 部を中心に編年がおこなわれてきた 1),2) .これらの研究で 3) 4) 砂混じりの風化火山灰土に覆われる.Loc.1 では火山灰質 土中にガラス質火山灰が挟在する.顕微鏡観察の結果, は,扇状地構成層と黒富士火砕流堆積物 (1.0-0.5Ma) Loc.2 では砂混じりの風化火山灰土中に火山ガラスが散在 6) (0.3 Ma) との層序関係が記載され,一 していることが確認された.Loc.3 は,京戸川の扇状地部 部の地形面で扇状地構成層が御岳第 1 テフラ(On-PmI;100 よりも上流側に分布する河成段丘に位置する.堆積物は下 や韮崎岩屑流 5) 7) ka) に覆われることが明らかとなっている 8), 9) . 位からⅢ面構成層,有機質な砂泥互層,上部砂礫層に区分 京戸川扇状地の上流側は土石流堆が累重し,下流側は乱 される.Ⅲ面構成層は主に花崗閃緑岩の砂礫層からなる. 流で生じた中州が微高地を形成していることが報告されて 有機質な砂泥互層は植物片や材化石を多量に含む有機質な いる 10) .新井ほか(2013)の報告では,開析が進む京戸川 砂泥互層に覆われる.有機質な砂泥互層は下部層から上部 扇状地の上流部において,指標火山灰と有機物を見出し, 層にかけて有機物やシルト等の細粒な物質が減少し,花崗 それらの年代値から本扇状地の上流側の地形面は約 3 万年 閃緑岩と泥岩の砂礫が増加する.この下部層には木質の泥 前に形成されたことが明らかにされている 11) . 炭層がレンズ状に挟まれ,この泥炭層中にはガラス質火山 灰が堆積する.上部砂礫層には,泥岩からなる細礫を含む 3.研究方法 砂層や有機質シルト層がレンズ状に挟まれる. 本研究では,空中写真判読と明治時代以降の歴史記録資 4.3.ガラス質火山灰の同定と AMS14C 年代値 料から京戸川扇状地周辺の地形分類図を作成した.野外調 Loc.1,2,3 におけるⅢ面の被覆層中に認められたガラ 査では,扇状地堆積物と被覆層の岩相の記載と,試料採取 ス質火山灰は,鉱物の形態的な特徴とガラスの屈折率から, を行った.採取したテフラは,温度変化型屈折率測定装置 姶良—丹沢テフラ(AT;30 ka)7)に対比された. (RIMS2000)を用いて火山ガラスの屈折率を測定した. 既存研究の AMS14C 年代測定結果 11)では,Ⅲ面構成層を覆 う有機質な砂泥互層の最下部および材化石からなる泥炭層 4.結果 は約 29 ka,有機質な砂泥互層の最上位は 24 Ka,上部砂礫 4.1.地形面区分 層に狭在する砂質粘土の有機物は 17 ka という年代値がそ 京戸川扇状地周辺の地形を,段丘化の程度や扇面の勾配, れぞれ報告されている. 地形面の開析度から,1)低位で未開析のⅠ面,2)開析を受 けたⅡ面,3)開析を受けⅡ面に切られているⅢ面,4)On-Pm Ⅰに覆われる高位面群に分類した. 5.京戸川における土砂移動の変遷 京戸川におけるⅢ面構成層は,その直上に堆積する火山 京戸川扇状地は,未開析のⅠ面と段丘化したⅢ面とから 灰と有機物の AMS14C 年代から 30 ka 以前に堆積されたと考 なる.Ⅰ面は,京戸川における河床の標高が約 300〜400 m えられる.Ⅲ面構成層に含まれる礫は,集水域の上流側に の範囲を占める.明治時代以降の資料では,出水時にⅠ面 分布する花崗閃緑岩 13)からなること,礫径が 1 m 超える礫 - 214 - (一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第48回(平成27年度)研究発表会 論集 プレゼンテーション発表アブストラクト №236 が主体であることなどから,30 ka 以前の海洋酸素同位体 5),三村弘二ほか:自然残留磁気からみた韮崎岩層流と流れ ステージ(MIS)3 には土石流が卓越する環境であったこと 山,地質学雑誌,日本地質学会,1982/08/15,p653-p663 が推定される.一方,Loc3.における有機質な砂泥互層は細 6),河内晋平:地域地質研究報告(5 万分の 1 図幅)「八ヶ岳 粒な堆積物からなり,Ⅲ面形成後の 30 ka から 24 ka にか けては土石流が及ばない細粒な堆積物が堆積する環境であ 地域の地質」 ,地質調査所,1977,119p 7),町田 洋・新井房夫: 火山灰アトラス—日本列島とその ったと考えられる.Loc.3 における上部砂礫層(17 ka)で は細粒物が減少することから,水流の影響を受ける環境へ 周辺,東京大学出版会,2003/9,336p 8),甲府盆地第四紀研究グループ:甲府盆地の第四系,地団 と変化した.有機質な砂泥互層と上部砂礫層を構成する礫 は,集水域の下流側に分布する泥岩が増加する.これらの 研専報,地学団体研究会,1969,p254-p258 9),河内敏弘:甲府盆地の構造発達史,日本第四紀学会講演 岩相の変化から,京戸川では 30 ka から 17 ka にかけての MIS 2 前後に土石流の減少や土砂の移動が停滞していたと 要旨集,日本第四紀学会,1978,p8 10),中山正民・高木勇夫:微地形分析よりみた甲府盆地にお 考えられる. ける扇状地の形成過程,東北地理,1987,p98-p112 京戸川におけるⅢ面は,現河床と扇面が約 20 m の比高差 11),新井悠介ほか:甲府盆地南東部,京戸川扇状地の形成 で段丘化している.河成段丘に位置する Loc.3 付近は,川 年代,日本地球惑星科学連合 2013 年発表要旨,日本 幅が狭いことから,出水などで河川の水量が増加した際に 地球惑星科学連合,2013/5,23,HQR24-P11 影響を受けやすい.Loc.3 付近においては,30 ka から 17 Ka 12),一宮町誌編纂委員会編:山梨県一宮町誌,一宮町, 1967/8 までの期間に比較的細粒な細屑物が連続的に堆積するよう な,畦畔付近と考えられる堆積環境が継続している.した 13),石田 高:御坂山地,日本の地質 4「中部地方Ⅰ」編 がって,京戸川においてこの期間は下刻作用が及んでいな 集委員会編,共立出版株式会社,1988/6/15,p92-p97 かったと考えられる.つまり,京戸川におけるⅢ面は,17 Ka 以降の晩氷期から後氷期(MIS 1)の温暖期に,河川の下刻 作用が卓越したことで段丘化したと推定される.その後, 完新世になり京戸川の集水域では、土砂供給量が増加し, 扇状地の下流側において現成のⅠ面が形成されるようにな ったと考えられる. 6.まとめ 以上のように,京戸川では MIS 3 に土石流が卓越する環 境であったこと,MIS 2 前後には土石流などの出水や土砂 移動が停滞したことが明らかとなった.また,Ⅲ面が下刻 され段丘化した時期は,晩氷期から後氷期(MIS 1)に対比 されることが明らかとなった. 7.引用文献 1),澤 祥:甲府盆地西縁・南縁の活断層,地理学評論,日 本地理学会,1981/9,p473-p492 2),曽根丘陵研究グループ:甲府盆地南縁に見られる活断層 に関する新事実,地球科学,地学団体研究会, 1991/5/25,p217-p221 3),三村弘二:黒富士火山の火山層序学的研究,地球科学, 地学団体研究会,1967/5/25,p1-p10 4),三村弘二ほか:黒富士火山と甲府盆地北方に分布する火 山岩類の火成活動と K-Ar 年代,岩鉱,日本岩石鉱物 鉱床学会,1994/1,p15-p20 - 215 -
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