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愛媛県北宇和郡広見町近永南方の四万十帯白亜系の放散
虫群集
山崎, 哲司; 鶴田, 真司
愛媛大学教育学部紀要. 第III部, 自然科学. vol.17, no.1, p.716
1996-09-30
http://iyokan.lib.ehime-u.ac.jp/dspace/handle/iyokan/2978
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Bull.Fac.Educ.Ehime Univ.,Nat.Sci.,Vol,17,No.17∼16(1996)
愛媛県北宇和郡広見町近永南方の四万十帯白亜系の放散虫群集
山崎哲司・鶴田真司
(愛媛大学教育学部地学教室)
(平成8年4月30日受理)
RADIOLARIAN FOSSILS OF THE CRETACEOUS SHIMANTO GROUP
SOUTH OF CHIKANAGA,HIROMITOWN,EHIME PREFECTURE
Tetsuji YAMAsAKI and Shinji TsURUTA
刀eψ〃物mまげ0eOJ卿,ハ㈹めぴ〃伽肋m,
亙”me0”mκ∫め,Mαな妙αmα,五”me,790_77ヵ切m
(Received Apri130.1996)
Abstmct
Stratigraphy and geo1ogic age of the Cretaceous Shimanto Group in the Nakanokawa area,east of
Uwajima City,Ehime Prefecture was studied.The strata of the area consist of sandstone,mudstone,
acidic tuf{and altemating beds of sandstone and mudstone.Radio1arian fossiIs were obtained from
mudstone,tuffaceous mudstone and tuff.
In the eastern part of the studied area,radiolarian fossils such as P∫emdod北妙。舳4赦αcf.力se炸
ゐmmmcψ肋王α,H〇五〇cηが。cα〃mm sp.,λmゐmo励め。m〃m cf.5m4m励。κwere found,and the geoIogic age
of the strata is inferred to be Turonian age.
In the westem part of the area,the radio1arian assemb1ages were classified roughIy into two.One is
the assemb1age which is characterized by T肋mm e’昭αmκ∫∫伽α,τ〃me切,τ力mmm切,ハe〃。肋一
秒0m伽αCαゆα地α,Pがmδ0mαCmCe助α虹,HOiOCηが0mm切mあ〃あ〃,H8妙∫舳m5e,H切わeπCm〃mm etC.,
and the radio1arians may indicate the Cenomanian age.The other assemb1age may indicate the Coniacian
to Sミmtonian age,and it is distinguished from the former assemb1age bythe absence ofthe genus〃m〃伽
and by the rare occurrence of the genus Psemo励。妙。m伽仏
Key words:Cretaceous,Shimanto Group,radio1aria.
キーワード:白亜系,四万十累層群,放散虫.
北約1.5㎞にわたる範囲を調査した(図1一 j.本調査地域
には,上部白亜系のいわゆる宇和島層群が分布している.
I.はじめに
愛媛県字和島市周辺に発達する四万十帯の白亜系,い
愛媛県北宇和郡広見町近永南方の,広見町中野川から
わゆる宇和島層群は,四万十帯の地層群の中では例外的
北宇和郡松野町豊岡北東方にかけての東西約2.5㎞,南
に白亜系のアンモナイトや二枚貝といった大型化石が多
7
山崎哲司・鶴田真司
132.45’E
3ゴ10’N
図1 位 置 図
枠内は調査地域(国土地理院発行の20万分のI地勢図「宇和島」を使用)
く発見されている.そのため付加された地層群の上位に
おいては,泥岩および泥岩勝ちの砂岩泥岩互層が広範囲
のる浅海の堆積物ともされるが不明な点も多く,正確な
に認められ,厚い砂岩層が発達するのは一部の層準に過
層序関係やその形成史が問題となっている.
ぎない.
本調査地域の白亜系からも,アンモナイトやイノセラ
また,幾つかの地点で断層破砕帯が認められた.松野
ムスなど大型化石の産出が報告されているが,報告され
町豊岡北西方の山道では,幅数m以上にわたり泥岩およ
ている大型化石は少なく,年代の確定している場所は限
び砂岩が破砕された,顕著な破砕帯が観察された.破砕
られている、また近年盛んとなっている放散虫化石から
帯の延びの方向はNW−S E方向であった.
の年代の検討も十分には行われていない.そこで,調査
地域の地層中から放散虫化石を検出し,放散虫群集の組
成を詳しく検討して年代の再検討を行った.
皿.地 質年代
1.従来の研究
皿.地 質概説
調査地域には,四万十帯の白亜系が分布する.本地域
調査地域周辺に分布する地層群については,寺岡ほか
1) 2) 3)
(1980),柳井(1981),寺岡・栗本(1986),寺岡ほ
4) 4〕
か(1986)などの報告がある.寺岡ほか(1986)は宇
で認められる岩石および岩相は,砂岩,泥岩,砂岩泥岩
和島地域の層序を論じ産出化石について報告している.
互層そして凝灰岩である.砂岩は一般に,新鮮な部分で
図2の地点Aからは〃。cemmm∫わα肋m∫あα肋。㈹地点
灰白色∼灰青色,風化したもので茶褐色を呈する.泥岩
Bからは〃。cemmm∫mα肋5m必,地点Cからは”oce炸
は,黒色∼黒灰色であり,黒色を呈するものが多く観察
αmm∫αmα肋∫m∫ゐ,∫ cf.e20m∫ゐ,Meo卿名。∫加 sp.,
される.風化したものは茶褐色∼灰色を呈し,小片状に
〃0力mmm∬づmmC0ψe〃〃あ〃m5兆,MmOmω兆
割れやすい.泥岩層の表面あるいは内部が磨かれたよう
∫αc尻”mm∫兆の産出が,地点Dからは∫mocemmm∫
な光沢をもつものも観察される.凝灰岩は細粒であり,
mm功mem8ゐ,∫cf.mmom∫ゐ,肋m伽妙sp.が報告さ
2
れている.また地点Eからは柳井(1980)が∫mocem−
緑白色∼緑灰色のものと白色∼灰色を呈するものが見ら
れる.
砂岩泥岩互層については,露頭単位で砂岩層の全層厚
mm〕e5”om8ゐ,S吻肋e5sp.の産出を報告している.
3〕
に占める割合に基づき,岩相区分を行った.調査地域に
よりλm助伽m励κ∫チ。c似ル。肋eo64め。m伽αsp.の産
放散虫化石については,寺岡・栗本(1986)が地点D
近永南方の四万十帯白亜系の放散虫群集
図2 化石産出報告地点(寺岡ほか,1986;柳井,1981)
(国土地理院発行の2万5000分の1地形図r松丸」を使用)
出を,地点Fからλm〃伽m伽sp.,ル肋mo枕妙。m”m
sp., 」Dた妙。m〃κα sp., M肋α sp。, P5emdo∂4c妙。mκm cf。
力∫mdommmCφ肋伽の産出を報告している、
4〕
寺岡ほか(1986)は産出した化石および岩相より,
おく一わ
地点E周辺の地層をチューロニアンの小倉層と,地点D
周辺の地層をコニアシアン(後期?)の岩罰層と,そし
よりまっ
て地点A・B・C周辺の地層をサントニアンの寄松層お
すいげんち
よび水源地層とした.たお小倉層と石引層は断層関係で
図3 放散虫化石産出地点
(国土地理院発行の2万5000分の1地形図「松丸」を使用)
山崎哲司・鶴田真司
らサントニアンの地層が整合的に積み重なるとされてい
あり,石引層と寄松層そして水源地層は,整合に積み重
たが,今回検出された放散虫化石より推測される年代は,
なるとされている.
従来の見解とは大きく異なるものである.
図3の地点1∼9から得られた放散虫化石群集には,
2.放散虫化石
放散虫化石は採取した黒色泥岩,珪質黒色泥岩,緑灰
〃mα〃αe王螂n挑5切α,τCOm{Cα,τmm肋,τ
色の凝灰質泥岩,緑灰色の凝灰岩中より検出した・120
仰mem切,∬0τ0C物ナ0Cα舳mあαクろ机亙鮒∫㈱m∫eだ
余りの地点より採取したこれらの岩石をフッ化水素酸を
用いて溶かし,残溢より放散虫化石を顕微鏡下で拾い出
とが含まれるが,これら放散虫化石の示す年代の上限は
5〕
セノマニアンである(竹谷,1995).したがって,調査
した、本論文では,得られた放散虫化石の概略について
地域の北西部の地層群の年代については,セノマニアン
報告する.
ないしそれ以前と推測される.
調査地域の東部,松野町五郎丸地域からは1地点(図
図3の地点10∼15より得られた放散虫には,年代を詳
3の地点16)より数多くの放散虫化石が得られた1保存
しく特定できるものは見つかっていたい、またこれら6
状態はあまり良くたいが,ハmゐ励吻0m伽αCf.力∫m−
地点の放散虫化石について言えば,PSe〃。肋伽m伽α
6omcγoc助〃α,ル。加eo肋妙。m伽αcf.5伽mαあ。κ
を含む試料と見つかっていない試料があり,これらの地
励五〇cη研。mm伽m sp.,λ〃m伽m sp.,λm〃幼ツ〃伽sp。,
層の年代がすべてほぼ同じかどうかもまだ不明である.
■4m尻αeo64c妙。m〃παsp.,刀タ。妙。m〃”αsp.,S”c尻。m〃καsp.
ただし,丁肋mα〃αや肋2o鮒物Cα〃mmを含まない点や,
だとが得られた(図版皿).
P∫mao〃吻。m伽αも少数しか含まだい(または見つか
より西方地域については,15地点からの放散虫化石に
らない)という群集組成より,地点1∼9よりは新しい
ついて,その群集組成を検討した.それらの構成種を比
年代が推測される.従来の大型化石の報告を考慮すると,
較すると,大きく2つのグループに分けることができる.
地点14および地点15周辺部についてはコニアシアン,地
地域北西部の石が内周辺地域(図3の地点1∼9)で検
点10∼13周辺部の地層はコニアシアンからサントニアン
出された放散虫群集には,丁尻αm〃αやP∫e〃。〃C一
と考えるのが妥当であろう.
秒。m伽αが多く含まれる(図版I)・主要なものとして
は乃αm〃’αe王e幽m桃∫伽α,Tωm肋,T mmね,T
w.考 察
〃emm広α,ルC伽e0〃秒0m伽α∫ψ4mαろ0〃,λ.力5m一
検出した放散虫化石からは,地域の東部の五郎丸地域
∂0∫Cα王ακ兆,P8e〃0m物0m伽αCαゆα批α,Rがm−
60mαc戸0ce抄乃αJα, X批m∫ sp., jV0砂心材m∫ sp., H0王0cηカー
の地層群の年代はおそらくチューロニアンであり,西部
ム。cα〃mmわ励似H鮒∫msm5e,H肋eκ〃〃mmな
地域については大局的に北部にセノマニアン(あるいは
どがある.
それ以前)の地層群が,そして南部にコニアシアンとサ
一方,地域南西都の中野川南方周辺地域(図3の地点
ントニアンの地層群が分布していることが示される.
10∼13)および豊岡北方(図3の地点i4,15)から検出
地質概説でふれたように,松野町豊岡北西方では大規
された放散虫化石群集は,丁肋mα”αが含まれず,λ作
模な破砕帯が観察される.その破砕帯の延びの方向と地
C尻mo肋伽m伽αやλm〃伽m肋κを主体とする化石群
形より,中野川から豊岡にかけてのNW−SE方向に断
集である(図版皿).主要な放散虫化石は,λm助伽m一
層が推測される、この断層がセノマニアン(またはそれ
価∫オ0C純ルC肋e0砂0mg0ψ舳mm8αJm似D物0m伽α
以前)の地層群と,より新しいコニアシアンからサント
aff.冶0∫王。meなどであり,少数ながらPSmdo肋枇m伽α
ニアンの地層群との境となっている可能性が考えられ
sp.も検出された、
る.すなわち断層の北側に古い地層が,そして南側に新
しい地層が分布することになる.ただし,大型化石と放
3.地質年代
散虫化石よりコニアシアンと推測される地点14と地点15
調査地域東部の五郎丸地域からは,放散虫化石を1地
について言えば,両地点は推定断層の北側であり,この
点からしか得ておらず,また保存状態も余り良好ではた
2地点の年代については先の断層で説明ができない.
いため,地質年代を明確にすることは困難である.先述
放散虫化石から概略の年代を求め,調査地域の地層の
のように,従来この地域の地質年代については,大型化
年代や層序関係が,従来報告されていたものとはかなり
石や放散虫化石よりチューロニアンとされているが,欠
異なるものであることが判明した.しかしたがら層序関
きた年代の見直しを必要とするような放散虫化石は現在
係の詳細についてはまだ問題点が残されており,また放
のところ見つかっていない.現段階では従来通りの年代
散虫化石群集からの年代の詳細についても引き続き詳し
を想定する.
く検討する必要がある.今後は残された課題について検
一方,五郎丸地域の西方については,コニアシアンか
討を重ねるとともに,調査範囲を拡大し,より広範囲の
10
近永南方の四万十帯白亜系の放散虫群集
地域を対象として層序・年代の詳細を明らかにする予定
3)寺岡易司・栗本史雄,1986,宇和島地域の四万十帯自亜系
である.
層序一大型化石と放散虫化石の層序的分布に関連して一.
地質調査所月報,v.37,no.8,p.417−453.
4)寺岡易司・池田幸雄・鹿島愛彦,1986,宇和島地域の地質.
文 献
地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,
91p.
1)寺岡易司・小畠郁生・水野岩根,1980,四国西部近永地域
5)竹谷陽二郎,1995,本邦上部白亜系の放散虫化石層序の再
の四万十累層群一とくに宮古・ギリヤーク両統について
地質調査所月報,v−31,no.7,p−307−319.
検討一時に国際対比上有効た層準について一.地質学雑誌,
2)柳井修一,工981,四万十累層群における陸棚相宇和島層群
v.!01,no.1, p.30−41.
の層序的・古地理的位置.地質学雑誌,v.87,no.6,
p.339−352。
11
山崎.哲司・鶴田真弓
図 版 説 明
図版I
スケールは100μ,a:16;b:7,9,10−15,17;c L 3−6,8,d 2.
1:ηαmαm eJe幽m桃∫4mα(Cita).Loc.8.
2 :丁脆αmαnα力memme勿Pessagno,Loc,3.
3 :丁尻αmαγ加mme切(Squinabo1).Loc.8.
4 :丁免αmm伽ωm4m(A1iev).Loc.2.
5:λπ肋eo〃吻。m肋α5m伽αあ。κPessagno.Loc15.
6:λγc尻αeo励。妙。伽肋αがmゐsoα王〃ゐ(Tan Sin Hok).Loc.2.
7:P∫m∂o”吻。m伽口がmゐmαcmce肋”α(Squinabo玉).Loc.8.
8:ハmゐ励吻。m肋協がmゐmαcmce助α伽(Squinabo1).Loc.8.
91ハm肋必吻。m肋αsp.Loc.1.
10:P8e〃。励吻。m伽αsp.Loc.2,
11:瓦。王。cηが。cαm切m2eツ∫ez8em∫e Pessagno.Loc,9.
12:肋’ocηが㏄α〃mm切わem〃α切m Dumitrica.Loc.8,
13:ノ⊥cαe”o妙’e sp.Loc.5.
14:施’ocηが。m〃mm肋〃〃Dumitrica.Loc.2.
15:”4m伽m sp.Loc.8.
16:Pα杉π〃αsp.Loc.5.
17:Pmeωmomηommαsp.Loc.3.
図版皿
スケールは100μ.a=13,15,18;b:2,5 7,8,10,11,14,16,17,19;c 1,3,4,6,9,12.
1 =λπc尻mo励。妙。刎冴m sp.Loc.12.
2:λπ乃mo励吻。m〃m sp.Loc.13.
3:λ〃肋eo励吻。m肋αsp.Loc.13.
4 :λ〃尻αeo”c妙。刎〃m sp,Loc.13.
5 :D北妙。例4切αsp.Loc.13,
6:〃吻。m伽αaf{、冶。∫工。me Foreman.Loc.13.
7:λ〃伽eo励吻。m肋αsp.Loc.12.
8 :λmク尻幼γm励κsp.Loc.12.
9:λm助伽〃伽∫伽肋(Campbe11&C1ark).Loc.13.
10=P∫mδo励め。m伽αsp.Loc.12.
11:Pse〃。励吻。m伽αsp.Loc.12.
I2:Cηψ切mψ尻。m〃αsp.Loc.13.
13:λπ尻mo功。m8oψm舳m sp.Loc.13.
14:λ〃肋eo功。m8ψmmm∫α〃mクPessagno.Loc.13.
15:λ〃尻mo功。m8妙m舳m sp.Loc.13.
16:CmceJわsp.Loc,12,
171λcαem4o妙Je sp.Loc.13.
18:Psm6oα”oψゐαcm5sp.Loc.13.
19:Pmecomomηommαsp.Loc.13、
12
近永南方の四万十帯白亜系の放散虫群集
図版皿
スケールは100μ.a:10;b:1,4,5,9,11−16;c:2,3,
放散虫化石産出地点:Loc.16.
1:λκ肋eo励吻。m伽α5gm肋αろ。κPessagmo.
2:λ〃肋eo励め。m伽αsp.
3 : D4c妙。m4切α sp.
4:Psm6o励吻。m肋αsp.
5 1Psemdo6タ。妙。m4切α cf、力∫emdomαcク。c助尻α危 (Squinabo1).
6 : ノ⊥m包ψ尻幼ツm肋π sp.
7 =λmψ尻幼ツm幽κ sp.
8:S枕尻。m伽αsp.
9:比2ocη研。ω〃mm Sp.
10: Hagiastridae gen.et sp.indet.
11:」Psem6oαm’oφ乃αcm∫ sp.
ユ2:Pmeωnomηommαsp.
13:巧mm幼。惚あsp.
14:Pmeωmocαηommαsp.
15:〃伽伽m sp.
16:〃伽伽m sp、
13
6−8
山崎哲司・鶴田真司
図版I
14
近永南方の四万十帯白亜系の放散虫群集
図版I
15
山崎哲司・鶴田真司
図版皿
16